第十一話 密かな復活
「うぅぅぅ、シーラさぁぁぁん~!」
そんな悲壮な叫びで涙を見せるのは彼女の立ち上げた劇団の団員達である。
数箇月前、ふらりとこの帝都ザルツに姿を現したシーラ。
彼女は自ら持つ美貌と演技力を武器に次々と現在の団員達を魅了してスカウトしていく。
そして、結成された劇団によって演じられたのが『ラフレスタの英雄達』という物語である。
シーラは女優としての才能もあったが、それ以上に彼女は劇全体を統括する監督的な才能もあった。
彼女の鋭い指摘と、独特の訓練方法により、それまでズブの素人だった彼らをあっと言う間に一端の名男優・名女優へ育てる事ができていた。
その上、彼女には鋭い経営手腕もあり、普通ならば借りるのに相当なコネと実績が必要な帝都の大きな劇場を借りる事にも成功している。
これで基盤の整った彼女の劇団は、帝都ザルツで大人気となる『ラフレスタの英雄達』の公演を成功させるに至る。
その後の彼女達の人気ぶりは帝都ザルツのほとんどの人が知る事であり、主演であるシーラは戦勝記念式典で英雄アクト・ブレッタのエスコート役を務めるほどの地位を手に入れたのであった。
正にこれから・・・劇団員ひとりひとりも次の高みへと登ろうと思っていた矢先、悲劇が起きた。
シーラが暴漢に襲われて死亡する。
その事実に劇団員達は大きなショックを受けていた。
そして、立ち直れない。
彼女抜きに『ラフレスタの英雄達』の劇は成り立たない。
そう信じて疑わない劇団員達。
それほどまでに名女優シーラの代わりの存在など無理だと彼ら心は固まっていた。
そんなシーラは、現在、棺の中にいる。
彼女に近親者はおらず、十数人の劇団員達だけが最期を送る小規模な葬儀。
「ああ、シーラ・・・この先、俺達はどうすれば・・・」
そんな悲痛な思いの言葉にしているのはアクト・ブレッタ役の男優。
彼はシーラを失った事も悲しかったが、それ以上にこの際どうやって暮らして行けばいいか・・・それだけが気がかりだった。
安定した生活の存続を考えると劇団を存続したいが・・・彼女抜きではそのビジョンが浮かばない。
・・・やはり、劇団は解散するしかない。
それがこの男優の結論であり、他の者も同意見である。
そんな彼らを置き、ひとりだけあの世へ旅立ってしまったシーラ。
彼女の棺は今、地面へ埋められ、そこに土が掛けられる。
埋葬を終えると、神父から長々しい最期の別れの言葉が述べられて、それで葬儀は完了。
参列者は失意の元、ひとり、またひとりと去る・・・
やがて誰も居ない夜となった。
今宵はふたつの月も出ておらず、夜空は暗い。
この墓地は帝都ザルツの隅に立地しているため、街の明かりもほとんど入らず、寂しいところでもある。
まったくの闇が支配している世界。
そんな闇の世界で人知れずに変化が・・・
ムク、ムク、ムク
そんな擬音が似合うように、ゆっくりと地面が盛り上がった。
一際大きく盛り上がったところから、ひとつの白い人の腕が伸びる。
もし、これを誰かが見ていれば恐ろしい光景に映っただろうが、今は誰もいない。
まるで出てきた人がその事を解っているように、別の場所からは堂々と足が伸びて来た。
どこまでも白いソレは、墓地と言う場所に全く似合わず、まるでベッドの布団から這い出てくるような可憐な女性の御足。
そして、最後に頭と胴体が地面から脱出を果たし、全裸の女性が姿を現した。
一糸纏わぬその姿は神々しく、まるで女神が地上に降臨したようでもある。
そんな神々しい女性は先程埋葬されていたシーラと同じ姿。
しかし、現在の彼女は少し不機嫌だ。
「まったく、あの神父は・・・規律よりも多めの土で埋葬をしてくれて、本当になってないわ。所轄している神に苦情を言ってやろうかしら」
そんな愚痴を言う彼女は自分の身体に残る土を手で払う。
そんな簡単な動作で、彼女の肢体を汚していた土が簡単に剥がれて綺麗になる。
それに満足すると、彼女は自分の胸の中心部分に空いた傷に手をやる。
これはシーラに致命傷を与えたナイフの傷である。
「私の身体にこんなに大きな穴を開けてくれるなんて・・・あのミールとか言う女も絶対に神罰ものよねぇ~」
そんなことを呑気に言う。
まるで友達にでも告げ口でもするような軽い口調である。
その直後にシーラは大きく宙へと飛び上がった。
そうするとシーラの存在感はみるみると薄くなり、やがて闇夜と同化して空気に溶けて消えていった・・・
何やら不可解な存在のシーラですね。
今後、彼女がどう関わってくるか???
『帝都ザルツ編』はこれで終わりとなりますが、第三章はもうしばらく続きます。
お楽しみ下さいませ。