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第一話 ケルト家の事情 ※

この部話には少しだけ過激な乱暴シーンが含まれます。苦手な方は読み飛ばしてください。

以降、その部話に乱暴なシーンが含まれる場合にはサブタイトルに「※」マークをつけておきます。

 私はエリザベス・ケルト。

 現在の私はラフレスタよりも東にあるケルト領にいる。

 ここケルト領はエストリア帝国の内陸部に存在して、ちょうどラフレスタと古都トリアの中間ぐらいにある場所。

 ここは『魔法都市ケルト』と呼ばれるほど街のいろいろな場面に魔法が使われている。

 夜の灯りだって魔法による光が使われているし、移動もゴーレムを使った馬車が主流で、効率的だと思う。

 正に魔法を扱う者にとっては理想郷であり、我々、魔法貴族派にとって試金石となる都市。

 しかし、所詮はいち地方都市でしかない。

 歴史は浅く、娯楽も少なく、そして、領民も所詮は田舎者の集まりである。

 そんなケルト領は私の出生地であり、父様の治める領地でもあるのだが、私にはここが故郷だという認識は全く無い。

 何故ならば、私は生まれてすぐに生活の拠点が帝都ザルツへ移ってしまったからだ。

 そして、それからのケルト領は父様の弟が代理領主として治政を行っている。

 私が覚えているケルト家の故郷とは帝都ザルツの屋敷が全てであり、このケルト領など殆ど記憶にはない土地だ。

 そんな場所に何故、私ひとりだけが帰っているかと言うと・・・それは父様、母様より『療養』を言い付けられたからだ。

 ラフレスタでのあの忌まわしい事件に巻き込まれた私。

 あの時の仕打ちは酷いものだった。

 悪の組織に拉致されて、意識が無い時に『美女の流血』と呼ばれる魔法薬を飲まされた私は、完全にあいつらに心を支配されていた。

 獅子の尾傭兵団とジュリオ第三皇子に忠誠を尽し、ラフレスタをエストリア帝国から独立させるという妄想に駆られていた。

 そして、ジュリオ第三皇子と敵対した解放同盟やアクト様、そして、あの魔女と戦うことになる。

 結果は負けてしまった・・・

 あの魔女の恐ろしい魔法で私達は完全に屈服させられて、そして、私が気絶させられているうちに束縛されてしまった。

 その後、私が目を覚ましたとき・・・それは独房の中。

 全ての武器が奪われ、貧しい服装に、最低限の食事・・・私は罪を負った囚人と同じ扱いを受けた。

 当然に私は無実を訴えたが牢番の女性はそんなこと全く応じてくれない。

 そして、時折異常な渇きを覚えて気が狂いそうなる。

 それが『美女の流血』と呼ばれる魔法薬の副作用によるものだと理解できるまでには、ある程度の日数が必要であった。

 しばらくの間を置き、私はようやく牢屋から出された。

 それは無罪放免という訳ではなく、私達を本格的に治療するためだ。

 ここで『私達』と言ったのは、ここには私と同じ境遇のサラ・プラダムという女性も居たからだ。

 私達ふたりは揃い帝都ザルツにある治療施設へと移送され、そこで治療を受けることになる。

 その間に自由は全くなく、常に誰かから監視される日々が続いた。

 私は『ラフレスタに帰らなくてならない。アストロに戻りたい』と担当の医師に要望したが、そこで告げられたのは『貴女はもう退学処分となった』という厳しい事実だけである。

 理由は帝皇に反旗を翻す行動をした事にあるらしく、サラという女性も同じように退学処分を受けていた。

 当然、私達は納得できなかったが、『これはもう決まった事』として、全く取り合って貰えない。

 失意の私達だが、やがてそれは私達から私に変わる。

 もうひとりの同じ境遇だった女性のサラ・プラダムが先に退院したからだ。

 この魔法薬『美女の流血』は魔法素養の高い者に対して特に良く効き、そして、その副作用も同じように魔法素養に比例して大きくなるらしい。

 つまり、アストロ魔法女学院で筆頭生徒と認められるほどに素養を持つ私はなかなか治らないらしいのだ。

 こうして、私はひとりで治療を続ける事となり、サラの受けていた期間よりも一ヶ月ほど長く治療期間を要した。

 やがて治療は終わり、私は裁きの場へ連れて行かれる。

 『国家への反逆』という大罪を犯してしまった私だが、それは魔法薬で操られていた事と、政治的に大きな責任も無い事、アクト様を初めとした解放同盟からも情状酌量の嘆願が出されていた事が相まり、無罪・・・という訳では無かったが・・・罰金という比較的軽い罪を言い渡された。

 それでも私は到底納得いかなかったが、罪を認めなければ殴られたし、私よりも首謀者・・・と言うか、ラフレスタの乱で象徴的な役割を果たしたジュリオ第三皇子やラフレスタ家の者はこんな軽い罪で済まされていないのだと諭されると、私は渋々に言い渡されたこの罪を認めるしかなかった。

 勿論、家族である父様からは罰金に相当する支払いを直ぐに済ませてくれて、こうして私は家族に再会を果たす事ができた。

 当然に父様と母様からは優しい声をかけられたが、まだ完全ではない身体を鑑みて、療養のためにと、このケルト領へ送られて、現在に至っている。

 ほとぼりが冷めるまで静かに暮らすようにと言われたが・・・ここには私の知る人が少ないのだ。

 私は早くも退屈になってきた。

 そんなとき、私に与えられた部屋をノックする音が響く。

 

コン、コン

 

「何かしら?」


 ノックに応えると、ドアが開かれて侍女が顔を出し、要件を手短に伝えてきた。


「デレク様がお呼びです」

「叔父上様が・・・解りました。すぐに参りましょう」


 叔父に呼ばれたため、私は早々に支度を済ませ、侍女の後を追う。

 午後のお茶の時間にしては少々早い気もするが、叔父のデレク・ケルトは領主代行でもあるため、多忙なのだろう。

 勿論、最近の私は体調も普通に戻り、退屈を持て余している。

 刺激があるものであれば、何でもいいと思っていた。

 そして、侍女に案内されたのは、いつも叔父が使う執務室ではなく、ケルト居城の地下に設けられた一室。

 

「や、やあ、エリザベス嬢。ご機嫌麗しく」


 丁寧な言葉遣いだが、どこか余所余所しい態度で私を迎えるデレク・ケルト卿。

 私にやたらと気を遣うのは正式な領主である父様を恐れての事なのだろう。


「叔父様。こちらこそ、ご機嫌麗しゅうございます」

 

 私は貴族の令嬢の見本のように優雅な挨拶で返す。


「う、うむ。それで、こちらでの暮らしはどうかね?」

「たいぶ慣れてきましたわ。少々退屈ですけれどもね」


 私は何気なく答えたつもりだったが、その言葉を聞いた叔父様の顔が少々引きつっていた。

 それを感じた私はすぐに訂正を入れる。


「これもしようが無い事ですわ。あれほどの事件に巻き込まれたのですもの。大人しくしているようにと父様からも言われておりますし」


 現在、自分が軟禁されている事実と、その事で私がデレク叔父から受けている扱いに不満を懐いていないと相手に伝える。

 そうすると、胸を撫で下ろす表情となるこの叔父様。

 このデレク・ケルトという男は小心者過ぎるのだ。

 私は何回目になるか解らない叔父様への評価を心の中で繰り返す。


「そんな、エリザベス嬢には言い難い事であるが・・・実はこのような書を兄より預かっていてね」


 そんな思わせぶりな言葉に乗せて、叔父様は机の引き出しから一通の手紙を取り出し、私に渡してきた。

 私はそれを受け取って宛名を確認すると、父様から私に宛てられた手紙であった。

 内容を早速確認して・・・・・・私は驚愕する。

 それは婚姻に関する許可書だった・・・それも私の。


「これは? どういうことです!」

「い、いや・・・私は何も解らない・・・書いてある以上の事は私に何も解らないのだよ」


 私の激しい追及に、眼を泳がせる事しかできない叔父様。

 明らかに何らかの裏事情を知っていると思うが、叔父様は決してその口を割らない様子。


「私が結婚する事になったって書いてありますわ・・・相手はグルジ・コンストラータ卿・・・全然知らない方」


 私がこの男の事を知らないのも当然だ。

 コンストラータと言う姓はこのケルト領在住の田舎貴族のひとりらしいから、私に解る筈もない。


「私は嫌です。このような顔も知らない方に嫁ぐ事など!」


 当然ながら私は拒否する。

 相手の男は私を誰だと思っているのだろうか。

 私はこのケルト領の正式領主の長女であり、帝国の重鎮貴族の娘なのに。

 怒りを振り撒く私に、ここで叔父様は「まあ、まあ」と鎮める声しか発してこない。


「とりあえず、会ってみてくれぬか。これはエリザベス嬢の父であり、私の兄であるジェイムスの許可した事なのだから」


 そう言い強引に事を運ばせようとする叔父様。

 どうやら、件の男はもうこの居城に来ているらしい。

 そして、この時点で私に拒否権は無い。

 こうして、私の意見も聞かず、叔父様は相手の男の名を呼んだ。


「グルジ・コンストラータ卿、入ってくれ」


 叔父様がそう言うと扉が開かれる。

 そして、そこに立っていた人物を見て・・・私は血の気が引いた。

 

 グルジ・コンストラータ卿・・・一言で彼を評すと『小さな(たぬき)』である。

 いや、野生の(たぬき)の方がこの男よりも愛嬌があるだろう。

 身長は私よりも低い百五十センチ台の小太り体型・・・いや、お腹周りを見るとかなり太っている。

 身体が悪いのか、肌の色は悪く、目の周りが黒い。

 そして、頭髪は薄くなりはじめており、聞かなくてもかなりの年上の男性だと解る。

 そんな(たぬき)男は花を持ち、ニヤケた顔を私に向けて立っていた。

 これほどまでに『花』の似合わない男など、私は初めて見た。

 そして、第一声がこれである。


「デヘヘヘ。エリザベスちゃん、めちゃくちゃ可愛いねぇ~ 愛しているよ」


 私の身体を舐め回すように見るその視線、私は女としての悪寒を感じるしかない。


「父様と決めたかも知れませんが、私は貴方の事があまり好みではないようですわ。ですから、この話は無かったことにして下さるかしら」


 私は早々に拒絶の意思を示す。

 こんな下品で知性の感じられないグルジとか言う男の元に嫁ぐ気など全くない。


「エリザベスちゃんって気が強そうだよね。でも、そこがいいんだよなぁ~」


 グルジは私の意見など全く聞かず、ツカツカツカと私の元に歩いて来る。

 そして、この男は何の脈絡もなく、無防備だった私の身体へ手を伸ばしてきた。


「キャ、嫌! 失礼な。何をするのですか」


 私は当然に彼と距離を取り、そして、次にこの無礼な男をぶってやろうとした。

 しかし、それを邪魔する存在が・・・

 叔父様が私の背後から両手を掴み、身体の自由が奪われる。


「な! 叔父様? 何を!」


 私は叔父様の行動が理解できず、混乱してしまう。


「エリザベス嬢、諦められよ。これもジェイムスの意思。ケルト家を守る事でもあるのだ」

「訳の解らない事を言わないで!」


 私が喚いている間にも、自由を失った私をいいことにグルジの手が私に迫る・・・


「とうだ? 気持ち良いだろ? エリザベスちゃん。うひひひ」

「嫌。やめて! 変態!!」


 悍ましい。

 当然、私は必死に抵抗する。

 身体激しく動かしたが、グルジはそんな私の姿を見てニヤリと嗜虐の笑みを溢す。


「エリザベスちゃん。そんなに反応しちゃってぇ~ 気持ち良いのは解るけどさぁ~」


 自分勝手に興奮するグルジ。

 彼の顔が私の耳元に迫り、そんな声で囁かれた。

 私は本当に気持ち悪くなり、全て身の毛が逆立ち、鳥肌となる。

 こうやって私を言葉で犯したグルジは征服欲が刺激されたようで、次なる行動に出る。


「えへへ~ ここはどうかな?」


 グルジの手が何か別生物のように衣服の隙間からその中に侵入してくる。

 私は激しく抵抗するが、ここでグルジの汚らわしい唇が私の顔に近付いてきた。

 駄目。

 このままでは犯されてしまう。


「嫌、嫌。やめてーーーっ!」

「うひひひ。抵抗するエリザベスちゃんって可愛いよねぇ。もう興奮が止まらないよぅぅ」


 グルジは相手が抵抗することで、より昂ぶる性格の持ち主らしい。

 打ち寄せる恐怖の中、この真性の変態はもう人間ではないと確信し、ここで私はこの男を殺しても構わないと決断する。

 そのとき、私の中で何かと何かがつながった。

 私の中で腕力以外に抵抗する手段がもうひとつ増えた・・・そんな事を直感できたのだ。


「嫌がる素振も好きのうちって言うじゃないかぁ。もうすぐ君は僕の愛で・・・え!?」


 突然、グルジの攻めが止まる。

 そして、次の瞬間グルジの衣服が燃え出した。


「ひっ、ひぎゃーーーーーっ」


 ここで、豚のような悲鳴を挙げたグルジは私を放り出し、突然炎に包まれた自分の衣服を消そうと必死に冷たい床の上でのた打ち回った。


「グ、グルジ・コンストラータ卿!」


 それまで私をグルジの物にするという既成事実作りに手を貸していた叔父も、ここで私を放し、グルジに生じた炎を消そうと躍起になる。


「こ、これは魔法の炎・・・エリザベス嬢は詠唱などしていなかったのに・・・まさか、無詠唱!?」


 叔父は混乱しながらも、あまり得意ではなかった水の魔法を行使して、グルジに生じた炎の魔法を消そうとする。

 ここで侍女も呼ばれて、そして、現場は火事場のように大騒ぎとなる。

 そんな顛末を、私はどこか他人事のように観ていて・・・そして、その直後、視線が歪んだ。


「こ、今度はエリザベス様が!」


 侍女が発したそんな叫び声を、まるで遠くで他人事のように聞く私はそれからしばらくの記憶が無くなる。

 ここで私が気絶してしまった事実を知ったのはそれからかなり後になる。

 

 

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