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第十四話 リリアリアの日記

 儂はリリアリアじゃ。

 今年の出来事をこの日記にまとめておくぞ。

 尚、儂が扱う情報は国家機密じゃて、許可なく覗き見る者には眼が見えなくなる呪いの魔法をかけておる。

 もし、見ようとする者はそれなり覚悟して見るのじゃ!

 

 

帝国歴一〇二三年一月一日

 

 現役を引退して悠々自適な生活をしておったのじゃが、帝皇デュランめからの招集がかかり、この帝都で再び生活を始めて四年ほどの時間が経過しておる。

 面倒な事じゃと思うが、儂に命じられたのは隣国ボルトロール王国の動向調査じゃ。

 彼の国は近年、拡大路線を続けておるし、我がエスタリア帝国にその食指を伸ばそうとしておるのは確実じゃ。

 帝皇の命を果たすために、この帝都の屋敷に拠点を移して、儂と弟子セイシルのふたりで暮らしていたが、今日からはその住民がふたり増える事となる。

 それは娘のハル、そして、その相手男性であるアクト・ブレッタのふたりじゃ。

 このふたりは例のラフレスタの乱で重要な役割を果たしているが、その後顛末で帝皇デュランからとある仕事をひとつ貰ったようじゃ。

 その仕事内容についてこの日記にも書けぬが、仕事場所が帝都大学になるが故しばらくこの帝都ザルツに滞在するのじゃ。

 金の事で困っていないふたりは帝都大学近くの住居を借り上げて、そこで共同生活するのを考えていたようじゃが、儂は慌ててふたりを止めた。

 今のあのふたりに『愛の巣』などを与えてしまえば、それがどうなるかなど結果を見るよりも明らかじゃからな。

 ハルの奴も望まぬ妊娠をしてしまうのではないかと思い、少し冷静になるようにと儂の館に住む事を提案した。

 ハルも「アクトと一緒に住むのならば」と条件を付けてきよったが、それでも儂は許可した。

 ふたりの部屋はバラバラにしているし、血は繋がっていないとは言え、娘の親である儂の目がある手前、相手方の男性もちょっとは冷静になるじゃろう・・・そう思っておった。

 しかし、結果はあまり変化が無い。

 後から聞くと、このふたりは特別に魔法的な契約を互いに交わしてしまっておるようじゃった。

 その魔法とは『心の共有』。

 初めて聞く魔法じゃが、互いの考えや気持ちが際限なく理解できる魔法らしい。

 この魔法のお陰で、ふたりの心はもう夫婦以上の関係らしい・・・

 どこでそんな魔法を覚えたのか!・・・まったく、最近の若い者は!!

 

 

二月七日

 

 ハルから聞いたが、帝都大の魔道具研究室は酷いものだったらしい。

 設備も数年使っておらんようでメンテナンスや更新などもしておらず、使い物にならない。

 これは帝都大学の教授どもの怠慢じゃな。

 まあ、あそこのフィスチャー・ルファイドルとか言う小僧は昔から最低限の事しかせん奴じゃった。

 帝皇デュランに対する忠誠心は高いが、面白みには欠ける男じゃから、しょうがないじゃろう。

 そして、そんな古びた研究室の設備環境はあのふたりの手によって、あっと言う間に最新のモノに改装してしまいよった。

 設備更新など普通ならばこんなに早くできないものだが、新設備に関しては旧エリオス商会の伝手を利用して優先的に手配して貰いよったし、使えない古い設備はアクトの持つ魔剣『エクリプス』であっと言う間に鉄くずに変えて廃棄しよった。

 魔剣をそんなことに使うなんて・・・罰当たりな奴らめ!

 初めて聞くわい。

 そして、設備の調整など細かいところはふたりで手分けしてあっと言う間に終えておる。

 魔力抵抗体質者であるブレッタ家が魔女の手伝いをできているのも驚きの事実じゃ。

 この英雄アクト・ブレッタなる男は、もしかして学者としての才能があるのかも知れん。

 本人達はもうその気でいるようじゃが、もし、婿にするのならばこれは加点判定じゃて。

 

 

三月一日

 

 ハルの進めておった『とある魔道具』の製作が滞っておるらしい。

 原因は希少な魔力鉱石が手に入らないことのようじゃ。

 その希少な魔力鉱石はあの『辺境』と呼ばれる僻地から産出されるため、辺境の入口に近いクリステがその流通の一大拠点なのじゃ。

 現在のクリステは少し前の騒乱によって大混乱に陥っていたから、これはしょうがないのかも知れない。

 流通が正常な状態に戻るまでもうしばらく時間はかかるじゃろうな。

 そんな状況で暇になってしまったハル達じゃが、この空いた時間を利用して『民主主義』なる勉強会をするらしい。

 そんな勉強会の企画者は例の解放同盟の代表ライオネル・エリオスであり、もうすぐ右腕のエレイナ・セレステアを派遣してくるらしい。

 あ奴らめ、ハル達を遊ばせぬ気じゃな。

 確かに、彼が平定したクリステはじきに帝皇デュランより下賜されて『エクセリア』という国になる予定じゃ。

 エクセリアは行く行くは民主主義と呼ばれる政治体制国家になるとライオネルは考えているようじゃから、準備を急ぐのも解る気はするが・・・果たして貪欲な奴らじゃ。

 

 

三月二十日

 

 今日、ハルと仲の良かったレヴィッタなる人物が我が館に遊びに来よった。

 このレヴィッタという女性はアストロ魔法女学院の生徒でもあり、儂も少しだけは覚えておる。

 レヴィッタは魔術師として才能にあまり恵まれない奴じゃったが、少々活発な娘じゃったので印象に残っておるのじゃ。

 親元を離れてハメを外す若い娘と言う、ある意味解りやすい今どきの魔女じゃが、根は真面目であったので成績は格段悪くはなかった筈。

 それに、得意な魔法が水魔法系統の『治癒魔法』じゃったのは、それはそれで珍しい存在じゃのう。

 儂もこの生徒の入学面談をした時に、こ奴には『神学校へ移った方がいいんじゃないか?』と言ったほどじゃよ。

 学生当時の彼女曰く、「自分の実家は貴族とは言っても最下層の身分であり、食い扶持を自分で稼がないといけない。神聖魔法使いは超一流にでもならない限り金にはならないし、自由の少ない修道僧の身分になるのは嫌だ」と・・・

 なんとも俗物な生徒じゃが、今日のレヴィッタから近況を聞くと、狭き門である帝都の魔術師協会へ就職を果たしているそうじゃ。

 魔力は普通じゃったが、容姿だけは優れておったからのう。

 それに今の協会理事は助平爺だらけじゃて、きっと顔と愛想で選ばれたのじゃろうな。

 多少は礼儀作法を身に着けたようじゃが、呑ませると直ぐにボロが出よるし、ユレイニの方言が止まらんのは学生の頃から変わらん奴じゃ。

 ある意味で、愛嬌もあって楽しい。

 それに、今は彼氏もおらず、結婚には相当焦っておるようじゃった。

 しょうがないのう・・・これも縁じゃ、儂のところに居た可愛い生徒でもある。

 今度、儂がひと肌脱いでやろうぞ。

 

 

四月一日

 

 今日は帝皇デュランの私室で秘密の御前会議がある日じゃった。

 その会議での結論をひとことで言うと、情勢はあまり良くない。

 じきにボルトロール王国と戦争になるじゃろうな。

 そんな帝皇デュランは、クリステを早く独立させて、それをボルトロール王国との緩衝材として利用するつもりじゃ。

 もうすぐエクセリアに名前を変えるこの国はもしかしたら長くは続かんかも知らんのう。

 どうなるかは、そのエクセリアの舵取りを任されるライオネル・エリオス次第じゃろうて。

 

 

第一章はこれで終了です。登場人物を更新しました。

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