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第十二話 歴史家が書くエピソード

 私はラフレスタの乱を研究する歴史研究家ダン・マール。

 今回は、晩年ラフレスタ領を追放されたジョージオ公について考察してみようと思う。


 ジョージオ・ラフレスタは第五十五代ラフレスタ領主であり、特別秀でた能力を持つ領主ではなかったというのが私の歴史的な考察に基づいた認識である。

 彼が帝国史で有名になったのは、ラフレスタの乱を起こしてしまった、その一点に尽きる。

 そして、このジョージオには幼少期にヴェルディという名前の弟がいたという通説がある。

 このヴェルディなる人物、ジョージオの八歳年下であったが、非常に優秀な男子でだと記録に残っている。

 若くして魔法や剣技に優れ、勉学や政治にも明るいヴェルディは秀才とまで言われていた。

 一部の官僚からの人気もあり、次代領主の候補だとされていたらしい。

 しかし、このヴェルディ、全く欠点が無かった訳ではない。

 彼の欠点を一言で示すと、それは『人間性が無い』と言われていたらしい。

 とりわけ、彼は兄であるジョージオに対して厳しく接していたらしく、彼を無能者と罵る機会も多かった、と記録に残っている。

 ジョージオが公の秘密として持っていた『女言葉』も、この頃に始まったとされている。

 ここに注釈をしておくが、ジョージオは決して同性愛者などでなく、妻や子供達もいることから正常者であるのは明白だ。

 筆者が推測するに、このときに弟ヴェルディから散々虐められたストレスにより、彼の口調が女言葉になってしまったのだと考えられる。

 こうして若き日々を過ごしたジョージオとヴェルディ兄弟だが、結果的にはジョージオが次代領主の座を継ぐ。

 優秀な弟よりもジョージオが継いだ理由としては・・・弟が病死してしまったからである。

 この病死についてはいろいろと不可解な点もある。


 弟の活躍を妬んだ兄ジョージオが毒殺した。

 人間性の悪さを危惧した当代領主が謀殺した。

 ヴェルディに妻を寝取られた貴族からの仕返し。


 いろいろなエピソードが語られているが、どれも証拠がなく立証困難なものばかり。

 魔法で姿を変えられ、英雄エリオス・ライオネルとなり、余生を送ったなどの妄想的(ファンタジー)な逸話も存在している始末。

 このようにとても信じられない逸話もあるが、ヴェルディ・ラフレスタが享年十八歳でこの世を去ったことだけは事実である。


 こうして、ジョージオが次代領主として就任するが、彼の治政は良くも悪くもなかった。

 何か新しい事を始めた訳もなく、ラフレスタの乱以外の大きな失敗をしたという記録もない。

 勿論、彼の目線ではいろいろな事が起き、その都度に適切な対処をしているのかも知れないが、時間軸を圧縮して彼の治政を評価すると、『現状維持』という言葉が最も良く似合う。

 しかし、それは悪い評価ではない。

 ここに詳しく書けば貴族批判にもなりかねないが・・・敢えて書くとするならば、治世に失敗してしまう領主は案外と多いものだ。

 それは歴史が証明しており・・・と、いろいろ書きたい気持もあるが、これでは話が逸れてしまう。

 私の所感はこれぐらいにしておき、話をジョージオ公に戻そう・・・


 彼が領主を務めてから十六年後の四十二歳の時、ラフレスタの乱を起こしてしまう。

 ジョージオ公が帝国へ反旗を翻した理由や経緯については、私の著書『ラフレスタの乱』に詳しく書いてあるので、ここでは割愛する。

 その事実を簡潔に述べれば、彼の心の中には青年期に生じた劣等感が払拭できなかった事に尽きる。

 平凡故に、歴史残る何かをしたいという欲求が彼の心にあったのだろう。

 特に、その時代、頭角を現していたライオネル・エリオスに対して、強い対抗心もあったのは特筆すべきである。

 彼の事業を公的権力で邪魔した事も何度かあったのは興味深い。

 そんな彼の心の隙間に、獅子の尾傭兵団のつけ入る隙を与えてしまい、今や伝説となっている悪魔の支配魔法薬『美女の流血』を飲まされてしまった。

 こうして、ジョージオ公は獅子の尾傭兵団の傀儡となり、帝国に反旗を翻した。

 彼の起こした『ラフレスタの乱』は、既に遠方クリステで洗脳を受けていた一万人以上の傭兵を動員する大規模な反乱につながったが、その乱は長く続かない。

 英雄アクト・ブレッタと謎の女魔術師『白魔女』の活躍によって、僅か五日のスピード解決に至る。

 こうして、ジョージオ公の起こした反乱は鎮圧されたが、彼はこの乱で命を落すまでには至らず、反乱に加担した一家と共に拘束・幽閉されてしまう。

 ラフレスタ城の地下牢に投獄された彼は、そこでしばらくの刻を過ごす事になる。

 この顛末が幸に至ったのか、不幸だったのかは本人達の認識によると思われるが、彼がラレフスタ家の子孫を残せている事を考えると、私は幸運だったと評価したい。


 約一年の幽閉生活を終えた彼は次代帝皇の恩赦を受けて国外追放となった。

 この時代、同じような罪で国外追放になった者の行き先がエクセリア国であり、ジョージオ公を初めとしたラフレスタ家もそれに倣った形である。

 このとき、既にエクセリア国には彼のふたりの娘が住んでいた事も要因として大きい。

 長女フランチェスカと五女ヘレーナは数奇な運命でラフレスタ解放の英雄のひとりであるフィッシャー・クレスタと婚姻を結んでおり、ラフレスタを追放されたジョージオの身受け先となっていた。

 旧クリステ家の跡地に佇む一軒の家に身を寄せ合う彼ら。

 ジョージオ公とその妻エトワールはそこで静かに余生を過ごしたとされる。

 一緒にエクセリアに移り住んだ長男ニルガリアと次男トゥールも、ここで早々に結婚相手を見つけて独立している。

 エクセリア国に住む旧クリステ貴族は、歴史的にラフレスタ家と親交があり、悪いイメージを持っていなかったところ――寧ろ同情心が大きかったところ――が彼らを受け入れられた理由のひとつだと考えられる。

 こうして、歴史の表舞台から姿を消すジョージオ公。

 晩年、彼と仲良くしたのはエクセリア国の初代国王ライオネル・エリオス夫妻だったことが記録に残っている。

 非公式ではあるが、何度も食事をしたり、旅行に行ったり、互いの子供や孫が産まれた際に贈り物をするなど、本当に兄弟のような親交があったのは興味深い。

 これはライオネルと妻のエレイナがラフレスタ領出身である事に加えて、彼らがラフレスタ家と遠縁である事に起因しているのではないか、とは私の考察だ。

 非公式でありながら、そのような記録が残る事が『ライオネルがヴェルディの生まれ変わりである』と想像力を掻き立てる所につながっているのだろう。


 そんな彼らも、もうこの世にはいない。

 ラフレスタの乱から百年が経ち、世の中は大きく変わった。

 エクセリア国は空前の発展を見せ、経済的には既にこのゴルト大陸の覇者とも言える立場になっている。

 そのエクセリア国を立ち上げた初代国王ライオネル・エリオスは立派な墓が建てられ、人々から奉られている。

 私も先日その立派な陵墓を訪れた際に、その敷地内にひっとりと忍ぶに建つジョージオ公の墓も見つけた。

 彼らが兄弟であるとは幻想(ファンタジー)だと思うが、それでもこれを見せられればその幻想を信じてみたい、そんな気持ちにさせてくれた。

 そんな所感をここに書き残しておきたい。

 

 歴史研究家 ダン・マール著 『ジョージオ・ラフレスタ公に関する一考察』

 

2021年3月27日


これにて第二部は完話となります。

皆様、永らくのお付き合いありがとうございました。

これ以降は、登場人物を後ろへ回したり、設定資料を追加したりすることはありますが、基本的にこれで第二部は終了となります。

そして、この先の物語は第三部につながります。本編については三箇月ほどお休みをさせて頂き、7月ぐらいから始める予定です。お楽しみ頂いている皆様には申し訳ございませんが、続編については、少々お待ちくださいませ。

代わりと言っては何ですが・・・それまでの間、4月から久しぶりに外伝を掲載しようかと。

タイトルは『ヴェルディの野望』(笑)

公開時期等、詳しくは活動報告に書かきますのでお楽しみに。


以上となります。


一緒に更新をお楽しみ頂きました皆様、感想やブックマーク登録とご評価を頂きました皆様、そして、完結後もこの物語を見つけて最後までお読みになられたすべての皆様に感謝をお伝えさせて頂きます。本当にありがとうございました。


2021年10月

続編、白い魔女と敬愛する賢者たち(Nコード:N4164HF)の連載を開始しました。

よろしければお楽しみ下さい。


龍泉 武

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