表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/132

第七話 集う仲間達 ※

2021年3月22日

あれ? なんで月曜日? と思われた方もいるかも知れませんが、間違いではありません。

今日から毎日更新します。

 次の日の朝。

 新居屋敷の居間で朝食を終えて、食後のお茶を愉しむ面々。

 会話は少なかったが、それでもゆっくりとした時間が流れ、優雅なひと時だ。

 しかし、そんな時が終わりを迎えようとしているのは近付いてくる足音に気付いたほぼ全員がそう感じていた。

 

バン!

 

 ここで扉を激しく開けて現れたのはウィルとレヴィッタ。

 ふたりは寝ぐせボサボサの髪型であり、起きてから間もないのが解る。

 そして、そのウィルは酷く怒っていた。

 

「アクトーーーッ! 何故、起こさなかったーーーッ!」


 怒り心頭のウィルは普段の彼から想像できないほどの慌てよう。

 その怒りをアクトにぶつけていたが、当のアクトは自分に責任ないと思う。

 

「何故って、朝の修練の前に、俺は兄様の部屋をノックしたよ・・・だけど無反応。こっそりと扉を開けて中を確認してみれば、そこは声掛けづらい状況だったし・・・」


 アクトは本当の事を言っている。

 朝にウィルの部屋をノックしても反応が無い。

 意を決して、扉を静かに開けて、その隙間から中の様子を確認してみれば・・・

 レヴィッタと仲良している兄の存在が・・・

 一体どけだけ仲良くしているのか、と呆れ半分、そして、頑張り続ける兄への敬意が半分・・・

 そんな事を思いながら、そっと扉を閉めて、見なかった事にする。

 こうして、自分だけで朝の修練を済ませていた。

 

 その後の朝食の時間になってもウィル夫妻は現れない。

 捜索の魔法が使えるジルバに尋ねてみれば、寝ている、と言うので、とりあえず放置を決めて、自分達だけで朝食を済ませた。

 そして、現在へと至る。

 ウィルの顔が真っ赤なのは怒りなのか、それとも恥ずかしさなのか・・・

 ウィルは魔力抵抗体質者でもあるため、ハルの持つ『心を観る魔法』は通用しないが、それでもハルはここで最適なアドバイスができた。

 

「とりあえず、お風呂に入ってくればいいわ。髪だってボサボサだし・・・その・・・ねぇ」

 

 その指摘にウィルはしまったという顔になる。

 そして、彼の後ろで子供のようにウィルの服の一端を握るレヴィッタからは上の空の顔でハルにこう話してくる。

 

「ハルちゃん・・・私、絶対、子供できたと思う」

 

 しかし、そんな彼女の自己評価をハルは全力で否定される。

 

「そんな訳ないでしょう! 一夜で子供ができるなんて、どれだけ低確率を当てるのよ!」

 

 そんなハルの指摘に、ブーー、と飲んでいたお茶を吐いたのはエルフ夫妻。

 彼らは一夜でサハラを授かっていたので、その低確率の立証者であったりする。

 当然、この会話にサハラはついてくることはできないが、そこはジルバが上手く話しかけて逸らしていたので問題ない。

 空気の読めるヤツだとジルバの働きを評価しつつも、ハルは再び入浴を促す。

 

「とりあえず、お風呂に入ってきなさい。あと、浴室の脱衣所に洗濯機を移動しておいたから、汚れた服はそこに入れておけば二十分で綺麗になるわ」


 こうして、ウィル夫妻は強制的に浴室へ直行となるのであった。

 

 

 

 

 

 朝からそんな喜劇もあったりしたが、入浴して冷静さと清潔さを取り戻したウィルとレヴィッタは無事に復活を果たす。

 普段どおりのポーカーフェイスに戻ったウィルだが、それでも自分の妻を「さん」付けで呼ばなくなっていた。

 レヴィッタも同じようにウィルを「さん」付けで呼ばず、そして、ユレイニ弁が出る機会も多くなる。

 そのことから、ふたりの関係がひと段階深い方向へ進んだのだとハルは思った。

 ちなみに、レヴィッタのユレイニ弁はサハラのお気に入りとなっている。

 彼女の独特のイントネーションがコミカルであり、子供ながらの無邪気さでレヴィッタのユレイニ弁を笑った。

 レヴィッタも、これは莫迦にされている訳では無く、喜ばれているので、悪い気はしない。

 レヴィッタとサハラが仲良くなれたのは面白い効果であった。


 こうして、この屋敷で二日目が始まる。


 まだ完全でない部分の掃除や改築を話し合う彼らであったが、ここで警報が鳴る。

 

ピィーーーー!


 鉄魂(てっこん)ゴーレムのひとりが居間に入って来て、笛を吹いた。

 それが警告を意味しているのである。

 

「な、何事!?」


 この中で一番怖がりのレヴィッタがそんな反応を示すが、ジルバはハハハと笑う。

 

「これは警報だ。不審者がこの屋敷の敷地内に入ったのだろう。どれ、見てみるか」


 然したる心配もしていないジルバはそう述べると魔法をひとつ行使。

 短い詠唱により光魔法の映像が空間へ現れた。

 そこに映っていたのはこの屋敷の正面玄関の映像。

 閉じられた門の柵を乗り越えて敷地内に侵入しようとする者が鉄魂(てっこん)ゴーレムによって取り押さえられている。

 アクトとハルはその姿に見覚えがあった。

 

「あれって、フィッシャーじゃないか?」

「ええそうねぇ」


 映像をよく見てみると、柵を乗り越えようとしたのはフィッシャーであり、柵の向こうにはその連れの人物が幾人か映っていた。

 その懐かしい姿にフッと笑みを浮かべながらも、ハルはジルバにこう伝える。

 

「ごめんなさい、ジルバ。彼らを解放してあげて。仲間よ」


 こうして、侵入者は無免釈放されて、彼らを客人として迎い入れる事になる。

 

 

 

 

 

 

「ひゃあー、参ったぜ」


 肩をグリグリと回し、そんな愚痴を述べるのはフィッシャー・クレスタ。

 

「ごめんね。不法侵入者を警戒して・・・フィッシャーが束縛第一号になってしまったけどね」

「ハハハ」


 少々丁寧な言葉で話すハルだが、そこには多少の冗談も含まれている。

 それをアクトも笑い、フィッシャーも笑いで返す。

 彼らは気心知れた仲であり、フィッシャーも今回取り押さえられた事で気を悪くはしていない。

 そんなフィッシャーとは、神聖ノマージュ公国から来た組である。

 彼と共にこの屋敷を訪れたのはフィッシャーの夫人であるフランチェスカとヘレーナ。

 エイルとシエラ夫妻。

 キリア女史とその師匠に当たるマジョーレ司教、策士の不良神父リュート。

 そして、彼らだけではなく、エストリア帝国から義勇兵として参加したフィーロとローリアン夫妻、セリウスとクラリスもいた。

 

「意外にエクセリアに来るが早かったわね。もう少し時間が掛かるものと思っていたけど」

「大陸をできるだけ内回りで来たんだ。スタムからケルトを経由してトリアへと抜ける古い街道を俺が発見してだなあ~」

「そうです。本当に大変だったのですよ。途中、盗賊に襲われたりして・・・」


 フィッシャーの言葉を途中で切り、ここで会話に割り込んできたのはフランチェスカである。

 フランチェスカが活発にフィッシャーを揶揄するのは新鮮な光景であった。

 勿論、そこには呆れに似た冗談も混ざっており、キツイものではない。

 そんなフランチェスカの自然な姿を見る事ができて、しばらく見ぬ間に彼女が積極的で明るい性格へ変わっていた事に驚かされるハル。

 そんな感覚を共有するアクトも、これは彼女がフィッシャーと結婚し、良い方向に影響したものであると思った。

 そんなフランチェスカの会話に続いたのは、第二夫人のヘレーナである。

 

「本当よねぇ~。シエラさんが同席してなきゃ、大変な事になっていたわよ」


 フィッシャーに呆れ半分、怒り半分なのは、以前のヘレーナの姿とあまり変わりない。

 これはこれで安心できた。

 そして、渦中の話題となっている危機を救ったとするシエラは、たいした事をしていないと言う。

 

「野党如き、何百人集まろうと変わらぬさ。ひとりひとり斬っていけば、それで良いのだからな。それよりもこの義手は素晴らしかったぞ。あれだけ酷使しても全然壊れる気配が無い。寧ろ今の私の剣に馴染むぐらいだ」


 そんな高評価を示すシエラに、ハルは自分の施した魔法仕掛けの義手が正しく機能していると思った。

 

「ええ。アナタ達にあげた義手は常に最適化する学習型の魔法陣を組み込んでいるからね。繰り返し使う事で運動機能の魔法回路の流れが太くなり、情報伝達速度が増すのよ。言うなれば、使えば使うほどに経験値として覚えるようなもの。使い手ごとに最適化する造りなっているのよね」

「ほぉー。そいつは素晴らしい。やはりハルさんは天才魔道具師だ」

「凄い!」


 上機嫌なシエラと、同じ義手を装着するヘレーナもハルの事を褒めた。

 彼女達は自分の恩人であるハルには敬意を示すのだ。

 

「まあ、そんな感じで急いでエクセリア国に来たけどなぁ~。畜生、間に合わなかったじゃねーか!」


 悔しがっているのは不良中年のリュートであり、ここでタバコに火を点ける。

 いつと変わらぬ不良ぶりだが、ここで彼の行動を注意するのはキリアの役目である。

 

「リュートさん。ここでタバコは失礼ですよ!」

「なんだよ。ちょっとぐらい、いいじゃねぇーか」


 駄々を()ねるリュートだが、素直にタバコの火は消す。

 彼としてもタバコに火を点けるのは癖であり、本意ではなかったようだ。

 そんな様子を尻目に、キリアは改まりハルへ謝罪の言葉を述べる。


「なんとか頑張り、一箇月半ぐらいの旅程でこのエクセリア国に入ったのですけど、やはり戦争は終わっていて・・・間に合わなくて申し訳ありませんでした」

「キリア、謝らなくていいわ。実は私達もエクセリア国に来て十日と経っていないし、大見栄を切って『一週間で辺境を超えてやる』と言ったのだけど・・・実際は私達も一箇月ちょっとかかっちゃっているのよね~」


 バツ悪そうに笑い誤魔化すハルであったが、そんな姿に溜息で応えるのはフィッシャーら神聖ノマージュ公国組と、彼らと一緒にここへ来たローリアン達である。

 

「何を言っているのですか。ハルさんとアクト様は辺境から銀龍スターシュートを連れて来たではありませんか。私は戦場でアナタが銀龍の掌に乗っている姿を見たのですよ」


 ローリアンの言う真実はフィッシャー達も聞かされていた。

 白魔女が銀龍を呼んだという噂は、既にエクセリア国中に蔓延していたからだ。

 

「なんでも、神の遣いである白魔女とその伴侶の漆黒の騎士が辺境より銀龍を召喚してボルトロール軍をやっつけたって、宿の主人がずげぇ自慢していたぜ」

「止めてよ、フィッシャー。私達は神の遣いでも何でもないわ。それに銀龍が助けてくれたのは本当に幸運だったのよ。だからローリアンも私達を尊敬するその眼差し、止めて~」


 勘弁してくれと言うハルと笑うアクト。

 彼らにしてはそんな滅茶苦茶も日常のように感じているようだが、真面目なローリアンにしてみれば、これは一大事なのである。

 

「アクト様も、なんでもないように笑わないでください。銀龍が人の戦いに加担するなど、このゴルトの歴史始まって以来の事です。今回の情報に帝国上層部は銀龍と友好を結べるのではと期待している人達もいるらしいですよ」


 そんなローリアンからの情報にハルは釘を刺しておく。

 

「それは甘いわ。銀龍なんては私達が制御できるような生物じゃない。気まぐれで神出鬼没。今回は気前よく協力してくれたけど、アレを制御しようなんて考えない方が賢明よ。一度(ひとたび)怒らせたら、私でも止められない。国が・・・帝国が滅ぶわ」


 そう言って脅しておく。

 ローリアンも政治は解っている。

 ハルから発せられた警告は自分の知る友人(帝国の上層部)に伝えようと思った。

 そんな感じで、銀龍に余計なアプローチが来る事を結果的に諦めさせていたりするのだ。

 ここで、奥からローラ達が姿を現す。

 アクトとハルが友人達と大広間で会話している間、ローラとスレイブ、サハラ達は別部屋のキッチンに籠り、そこで淹れたお茶を持ち、ここまで運んできた。

 

「わわ。エルフだ!」

 

 ローラやスレイプの特徴である長い耳を見て驚くフィッシャー達。

 亜人など初めて見るから、その反応は正しいのだが、必要以上に騒ぐなとアクトは注意する。

 

「フィッシャー、あまり大きな声を挙げると子供に嫌われるぞ」


 その指摘どおり、サハラはローラの陰に隠れている。

 それを見たハルはニコリと笑った。

 

「大丈夫よ。この人達は私の友人。レヴィッタ先輩と同じだから」


 サハラが現時点で一番懐いている人間女性の名前を出し、安心させようとするハル。

 そのレヴィッタとはローラ達と一緒に準備をしていて、サハラの近くにいたのでよしよしの彼女の頭を撫でる。

 そうすることでゆっくりと親の陰から姿を現すサハラ。

 サハラとて人間は未知の存在であり、怖がるのは仕方のない話だ。

 ハルもその事は解っており、できるだけ友好的に自分の友達にエルフの事を紹介した。

 

「紹介するわ。辺境で仲良くなったエルフ夫妻のスレイプさんとローラさんよ。そして、その娘のサハラちゃん」

「こんにちは」「初めまして」「・・・うん」


 ハルの紹介により、互いに挨拶して握手する。

 ここでは互いにぎこちない姿であるが、始まりなどそんなものだとハルとアクトは思う。

 

「それと、そこの大きな人はジルバ。彼も辺境で知り合ったわ。人間と似た姿の彼だけど、ちょっと変わった亜人ね。魔法が得意な種族と言えばいいのかしら。外を警備する鉄魂(てっこん)ゴーレムも彼の魔法よ」

「人間達よ、私はジルバだ。ひょんな事からアクトとハルには厄介になっている。旨いモノを食べさせてくれるならば大歓迎だ。よろしく頼もう」


 意外にフレンドリーな姿で接するジルバ。

 それはアクトとハルの心を読んでそうしている。

 できる龍ではあるが、ここでのジルバは謎の亜人で通す事にしていたので、口数は少ない。

 しかし、シエラやフィーロなど勘の鋭い実力者は、ジルバが只者ではないと見抜く。

 鋭い視線を送ってみたが、それでもジルバは無反応。

 人間からの挑発など、銀龍の彼からすれば子猫のこけおどしに等しい。

 

「それと、兄さん夫妻を紹介しよう」


 ここでアクトからウィルとレヴィッタ夫妻を皆に紹介する。

 ウィルとは帝都ザルツの戦勝記念式典で顔を知るラフレスタ組であったが、会話するのはここで初めてである。

 クールで絡みづらい印象のウィルだが、それを好む人物もいた。

 

「むむ、貴殿はできる剣術士だな。私は『南の虎』と呼ばれていた剣術士・・・今度、手合わせ願いたい」


 シエラからそんな申し出をする。

 ウィルも『南の虎』の噂は知っていて、手合わせを快諾した。

 

「よろしいですよ、シエラさん。何なら今でも」

「そうか!」


 こうして目を輝かせたシエラがウィルを中庭に連れ出し、練習試合を始めてしまう。

 模擬剣が無かったので、真剣を用いて試合する事になったが、それでも互いに一流の剣術士。

 ギリギリの寸止めで剣技を競った。

 本気の剣術士同士の試合を見せられたレヴィッタは気が気でなかったが、それでも最終的にはウィルが勝った。

 ブレッタ流剣術免許皆伝の腕前を持ち、正統剣技ではアクトよりもウィルの方が上。

 剣術とは経験が物を言う世界でもあり、シエラもこれでウィルを認めた。

 荒事に関わる機会の多かった英雄達は、いい試合が見られた、と感心していたりする。


 そんな感じで、ここに集う英雄達は久しぶりの昔話に花が咲き、結局は昼食もここで一緒に食べる事になる。

 昨日の夜に作ったパスタの材料が余っていたので、ハルはそれを披露した。

 来客者は勿論、この屋敷に住む者も満足の味だったのは言うまでもない。

 ジルバが十人前をペロリと食べて一同を驚かせていたのは、笑い話のひとつである。


 そんな和やかの雰囲気の中、午後の時間も進む。

 現在はハルとローリアン、レヴィッタがひとつのテーブルに座り、世間話を続けていた。

 

「それにしても、レヴィッタ先輩がここに居たのは驚きでした」


 そう言うのはローリアン。

 彼女もアストロ魔法女学院の卒業生であるレヴィッタの存在は知っていた。

 美人であり、ある意味で活発なレヴィッタは学院でも有名な顔であったためだ。

 

「そうよねえ。私も驚いているのよ。今年の五月までは帝都ザルツで、良い男いないかなぁ~て、のうのうと暮らしていたけど・・・ウィルと付き合い始めて、あれよあれよで、昨日結婚して、今は人妻よー。ホントに人生って解らないよねぇ」


 しみじみそんなことを述べるレヴィッタ。

 昨日、ウィルと結婚を果たし、夫婦の関係になったので、多少自信もついたのだろうか、今回のレヴィッタは落ち着いた行動を示している。

 

「人生とは解らないもの、とは同感できますわ。私も去年の今頃にラフレスタの乱が始まって、それで人生が一変しましたから・・・それに今の夫とも、ウフフフ」


 ニヤケるローリアン。

 そんなローリアンを見たハルは「アナタも変わったわよ」と言う。

 しかし、それは意匠返しだった。

 

「ハルさんも変わりましたわよね。ザルツでお会いした時も去年のラフレスタのハルさんとは雰囲気が変わったと思いましたし、今もザルツの時から変わりましたわ・・・何と言うか・・・大人びたと言うか。落ち着いたと言うか」

「ええ? そうかな?」

「あ、それ、私も思った。何だか一番年上のような感じだし。アーク君・・・じゃなかった、アクト君も変わったよね。とても落ち着いた紳士だもの」

「ええ? アクトが紳士?? それは騙されているわよ。だってアイツ、むっつり助平だし・・・おっと、これ以上は言っちゃ拙いわ」


 夫婦間の閨の秘密をばらしそうになり、少々焦るハル。

 ハルは落ち着こうとして、ひと呼吸した。

 そんな姿にふたりの女性は笑う。

 

「そう。そういうお茶目なところはアストロに居た頃のハルさんからは想像できない姿ですわ。私達に友好的に接してくれる事も無かったですから」

「そ、そうだったかしら・・・」


 確かに過去の自分は尖っていたところもある。

 そんな事を暗に認めるハルであったが、それは自分の境遇が・・・と言い訳したくなる。

 余計な事を喋ってしまう前に話題転換した。

 

「それはそうと、ローリアンはこちらに住むの?」


 ハルがそれを聞いたのは先程雑談でフィーロがアクトにしていた相談事だ。

 情報は心の共有でハルに筒抜けなのである。

 

「まったく、ハルさんも耳が早いですわね・・・そうですわ。フィーロがそれを希望していますからね」

「フィーロさんがねぇ。折角、帝都ザルツで良い家を建てたのに、勿体ないわよね」

「確かに、あの家は私も気に入っていますけど、それでも夫に付いて行くのが妻の務めですわ」

 

 その言葉に深い愛情が込められていると感じたハルとレヴィッタ。

 ローリアンの意思は固い。

 だから、ハルはこう誘ったのだ。

 

「なるほどね。それならば一緒に住む? この屋敷、というか、この敷地には別棟もあるし。人が住まないと荒れちゃうのよねぇ」

「ちょ、ちょっと! ハルちゃん」


 レヴィッタはハルに、それは早まり過ぎなのではないかと言うが、ハルは問題ないとする。

 

「レヴィッタ先輩、大丈夫よ。ローリアン達は信用できるわ。ちょっとした秘密を守って欲しいのだけど、それは多分、彼女達も大丈夫よ。そして、家賃も取るわ」


 最後の一言だけは冗談半分だったが、それでもその事を真剣に考えてみるローリアン。

 

「・・・解りました。夫と相談します」


 この場でそう答えるに留めるローリアン。

 しかし、結局、彼女はここに住むことになった。

 ローリアンとフィーロもこのエクセリア国は未開の地であり、それならば知り合い同士で暮らすのはメリットあると思ったからだ。

 ただし、夫婦水入らずの生活も考えているので、ハル達とは別棟で暮らす事になる。

 そして、律儀に家賃をハルに払った。

 それは誠実でプライド高い彼女達らしい行動である。

 因みに、ここで暮らす事になったのは神聖ノマージュ公国組もそうである。

 彼らもそれぞれ別棟で暮らして、後々、ここにノマージュ教の教会を建てたりもするのだが・・・それはまた少し先の話である。

 そんな未来につながる雑談する彼らに、またもや鉄魂(てっこん)ゴーレムから警笛の音が響く。

 

ピーーーッ


「今度は何だろう?」


 もう、あまり慌てない。

 アクトは本日二度目の来訪者をジルバに尋ねる。

 そうするとジルバは空中に映像を投影し、そこにはリリアリアとレクトラを初めとした一団が訪ねてきたことを映し出した。

 鉄魂(てっこん)ゴーレムは学習していて、二回目の来訪者を束縛してはいなかった。

 ホッと胸を撫で下ろすハル。

 

「お母さんと義父さん達だわ。しかも、多くの人を連れてきている。どうしたんだろう?」


 そう言い、ハル達は新たな来訪者を迎える。

 ここで迎えられたリリアリアとレクトラは来訪の目的を娘と息子達に伝える。

 

「何しに来たかのと? たいしたものではない。お前達の結婚パーティの準備の為じゃよ」

「へ?」


 そんな突然の申し出に、困惑を隠せないハル達だったのは言うまでもない・・・

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ