第六話 この家の流儀 ※
「とても旨かった」
ご満悦のジルバ。
彼が銀龍の時は食事そのものを必要としないが、人間体に変化している時はそうでもないらしい。
よく食べる、と本人から予め申し出を受けていたが、十人前をペロリと食べる姿は、見ていて圧巻である。
「本当によく食べるわねぇ~」
呆れるハル。
「旨かったから食べるのだぞ。不味ければ一切食わん」
「あら、そうなの?」
「そもそも、私は生命活動に人間の食料を必要としていない。食べた物が旨いと評価すれば、満足するまで食べられる。ただそれだけだ」
「げっ、燃費悪いわね」
「まぁそう言うな。ハルの料理が旨いから褒めているのだ。外にいる鉄魂ゴーレムの警備費用とでも思えば、安いものだろう?」
そう言われると確かにそうだった。
ゴーレムとは言え、五百体の運営に伴う資源を考えると、たかだか十人前の食糧など安いものである。
それにハルは自分の料理を褒めて貰っているので、気分も悪いものではない。
「確かにハルさんの料理は美味しいですね。麺料理なんて初めて食べましたけど、これはハルさんの故郷の料理なのでしょうか?」
そんなローラの問いに答えたのはジルバである。
「そうらしい。異世界の文化のひとつだろう」
ハルの脳内を見たジルバの正解であったが、それに驚くのはレヴィッタである。
「え? 異世界?? どういう事???」
「私も詳しく知らされていないが・・・ハルさんが只者ではないということだろう」
ウィルはレヴィッタほど驚かなかった。
ハルが普通ではない事はある程度察知していたからである。
自分の父や母からハルの事を全て聞かされていないウィル。
その瞳が、話してくれるのだろう?とハルに問いかけていた。
ハルはアクトと視線を交わし、やがて一息つく。
「解ったわ。話すわよ・・・アナタ達とは義理の兄・姉の関係になるし、ローラさんとスレイプさん、サハラちゃんにはもう話しているからね」
ハルはそんな少し諦めに似た言葉で観念すると、食後のお茶を全員に淹れる。
「少し長い話になるわ・・・」
そんな前置きから、ハルは自分の生い立ちを話す事にした。
ハルが地球と言う世界で生まれた事。
その世界にあるサガミノクニという科学技術の発展した国で育ち、順風満帆に生きてきた事。
中学生の時、事故に巻き込まれて、このゴルト世界へ飛ばされた事。
本当の親兄弟と別れ、ひとりぼっちになってしまった事。
そこで、リリアリアに助けられた事・・・
ハルは過去の記憶を思い出し、時折辛そうになるが、そこはアクトが手を握る。
こうして勇気と愛を貰ったハルは、この場で涙を見せなかった。
しかし、彼女の辛い過去を初めて聞かされたレヴィッタは完全に涙目である。
感受性の高いレヴィッタの性格がそうさせていたし、既に話を聞いていた筈のローラやサハラもレヴィッタのしんみりした影響を受けていたりする。
ウィルとスレイプは無言を貫く。
それは感覚を意図的に殺す姿であり、自ら強い姿を示す事により周囲の不安を取り除こうとしていた。
そこからのハルの話はレヴィッタも多少は解っている。
ハルがラフレスタに来て、アストロ魔法女学院に編入学する話だったからだ。
その後に魔道具をいろいろ生み出す話となり、ラフレスタの乱へつながる。
ラフレスタを解放した彼らが次に向かったのは帝都ザルツである。
そして、そこでアクトが攫われた。
アクトを取り戻すために旅立つハル。
彼女は砂漠の国にてようやくアクトを取り戻した。
ここではミールが殺されるという悲劇もあり、アクトの心が軋む。
そこは逆にハルがアクトの掌を握ることで支えた。
レヴィッタも帝都ザルツでミールの事を覚えていて、彼女にとっては嫌な客だったが、それでも悲劇の最期の話を聞いてしまうと、ミールの生い立ちに同情できるものもあった。
そして、神聖ノマージュ公国へと場面は移る。
ここで発生した邪教徒の暴走を止め、救出した法王によりアクトの記憶を修復する事ができた。
めでたし、めでたし、と思っていた矢先、エクセリアで戦争が始まる。
ここで旅程を短縮するため、辺境の縦断を決断するアクトとハル。
そこでローラ達と出会い、攫われサハラを助けるために銀龍の住むトゥエル山に足を運ぶ事となった。
ここで、ボルトロールの策略によって暴走状態だった銀龍と対峙する事となる。
戦いの中で、銀龍の使う時間魔法により一箇月近くの時間を消費してしまう。
それでも銀龍との戦いに勝利できた。
――ハルとアクトは謙遜していたが、ジルバは遠慮するなと言い自らの負けを認める――
そして、エクセリア戦争の決戦へ向かう。
これにて現時点に話がつながる。
「改めて思うが、やはりハルさんは強い女性だ。尊敬に値する」
「義兄さん、やめてください。私は自分の出来る事をひとつひとつ進めているだけです・・・それにアクトも助けてくれますから」
「そうだ。俺がハルを助ける・・・そして、俺もハルから助けて貰っている」
アクトとハルは互いに視線を合わせて、うん、と頷く。
信頼、愛情・・・それさえ超越した何かが既に彼らの間に形成されていた。
それは、単なる『心の共有』という魔法の効果だけではない。
「切っても切れない絆がふたりにはあるようだ。私達も負けないつもりだが・・・」
「え?! きゃっ!」
ここでレヴィッタを引き寄せるのはウィルである。
普段のウィルが絶対に見せないこの積極的な行動にレヴィッタは一瞬驚いたが、それでもうっとりと気持ちよさそうな表情の彼女。
自分を必要とされている事が心地よいのだろう。
「私達も人間に負けないぞ。家族を愛する心は人間もエルフも同じだ」
スレイプがそう言ってローラとサハラを抱くが、それが対抗心から来たのか、それとも、家族に愛情を示したかったのか・・・
「まあ、スレイプったら」
ここでニヤケたローラは、完全に惚気ている。
そんな暖かい雰囲気に包まれる居間の空間。
これを見たハルは、ひとつのやらねばならぬ事を思い出す。
「さて、食後の一服も終わったし、ここでひとつ、私の流儀を皆さんに守って欲しいのだけど・・・」
「流儀って?」
突然そんなことを言い出すハルに全員が目をパチクリとさせた。
その直後、心の共有でハルの考えを理解したアクトがびっくりする。
「ええ!? ハル・・・それを、ヤル、のか?」
「ええ・・・ヤルわ。本気よ」
ハルだけが不敵に口角を上げた。
しばらくして、舞台は浴室に移る。
「ハ、ハル・・・本当にいいのか?」
狼狽するアクト。
他の全員も同じで、多少に顔が引きつっている。
ちなみに価値観が人の常識と違うジルバだけは特に普段どおりを貫いていた。
そんな全員の姿を見て、このイベントの企画者であるハルは口を開く。
「別にいいわよ。ウィル義兄さん、レヴィッタ義姉さんとはもう家族だし、ローラさん一家とは同じ屋根で暮らす仲間。ジルバだって離れてくれそうにないわ。結果、同じ家で暮らすならば、私の流儀である『寝る前には必ず風呂に入る』を守って欲しいのよ」
ハルの主張したかったのはそこである。
比較的に綺麗好きなアクトでさえも、言わなければ毎日風呂に入らない。
旅や非常時は仕方ないとしても、普段ならば清潔にして欲しいとハルは思う。
同じ家に住むならば、衛生面でウィル夫妻、エルフ達にも守って欲しい。
魔法で姿を変えているだけのジルバは微妙だが、それでも風呂に入る習慣を覚えてくれればいいと思う。
「普段はひとり、もしくは、家族別で入って欲しいけど・・・今日は特別に全員で入るわ。使い方も説明したいし・・・じゃあ、私から」
ハルはそう言って、ガバッと羽織るバスローブを脱いだ。
そうすると彼女の均整のとれた全裸が現れる・・・とはいかず、大切な部分だけを水に耐性のある布で隠した姿――つまり、水着姿が現れた。
この水着とはハルが元々の世界で流通していた意匠を模して製作したものである。
ハルはその水着を全員に提供し、これに着替えるよう命じていた。
各人もあまり訳が解らず、事前に部屋で着替えて、ここに集合させられていたのだ。
ハルが装着していたのは上下セパレート型の水着。
大きな乳房と括れた腰を主張する刺激的な姿であり、男性からの注目を集める。
「わわ、見ちゃ駄目ですよ。ウィルさん」
レヴィッタは慌ててウィルの目を隠す。
そうするとふたりの身体が密着して、何かの拍子で彼らの羽織るバスローブが互いに解けて床に落ちる。
バサ、バサ
「きゃっ!」
ふたりとも華奢な身体であるが、ウィルは剣術士らしく鍛えられた筋肉、レヴィッタは形の良い乳房と可愛らしいお尻が素晴らしい。
水着によって、そのシルエットは隠しようも無かった。
そんな人間の女性の姿を黙って見ていたスレイプだったが、そこにローラから頭を掴まれる。
「あ・な・た・・・何を見ているのかしら」
オホホと上品に笑いながらも、スレイプにだけ解る青筋を立てて自分の夫の頭を別の方へ強制的に向ける。
「痛たた。止めてくれ、ローラ」
スレイプは自分の妻に詫びを入れ、バスローブを脱ぐ。
彼もパンツ姿の水着を装着していたので、上半身を隈なく晒す。
ウィルよりも華奢なスレイプなのだが、身長が高いため強く見えた。
そんな身体を見たウィルは「鍛えられている」と評価するが・・・そんな裸の付き合いはゴルト大陸の文化に今まで存在していない。
「さあ、ローラさん達も」
「恥ずかしいわ」
「大丈夫、大丈夫。水着だから」
そう言って促すハル。
恥じらいながらもバスローブを脱ぐローラと娘のサハラ。
ローラは後ろ向きで素肌を晒すが、やはり水着であり、細くて白い肌は隠しようもない。
芸術品のようである。
真面目を装うウィルでさえ、ローラを見て、うっ、と思わず呻き声を挙げてしまうが、これも後ろからレヴィッタが目を隠した。
「ウィルさん。見ちゃ駄目ですよ」
「見てない。見てない」
そんな喜劇的なやり取りをするふたり。
気が付けばアクトとジルバも既にバスローブを脱いでおり、これで準備は整った。
「よし、全員脱いだわね。今日は水着だけど、家族だけならば裸で入ってね。それじゃ行きましょう」
ハルは堂々と先頭を進み、浴室につながる扉を開けた。
その浴室内は湯気が立ち昇っており、湯船には清潔な湯が張られている。
これを見たサハラが目を輝かせた。
五歳児の持つ好奇心が刺激されて、ここに飛び込みたいという欲求に駆られる。
「わーーーい!」
一番風呂に飛び込もうと駆け出すサハラだが、それを許すハルではない。
「こらっ! サハラちゃん、待ちなさい!」
「わ、わわわ」
ハルが無詠唱の魔法を行使して、駆け出して行ったサハラを空中に浮かせて、飛び込むのを阻止した。
「駄目よ。まずはお湯を身体に掛けて、清潔にしてから湯船に入るの。いろいろな人が入るから、あまり汚しちゃ駄目」
お風呂のしきたりを説明する。
こうして、サハラは空中をクルクルと舞い、親のローラまで連れ戻された。
そこでガシッと捕獲される。
残念がるサハラだが、ここでのボスはハルなので言う事を聞くしかない。
ハルが説明を続けた。
「この蛇口を回すとお湯が出るわ。こっちで水の量を加減して温度が調節できる。好みの温度にして桶に水を溜めたら、ほら」
ハルの実演により、お湯汲みの桶にお湯が溜まる。
こうして溜めた桶のお湯をサハラに優しくかけてあげた。
「気持いーーー!」
されるがままのサハラであったが、適度なお湯の温度が気持ち良い。
「これを二、三回繰り返してね」
ハルがそう指示し、サハラをはじめ全員が真似た。
ハンドルが下の方についているので、屈んで操作するしかない。
レヴィッタがハンドルを操作していると、可愛いお尻がポンと目立ち、それが左右にフリフリと小さく振られる。
それを他人に気付かれないようにしてウィルが視線で追う。
そんな姿をこっそりと目撃してしまったハルは、アクトと同じでウィルもムッツリ助平なのだろうと勝手に思った。
そんな彼らだが、これで準備が整う。
「それじゃあ、入りましょうか」
こうして、湯船に入るのを許可するハル。
湯船はかなり大きいので、全員が入っても十分余裕があった。
「ひゃあーー、気持ちいい」
「そうだな。こんな大きな風呂、入った事が無い」
レヴィッタとウィルは初めての広いお風呂を経験し、戸惑い半分と気持良さ半分と言ったところだ。
「温度は少し高いが、耐えられない事もない」
「ええ、そうですね。いつも私達が入っていたのは泉の水でしたからね」
「わーい。泳げるよ」
バシャバシャと燥ぐサハラ。
ハルは一応注意したが、それでも家族やひとりで入る時はバシャバシャとしても構わないと言っておく。
サハラの躾は大切だが、それは親であるスレイプやローラの役目であり、ハルは必要以上に言わないようにした。
だが、ローラは再びサハラを捕まえて叱る。
「本当にこの娘は!」
プンプンと怒るローラだが、これを見たジルバは呵々と笑うだけだ。
「ローラよ、良いではないか。子供などそんなものだ。元気があって宜しくだぞ」
ジルバは堂々としており、タオルも折りたたんで自らの頭の上に乗せている。
このサガミノクニ伝統の流儀もハルの頭の中を覗いて得たものであり、説明しなくてももう会得している当たりが銀龍らしかった。
そんな堂に入ったジルバの姿を見て、サハラが喜ぶ。
「わーい、やっぱり銀龍様、大好き!」
ローラの縛りから脱したサハラはジルバの方へ移動し、楽しそうにしていた。
そんな言う事を利かないサハラに多少不満なローラだが、その無邪気さを見てスレイプがまあまあとするのはいかにも親子の姿である。
「可愛いわね、サハラちゃん」
「そうだな。人間もエルフも、親子の関係にそう変わりはないのだろうな」
レヴィッタの言葉に何気なくそう答えるウィルであったが、そのあまりに自然さにアクトとハルは驚く。
「いつの間にか、打ち解けてあっているぞ」
「ええそうね。やはりお風呂はリラックスできるからね」
ふたりの視線に気付いたウィルとレヴィッタは急に慌てる。
それまで互いに寄せていた身をパッと離してしまったり・・・
「兄様達、別に離れなくてもいいじゃないか」
「そうよ。私達ってもう夫婦なのだから」
アクトとハルはこれ見よがしに互いの身を密着させる。
そうするとハルの大きな乳房がアクトの腕に密着して、見事に潰れた。
それでも興奮するでもなく、アクトとハルは余裕の態度。
そんな先駆者の余裕を見せつけられたウィルとレヴィッタは何故か負けた気がした。
「お前達・・・」
「そ、そうよ。ここには子供もいるんだからな」
何か反撃したい気持ちの彼らだが、それを挑戦と受け取ったハルとアクトは次なる手段に出た。
「熱いわね。そろそろ上がって身体を洗いましょうか、夫殿」
「うむ、頼もう、我が妻よ」
ハルとアクトは仰々しくそう応えると、湯船から上がり、洗い場へ移動する。
そして、どこかから椅子と桶とタオルを持ってくると、洗剤をつけて泡立てる。
「これは身体を洗うための洗剤よ。綺麗になるわ」
ハルはそう言うとその泡をアクトの背中に塗る。
泡が広がり、アクトは気持ちよさそうにして、されるがまま。
「ひとりで洗ってもいいけど、ふたりや家族がいるならば、こうやって洗ってあげた方がいいわね。届かないところも洗えるし、スキンシップにもなるわ」
そう言って挑戦的な笑みを浮かべるハル。
これは明らかにウィル夫妻に対する挑発であった。
「く・・・レヴィッタさん。俺達も洗おう」
「え、ええーっ?!」
ウィルにより強引に湯船から連れ出されたレヴィッタはアクト達の隣の洗い場に座らされて、うしろからウィルに洗われた。
「ひょえ~~」
初めての洗剤のヌルヌル感覚に不可解な悲鳴を挙げてしまうレヴィッタ。
そんな洗い場の姿を興味深く見たジルバが「よし、私も誰か洗ってくれ」とアクトの後ろ側の席に座った。
「私が洗うよー」
サハラがジルバの洗い手を申し出て、小さな掌で洗剤を泡立ててジルバの背中を洗う。
「うんしょ、うんしょ」
「おお、良きぞ、サハラよ。上手いのう」
褒めるジルバに気を良くするサハラ。
スレイプとローラは呆気に捉われていたが、それでも自分ちもとジルバの隣に座り、身体を洗う事にした。
ちなみに、こちらはローラがスレイプを洗っている。
「ハイ。身体が洗い終わったらお湯をかけて流す。次は髪も洗ってあげてね。この洗剤は皮膚にも優しいし、頭皮に使っても問題無いから」
次に頭を洗えと命じるハル。
それに皆も続く。
ゴシ、ゴシ、ゴシ、ザバーン
こうして、ひとりを綺麗に洗うと、次は男女交代である。
アクトがハルを洗うが、ここで彼はハルから肘鉄を二回ほど喰らった。
それは、悪戯でハルの胸を二回ほど触ったからだ。
勿論、これは互いに冗談の範囲でのスキンシップである。
しかし、そんなふたりのやり取りを見せられたウィルとレヴィッタは戦慄するしかない。
これもアクトとハルからの挑発なのだが・・・ウィルとレヴィッタは流石にこの場でそこまでやる勇気は無かった。
アクトは、フッと笑い、勝ったと思う。
ゴシ、ゴシ、ゴシ、ザバーン
こうして、女性側(ウィルとレヴィッタは逆)も洗い終わる。
「ここでお作法としては、もう一度湯船に入るのだけど・・・私達はいいわ。どうせまた・・・」
ハルの顔は赤い。
何かを期待するようにアクトを見て、その言葉をアクトが引き継ぐ。
「これから俺達は・・・ちょっと失礼します。夫婦ですので・・・」
そう述べてハルの手を引き、浴室を後にしようとする。
ただ見送るだけのウィルになっていたが、彼は反撃のつもりで一応忠告をする。
「アクト! 明日の朝はブレッタ家伝統の修練をするからな・・・遅れるな!」
しかし、アクトはこう返した。
「兄様こそ・・・寝坊しないように」
そんな不敵な雰囲気で言い返すと、アクトはハルと引き浴室から出ていった。
このあと、ふたりが何をするのかは明白である。
残されたウィルは弟に先を越されたのが悔しくなり、その対抗心からレヴィッタの手を引いた。
「私達も行こう。負けたくない!」
「え、ええ」
困惑気味のレヴィッタ。
しかし、その手を強く引き、ウィルもこうして浴室から去っていた。
残されたのはスレイプ達であったか、ここでジルバが気を利かせる。
「よし。私も上がろう。身体を綺麗してくれたお礼に昔の面白い話をサハラに聞かせてやろうじゃないか」
「え? 本当?! やった~!!」
「長い話になるが、いいかな?」
「ぜんぜんいいよ。まだ寝ないから」
「おお、サハラは良い娘だ。それでは浴室から出て、居間で話してやろう」
サハラを連れて出ようとするジルバに、慌ててスレイプとローラもこれに続こうとする。
彼らは銀龍の世話役として自負しているため、そうする事が責務だと思ったからだ。
しかし、ここでジルバがそれを制す。
「スレイプとローラはこのままで構わない。たまには夫婦水入らずの時を過ごせばいいだろう」
「いや、しかし・・・」
「構わぬ。今の私は気分が良い。サハラの面倒は私が見てやろう・・・そうでもせねば、お前達エルフの子孫も増えぬだろうし」
空気を読む銀龍の発言。
その言葉の意味を理解したスレイプとローラは急に顔が赤くなる。
そして、この会話は魔法の念話を用いてスレイプとローダだけにしているため、サハラに余計な事が伝えられる事もない。
ジルバはここで声を出して、サハラに次の事を伝える。
「今日のスレイプとローラは早く休むようだ。サハラは私の話を聞いてくれ。眠くなったら居間で寝てもよいぞ」
「はーい」
銀龍から面白い話が聞けるとして上機嫌になるサハラ。
こうして、ジルバとサハラは浴室から去っていく。
この浴室に残されたのはスレイプとローラのふたり。
彼らは久しぶりに互いの手を取り・・・そして・・・
ちなみに、次の日、寝坊をして一番遅く朝食に現れたのはウィルとレヴィッタだったりする。