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第十七話 消滅、対、破滅

 レヴィッタ達の処刑場にまで到達したウィル達。

 しかし、そこは光の魔法を駆使したボルトロール軍の罠であった。

 ここで実際に処刑は実施されておらず、レヴィッタ達や処刑執行人も含めてもすべてが幻影。

 まんまとここに誘き寄せられたウィル・ブレッタとレクトラ・ブレッタ。

 そして、ウィル達を葬るのは敵からの『爆縮弾』。

 列車砲から発射されたその砲弾は全てを消滅させる必殺の魔法が込められていた。

 もう、目前まで迫っている。

 

(どうする?)


 しかし、ブレッタ家の男達は長く悩まなかった。

 

「斬る!」


 ウィル・ブレッタがそう決めると、己の剣を両手で持った。

 

「破ァァァァッ!」


 周りの者を震撼させるような雄叫びを挙げて、自分の中で何かを高める。

 そうすると力が沸いてきた。

 これはブレッタ流剣術士の彼らが魔力抵抗体質者の原理を知らずに無意識にやっている事ではあるが、己が持つ膨大な魔力を高める儀式でもある。

 こうする事でウィルの体内より黒い霞が染み出てきた。

 魔力抵抗体質者が持つ余剰魔力が放出されて、それが空間の中で僅かに存在する魔力と反応して、これを分解する現象なのだが、傍から見ればまるで闘気を纏っているようにも見える。

 実際、この時が魔力抵抗体質者として最大限に能力が発揮されている状態であり、この発奮がブレッタ流剣術の免許皆伝の技のひとつとして認定されている。

 この時のウィルには自らに迫る砲弾が止まっているように見えた。

 僅かに左回転しているのも解り、そして、丸い砲弾の表面の一部分に傷があるのを見つけた。

 

「そこだ!」


 ここでウィルは迫る砲弾目掛けて飛び掛かった。

 僅かな傷を目標に、そこへ斬りつけたのだ。

 

ドンッ!


 鈍い音がしてその傷にウィルの剣先が見事に突き刺さる。


グググ


 そして、刃渡り半分ほどを砲弾に埋める。

 ここから力を入れて奥へと斬り進む。

 

「グォォォォォ」


 獣のような雄叫びを挙げて、力一杯奥へ斬り進むウィル。

 もの凄い反力を感じ、腕が千切れそうになるが、それでも我慢した。

 そして、刃が上部へ持って行かれるのを感じる。

 

(これは砲弾が左回転しているからだ・・・同じ方向に回らないと刃が折られる)


 本能的にそう感じたウィルは身体を捻り、強引に砲弾の回転に自分を合わせた。

 急に身体を捻ったため、関節からグキッと音がして激痛が走るが、それでも我慢を続ける。

 

「うおおぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 大きな反力と回転で生じた遠心力により剣を放しそうになる。

 意識の中ではゆっくりと時間が流れていたが、実際には凄まじい速さで行動しているため、ちょっとの行動で大きな反動が出てしまう。

 それでもそんな反動を力で抑えつける。

 そうすると激痛は増すが、それでも・・・それでも・・・と身体を前進させて、斬り込み進めた。

 これで、少し、また、少しと刃が砲弾の鋼鉄を斬り裂くのだ。

 短い時間の筈だが、それでもウィルの意識はとてもゆっくりとした時間軸の中を進んでいる。

 確実に刃が砲弾を斬り裂くのは解ったが、その反動により苦痛が増加している。

 それでもウィルの持ち合わせた忍耐力を総動員させて、これに耐えていたが、これに耐えられなかったのは剣の方であった。

 

ピシッ!

 

 ウィルは自分の剣にひびが入ったのを剣術士の感覚で察知する。

 今回の酷使は鋼鉄製の剣が耐えられなかった。

 

「まだだ。まだ駄目だ。頑張ってくれ! せめて、俺がレヴィッタの元へ辿り着くまで持ってくれ!」


 ウィルはそう懇願するが、それでも無情。

 

ピシシシシッ!


 ヒビが次々と進行し、広がっていく。

 ああもう駄目か・・・そう諦めかけていたウィル・・・

 そこに、父から叱咤の言葉が届く。

 

「莫迦者。諦めるな!」

「ハッ!?」


 そうすると、ウィルの剣は後ろから押された。

 見れば、レクトラ・ブレッタがウィルの横を通り過ぎようとしている。

 レクトラはウィルの斬りつけた砲弾に対して九十度の角度で斬り込み。

 ウィルとレクトラで砲弾を十字状に斬り込んでいたのだ。

 そして、遅れて斬り込んだレクトラの刃がウィルの刃に追い付き、後ろから押す形となね。

 レクトラの刃は鉄の砲弾を確かに斬っているのに、何故かウィルの剣が斬られる事はない。

 不思議な感覚であったが、それでもこの瞬間、その技を理解できたのはウィル・ブレッタが天才だったからか、それとも、優しく、鋭い斬り方のできるレクトラ・ブレッタが大天才だったのか・・・

 

(なんて美しい・・・そして、しなやかなんだ・・・)


 父の剣技を見て、自分もそれをやってみようと思うウィル。

 今までは固い砲弾に力で対抗する斬り方であったが、父のように優しく引いてみようと思った。

 そうするとどうだろう。

 あれほど感じていた反力がすぅーーーと無くなった。

 柔らかい布でも切るように、刃がすぅーーーと砲弾に通り、すぅと抜けた・・・


バキン!


 こうして、ウィルとレクトラによって斬られた砲弾は空中で四等分される。

 白い粉をサラサラと溢し・・・そして、着弾よりも前で大爆発した。

 

ドカーーーーーン!!!!


「ぐわーーーーっっっ!」


 ウィルは背中に爆風を受けて、悲鳴を挙げる。

 焼ける灼熱に背中が焼かれた。

 

サラサラサラ・・・・


 そして、刺激的な何かがウィルの身に降りかかる。

 ここで、手に持つ剣はあっという間にボロボロとなり、そして、空間へ溶けるようにして消えて無くなる。

 

(どうして、こんな事に!)


 そんな疑問に誰かが答えてくれる事もなく、ウィルは激しく地面へ叩き付けられる。

 

ドンッ!


「ぐあッ」


 激しい痛みと衝撃。

 直ぐに立ち上がる事ができない。

 気絶しそうになるが、それでも何とか堪えて首だけを上に挙げる。

 現状を確認しようとして・・・そして、そこには地獄絵図があった。

 

「ギァヤーーー!」


 先ずウィルの目に入ってきたのは、絶叫を挙げているボルトロール軍歩兵のひとり。

 逃げるのが遅れたのか、まだウィル達の近くにいた彼は大量の白色の粉がかかっていた。

 その白色の粉とは、砲弾の中心部に詰まっていたもの。

 先程、サラサラサラと空中に流れ出た粉である。

 小麦粉に似ているが、それよりも白い。

 いや、自らが白く輝いていた。

 その白い粉を大量に浴びた兵士がのた打ち回る。

 それは恐ろしい変化・・・


 白い粉を浴びた両腕が輝き、そして、消えた・・・

 白い光にかき消さるように消滅したのだ。


 その男は恐ろしさの余り、もう声さえ出ない。

 程なくして、次は足、そして、胴体が同じように消滅する。

 最後には首だけがそこに残ったが、その顔は真っ青。

 自分が死んでしまったのを認めたくない・・・そんな怨念の表情で固まっていた。

 その顔もしばらくすると光がポツポツポツと現れて・・・最後は白い光の中へ溶けるように消滅する。


 こうして、男の存在は完全に無くなった・・・


「な、なんだ。これは!?」


 ウィルは恐ろしさよりも、人が消滅してしまったその事実に驚くばかり。

 次に自分の手にも熱い何かを感じた。

 そちらへ視線を動かしてみると、剣が消滅して、それを持つ右手に白い粉が付着して光り輝いている。

 しかし、その周囲に黒い霞があり、光の進行と戦っているようにも見えた。

 だが、その黒い霞は徐々に弱まって、光の暴力が腕へと襲い掛かってくる。

 そうすると、その存在が薄くなり始めた。

 

「このままだと・・・俺も消えてしまうのか・・・」


 不思議と痛みは感じられず、どこか他人事のような気持ちのウィル。

 視線を移してみると、近くには父レクトラが倒れていて、彼も全身に白い粉を浴びて光に包まれていた。

 黒い霞が光の暴力に抵抗するようにグネグネと動いていたが、それも時間の問題のような気がした。

 そして、遠くを見ると、白い粉が大量に空中を舞い、広がっている。

 

(これは・・・自分達が砲弾を空中で破壊したからか・・・)


 呆っと、そんな事を考えるウィル。

 偶然の事だが、その白い粉は撤収しようしていたボルトロール軍の頭上へも降り注いでいるのが見えた。

 

「うわーーーー」

 

 遠くから絶叫が聞こえて、次々と人が光に包まれているのが解る。

 白い粉は即効性のある魔法的な何かであり、これが人間を消滅させているのだと直感的に理解したウィル。

 

(私達は魔力抵抗体質だから・・・消滅魔法の作用が遅れているのか・・・)


 そんな事を考えるウィルだが、これも時間の問題であると思った。

 自分が持つ魔力抵抗体質の力の限界を直感的に理解してしまう。


 この白い粉の魔法には敵わないという事実が・・・

 

(もってあと数分か・・・レヴィッタ、すまない)


 ウィルは自分が死ぬのを覚悟した。

 死ぬのは怖くない。

 しかし、レヴィッタを救う事ができなかったのは、とても心残りだ。

 どうやら、残念ながら自分はレヴィッタを救う事ができなかったようだ。

 それは他人へ託す事になる。

 託すのは友軍の誰かである・・・

 それが遠くに見える自分達の仲間の誰か・・・

 しかし、そんなウィルの想いも無情になる出来事が・・・

 

ドンッ!


 再び聞こえた重低音。

 それはラゼット砦近くに設えられた巨大な砲台からである。

 その砲台が本日二度目の火を噴いた。

 

「ま、まさか・・・連射ができる・・・のか!」


 瀕死のウィルでも思わず漏らしてしまったその言葉。

 それは砲台より撃たれた砲弾がウィルのいる所よりも遥か後方・・・エクセリア軍の中枢を狙っているのが解ったからだ。

 このままでは友軍――とりわけエクセリア軍の中枢――が死んでしまう。


(無情だ・・・俺は想いを他人に託すことさえ、赦されないのか・・・)

 

 そんな事を思えば、ウィルは、らしくなく涙を流してしまう・・・

 

 

 

 

 

 

 

ドォーーーーーン

 

 轟音が鳴り響くのはラゼット砦の現場。

 本日、二発目の砲撃による轟きが響く。

 余りの衝撃により砲台が動かないよう抑えていた鎖のひとつが飛び、砲台が数メートル後ろへ下がってしまった。

 近くに待機していた大鬼(オグル)の数匹が巻き込まれてれ吹っ飛んだが、彼らは頑丈であり、こんなものでは死なない。

 

シューーーー


 ここで、通称名『列車砲』は多量の水蒸気を放出している。

 近くでゴンドラに乗るクマゴロウ博士が周囲に指示を飛ばしていた。

 

「冷却用の水圧を二倍して流量を稼げ。連射したので砲身の温度が急上昇している。冷却を諦めてしまえば砲身に(ひずみ)が残る。数ミリ狂っても着弾点は数キロ変わってしまうんだ!」


 その指示に従い黒ローブの男達が何十個ある宝玉へ魔力を注ぐ。

 これが列車砲の制御装置となっており、冷却水を調整していた。

 そんなバタバタとした現場はラゼット砦の北側に設置された列車砲の周囲だけで起こっている。

 この様子をラゼット砦のバルコニーから見ていたグラハイルはとても満足していた。

 

「一発目はおとりの処刑場現場に撃ち込んだが、その戦果は敵の英雄ウィル・ブレッタとその父レクトラ・ブレッタだけだったようだ」


 スパイからの情報と現場中継の光魔法の映像の両方から、グラハイルは正しい情報を得られていた。

 グラハイルが当初考えていたストーリーではもっと多くの敵兵を誘き寄せて、一発目の爆縮弾で叩く予定であったが、ここでの戦果は敵の英雄ふたりだけである。

 それでも強力な魔力抵抗体質者の英雄を葬れたのは評価できる。

 

「まあいい。二発目が決まれば、それで終わりだ」


 グラハイルはそう言って、二発目の弾道が正確に狙いどおり飛ぶのを眺めていた。

 スパイの情報により、敵将ロッテルと友軍としてエストリア帝国から派遣されたリリアリア大魔導士の位置は把握していた。

 そこに二発目の爆縮弾が着弾すれば、敵の統制能力と士気はズタズタになる。

 ここでの戦いはこれで終わるとグラハイルは踏んでいた。

 

「決戦はエクセリア国首都エクリセンではない。ここなのだよ」


 クククと自らの勝利を疑わない笑みを浮かべるグラハイル。

 この時点で失敗を疑う余地など全く無かった。

 

 

 

 

 

 

 エクセリア軍の本陣では数名の魔術師が遠視の魔法で敵陣の様子を監視していた。

 エストリア帝国から高い技量を持つ魔術師が多く派遣されていたので、馬で移動中も敵陣の映像は空中に投影されたままである。

 ここで、ラゼット砦側で何かが光り、砲弾ひとつが発射されたのを察知する。

 

「何だ!?」


 これに気付いたロッテル司令官は軍の進行を一時停止させた。

 映像を詳しく確認してみると、その砲弾は凄まじい速度で境の平原を飛び、こちら側に向かってくる。

 そして、その着弾点が処刑場になっているのが判明した。


「拙い!」


 ロッテルが警告を発したが、時既に遅しであり、その着弾地点にはブレッタ親子がいた。

 ブレッタ親子も自分達に迫る砲弾を察知して、阻止しようと飛来した砲弾に剣で斬りかかる。

 しかし、そんなものなど蟻が大人に抵抗するようなもの。

 無残にも砲弾を空中で爆発させてしまうだけに終わる。

 爆風に飛ばされたブレッタ親子であったが、それでも彼らはまだ生きていた。

 いや、「かろうじて即死しなかった」と表現した方が正しい。

 遠視の魔法だけでは詳しい状況は解らないが、彼らは爆発した砲弾によって負傷して動けないでいる。

 そして、身体の各部から滲み出る黒い霞。

 魔力抵抗体体質の力が発揮される時に起きる現象であるから、彼らが魔法攻撃を受けているのは明白であった。

 その攻撃の正体が解ったのは、砲弾の空中爆発により空高く舞上がった白い粉が周囲のボルトロール兵の頭上に降り注いでからである。

 

「お師匠様、あれは!」

 

 ロッテルの近くにいたリリアリアの付き人――氷の女王ことセイシル――が驚きの表情で映像を指さす。

 それは人間が次々と消滅する光景だった。

 白い粉が掛かった人間は悶絶し、その後、光に包まれて、そして、次々とこの世から姿を消していく。

 そんな光景を目にしたリリアリアも、これには驚くばかり。

 

「なんじゃ? あれは?? 人が・・・いや、全てのものが消滅しておる!? あんな魔法など見たこと無いぞ!」


 リリアリアはそこで起きている現象が魔法の仕業である事は自身の経験から理解できた。

 しかし、そこで起きている『消滅』の魔法など初めて見る光景。

 一体どのような系統の魔法が作用しているのか、全く理解できない。

 悩む帝国の最高権威の魔術師であるが、彼女達に深く考える時間は与えられなかった。

 

ドンッ!


 それは遠視の魔法で確認するよりも早く解ってしまう。

 できればそうあって欲しくないと思っていたものの、頭の良いエクセリア軍の首脳陣は想像力が豊かな者ばかり・・・

 それは、ラゼット砦の脇に設えられた巨大な砲台より本日二射目の砲弾が撃ち出された事実。

 

ヒューーーーーン


 その砲弾は凄まじい速さでこちらへ向かって飛んでくるのが解る。

 狙いは明白、この本陣に向かっていた。

 

「狙われたぞ! これが敵の戦略級魔法の正体か!」


 今更その正体に気付くロッテル。

 しかし、もう遅い。

 自分達が狙われており、数秒後にはここへ着弾してしまう。

 そして、今も処刑場で行われているように、正体不明の『消滅』の魔法がここでも行使されてしまうのだ。

 

「弾を撃ち落とせぇ! 魔法防御ーーーっ!」


 ロッテルが唸り声を上げて防御を指示する。

 もう、散会などの回避行動は間に合わない。

 できる事は、着弾をいかに阻止するかである。

 

「大いなる風よ!」

「氷壁よ、現れよ!」


 リリアリアとセイシルが素早く魔法を展開した。

 短い時間で詠唱を済ませて、中級以上の魔法を成功させるのはベテランの成せる技。

 他の魔術師たちも頑張っていたが、それでもまだ魔力を練り上げている最中。

 全然、間に合っていない。

 刹那の時間に魔法を成立させたリリアリアの風の魔法は、大きな竜巻となり砲弾の行く手を阻む。

 しかし、砲弾が持つ凄まじい速度と、高速でキリモミ回転している砲弾に対して、この防御は効きもしなかった。

 すうーっと何事も無いように嵐の魔法をすり抜ける砲弾。

 次にそれを阻むのは空中に生まれた大きな氷塊の壁。

 セイシルの氷の魔法によって造った氷の壁である。

 そのぶ厚い壁の実体に砲弾が激しくぶつかった。

 

グァシャーーーン!

 

 大きな破壊音が轟き、鋼鉄の砲弾が氷の壁に突き刺さる。

 しかし、これも高速で飛来している砲弾を止めるには力不足であった。

 

ビシャーーーン!

 

 砲弾が命中した部分の氷が丸く割れた。

 防御も叶わない。

 こうして、黒い砲弾は氷の壁も突破して、エクセリア軍の本隊の上空に姿を現す。

 まるで、空から厄災が落ちてくるようでもあり、もう後が無い。

 

「く、ここまでか・・・」

 

 ロッテルは無念を感じた。

 ここに着弾してしまえば、あの『消滅』の魔法により全員死亡してしまうのは避けられないだろう。

 一応、正体不明の戦略級魔法を警戒して散会しているが、一番層の厚いこの本陣を狙われては、軍の司令機能が失われて、大幅な戦力ダウンとなる。

 全軍が瓦解しかねない。

 

「負けたか・・・」


 そんな諦めに似た呟きがロッテルから漏れてしまう。

 

 

 しかし、ここで予想外の事が起こった。

 

 

「何だ! あれは???」

 

 誰かがそう言った。

 何が?と思い、指摘した方角の空に皆が注意を向ける。

 そうすると、西に傾き始めた陽光の映る空が、ぐにゃっと歪んだ。

 その歪んだ空に黒い穴が開いて、そこから巨大な鉤爪がひとつ伸びてきた。

 その鉤爪は飛来した砲弾をガシッと掴む。

 暴風や強固な氷の壁を以ってしてもビクともしなかった敵の砲弾だが、この鉤爪には敵わなかった。

 高速回転とその勢いが完全に止められ、鉤爪の中で砲弾が確実に捕らわれる。

 砲弾を止めた力強い鉤爪の存在に、一瞬ホッとするロッテルやリリアリア達。

 一体、誰の魔法かと施術者を探してみるが・・・そんな魔術師など居ない事もすぐ解った。

 何故なら・・・空が歪み、ここに巨大な生物が突如として姿を現したからである。

 

「な、なんだ・・・これは! 龍!?」

 

 いつも冷静沈着を崩さないロッテルが、目を見開き、ポカンと口を開け、天を仰ぎ見ている。

 そして、跨る馬からポテンと落ちた。

 しかし、それを誰もが笑わない。

 

 何故なら・・・それは・・・

 ここに、空を覆いつくような巨大な伝説の龍――銀龍スターシュート――が、低空飛行で姿を現したからである・・・

 

 

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