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第二話 リーザの戦争

 ボルトロール王国より宣戦布告が告げられた翌日、エクセリア国の首都エクリセンの街中では騒然とした雰囲気が続いている。

 いつかこうなると噂されていたが、それでも正式に宣戦布告されると、やはり浮足立ってしまうのが民衆の心理とも言えるだろう。

 戦場となるエクセリア国から逃げ出そうとする者も居れば、逆に宣戦布告したボルトロールに立ち向う者もいる。

 今、このエクリセンで後者が多かったのは勇敢な騎士隊の本部であるからだ。

 訪れたリーザはそう感じていた。

 そして、現在の彼女はひとりではない。

 リーザの脇には最近仲良くなった同性の相方もいる。

 

「アリスさん、大丈夫?」

「うぅぅ、平気ですよ。リーザさん」

 

 顔が青いアリスの姿を見て、全然大丈夫ではないと思うリーザだが、それでも彼女の不調の理由が戦いに怖気付いたのではない事が解っている。

 原因は昨日の酒の呑み過ぎである。

 

「全く大丈夫じゃないですわね。しかし、たったあれだけのお酒で・・・いや、今、その事は良いでしょう。それよりもこの事態をどうするかです」

 

 リーザはそう結論付けて、二日酔いで調子の悪いアリスをスルーし、正面に座っているリスロー・ザンジバル卿に今後の事について尋ねる。

 

「国王様からは既に命令が出ているんじゃないの?」

「勿論です。我ら騎士隊はもうすぐロード村に向けて出発しますぞ」

「ロードに? 国境ならばラゼット砦でなくて?」


 幼少期より英才教育を受けていたリーザは自分の知識の中にある有名な国境砦の名前を口にした。

 しかし、リスロー卿はそれに首を振る。

 

「・・・これは最新情報ですが、どうやらラゼット砦は既に陥落してしまったようです」

「ええっ!?」


 驚いたのはリーザもそうだが、隣のアリスも同様の反応を示す。

 ラゼット砦とはエストリア帝国時代より東の蛮族の侵攻を幾度も止めてきた鉄壁の要塞だったから、これほど簡単に陥落するなど思っていなかったのである。

 

「詳しい事はまだ何も解りませぬ。しかし、ラゼット砦からの定期連絡は無く、斥候より煙が上がっていたと報告を受けているようです。昨晩、敵より何らかの攻撃を受けた事は明白」


 そんな情報を告げるリスロー卿からは、一般市民には内密に、と言う言葉も忘れない。

 

「ですから、ラゼット砦の隣にあるロード村に防衛本陣を置く事が決まりました・・・そう言う訳で、昨日と状況は変わってしまいましたが、リーザさんはどうされますか?」


 ここでリスローからリーザに確認を求めたのは今後の事である。

 昨日までは騎士達に魔法を指南するという立場のリーザであったが、その騎士達がここで実戦投入となったため、教える相手がいなくなってしまった。

 この先のリーザの選択肢はふたつ。

 ひとつは騎士達に協力して実戦へ赴く、もうひとつは、解雇。

 ここで、リーザはあまり時間を掛けず、選んだのは前者であった。

 

「しょうがないですわね。乗りかかった船です。私も一緒に戦いますわ」

「ありがとうございます。実はそう言ってくれるのがこの爺も嬉しい」

「勘違いしないでね。私が動くのはお金の為よ。割増もあるのでしょう?」


 リーザはクールにそう言ってみたが、彼女の内情は少し違う。

 ボルトロールが憎かった。

 彼女の人生――エリザベス・ケルトとしての人生を破壊したボルトロール王国が憎かったのだ。

 例え報酬が安かったとしても、ここで一発憂さ晴らしするとリーザの心の中では既に決めていた。

 その事が解っていないのか、リスローは老顔の愛好を崩して応える。

 

「割増は当然です。これは国の一大事。しかもリーザさんのような強力な魔術師が一緒に戦ってくれるのは味方として心強い。通常の傭兵よりも割増で新たに契約しましょう。よろしいですよね、アリスお嬢様」

「・・・え? ああそうです」


 少し遅れてアリスが応えた。

 二日酔いの影響により、まだ歯切れが悪かった。

 リーザはここでの話を早く切り上げることにする。

 

「それでは決まりね。それじゃ、私も一緒に出発するわ」

「わ、私も・・・」

「いや、アリスさんは結構。それよりも宿の女将さんにこの先のキャンセルを伝えてくれるかしら? それと魔術師協会にも契約内容が変更になった事を処理して欲しいの」

「そうですよ。アリスお嬢様が戦地へ赴く必要はありません。ここは我らに任せてください」


 リーザとリスロー卿の説得により、アリス・マイヤーは首都エクリセンに留まる事となった。

 

 

 

 

 

 

 騎士団がエクセリア国を東に進む。

 エクセリア国の国土は小さいので、首都エクセリンより馬車と騎馬で二日ほど東へ進めば、国境に近いロード村へ到着できてしまう。


「姐さん。到着しましたよ」

 

 騎馬で移動していたロンがそう言い、停止した馬車の扉を開ける。

 馬車から降りたリーザはあまりいい顔色ではない。


「ロンさん。私の事を『姐さん』と呼ぶのは止めてくださるかしら! 年齢もアナタやアリスさんとは変わらないのだから」

「いいや。俺はリーザ大先生の事を尊敬しています。だから敬称を使わせてください」

「その敬称が、なぜ『姐さん』になるのでしょうか?」


 ロンからの敬称に納得のいかないリーザだが、ロンを初めとした若い騎士達――中には老練の騎士も――リーザの敬称を『姐さん』と呼ぶ事に異議は出ていない。

 魔術指南役であったときの彼女ならば『先生』でも良かったのだが、現在はボルトロール軍との戦争に協力してくれる凄腕の魔術師として立場が変わり、実は彼女の敬称をどうするかと議論になっていたのだ。

 そして、二日間の移動の際に騎士達が騎乗で論議した結果、リーザの敬称が『姐さん』に決定した。

 いつも強気を崩さない彼女に相応しい敬称であるとして、彼らの中では既に定着していたりする。

 そんなロン達のおふざけに、まともに付き合わないリーザは馬車より降りて、最前線の風景を確認する。

 ロードは元々簡素な村だったと思うが、現在は天幕が多く張られており、そこらを右往左往と走る兵の多さが目に入る。

 リーザには本格的な戦争の経験など無いが、それでもこの異様にピリピリとした空気感はラフレスタの乱の頃を思い出してしまう。

 あの時のリーザは新帝皇ジュリオの『守護者エリザベス』として、高揚した気分の中にいたが・・・

 

「嫌な感じね」


 今のリーザはそう思うほどに、ここに集まった兵士達が不安を懐いている雰囲気が伝わってきた。

 士気が低い訳ではないとは思うが、それでも初陣の人が多い事が原因なのだろう。

 先のクリステの乱の疲労もまだ残っているだろうし、エクセリア国としてまだ自分達の誇れる何かがある訳でもない。

 リーザはそう感じながらも、案内されるままに大きな天幕へ入る。

 その天幕は司令部となっており、そこにはこの戦いを指揮する人物がいた。

 その指揮者の顔には見覚えあったが、それに気付いたリーザはできるだけ顔を合わせないようにする。

 

「リスロー・ザンジバル卿、良く来られた。若い騎士達もご苦労」

「閣下。勿体なきお言葉です」


 リスローが恭しく礼をする相手・・・それはロッテル。

 元、エストリア帝国の中央第二騎士団を統括していた長官にあたり、クリステの乱でも解放に尽力した英傑のひとりである。

 名実共にこの場で戦いを指揮するのにこれ以上の人物はいない。

 しかし、当の本人は閣下と呼ばれるのを不要だと返す。

 

「エストリア帝国を出奔した今の私に『閣下』という呼称は不適だ。普通に司令官でいいだろう」

「・・・それは」

「いや良い。それよりも作戦の話をしよう」


 敬いの言葉を続けようとするリスローの言葉を切り、ロッテルは実の話を進める。

 現場重視の彼らしい対応だ。

 

「明日から、若い騎士達にも働いて貰うが・・・ん? 君は?」


 ここでロッテルは集団の陰に潜むリーザの存在に気付く。

 そのリーザは咄嗟にローブのフードで顔を半分隠して、そっぽを向いたが・・・リスローが彼女の事を紹介してしまう。

 

「彼女はリーザさんです。少し前から魔術師協会の紹介で、駆け出しの騎士達の魔術指南役をして貰っていますが、今回の戦いで協力してくれる事になりました。リーザさんの魔法の腕は私とアリスお嬢様が保証しますよ。ワハハハ」

「・・・そうか。リーザ(・・・)か・・・解った。私からもよろしく頼む」


 ロッテルはそれだけを述べると、リーザから視線を外す。

 いろいろ聞きたい事もあったが、ロッテルはここで特に追及もせず、次に話を進める事にした。

 対するリーザの方もこれでホッとしたのか、力を抜く。

 傍から見れば、リーザが有名人と会ったから緊張しているようにも見えた。

 そんなところだろうか・・・あまり不自然では無かったりする。

 そして、ロッテルからは現状について説明を始めた。

 

「・・・と言う訳で、現在、敵のボルトロール軍は占領したラゼット砦を本陣へ整備する事に尽力しているようだ。時折、こちらの斥候部隊と小規模な戦闘を起こしているが、向こうも様子見と言ったところであまり本格的な戦いには発展していない」

「ロッテル司令官様、ラゼット砦が陥落したというのは事実なのですね?」


 報告を受けたリスローもラゼット砦が陥落して事を情報として解っていたが、それでもやはり信じられず、改めてその事実をロッテルに確認する。

 それほどにラゼット砦が陥落したというのは、元エストリア帝国軍人の彼としても受け入れられない事実である。

 

「残念だがそのとおりだ。命からがら脱出できた者達の報告によると、一昨日の宣戦布告の直後、敵から戦略級の魔法攻撃を受けたらしい」

「戦略級ですと!?」

「うむ。とても信じ難い事だが、その一撃で東側の城壁と司令部のある中央棟が崩壊。統制を失った直後、敵側の強襲部隊の侵入を許し、一時間と持たずとして陥落してしまったようだ」

「そ、そんな・・・あの鉄壁の要塞が一時間で・・・」


 一時間で陥落という事実に打ちのめされるリスロー卿。

 

「リスロー卿。これはとても信じられない事が、現にラゼット砦は占領されていてボルトロールの旗が立っている。初手は負けてしまったと受け入れるしかない」


 ロッテルはそう述べて、既に気持ちを切り替えていた。

 次に何をすべきか、自分の精神状態によらず、次の事を考えられるのが司令官としての彼の役目なのだ。

 

「戦局を奪還するために、明日から作戦を開始する。まずは揺さぶりをかけてみよう。私としては例の戦略級魔法の事が気になる。それがどういう魔法で、どんな魔術師が放ったのか・・・そこに探りを入れるための作戦だ」


 ロッテルが現時点で最も警戒するのはラゼット砦を一撃で破壊した敵の戦略級魔法である。

 まだ、その正体がまだ解らない状況で、全軍密集体形の隊列で戦いを挑むのは危険だと判断した。

 そのため、二十名程度の小隊に分けて、散会した状態で敵軍と戦う案が説明された。

 騎士隊、傭兵、国王直属の遊撃部隊を小分けにし、それぞれが『境の平原』でラゼット砦に詰める敵を炙り出す作戦。

 その作戦内容を聞き、ロッテルの横に立つ遊撃部隊のまとめ役はククッと不敵に笑う。

 

「フフフ、久しぶりの戦いだ。我らの力をボルトロール軍に見せつけてやろう」

「サルマン殿。遊撃部隊には白魔女の加護があると言っても、油断は禁物だ」

「解っているよ、ロッテル殿。しかし、我々にはラフレスタとクリステを解放した実績もある。その実績に、この戦争での勝利も加えてやろうではないか!」

「そうだ。俺達は負けない!」


 自信満々のサルマンの言葉に、彼の部下である遊撃部隊達も同じく自信満々である。

 それもその筈。

 彼らはライオネルと共にクリステの解放で戦った解放同盟の中心人物である。

 独立運動家だった元『月光の狼』の構成員も多く、この新しい国家に移住を決めた者達が占めていた。

 遊撃部隊の武装は『白魔女の加護』と呼ばれる魔法付与の掛かった腕輪を初めとした最先端の魔道具で固められている。

 ライオネルがハルと交渉して得られた彼ら専用の武装は、過去の実績からして自らの自信へとつながっているのだ。

 そして、彼らはクリステを解放した英雄達でもある。

 ここでの彼らの言葉はこの場に詰める人々のマインドがプラス方向へ働くのに役立ち、若い騎士隊や傭兵達の士気向上へつながっていた。

 

「よし。俺らもやってやるか!」

「敵の首をどれだけ狩れるか競争だ。蛮族どもめ! 俺達の国に牙を向けたのを後悔させてやる!」

「そうだ。俺達はクリステの乱を生き残った。今こそ、生き残った意味を示してやるぞっ!」

「「うぉぉぉ!」」

 

 司令部の天幕はこうして前向きな言葉が続き、全体の士気が高まる。

 これは良い雰囲気だとして、ロッテルはここで解散を命じた。

 明日から死地に向かわせる者として、この高い士気をどれほど維持できるのかがロッテルの仕事のひとつ。

 今日一日はゆっくりと兵に休息を与え、万全の体制で明日に備える。

 それが現時点で最も有効な準備であると理解していた。

 敵側の情報が解らない時点で夜襲などかければ、成功すればいいが、失敗すれば悪戯に兵を失うだけでなく、士気も下がってしまう。

 ロッテルはそう考えていた。

 そして、彼は兵達に休息と言う名の心の準備を与えると共に、ここで少しだけ自分の興味も優先させた。

 

「ときに、そこのリーザよ。少し残ってくれないか」

 

 ここで若い騎士達と一緒に去ろうとした女魔術師に声を掛ける。

 リーザは少し迷ったが、それでも何かを諦めてロッテルの言葉に従う事にした。

 

「・・・解ったわ」


 ロッテルが彼女を引き留めた事に驚くのは若い騎士達。

 

「え? 姐さんが、ロッテル様に? どうして??」


 若い騎士達の視線が気になったロッテルはこう言葉を返す。


「そう私を睨むな、若者よ。別に彼女を取ったり食ったりはせん。ただ、旧友(・・)と会ったから、少し昔話がしたくてな」


 そんなロッテルの言葉に手をヒラヒラとさせて、ロン達へ問題ない事をリーザも示す。

 

「ええ、奇遇だったわね。私もロッテル様と会う予定は無かったけど・・・まあいいわ。少し話をしてあげましょう」


 リーザはそのように上から目線調で応えて、一緒に残ろうとしていたロン達を追い払う。

 

 

 

 

 

 

「それで。どうしてここに居るのだ? エリザベス(・・・・・)さん」


 天幕に結界魔法を施した直後にそう問うロッテル。

 彼も魔法戦士。

 魔法を使う事もできるが、ここでの盗聴防止の魔法を展開する事は高い技量。

 鮮やかなその腕前は元エストリア帝国の中央第二騎士隊長官であるロッテルに備わる技術。

 彼の魔法の技量が解っているリーザも、ここでフゥーと息を吐き、偽名を使うのを諦めた。

 彼の前で嘘は通じないし、元よりここで自分の事を秘密にする意味もあまり無い。

 こうして、自分をリーザからエリザベスへ戻した。

 

「どうしてと言われても、これは成り行きとしか言えないですわ。私もラフレスタの乱からいろいろと苦労していますのよ」

「・・・そうか」


 ロッテルはエリザベスの苦労話をその一言だけで勝手に納得し、それ以上の多くの事は聞かない。

 しかし、エリザベスは全てを悟ったようなロッテルの態度が気に入らず、身の上話を勝手に続ける。

 

「まったく・・・あの騒動の件で・・・私や、私の家も多大な迷惑を被っているのよ」

「大方は予想できる。その迷惑とは謂れも無い誹謗中傷と政治的な糾弾であろう」


 エストリア帝国の政治事情がよく解るロッテルは現在のエリザベスやケルト家が置かれている状況を容易に想像できた。

 

「ええ。それに加えて、私にはケルト領内での長期謹慎と変態貴族との婚姻・・・ふざけるのも大概にして欲しいですわ」


 苛立つエリザベス。

 自分に課せられた仕打ちを思い出し、ロッテルに愚痴を吐いた。

 

「だから、私は家を飛び出したの。しばらく実家に戻る気は無いですわ」

「・・・そうか。それでも、この戦場へ来た目的は本当の目的は?」

「だから! 成り行きって言っているじゃない!!」


 今にも癇癪を起すほどのエリザベスの迫力だが、応対するロッテルは静かなものだ。

 彼は臆さずエリザベスの怒りが落ち着くのを黙って待つ。

 そして、しばらくするとエリザベスは再びフゥーと息を吐く。

 

「・・・お金よ。私が放浪生活を続けるのも、お金が必要なの。それを求めてエストリア帝国中を旅していたら、何故かここに行きついたの」

「ほう。それで?」

「エクセリア国に入国する際、入国審査で私の前にいた人が犯罪者として捕まったわ・・・私は犯罪者じゃない・・・じゃないけど、私がどう思うかよりも相手からどう思われるかが重要・・・だから、私は犯罪者として疑われないように名前を『リーザ』へ変えた」

「なるほど・・・」

「そして、エクセリア国に入ったの。ここの魔術師協会で若手騎士に魔術指南する仕事を紹介されて、今に至るわ」

「ふむ。しかし、それで最前線まで出てきた理由は? これは戦争だぞ。(カネ)の為か? それとも騎士隊に情が沸いたのか?」

「情なんてある訳ないじゃない! お金の事は少しあるかも・・・だけど一番の理由は・・・」

「一番の理由は?」

「それは復讐よ!」

「・・・」

「私の人生を無茶苦茶にしたボルトロールへの復讐」


 エリザベスはそう言い右手から魔法の炎を出す。

 無詠唱のその技にロッテルはホウと少しは驚いた顔をする。

 冷静なこの男に少しだけ感情の変化を与えられたと思うエリザベス。

 彼女は少しだけ満足して、言葉を続ける。

 

「この力はアノ(・・)薬の副作用だと私を治療した主治医が言っていたわ」

アノ(・・)薬・・・『美女の流血』か」


 エリザベスはその言葉に静かに頷く。

 

「この力を手に入れたのは、きっと神様からの贈り物・・・ボルトロール兵を地獄に沈めろ、ってね」


 ここでエリザベスは残忍な顔へ変わる。

 かつて、彼女が『守護者』としてジュリオ皇子の守りに就いていた時の顔に酷似していた。

 女の凶暴性が増幅された恐ろしい顔でもある。

 しかし、それに臆するロッテルではない。

 

「そうか、復讐か」

「・・・ええ」


 ここでロッテルもエリザベスに負けない残忍な顔へ変貌させる。

 

「なるほど・・・ならば、我々は同志という訳だな。ククク」


 エリザベスはいつも感情を露わにしないロッテルが、ここでそんな変化を見せた事に少々驚きながらも、彼の怒る理由は理解できた。

 自分の仕えていた主――ジュリオ第三皇子――がラフレスタの一件で失脚してしまったのだから・・・

 そして、ロッテルはその罰としてアクライト家から除籍となり、国外追放になった事も帝国内では大きく告知されていた。

 

「ロッテル様も私と同じ境遇なのですね・・・解りました。アナタもボルトロールに翻弄されたひとり・・・」

「私は言い訳しない。現在の姿も私が精一杯尽した結果だ。この罪は認めよう。受け入れよう・・・しかし、ここでボルトロールを叩けるならば、私は躊躇しない、もう二度と負けてやるつもりはない」

「・・・」

「だから、我らは同志という事になる・・・だから、エリザベスさんを信用しよう」

「・・・」

「アナタを精一杯暴れさせてやろうじゃないか。この地でボルトロール兵をひとりでも地獄へ落としてやろう・・・フフフフ」


 動物の呻きのような低い声が天蓋の中に響く。

 その笑いの声はひとりだけではなかった・・・

 

 


これが2020年で最後の更新となります。

皆様、一年間読んで頂きありがとうございました。今年はコロナ禍で大変な一年でしたね。来年こそはいい年になることを願いたいです。

次の更新は1月1日。

よろしくお願いいたします。

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