4話 孝志と穂花の関係
アリアンの作った朝食を食べ終えた後、孝志はアルマスに訓練所まで案内される。
案内後はまだ体調が優れないらしく、アルマスは具合が悪そうに自分の部屋へと帰って行った。
訓練所の中は、誰かが訓練に使った形跡は無かったが、それでも掃除は行き届いているらしく埃などは積もってない。
正直、宮殿の訓練所も相当な綺麗さだったが、ここは普段から使われてないのもあり、宮殿とは比べ物にならないほどの綺麗さだ。
信じがたい事に小石一つ転がっていなかった。
そして、この場所で孝志はアリアンと嫌々ながら訓練に励んでいた──
「──お前……ふざけているのか?」
「いや、全力ですよ!!?アリアンさん相手にふざける訳ないでしょ!?急にどうして??」
俺と数回ほど剣を合わせたアリアンさんは、次第に表情を歪め出し、とうとう怒りの声を上げるのだった。
理由は孝志の力が明らかに城を出発する前と比べて大幅に落ちており、手抜きで訓練に励まれていると考えたからである。
もちろん、孝志がアリアン相手に手抜きなんて恐ろしい行為が出来る筈がない。
ただ単に、ミーシャの禁呪のせいで能力が極端に下がっただけなのだが、その事実は孝志も知り得ないこと。
なので可哀想なことに孝志も弁明が出来ないのだ。
「なぁ孝志?私との訓練に何か不満でもあるのかぁ?手を抜かれて私は悲しいぞ?」
──アナタの訓練には不満しかないですよ。
くっ!言ってやりたいが、殺されそうだからそんなこと言えない!
でも本当に全力なのに、どうしてそんな事言うんだ?
「いや!本当に今度ばかりは嘘ではありません!」
孝志は大きく首を縦に振り、必死で自らの発言が真実だとアピールする。
「……誓えるか?」
「……はい!この目を観て下さい!」
「…………わかった──どれどれ?」
すると、アリアンは互いのオデコが引っ付くかという位に顔を近付けて孝志の瞳を覗きこむ。
当然、孝志は内心ガクブルだった。
アリアンが相手のときに限って、これだけ近い距離でも孝志がドギマギする事はない。だって怖いんだからっ!
「嘘は言ってない様だな……しかし、いきなりそこまで弱くなる訳ないし…………孝志、ステータスカードを見せてみろ」
「あ、はい!」
無実が晴れた事で心底安心した孝志は、何も考えずステータスカードをアリアンへと渡すのだったが……直ぐに『やっば!』と心の中で叫ぶ。
「(やべぇな……ステータスカードには、思いっきりティファレトの加護って書いてるんだよな……アルマスの方は、あいつが俺の中に居る時しかステータスカードに記載されないから大丈夫だけど……)」
この世界の人間が女神を嫌っている事を知っているので、狂人だと、いったいどんな反応を見せるのか……?
孝志は大きな不安を抱くのであった。
「………………………なるほど…………全体的に能力が下がっている……それと、強烈なデバフを掛けられた形跡もある…………済まなかったな、疑ってしまって。どうやら本当にさっきのは全力らしい。カードを返すぞ」
そう言ってアリアンは加護については何も触れず、あっさりステータスカードを孝志へと返す。
流石に全く女神の加護に触れられないのは予想外だったので、アリアンはどう思ったのか気になり、孝志は思わずその事を自分から尋ねるのだった。
「あの……ティファレトの加護ってあったと思うんですけど?」
「ん?……ああ、確かにあったな。だけど気にするな。そんなモノが有ったところでお前への評価は変わらん」
「……あ、ありがとうございます」
「おう──それに女神を悪く言う輩は多いが、私は直接その女神と会った訳ではないしな。周囲の反応だけで女神へ嫌悪感を抱く事はない。お前も噂話や歴史上の記録だけで、人や女神を悪く思ったりする様な……そんなくだらない人間にはなるなよ?」
「…………はい」
だから!アリアンさん訓練以外では本当にカッコ良いんだよっ!絶対上司としては最高だと思うわ。俺は嫌だけど。
しかも器も大きい。
ユリウスさんなんか女神の話題出したとき、目くじら建てて説教して来たんたぜ!?
やっぱりあの親父って器小さいわ……裏切るだけのことはあるぜ、ほんと。
アリアンさん、あの親父も説教してやってくれ!
「──だが、この能力値なら、予定している訓練だと効果は無さそうだ……予定を変えないと……」
「なんかすいません」
「謝るな。何が原因で弱体化したのかは不明だが、お前が悪くない事くらい解っている。お前は後ろめたい気持ちを抱くな。お前はこれまでの頑張りに自身を持て」
「……はい」
──やべぇ……ちょっと泣きそうだった。
これまでの頑張りが褒められたのは、ほんと嬉しい……だってたくさん怖い目にも、死ぬ様な目にも遭って来たんだよ。
多分、メンタル弱い奴なら潰れていたと思うぞ?
ほんとアリアンさんの言葉は暖かい。
でも騙されるなよ俺!!
ここで良い人とか思ったら、さっきみたいに酷い目に遭わされるからね!!
…………てか俺、いつのまに弱体化してたの?
──孝志はアリアンに言われ、初めて自分の身に起こっていた、弱体化という異変に気が付くのであった。
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「──ところで孝志、少し聞きたい事が有るんだが……時間を貰って良いか?」
「はぁ……はぁ……はぁ……ど、どうしました……?」
訓練内容が、手合わせから剣の素振りへと変更になった。
アリアンと戦わず済んだので多少は気持ち楽になったが、それでも1時間以上休みなく素振りを続けさせられ、孝志の疲労は既にピークに達していた。
故に、このアリアンからの質問でようやく休める事になる。
「──ふむ……実は穂花について何だが……お前は彼女の事をどう思っている?」
「え?……穂花ちゃんですか?どうしていきなり?」
「いや、少し気になってな」
「そうですね……まぁ妹みたいなものですかね」
「妹?」
「いや、流石に本当の妹とは思ってませんよ?!あの……実は彼女、妹の友達なんですよ。なんでどうしても妹として扱ってしまうですよね」
「………………」
「ど、どうしました?」
「いや……穂花が可哀想だと思ってな」
「え……可哀想?」
もしかして、穂花ちゃんを妹扱いする俺のことキモいとか思っている?
──もちろん、全然違うのでアリアンは話を続けた。
「なぁ孝志。余計なお世話かも知れんが、次に穂花と会ったとき、少し女性として接してやれないか?」
「え?そんな妹の友達を女扱いしたらおかしいですよ。多分、穂花ちゃんも、兄がゴミ屑なんで僕を兄代わりとして慕ってくれてるんだと思いますよ?勘違いしたら失礼です、穂花ちゃんに対して……」
「……はぁ~~……」
あっ?今の溜息なんだよ?腹立つんだがマジで。
しかもなんで急にそんなこと言ってくるんだろうか?
まさか最近、穂花ちゃんとベタベタしてたから、恋人同士だと勘違いしたのかも知れないな。
誤解されたら穂花ちゃんに悪いし、その事も言っとくか……
「確かに、彼女とはくっ付いたり、腕を組まれたりしてましたけど……さっき言った様に間違いなく穂花ちゃんは僕の事は兄代わりか、気の良い先輩としか思ってないでしょう──ですから、穂花ちゃんが僕に対して恋愛感情を持つことは無いと思います。結構、僕って恋愛とかには詳しいんですよ。だから自身満々で言えますよ?」
「はああああぁぁぁぁぁぁ~~~……………」
なんだこの女……?
──アリアンはこれ以上ない程のドでかい溜息を吐く。
そして首を振りながら……これもまた、これ以上無いほどの呆れ顔で孝志を見据える。
「言いたいことがあるなら言って下さいよ、そんなため息吐かずに!」
「解った……ではハッキリ言おう──お前、男としてダメダメだな」
「……!!?」
本当に思ったこと言いやがった……!普通なら気を遣って言わない筈なのに……!
てか男として何処がダメなんだよ!めっちゃ穂花ちゃんに気遣えてんじゃん!
──ここは例え相手がアリアンでも、孝志は反論せずには居られなかった。
「ぜ、全然ダメじゃないですよ……」
「いや、女目線からするとダメダメだぞ?」
「いや、ダメじゃないですし……」
「いや、ダメだぞ?」
「いや、ダメじゃないと思いますし……」
「いや、ダメだぞ?」
「そんなこと無いですし……」
「──お前、しつこいな」
「よく考えたらダメダメですね、僕」
「そうだろう?」
「…………はい」
殆ど脅迫じゃねーか……!
でもなんなのマジで、そんな男としてダメだとか言わなくても良いのにさ……そもそも一緒に寝た仲じゃないか。
「なぁ孝志」
「はいなんでしょう?」
「一度、穂花と真剣に向き合ってみろ。そうすれば、見えてくるモノもあるぞ?まぁ強制はしないがな」
「……分かりました。穂花ちゃんが帰ってきたら、少し意識してみます」
──そこまで言うからには、今度再会した時に女扱いして舐めるような視線で観てやるよ(※そこまで言ってない)
これで穂花ちゃんに嫌われたら一生恨むからな!
けど、穂花ちゃん大丈夫かな……?
ユリウスさんなら酷い事はしないとは思うけど……でも早くあの明るい笑顔を見たい。
あの子の笑顔を見ると、本当に元気が湧いてくるんだよな~……
孝志は、心からそう思うのであった。
──正直、アリアンと穂花は凄く仲が良い。
なので、孝志へ対する想いも彼女から聴かされており、どうにか彼女の力になろうとしているのだが……
……もし、テレサと孝志の関係を知ったら彼女はどう動くのだろうか?
……いや、アリアンなら二人の為に上手くやってくれる事だろう。
アリアンは知力Aですので……
一つ、申し訳ないお知らせがあります。
実は、週明けの明日から金曜日までの五日間、出張する事になりました。
なので、毎日更新と言いましたけど、予定しておりました9話と10話の投稿は土曜日になってしまいます。
本当にごめんなさい。
いつも観てくれて本当にありがとうございます。
その気持ちはいつも忘れていません。