綺麗な花
誤字報告ありがとうございます。
今回は、少女騎士団のある少女視点の話です。
番外編は普段スポットのあたらないキャラで書いていこうと思います。
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私の名前はエミリア・ファルゼム。
ヴァルキュリエ隊所属の騎士見習い。
年齢は11歳で年相応の背丈をしてます。
髪は黒色で見た目は平凡……騎士団に所属している事以外は目立つ所なんてない、普通の女の子。
そんな私は、現在、とんでもない人に恋をしてしまいました。
それは勇者と呼ばれる方で平民出身の私なんかとは身分が違う……だから、叶わぬ恋なのは解っています。
だけど、好きになってしまったものは仕方ないですよね?
───────
──私がその人で出会ったのは本当に偶然の事でした。
その人と出会う二日前。
私はヴァルキュリエ隊で仲の良い女の子達と一緒に、本日、異世界から呼び出された勇者様達の姿を見に王宮を訪れていました。
あまり乗り気ではありませんでしたが、断ると空気が悪くなると思ったので仕方なく着いて行きました。
総勢二十人に及ぶ大人数で出向いたのですが、数に関係なく私達は門前払いをされます。
まぁ、当たり前のことなんだけど……
ですが私にとっては運悪く、このタイミングで勇者様達が城を出て来てしまい、私たちは遠目で勇者様達の姿を確認出来てしまいました。
男性一人に、女性三人。
そして全員がこっちの様子に気が付いたみたいで、男性勇者と金髪の女性が嬉しそうにこちらに手を振って来ます。
皆んなは男性勇者の綺麗さに歓声をあげてましたが、私は何だか関わりたくない人種だと思ってしまった。
あんなに整った容姿をしているのに……どうしてだろう?
多分、偶然街中で出会そうものなら、直ぐにUターンしてその場から立ち去ると思います。
どうかヴァルキュリエ隊には来ません様に……!!
───────
それから二日程たった頃、訓練が休みの日に私はとある事情で勇者様達が過ごす宮殿を訪ねる事となりました。
来ないで下さいと祈ったのに、まさか自分自身が出向く事になるとは予想外です。
目的は、宮殿の中にある訓練場に居る婆さまに荷物を届けること。
女性三人は良いのですが男性の勇者様には出会いたく無かったので、私はこそこそと隠れながら目的地を目指しました。
「──ああ!婆さまっ!」
訓練場に到着するとすぐ様目当ての人物を見つける事が出来た。
そして私は婆さまに会えた事が嬉しくて脇目も振らず抱きついてしまいました。
相手は私の祖母・ダイアナ・フィールズ。
王宮メイド長の肩書きを持つ凄い婆さまだ。
もちろんそれだけでは無くて、孫である私達を心から可愛がってくれる優しい人です。
だから私はいつも婆さまに会えるのを楽しみにしています!
「──あら?エミリア久しぶりね。相変わらず可愛いわ……けど、今は勇者様が訓練中よ?加えて勇者様は男性です。殿方の前で人に抱きつくのはよくないですよ?」
婆さまは怒るでは無く諭すように、私の頭を撫でながら注意してくれた。
──だが、私はそれどころでは無かった。
今婆さまが口にした言葉……男性の勇者と言えば、該当する人物はただ一人。
私は恐る恐る訓練中の人物の方に顔を向ける。
──あっ、違った……
相手が全くの別人だった事に私は安堵しました。
訓練中の勇者様は黒髪で微妙にかっこいい容姿の方。
なんと言うか、普通な私には親近感を覚える存在です。
そして勇者様との訓練相手を見て私は驚愕しました…!
なんと相手は私達ヴァルキュリエ隊の誰もが憧れる存在、アリアン・ルクレツィア様だったのです!
「……いいなぁ~……アリアン様に稽古を付けて貰えるなんて……」
勇者ってやっぱりズルい……
私がそんな風に思って訓練光景を眺めて居ると、婆さまがお声をかけてくれました。
「──そうだ、エミリア、良かったらお菓子でも食べて行かない?本当は勇者様の為に作ったのだけど、どうやら食べる暇はないようですし……余らせると勿体ないわ……ね?」
「はい!頂きます!婆さま!」
私はこの勇者様からは特に嫌な感じがしなかったので、この場に留まる事を二つ返事で承諾しました。
今日は騎士団も休みだしね。
そして婆さまと一緒に直ぐ近くに置かれたベンチに腰を降ろし、出来立てのスコーンにクリームを付けて頂きました。
──────
「……………………」
既にお菓子は無くなり、婆さまに届ける荷物も渡し終えた。
そして婆さまも用事があるとこの場を離れてしまったので、いつ帰っても良いはずなのに……私は目の前の訓練に目が釘付けになってしまっている。
「……………………」
目が離せないのは憧れのアリアン様を見ているからでは無い。
もちろん、最初はアリアン様の活躍を観るのが目的だったけど今は全然違う。
私が無言のまま訓練の様子を観ていると、アリアン様の訓練相手の勇者様が、また思いっきり吹っ飛ばされてしまった。
「…………ぁ……が、がんばれっ……!」
だが、勇者様は声援が聴こえている訳でもないのに、苦しそうにしながらも手に持っている剣を支えにしてその場から何とか立ち上がる事が出来た。
そして、こうして立ち上がるのは何度目か分からない。
勇者様は攻撃をその身に受けても、その度に何度でも立ち上がっていた。
どうしてあんなに必死で頑張れるんだろう……?
──いや、理由は明白だ。
あの勇者様は、どういう訳か大した力を持っていないみたい。
多分、私相手にも苦戦すると思う。
さっきから勇者様の事をずっと観ていたから解る。
だから、少しでも強くなろうと必死に頑張ってるんだ……
──そうか……弱いから、あの人は他の勇者様と一緒に行動出来ず、一人で訓練しているんだ。
だって本当に必死でアリアンさんに向かって居るんだもん……あの勇者様は少しでも強くなろうという気高い志を持った凄い人なんだ…!
あんなに頑張れる人は今まで見た事ない。
きっと本当に手を抜くのが苦手な努力家な人なんだ……一緒懸命に頑張る男の人って、なんて素敵なんだろう。
けど勇者様の背中は、必死に立ち向かわないとアリアン様に殺されると言っている様にも見えた。
多分、自分を奮い立たせる為にそんな暗示を掛けて居るんだ……だって、優しいアリアン様がそんな酷いことする筈ないもん……
その後も私は婆さまが帰って来るまで、ずっと勇者様の頑張る姿を見守り続けた。
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~真実・孝志サイド~
※エミリアに会話は聞こえていません※
「はぁはぁはぁ……ア、アリアンさん……もう、限界です……もう辞めましょう……ね?」
「ん?もう無理なのか?そんな訳ないだろ?まだやれるだろ?」
「い、いや、も、もうホント無理ですっ!これ以上やったら死んでしまいますっ!はぁはぁ……ご、ご慈悲を……!」
「そうなのか……じゃあ、試しに私を殺すと言ってみろ?」
「え?ど、どうして?」
「良いから言ってみろ、言えば解るさ」
「は、はぁ……ア、アリアンさん、こ、殺してやるッ!」
「──言ったな……?」
「え?言わせたんでしょ?」
「理由はどうあれ、私を殺すと口にしたのは確かだ……殺意を抱かれた以上……私も抵抗せざるを得ないな……」
「……つ、つまり……?」
「訓練続行だっ!!」
「……いや、バカだろあんたっ!!」
「……はぁ?」
「じょ、冗談です、はは」
「……なんだと?私に嘘を付いたのか?」
「ひ、ひぃッ?!睨まないで……こ、怖い……言葉も通じないし」
「何も怖がることは無いだろう……まぁいい、訓練を再開しよう──ん?よく見ればお前の剣、もうぼろぼろだな?」
「ッッッ!!?──そ、そうなんですよ!なのでこれ以上の訓練は──」
アリアンは新しい剣を孝志に投げ渡した。
「………………」
「…………よしッ!では孝志!始めるとするかっ!!」
「ぶっ、ぶっ殺してやるッッ!!!」
「はははッ!今のは中々の殺意だぞっ!そのいきだッ!さぁ来いッッ!!」
──こんな感じの訓練が、日暮れまでずっと続くのであった。
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~エミリア視点~
──あまり長居して婆さまに迷惑かけるのも悪いし、日が暮れない内に宿舎に戻るとしよう。
それから勇者様とは一度も話しをする事なく、私は宮殿を後にした。
そして、あれだけハードな訓練を行なっていたのに、勇者様は一度も休憩する事は無かった。
うん、本当に頑張り屋さんな勇者様だ。
……今度はいつ会えるんだろう……いや、相手は勇者様だし、もう会えないかも……うぅ……もしそうだと悲しいな……
王宮親衛隊配属予定のシーラさんやモニクさん位ならチャンスがあるのに……私は大して強くないから、彼女達の様な凄い役職に就くことはないや。
それでも…………どうか、また、会えます様に……!
その日の夜、私はお祈りを捧げてから眠りに就いた。
───────
そして次の日の朝──
──どうやら寝る前に捧げた祈りが通じたみたい!
なんと、勇者様が自ら少女騎士団を見学に来てくれた!
皆んなは勇者様が来てくれた事に大はしゃぎだっ!
中には『イケメンの勇者様が来てくれたら良かったのに』と言っていた子も居たけど、その考えは絶対に変わらないで欲しい……ライバルは少しでも少ない方が良いからねっ!
後からこの勇者様の方が良いって言っても絶対ダメだよ?
勇者様は少し離れた所で遠慮がちに見学している。
そして私はわざとらしく勇者様の近くをうろちょろしながら訓練に励んだ。
誰よりも勇者様の近くに居れば、もしかしたら質問なんかで話掛けて貰えるかも知れないと思ったから。
ちょっと下心が強くてはしたないとは思ったけど、身分の低い私は接点が少ない……故に僅かなチャンスを活かさないと……!
すると思惑通り、勇者様は近くの私に声を掛けてくれた。
「──ちょっと良いかな?」
「え?わ、わたし?本当に私ですか?どうしようどうしようっ……勇者様に声をかけられちゃった、嬉しい……」
望んだ事だけど、やっぱり心の準備が……よしっ!
──エミリアは大きく息を吸い込んで、勇者の迷惑にならない様にしっかりと話を聞いた。
──話を聞いた感じ、どうやらやら勇者様はここが少女騎士団だと知らずに訪ねたみたい……だから訓練の様子を観て少し驚いた表情をしていたんだ……ふふ、可愛い人。
それから勇者様は訓練の休憩時間、皆んなに囲まれて沢山の質問を受け付けてくれた。
私は緊張して何も質問する事が出来なかったけど、他の子が代わりに私の聞きたかった事をいくつか聞いてくれていた。
一つは、今は恋人が居ないと言う事。
開口一番に沢山の恋人が居ると聞いた時は泣きそうになったけど、どうやら嘘だったらしい。
こうして冗談を交えた会話が出来るところも実に良い。
それと名前をここでようやく知った。
勇者様の名前は松本孝志。
年齢は17歳。年の差が6歳程度なら全然大丈夫。
これ以上の事は教えてくれなかったけど、名前と年齢が分かっただけで充分な収穫だ。
勇者様が帰った後、私はいつも以上に張り切った訓練を行うことが出来た。
だって勇者様のお姿を近くで観れて嬉しいんだもん。
気分よく剣を振っていると不意に後ろから誰かに肩を叩かれた。
何だろう?──そう思って後ろを振り向くと、そこにはシーラさんの姿が在る。
どうやら肩を叩いた人物の正体は彼女の様だ。
だけどどうしたんだろ?普段全く話さない人なのに……
その事を不思議に思いながら、私は叩いたその理由を彼女に聞く事した。
「ど、どうしたのシーラさん?」
「……ふふっ、彼に対するその気持ち……大事にしなさい?」
「え?急に何??」
──と言うか、シーラさんは何目線なの?
……って、もしかして孝志様の事を言ってるの!?もしかしてバレてる!!?
だとしたらもの凄くマズいし、何より恥ずかしいッ!!
──エミリアは、もしそうなら口止めしようとシーラを追い掛けた……が、問い質しても結局はぐらかされてしまうのだった。
───────
──そして次の日の朝。
孝志様が獣人国へ旅立つ事になったと報せを聞いた。
なぜ急にそんなんことになったのか、理由は誰も教えてくれなかったので公には出来ない事情があるんだろう。
もちろん、一人で行く訳では無い。
孝志様以外のメンバーは、女性勇者が一人とブローノ様……その護衛としてユリウス様とオーティス様が同行する事になったらしい。
まさか王国最強の騎士と魔法使いが一緒なんて……だけどこれで道中はよっぽどの事でも無い限り安心なはず。
孝志様達の旅立ちは、マリア様や王宮内のメイド数人……あとはそれなりの地位に君臨する騎士の方々で見送る事になった。
そして、私はこの見送りに婆さまの連れ添いという形で強引に参加している。
ちなみに今回はシーラちゃんやモニクちゃんは来ていない……少女騎士団での参加者は私だけだ。
孝志様が側を離れてしまう事は悲しいけど、遅くとも五日後には帰って来るらしいので、そのくらいの期間なら我慢して待とう。
そんな事より今は【これを】どうやって渡そうか思案中。
──ついさっき急いで用意した花束。
婆さまに少し無理を言って用意させてしまったけど、婆さまは『偶には我儘を言って貰えた方が祖母としては嬉しい』と逆に喜んでくれた……ありがとう婆さま。
『なんで勇者様に花束を?』と聞かれた時は孝志様が好きだという事を隠して、旅立つ勇者様二人を労いたいと嘘をついてしまいました……ごめんなさい婆さま。
婆さまは王族の方達も来ているので、無礼のない様にタイミングを見て渡すように言ってくれた。
けど、やっぱり渡せなかった……
だってマリア王女や同じ勇者の女の子と楽しそうに話しをしているんだもの……あのお二人とは身分に天と地の差がある私なんかに入る余地なんてない。
臆病な私は、結局、渡すのを諦めてしまった……
………………
………………
でも別に落ち込まなくても良いよね!
今は渡せなかったけど、5日以内には帰って来るって言ってたし!
うん!今度は帰って来てくれた時に出迎えて『お帰りなさい!』って言葉を掛けて渡す事にしよう!
──ふふ……孝志様……早く帰って来ないかなぁ~……
次はキャラ紹介入れるのですが、その後は少し日を空けてから投稿すると思います。
ですが投稿再開後、しばらくは毎日更新しますので、少しお待ち頂ければと思います。
これからも宜しくお願いします。




