5話 孝志の潜在能力
文章を大幅に修正しました。
物語の変更はないです。
朝食を食べ終えた後は予定通り城内を探索。
ダイアナさんも着いて来てくれて、色んな場所へと案内してくれた。
ダイアナさんが居てくれて助かった……一人で探索するのもイイけど、恐らくダイアナさんが居なかったら迷ってたと思う……それほどまでに広いのだ。
そしてあっという間に時間が過ぎ、俺は約束通り修練場へと向かった。
──今、勇者5人は広々としたとある室内訓練所に集まっている。
この場所は普段【ワルキュライト騎士団】という有名な王国騎士団が訓練に使っている施設らしい。だが今回は外が雨なので、急遽この場所に集まる事となった。
因みに誰も遅刻していない。
出来れば橘辺りに遅刻して貰い、恥をかいて欲しかったが……まぁ良いだろう。
この訓練所には5人の勇者の他に、ネリー王女とマリア王女……そして実際に指導を行うユリウスさんとアリアンさんの姿があった。
「えいっ!……えぃ!」
声を上げて由梨が剣を振るう。
まだ訓練の時間では無いが、たったいま渡された剣に興味を持ったのか、試しに振っている。
「剣を振るう姿も可愛いなぁ、由梨は」
「か、可愛い!?雄星ってば、私は剣を振ってるだけなのに可愛いとか、意味わかんないよぉ〜っ」
「あっ!由梨ったらこんな時に可愛さアピール!?っとう、せい!……私はどうかな?」
と今度は触発された美咲が剣を振るってみせる。
「カッコいい」
「かっこいい!!?……複雑だなぁ〜」
「嘘だよ……美咲も可愛いって」
「っ!ば、ばかっ!もうカッコいいで良いわよ!」
「ごめんごめん」
「嘘、怒ってないよ……じゃあさ、雄星も剣使ってみたら?雄星だったら本当にカッコイイと思うよ!」
「そうだね、ユリウスやアリアンさん達は準備に時間掛かってるようだしね」
サラッとユリウスだけを呼び捨てにして、雄星は鞘から抜いた剣を同じ様に振るってみせた。まだ基礎を習ってないので動きは非常にぎこちない。
ただ、由梨と美咲の目は腐ってたので問題無かった。
「ふわぁ〜……王子様みたい……素敵ね雄星」
「ありがとう由梨……でもまだまだかなぁ?もっとトレーニングすれば良くなると思うよ」
「ほんとに、あんなぶきっちょな動きで何でそんなにカッコいいんだよ!」
「美咲……褒めてくれるのは嬉しいけど、言葉遣いが昔みたいに戻ってるよ」
「あっ、ごめん……あの時は迷惑掛けちゃったよね」
異世界王子様は、美咲がしおらしくなった所で、無言のまま離れて様子を伺っている穂花に気がつく。
「穂花はどうかな?僕の剣技」
「いや……普通に危ないと思うよ……」
…………
…………
完全にさっきのデジャブじゃねーか……なんで立て続けにあんな場面を見せられなきゃいけないんだよクソが。
それにしたって凄くバカだなアイツら……何も教えて貰ってないのに、あんな風に刃物を振り回して……ただ危ないだけじゃないか。
って言うかユリウスさんとアリアンさんも注意してよ?アイツら剣振り回してるんだよ?なんでどうでも良さそうに突っ立って観てるだけなの?……でも関わりたくない気持ち凄く分かります。俺もそうだから。
……それよりも、今のやり取りを見て改めて思ったが、やっぱり穂花ちゃんは一歩引いた態度で接している様に思えた。
今までは穂花ちゃんの事は嫌ってはないものの、他の3人と同じだと思っていた……でも全然違ったらしい。
ただね〜?
橘好きなんだよなぁ〜……それだけがもう……ちょっと残念かな?
偉そうな事を言う様だが、朝のやり取りで穂花ちゃんへ対する評価がかなり上がっている。
それだけに、雄星を好きと言う事実が少し残念に思えてしまう。
別に自分が穂花ちゃんを好きという訳ではないが、今の心情としては──可愛いがってた近所の子がチャラ男と付き合いだした時な気分?
まぁそんな被害受けた事ないし、向こうも俺の事は弘子の兄くらいの認識だろうが……
「……おっ」
無意識に穂花ちゃんを目で追ってたようだ。
その所為で彼女と目が合ったが、穂花ちゃんは笑顔で手を振ってくれた。もちろん俺も直ぐに手を振り返す。
……うん、可愛いわ。
この世界に来て良かった事と言えば、彼女の可愛さに気付けたことかな?
「ではこれより勇者の皆にはステータスを確認して貰いたいと思う」
ユリウスさんがこちらにやって来てそう言った。黒いマントを羽織った騎士の風貌……見るからに強そうな感じがする。でも若干ナルシストっぽいなこの人。
それに──
「……ふふ」
「……?」
なんかユリウスさんと一緒に着いて来たアリアンさんが俺に向けて笑顔で手を振ってるんだけど……もしかして気に入られてる?
物凄い美人に気に入られるとか、死ぬほど嬉しいんだけど……でも俺の顔面16位なのになんで?
──雄星の無礼な働きで、昨日は怒り狂ってしまったアリアンも、孝志がユリウスを指導者として推した……そのお陰で気を紛らわす事が出来ていた。
王国民ならば、殆どの人間がユリウスの良さを知っているので、彼らが如何にユリウスを褒め称えようとも関心はない……しかし、異世界からやって来た勇者が相手なら別の話。
なんの情報も持たない松本孝志が、極めて美しい自分に惹きつけられる事なく、真っ先にユリウスの名前を挙げたのが本当に嬉しかったのだ。
それは国王も同じだった。国王ゼクスのユリウスへ対する信頼はこの世の誰よりも厚い。
今日、最後に見せたやり取りが、孝志の好感度を飛躍させたのである。
「ほら、これは孝志の分だ」
「どうも……」
(いきなり名前呼びとか馴れ馴れしいな)
──ユリウスに渡されたカードを手に持つ孝志。
それは免許証やキャッシュカード位の大きさのプレートで、五人の勇者それぞれに配られた。
「………」
そして孝志は離れた場所で様子を伺っているマリアの方を見た。
(マリア王女に、橘達と別々で訓練させて貰える約束を反故にされたと思ったんだけど、今からステータスの確認をするから情報共有の為に集められた訳か)
俺は配られたステータスカードを翳して見る。
どうやらこれを使って自分のステータスを確認する事ができるらしい。いやほんと異世界って感じ。
俺は自らのステータスを確認してみる事にした。
そう……俺には何となく分かる……ステータスを観る為の方法を。アニメで見たから。
「ステータス!」
こうやって叫ぶと──何も起こらない。
話が違うじゃねーか。
「え、ちょ、急にどうしたの?後ろにボタン有るだろ?それを押して確認するんだよ?ははは」
「うぐっ」
ユ、ユリウスさんよ、そんな笑わなくても良いじゃない。
だってアニメがさぁ……アニメだぜ?
俺は悪くねぇよ。
しかも、離れた所に居る第一王女は冷めた目でこちらを見ているし……あの目嫌だ。
俺って今が思春期だから簡単に傷付くんだぞ?
隣の腹黒マリア王女に至っては顔だけを後ろに向け、肩を震わせていた。あれもう絶対笑ってる。
俺思春期だからなマジで。
「何?急にどうしたの松本?相変わらず意味分からないのよアイツ」
「み、美咲ちゃん失礼だよ。確かにおかしかったけど、彼なりのユーモアだよきっと!」
奥本と中岸が俺に対してこんな感想を漏らす。
何気にこの世界に来て初絡みである。
ずっと無視してた癖に、こちらの失態にはきっちり反応してくれるらしい……マジムカつくんですけど。
「やれやれ、そんなに目立ちたいのかね」
……橘雄星にだけは言われたくねぇから!!
クソッ!!皆して俺のメンタル傷つけ過ぎだろさっきから……いや全部ユリウスとか言う奴の所為だ。こいつが笑うから。
「ユリウスさん!笑わなくてもいいじゃないですか!そもそも何も説明せずにこんな物を渡してきたユリウスさんがおかしいですよ!」
みんなから馬鹿にされる中、穂花ちゃんだけが俺を庇う様な事を言ってくれた。
この流れで庇うのは根性が居るだけろうに……しかも俺が思ってる事をそっくりそのまま言ってくれたっ!
穂花ちゃんもうマジ天使!──てか本気で嬉しいんだけど……もう俺の中で一番可愛い異性は間違いなく穂花ちゃんだわ。
「ユリウス……その態度はどうかと思うぞ?」
ア、アリアンさんまで俺を庇ってくれる……もう間違いなく良い人だよ。昨日は恐ろしい人かと思っていたけど、そんな事は絶対ない。
もう穂花ちゃん、アリアンさん、ダイアナさんが居れば大丈夫だなっ!
「……わ、わりぃ、今までに無い反応だったからついな。みんな異世界人だし配慮に欠けていたわ……すまなかったな松本孝志。まさか周りがこんな反応になるとは思わなかったんだ。ましてや第二王女まで」
──とユリウスは素直に謝罪し、最後にチラッと第二王女マリアを見た。
それに対してマリアは『しまった』と言わんばかりの表情を一瞬みせてすぐに笑うのをやめる。
ユリウス的にネリーと違ってマリアは礼節をしっかり弁えた人物だと思っている。なので客人の失態を笑っていたのを本当に意外と思っていた。
最初に笑ったのは自分の癖に、偉そうにもそんな事を考えている。
尤も、ユリウスが前日の孝志とマリアのやり取りを見ていれば違った印象になったのだろうが……ただ、マリア本人としても公の場で笑ってしまうほど孝志に入れ込んでいる自分自身に驚いていた──
……気を取り直して、俺は今度こそ自身のステータス確認してみる事にした。たった今説明された通りカードの裏にあるボタンを押す。
「おおっ」
すると、目の前にプロット画面が出現し、そこには俺の能力についての詳細が記載されていた。
松本孝志
称号:勇者
種族:人間
レベル:5
腕力 F
速度 F
魔力 E
知力 C
技術 D
抵抗 E
精神 S
スキル
豪運 逆転の秘策 危険察知 ???
……精神力が半端ないって。
てか全体的に低くね?
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豪運
非常に運が良い。
逆転の秘策
追い詰められた状況において知力・技術・抵抗・精神のパラメーターが大幅に上昇する。
ただし、肝心の身体能力パラメーターは上昇しない。
危険察知
自分の身に起こる危険を事前に察知する。
危険度が高い状況なほど訪れる危険の詳細が鮮明になる。
???
詳細不明。
所有者が能力発動後に詳しい記載がなされる。