6話 真実と現実
本日、6話連続投稿
2話目です
話をすると言ったアルマスは、隣から真剣な表情で俺を見つめている。
「まず、話を聞く前に……これから聴かされる事を覚悟して聞いて下さい」
「なにそれ、超怖いじゃん」
「…………マスター」
気を抜かせるように話しても全くアルマスは動じず、真剣に聞けと目で諭して来るのだった。
……さっき泣かせた所為でノスタルジックな雰囲気を作ってしまったのかも知れない。
それにぶっちゃけると、俺もおばあちゃんの悲話を引きずっているので、これ以上はふざける気分にもなれないので、真面目に聞く事にした。
「……話を始める前に一つだけ、身勝手なお願いがあります……今からマスターと私の関係について詳しく話します。多分、凄く不快に感じる事かも知れませんが、どうか私を嫌わない欲しいです」
最後の言葉を口にした時、アルマスが悲痛な表情を見せた。
……出来る限り受け入れてやりたいけど、前振りが不穏過ぎるんだよ。
もうシリアスな話は勘弁だぞ?
それから隣だと話難いと考えた様で、アルマスは席を立ち俺に対面する様に向かい側に座る。
俺の隣が空いたことでアレクセイさんは俺の隣に座ろうと席を立つが、すかさずアルマスが引っ張って自分の隣に座らせた。
今のアレクセイさんの抑止だけで大抵の事は受け入れられそうな気分だ。
そしてアルマスは数秒ほど目を瞑り、それから自身について語り始めた。
「まずは私とマスターとの出会いについてです。マスターはいつ私と出会ったか覚えていますか?」
「ん?つい最近だろ?」
今でも鮮明に覚えているぞ?会ってすぐに毒吐かれたからな。
あの時はぶち殺してやろうかと思ったけど、今はそこはかとなく気を許してるぞ?
「いいえ、違いますよ。マスターが私を認識したのが数日前ですが、私はマスターが産まれたときからずっと貴方の側に居たんです」
「…………んお?」
俺はアルマスからの予想だにしなかったカミングアウトに驚き声を上げた。
自分で言うのも何だが、んおって何だよ……
とにかく、言語がおかしくなるくらいの衝撃だった。
「産まれた時って……そのまんまの意味だよな?」
「……ごめんね?──言葉の通り、私は孝志が産まれた時からずっと貴方の側に居たの。孝志に見える様になったのは、魔力が充満しているこの世界へ来たから。この世界なら異能な存在である私が実体化できるのよ」
「……マジか……」
何気に途中から敬語じゃなくなったな。
偶に標準語で話す事が有るが、多分これがアルマスの素なんだろう。
それに驚きの方が強過ぎてアルマスの言語に突っ込む余裕なんてなかった。
魔法や異能の存在なんて無いと思っていた向こうの世界で、アルマスが存在していたとは。
しかも何で俺なんだ?
俺は俯いて考え込む。
俺の側にずっと居たって事は、俺が体験した事や学んだ事なんかも知られてるって事だよな?
「詳しく話してくれないか?」
「……うん」
──そしてアルマスは自身の事を語ってくれた。
まず、アルマスがあちらの世界に存在していた理由は、女神様の力によるものだったらしい。
女神様の力でアルマスがあちらの世界へ送られた訳だが、最初はおばあちゃんが行く予定だった。
だが、アルマスがおばあちゃんを守る為に発動していた第4能力が仇となり、女神様の転移魔法の効果が受けれなかったそうだ。
だからおばあちゃんの代わりに、アルマスを守護者として松本家に送り込んでくれた。
そして第4能力の存在をここで初めて聞かされたが、俺に教えてくれなかったのは、おばあちゃんの様な失敗を繰り返さない様に敢えて教えなかったとの事。
そして女神様なら頼めば元の世界へ帰してくれる可能性が高いから安心して欲しいと言ってくれた。
ただし、第4能力を解放してしまったら、おばあちゃんの様に帰れなくなるから何がなんでも使わせないらしい。
因み、アルマスが俺に着いた理由は、偶然、俺の産まれた瞬間に俺たち家族の元へ辿り着いたので運命を感じたからだそうだ。
……アルマスは全てを赤裸々に語ってくれた。
今まであらゆる事を秘密にしていたのが嘘の様だった。
この城でこの話をする事にしたのは、アレクセイさんの様な自分を知る者に立ち会って欲しかったのと、後は、アルマスなりに話すキッカケが欲しかったに違いない。
そしてアルマスがこの世界の女神を慕う訳も、この話を聞いてはっきり解った。アルマスが話した通りの女神ならアルマスが尊敬するのも当然だろう。
そしてティファレトという女神が、何故俺に加護を授けてくれたのかも理解した。松本弘子の孫である俺の事を気に掛けてくれたんだと思う。
俺もさっきまでどうやって加護の存在を隠そうかと、厄介なスキルを寄越しやがって──なんて失礼な事を考えて居たが、今はそんな気持ちは殆どなかった。
アルマスの話を聞いて、俺も少し女神を尊敬する様になった。
……でも本当に女神はアリアンさんなの?
余計に信じられなくなってしまったんだが?
そして、アルマスの話が終わるまでの間、俺は相槌を打つだけで一度も話に横入りする事はしなかった。
確かに24時間一緒に過ごしていたと言う所は、死ぬほど思う所が有ったが、俺がアレな感じの雰囲気の時はその場を離れたと言っていたので、ほんとにギリギリではあったが許す事が出来た。
そしておばあちゃんがアルマスの第4能力の所為で帰れなかったという話についてだが、話を聴く限り、おばあちゃん本人が気にしてなかった様なので特に思う事は無かった。
──そして話が一区切りついた所で、アルマスが俺に謝罪の言葉述べた。
「弘子の件、本当にごめんなさい。私の浅はかな考えが、貴方達家族を引き裂いてしまいました」
アルマスは席を立ち跪こうとしていたが、すかさず俺とアレクセイさんで止めに入る。
土下座を俺に止められた事から、俺が怒っていない事に気付いたらしく、アルマスは少し安心したような表現を見せた。
「……なんで謝るの?アルマスはアレだろ?今まで色んな事から俺たち家族を守ってくれていたんだろう?」
「──ですが、孝志を護れて居ませんでした。孝志をこの世界にこさせたのもそうですし、この世界に来てからも何度も辛い目に合わせてしまいました」
やっぱり肝心な所で馬鹿だな、アルマスは。
言っておくけど、一番キツかったのはアリアンさんの訓練だからな?
……仕方ない、もう一回泣かしてやるか。
「いや、いつも助けてもらっていたぞ?」
「……え?」
勝手に感傷に浸りだしたアルマスが、変に拗らせる前に勘違いを正す事にした。
「最初に危険に晒された時の事覚えているだろう?あの見えない敵に追いかけられた時、アルマスが支えてくれたから、だいぶ安心したぞ?──それに、ミーシャの所為で真っ暗な洞窟に転移されられたとき、アルマスが居てくれてどれだけ安心したと思う?──テレサを無理やり連れ出した話をした時は、真剣に叱ってくれただろう?あれで俺がどれだけ反省したと思う?」
「……それは……そうですが」
「だろ?ほんとにアルマスには日頃から感謝してんだぞ?……あんまり言うと調子に乗るから普段言わないけどな」
「………」
アルマスは黙って話を聞いてくれている。
よしっ!仕上げと行くか……!
「だから、俺にとってアルマスは居なくてはならない存在なんだよ」
「──ッ!!」
よしっ!ほら!泣け!泣いちゃえアルマス!
今言った事は全て本当に思っている事ではあるが、敢えてその思いを言葉にする事でアルマスの嬉し涙を誘う。
そして俺の言葉を最後まで聞いたアルマスは、次第に俯き、肩を震わせ始める。
それを見て俺は勝利を確信するのだった。
──それからすぐにアルマスは顔を上げる。
しかし、表情は予想と真逆で満面の笑みだ。
そして、笑顔のアルマスはテーブルを飛び越え、俺の胸元目掛けて抱きついて来るのだった。
「孝志ッッ!……ううん。マスターッ!もうほんとありがとうっ!!」
ソファーに座りながらも、若干前のめりの姿勢だった俺は、勢い良く背もたれに背中を打ち付けた。
「ぐぇ…!!」
「ふふふ……全部話して良かった……本当は嫌われるのが怖くて言い出せなかったの!アレクセイさんやハルートさんが居るこの古城でならと思ったけど……やっぱり来て良かった…!」
それを言い終わると、アルマスは俺の背中に巻きつけていた自らの腕に力を込める。
い、痛くは無いが、耳元でボソボソつぶやくからくすぐったい…!
「……あぁん……抱きつくのだめん……」
思わずオカマみたいな声が出てしまう。
「なんてオカマみたいな声出してんのよぉ?」
……と、俺を見てアレクセイさんが一言。
オカマって……いや、あんたにだけは言われたくねぇーよ、この二丁目野郎が…!
それと……なんて言うか、見た目だけは相当美人な部類に入るアルマスに思いっきり抱き着かれている訳だが……
俺の中でアルマスは既に完全なオカン枠となっているので、異性に抱き付かれる青っぽい照れ臭さは皆無。
アルマスにしても、俺の事は息子と思い込んでいる節があるから、異性に抱き付いている感覚は無いはずだ。
つまり、抱き着かれている俺からしたら、ただただウザい……あ~もうほんとウザい。
「アレクセイ……マスターをオカマ扱いする事は許しませんよ?マスターはオカマじゃありません!」
当たり前の事を嬉しそうに話すアルマス。
「あらぁ?アルマスってば、ちょっと吹っ切れたんじゃな~い?」
「はい!全部話して心のモヤモヤが取れました!マスターとの絆はより一層深まりましたので、この絆は何者にも引き裂かれませんよ?……ふふ」
と、俺を強く抱きしめながらアルマスが言い放つ。
それも先ほどよりも更に増した満面の笑みで。
その言葉は、二丁目さんに対して言ったのでは無く、どうしても口に出して言いたかった様に聞こえた。
「てかもうマスターじゃなくて名前呼びで良いぞ?もう全部知ってるんだし」
「ううん、ダメよ。マスターって呼んでる方が頼りになる女っぽいでしょう?」
「……まぁ……すげぇわかる」
「ね?ずっと見てきたから、マスターの考えている事はわかりますよ?ふふ」
「………」
ずっと見てきた、ね……おばあちゃんの件では止めたけど、この件については土下座して貰おうかな?
俺が渋い顔でそんな事を考えていると、アルマスが更に調子に乗り出す。
「もう可愛いわね!マスターは!よしよ~し!」
俺をあやしながら頭を撫でてくるアルマス。
アルマスの事を女性として意識する事は無いけど、抱きしめられながら頭を撫でられるのは流石に恥ずかし過ぎるわ!オカマが観てるし!
堪らず頭に乗せられたアルマスの手を払い除ける。
「頭を撫でるんじゃないわよ!」
思わずおねぇ口調になってしまう俺。
なんか照れを隠す時、癖でおねぇ口調になるんだよな。
「うぅん?孝志ちゃんもこっちの世界にきた~?あらもぉ~お友だち~♡」
どうやらオカマ、もとい、ナカマと思われたみたいだ。
それよりも、かなりシリアスな話をしていた筈だよな?
雰囲気の移り変わりが極端なんだよこの人達!
──いろいろと面倒くさくなってきた孝志は、アルマスが落ち着くまで好きにさせる事にした。
────────
「はぁはぁ…はぁ~」
数分後、ようやくアルマスの抱きしめから解放された俺は疲労感で息が荒くなる。
いや、確かに落ち着くまで好きにさせようと思ったけど、流石に限度があるわ!
しかもアルマス、途中からどさくさ紛れに頬っぺたにキスして来たぞ!愛情表現が凄くアメリカン!
俺が嫌味ったらしく、口付けされた箇所をこれ見よがしに拭き取るが、アルマスはその仕草すらも嬉しそうに眺めて来る。
思わず睨みつけるがニコッと返されてしまったので、俺はイラッとした。
「そうだ、一つ……お願いが有ります」
不機嫌な俺を他所に、アルマスはアレクセイさんに話掛ける。
無視しやがって……
良い根性だ。もうお前と一生口聞いてやらんからな。
「ん?なにかしら?急に深刻な表情でぇ?」
「………弘子のお墓に挨拶をしたいんです」
アルマスは無理に明るい表情を作り、アレクセイさんにおばあちゃんのお墓の案内を頼んでいた。
もちろん、これについては人事ではなく俺も着いて行くつもりだ。
「弘子のお墓ぁ?」
ん?意外にケロっとした反応だな。
さっきまで見せていたおばあちゃんへ対する気持ちの入りようから、もっとしんみりした対応になると思ったんだけど。
だがアルマスは気にしてないようだ。
というより、この話が大事過ぎて気にする余裕が無いといった感じだ。
「はい。それと、松本家を守る様に頼まれたのに、孝志を護れずにこの世界来てしまった事も謝らないと…」
本当に申し訳なさそうに話すアルマス。
アルマスと俺の中で、再度しんみりとした空気が流れるが、次のアレクセイさんの一言でそれも吹き飛んでしまうのだった。
「や~ね~、そういう事は直接本人に言いなさいよ」
「……ふざけてるんですか……?」
アレクセイさんの言葉を侮辱的に捉えてしまったアルマスは、怒りでワナワナと体を震わせる。
「もぉ~ふざけてないわよ?──あんまりいたずらしてると本気で怒られそうだから、もうネタバラシしちゃうわぁ!──弘子、普通に生きてるわよ?」
「「はぁ?」」
二丁目さん、なんかドッキリ成功した様な達成感に満ちた表情だけど……いや、あの……お、おばあちゃん生きてんの?!
俺は口を大きく開いたまま硬直する。
いや俺も相当だが、アルマスの動揺っぷりは更に凄まじかった。
「い、いきいき、生きてるって、どう言う事!?ど、どういう事!!??」
いきいき言いながら同じ言葉を繰り返すアルマス。
前から冗談で言語機能が狂ってると馬鹿にして来たが、今回はガチでいかれている風に聴こえてしまう。
けど、気持ちは解る。
そしてアルマスは体当たりする勢いでアレクセイさんに詰め寄り、肩をガクガク揺らした。
しかし、アレクセイさんはアルマスの反応を楽しんでいるみたいで、思いっきり揺らされているにも関わらず、普通な口調でアルマスの疑問に答えるのだった。
「なんかアルマスをあっちの世界に送り届けた後にねぇ~?スキルの影響を受けないのを良い事に、ヤバそうな呪いの充満している洞窟や廃墟を攻略して行ったのよ。そしたらね?いつのまにか何処かで【不老長生】のスキルを修得したみたいで私たちエルフ並の長寿になったわ……しかもそのスキルの影響で凄く若返ってるのよぉ?」
そう言うと、アレクセイはテーブルに投げ置かれて居た弘子の写真を手に取り、ひらひらとはためかせる。
「さっき渡したこの弘子のキメ顔写真……実は先週盗撮したヤツよ?」
ここで孝志とアルマスの声がオーケストラを奏でるが如く、完璧なタイミングで合わさった。
「「はぁ~~~~~~????」」
孝志は未だ開きっぱなしの口を何とか閉じて、ようやくまともな言葉を口にする。
「いや、それならおばあちゃんはいm──」
おばあちゃんは今何処に居るのかと聞こうとしたが、アルマスは恐ろしい形相で二丁目さんを更に激しく揺らした。
「どこ?弘子はどこ?生きているんでしょ!?こ~た~え~な~さいっ!」
「あぁ~ん、落ち着いてアルマスゥ~!そんな肩をガクガク揺らしたらいやんよぉ」
「そんなオカマみたいなこと言わないで真剣に答えて下さい!」
「……オカマですけど、何か?」
おっ!ちょっとムッとしたぞ?
やっぱりオカマはオカマである事を馬鹿にされるとキレるんだな。
心で散々バカにしてるけど、言葉に出さない様に気をつけよう。
──だが、流石にアルマスが興奮し過ぎていて、このままでは話が前に進まないと思った孝志は、アルマスに落ち着くよう促す。
「落ち着けアルマス。マスター命令だ(キリッ」
「おだまり!」
「おほっ」
……なんか懐かしいな、この感じ。
この後、更に二丁目さんはしばらく揺らされ続けるが、おばあちゃんが生きている事を隠して俺とアルマスを悲しませたのだから自業自得だろう。
アルマスから解放されたアレクセイさんは「いやね~」と言いながら乱れた髪を整えている。
そして髪の毛をセットし終えたアレクセイさんは、真剣な面持ちで語り始めた。
「ここから少し真面目な話になるんだけど、もしかしたら、この世界そのものが大変なことになるかもしれないのよ」
「どういう事ですか?」
「今はヒロポンが捜索中だけど、大昔に封じ込めた【怪物】の封印を解こうとしている者が現れたらしいわ」
そしてアレクセイさんは、おばあちゃんが今何処でなにをしているのか、詳細を語ってくれた。
一番書くのは大変な話でした。




