4話 数ある出会い
誤字報告ありがとうございます!
俺は城の中に足を踏み入れた。
入城直前、アルマスからバカにされて心に深い傷を負うものの、鋼の意思で何とか立ち直ることが出来た。
……俺も成長したもんだ………ふっ。
『──孝志、ちょっと良い?』
「ぬほぉうっっ!?」
突如鳴り響いた脳内音声に、俺は仰け反りながらマヌケな声を上げてしまう。
これはテレサだな、良い加減慣れないと……前言撤回、俺って成長してないわ。
そして、体をくねりながら奇声を上げる俺を、アルマスは怪訝な表情で見つめてくる。
そして一言
「…………おもしろーい」
と拍手しながら感情の無い声で言う。
「別に笑わせるつもりで言ってないからな?……そんな気を遣って笑いました、的な笑いは止めて!」
俺は強く詰め寄るが、アルマスは優しい表情で諭してくる。
「……大丈夫。たとえ世界が敵になっても、私は貴方の味方ですからね…?」
……ここでちゃんと訳を話して弁明しなくては、頭がおかしくなったと思われそうだな。
「違うんだよ、ほら、今俺ストーカー被害にあってるって言ったじゃん?その子が直接脳内に語り掛ける能力が有って、それでいま急に話掛けられたからビックリして声を上げただけで、だから俺がおかしくなった訳では無くて、なんというか──」
冷静に言い訳をしている最中、アルマスは答弁を遮る様に俺の肩に手を置いてきた。
「……マスター……そんな必死こいて言い訳しないでも何となく事情は察してました……だから落ち着いて、ね?」
必死こいてだと?
……いや、確かに冷静ではなかったかも知れない。
俺は息を吐いて気を落ち着かせた。
「ふぅ~……なんか恥ずかしいところ見せちゃったな」
「ほんとにね」
「……そんな事ないですよ、って言って」
「甘えるな」
「ぐっ…!厳しい…!」
って、そんな場合じゃなかった!
テレサを放置したままなのを思い出し、アルマスに背を向けて念話に返事を返す。
「ごめんテレサ、ちょっとヤバい奴に絡まれて……それでどうした?」
背後でアルマスから刺す様な視線を感じるが、気にしない事にする。
まぁヤバい奴なのは事実だし?嘘は言ってねーよ。
『全部聴いてたんだけどなぁ……それにストーカー被害って……そんな言い方しなくてもいいじゃんか……むぅ~~』
……まさか全部聴かれてるとは。
いや、念話繋がってたんだから聴かれて当然か。
テレサがムクれた様に話すので、俺は素直に謝る事にした。
彼女には出来るだけ誠実に対応したい……冗談も真に受けちゃうしね。
「テレサ……言い方が悪かったです。ストーカーを提案したのは俺なのに……ごめんなさい」
テレサからは見えていないだろうが、俺は頭を下げて謝罪の言葉を口にした。
すると、頭を下げている俺の側に、ニコニコしながらアルマスが近づいてくる。
「ちゃんと謝れたね!」
クソうぜぇ。
アルマスとこんなやりとりをしていると、念話越しのテレサから笑い声が聴こえて来た。
『……ふふ、冗談で言ったんだよ?それと、孝志には少しおかしな所があるって、ちゃんと分かってるから気にしてないよ……うん、そう言うところも全部大好きだよ』
「あ、ありがとう」
あまりのストレートな愛の告白に、俺は思わず顔を紅くする。
俺が女性とのやり取りで顔を紅くした回数はこれまでの人生で三回……相手は全部テレサだ。
しかし、それでもまだ言い足りないらしく、テレサは更に気恥ずかしい言葉を畳み掛けて来る。
『そ、それに、ずっと一緒に居たいって言うんだから、た、孝志も僕のこと大好きだよね…?』
「いや、あの」
『じょ、冗談だから!僕なに言ってるんだろう……うわぁ恥ずかしいこと言っちゃった……えへへ』
この一言が止めとなり、俺は大きく息を吸い込んだ。
そして口に出さず腹の中に溜め込んできたある言葉を叫んだ。
「可愛いすぎだろぉーーーっっ!!」
『ン?……ドウシタ……マツモトタカシ……ナニカ……トラブルカ?』
念話中の俺を気遣い立ち止まってくれているハルートが、叫ぶ俺に心配の声を掛けてくれる。
それに対して俺はごめんなさいとジェスチャーで謝った。
──てかヤバいな……決して悪い意味じゃないけど、テレサが絡むとなんか冷静で居られていない気がする。
突然発狂するなんて普段の俺ならしない筈なのに。
ある意味、テレサは俺にとって天敵と呼べる存在なのかも知れない。
『可愛い過ぎって……孝志は本当に僕を喜ばせる事しか言わないよね……嬉しい』
もうええちゅうねん。
「あんまり可愛い事を連発すると、耐性ついちゃうから気を付けてね」
『………?』
ごめん、耐性なんてつきそうにないわ。
『………?』すら可愛いんだもん。
『話を脱線させてごめんよ……ここからが本題なんだけど、どうやら僕は結界の中には入れないみたいなんだ。──正確には入れるけど、この結界の維持者に気付かれずに入るのが不可能かな……だから僕は外で待つ事にするよ』
「……あ……」
イチャついてる場合じゃ無かった。
ここに来て俺は自分の認識の甘さを実感した……本当にアルマスの言った通りだと。
ダメ元で結界の維持者……アレクセイと言う人にテレサの呪いを説明して、その上で中に入れて貰えないかお願いしてみるか。
──それと、城に帰ったらどうしようか?
信頼できる人間に事情を話して助けて貰うか……
俺は今夜テレサに会う時、真剣に彼女との今後について考える事に決めた。
「ごめんテレサ、考えが甘くて。この屋敷の管理者に話してみるから、一旦、結界の外で待っててくれないか?」
『うん。まぁダメでも創作スキルで家を創れるから、そこで寝泊まりするよ。近くに居れないのは寂しいけどさ』
創作スキルだとぉ?
いや、あえて突っ込むのは辞めておこう。
「──じゃあマスター、話が終わったのなら行きましょう。私も口添えしますから。ですが、呪いの有効距離には気を付けてくださいね」
俺の言葉を聞いていたアルマスも助言の言葉を掛けてくれた。
「おう、解った──じゃあテレサ、後で連絡するから、少し待ってて」
『うん、わかった。バイバイ』
「お、おう、バイバイ」
最初はテレサがどもり気味な喋りだったのに、いつのまにか口調が逆転してしまった様だ。
──テレサと一時的な別れを済ませて前を向くと、呆れた表情でこちらを見るアルマスとガッチリ目が合った。
「いつもそんな甘々なやりとりを行なってるんですか?」
「いや、向こうの声は聞こえてないだろ」
「マスターの表情を見れば何と無く解りますよ」
「では先へ進むぞ!ハルート!案内してくれ!」
『アルマストノ…ハナシハ…イイノカ?』
「オーケーだ」
言い訳のしようもない俺は、不満そうなアルマスを余所に、ハルートに先へ進む様に促すのだった。
────────
「ここから先の通路は狭いので、ハルートさんは通れませんね。では、ここからは私が案内しますので、あとは任せて下さい」
『リョウカイダ…アルマス……デハマツモトタカシ……アトデナ』
「はい、ではハルートもまた後で」
俺はハルートと挨拶を交す。
因みに、ミーシャは途中からハルートが担いでおり、そのままの流れで連れて行った。
それからは客室を目指して、大人しくアルマスの後を付いて行くのだった。
…………ん?いや、ちょっと待てよ?
フッと、俺はテレサの言葉を思い返してみた。
『孝志には少しおかしな所があるって、ちゃんと分かってるから』
もしかして、俺ってテレサに変な奴だと思われてるの?
─────────
──アルマスは俺を客室らしき場所へ案内した後、アレクセイと言う男性のエルフを呼びに行った。
あまり俺から離れて遠くに行く事はできないらしいが、この城内くらいなら大丈夫な様だ。
アルマスの行動が、まるで我が家に客を持て成す様で少し違和感が有ったが、考えてみると彼女はこの城の住人だったのだから、あながちおかしな行動では無いのかも知れない。
でも二人で来たんだから、一緒にもてなして貰おうぜ?と言うかさっきから置いてきぼりにされて少し寂しい。
……しかし、まさかアルマスから客人扱いを受ける時が来るなんて、思いもしなかったぞ。
因みにアルマスが居なくなり、前マスターが死去した後、この城には、アレクセイと呼ばれる400歳を超えた男性エルフと、年齢の概念が無いと言うハルート……この2人のみが暮らしているんだとアルマスが言っていた。
直接観てない癖に良く言うぜ……と最初は思ったが、広い城内を移動したにも関わらず、使用人などに一度も出会わなかった。
掃除とか大変では無いかと思ったが、掃除や城の維持は魔法で補っているらしい。
外装もそうだが、かなり広い城内も綺麗に完備されているので、よほど優れた魔法なのだろう。
──そしてこの待合室に到着するまでに城内を歩いて来た訳だが、城の内装が何処と無く、ラクスール王国で暮らしている宮殿にソックリだった。
この客室に飾ってある歴代のお偉いさんの肖像画なんかも、宮殿で見覚えの在るものばかりだった。
ドヤ顔でキメ顔の肖像画が多かったから、良く覚えている。
もし、俺が小学校低学年くらいの時に転移していたら、画鋲で眼球にイタズラをしていた事だろう。
それは兎も角、この場所を訪れてからアルマスに聞きたい事がいくつも出来た。
俺はてっきり前マスターが死去してからアルマスはそのマスターの元を離れたと思っていたが、どうやら生きている間にそのマスターの元を去ったらしい。
加えて道中のアルマスとハルートの会話を聞く限り、数百年ぶりがどうとか話していたので、それも気になった。
何故なら、アルマスは俺が2人目のマスターと言っていたので、俺のスキルになるまでの間、数百年の空白が出来る事になる。
だとするとアルマスはその間、何をしていたのだろうか?
そして、一番不思議に思ったのは、ハルートが松本と言う苗字に反応した事だ。
これに関しては推測不能で意味不明。
あえて言うなら、松本という苗字の勇者が昔いたとかくらいの想像しか出来ない。
これらの疑問には、これからアルマスがアレクセイさんと一緒に答えてくれるらしいが、他にも女神の事とかも詳しく聞きたいので、腹を割って話して貰いたい。
でもあれから色々考えたが、やっぱりアリアンさんが女神だと言う事は未だに信じがたい。
──そして数分程時間が経った頃、扉の外から2人分の足音が聞こえて来た。
音はまだ遠いが、アルマスがアレクセイさんを連れてきたんだろう。
ハルートはデカすぎるという事で、ハルートの為に広く作ってある玄関にて別れた。
なので、この二つの足音はアルマスとアレクセイさんで間違いない。
足音がだんだん近付き、どちらかがドアノブに手を掛けたのが見て分かった。
……そこで、俺はこの世界に来てからこれまで出会ってきた人物達を脳裏に思い浮かべる。
──俺は本当に様々なジャンルの【個性的】な人たちと出会って来たんだな……
まずは、脳内システムが故障してしまい、コミュニケーションに取りづらい事が多い、偶にオカンモードのアルマス。
威圧感たっぷりで、何ちゃって無能なゼクス国王。
腹黒で口の悪くブラコンなマリア王女。
ムカつく女だったが、実はツンデレで大勢の前で告白してきた、情緒不安定なネリー王女。
ノリが非常に軽くめちゃくちゃ強いのだが、若干ナルシストな剣帝ユリウスさん。
三十歳を超えているにも関わらず未だ中二病……拗らせ魔術師のオーティスさん。
子供の癖に、俺の事を舐め腐っているヴァルキュリエ隊のクソガキ共。
マリア王女から俺の悪口を吹き込まれているであろうシャルちゃん王女……いやこの子はいいか。
めちゃくちゃ可愛いいのだが、俺に依存している若干ヤンデレ気質な不幸少女のテレサ。
俺を酷い目に合わせおきながら、弱くなった癖に調子に乗ってるミーシャ。
そしてアリアンさん。
中にはブローノ王子やダイアナさんみたいに素晴らしい人間性の人も居るけど、それは極一部。
正直、ヤバい連中はもうお腹いっぱいだ。
そろそろまともな人間が増えても良い頃だと、心から思っている。
ドアが開かれた瞬間、俺は強く目を瞑ったり、そのまま心の中で念を唱える……まともな人でありますように、と。
そして覚悟を決め、ゆっくりと目蓋を開ける。
瞼を開いた俺の瞳に映し出されたのは、とても品の良い服装で物腰の柔らかそうな人だった。
年齢は400歳を超えていると聞いていたので、年老いたエルフの姿を想像していたが、どう見ても三十代。
長く伸ばされた生成色の髪に、綺麗で整った容姿。
この世界は男前が多い印象だが、その中でも圧倒的に美男子だと思う。
そんなとんでもない色男は俺と目が合うと、優しそうな笑顔を浮かべてくれた。
俺はアレクセイさんに挨拶するべく、座っていた椅子から立ち上がった……そして心から思う。
──ああ、良かった……凄くまともそうな人で良かった、と。
「──あらまやだ!貴方が松本孝志ね?アルマスから話は聞いたわよ~!!うぅ~ん……近くで見ると話で聞くよりずっと可愛いわね~!凄く好みよ~、食べちゃいたい……うふ♡」
……………一番やべぇヤツだったわ。
オカマ野郎……
あと数話ほど説明会が続きますが、退屈しない様におかしなやり取りも交えて書いていきたいと思います。




