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普通の勇者とハーレム勇者  作者: リョウタ
4章 明かされる真実と『狂』の襲撃者
53/217

プロローグ 〜アルマスの説教と、目指すべき古城〜

ここから4章です。




松本孝志は今まで味わった事のない、大自然から与えられる開放感を噛み締めていた。


今、彼の周囲には沢山の木々が生い茂っており、時刻が昼過ぎという事で明るい太陽の光を浴びていた。


この場所は何処かの林だろうか?

森と呼ぶには木々がそこまで成長してなく、森ならではの暗さが此処には無い。


ほんの数分前まで真っ暗な洞窟の最奥に居たとは到底思えない。

そう……一瞬でこの場所に出る事が出来たのである。

洞窟から脱出するのにはそれなりに苦労すると覚悟していた孝志だけに、そんな苦労をしなくて済んだ事でより一層喜びに満ち溢れていた。


なぜ洞窟の最奥から一瞬でこの場所に出られたのかと言うと、テレサの持つスキル【瞬間転移】の効果によるものだった。


因みに、テレサの扱う転移は魔法では無くスキル。

自身はもちろん自分以外のモノであっても、自分が一度行った場所なら転移する事が出来る能力だ。


ミーシャが禁呪として使用し、自身の魔力と引き換えに行った大魔法を、テレサはスキルとして自在に何のデメリットもなく扱う事が出来るのだ。

……実に可哀想なミーシャである。


そして、転移場所は事前に指定できるという事なので、孝志は転移場所を【獣人国近くの人目に付かない場所】にお願いしていた。

この世界の地図が解らないので、当然見覚えの無い場所だが、指定通りならここは獣人国に近い場所なんだろう。


孝志がテレサのスキルで一緒に転移して来た、アルマスとミーシャ……二人の中の頼れる相棒(アルマス)を道案内の為に起こそうとした時だった──



『あ、あれ?』


「はぁんっ!?」


俺は突如鳴り響いた脳内音声に驚きの声を上げて飛び上がった。

この甘ったるい声は間違いなくテレサだ……この子、直接脳内に語り掛けて来やがった…!


危険察知とはまた違った聴こえ方だったので、全然耐性が出来てなかったせいか、とんでもない声を上げてしまった……実に恥ずかしい。


『ご、ごめん…!ビックリさせちゃった?』


「ん、ん?ぜ、全然だぜ?余裕余裕」


俺がそう言って強がると、テレサは信じたようで『それなら良かった』と言ってくれた。

いや、明らかに怪しい言動なのだから、少しは疑って欲しいんだけど…


そして俺に騙された正直者のテレサは、そのまま『あれ?』と俺に語り掛けた訳を話し始める。


『ごめんよ、孝志…獣人国へ送ったつもりだったんだけど、なぜか少し離れた場所へ転移させてしまったみたいなんだ……謝って済むことじゃないけど……ほんとごめん』


深刻そうに謝罪して来るテレサに、俺は少し疑問に思うのだが直ぐに返事を返した。

因みに俺が話す時は声を出さなくてはならない。


「そんなに気にしないで。じゃあ、悪いけどもう一度お願い出来る?」


もう一度転移のスキルを使って貰えば問題ないだろう。

俺はそんな風に考えていたので、非常に楽観的だった──


──テレサの次の言葉を聞くまでは……


テレサは息を呑むと、物凄く申し訳なさそうに謝罪の理由を述べてくれた。


『僕の転移のスキルは自分だけじゃなく、どんな物資や生物でも指定した場所へ簡単に転移させる事が出来るものなんだ……だけど、一つだけ制限があって、自分以外のモノを転移させた後に同じモノをもう一度転移させる場合には40時間のインターバルを空けないと駄目なんだ』


「まじすか?」


これを聞いた俺は、正直かなり焦った。

このままだと大事な会談に間に合いそうに無いからだ。

しかもあわよくば獣人国へ先回りし、上手いこと待ち伏せ出来れば、マウントを取って優越感に浸れるとすら思っていたのに…


……それに、この場所から獣人国までの距離はどのくらいだろう?


「因みに、獣人国からどれくらい離れてる?」


これを聞いたテレサは、更に申し訳なさそうにすると──


『……歩いて3日くらい』


──と答えた。

3日って……ちょっと転移先ズレすぎじゃないですかね?


『でもおかしいな…?今まで失敗した事なんて無かったのに……何か強い力に引っ張られるみたいな感覚を受けたんだ……ごめんね』


さっきからずっと申し訳なさそうにしているテレサだが、彼女を責めるつもりはない。


「強い力ね……でも気にしないで。あの洞窟から出られただけでもすげぇ助かったから!」


『うん…』


あの洞窟から出られたのは、めちゃくちゃでかい。

それだけでもありがとうだ。

あの洞窟の入り口からでも歩いて3日掛かると言っていたし、洞窟の入り口に出れる魔法を使って貰ったと思えばちょうど良い。


しかし、もう少しゆっくり日光を浴びて休もうかと思っていたが、それどころでは無くなったのは確かだ。


俺はテレサとの通信を中断し、直ぐにアルマスを起こす事にした。



「──おーい、アルマス、起きろー」


俺は軽く揺さぶりながらアルマスを起こす。

揺さぶられたアルマスは、ゆっくりと身体を起こすと、瞼を擦りながら俺を見る。


「……ぅぅ……?……孝志?……ここは……?」


しかし、割と直ぐ起きたな。これで起きなかったら耳元で叫ぼうかと思ったのに……チェッ。



──そして、起こされたアルマスは現状が全く理解できないでいた。

ついさっきまで洞窟の最奥に居たのに、目が覚めたら洞窟の外で寝ていたのである。


あの気持ち悪い感覚を思い出し吐き気が催すが、身に起こっている大きな疑問の前にその気持ち悪さは打ち消されてしまった。


そう……何故この場所に居るのかと言う疑問。


一瞬、孝志が自分と隣で眠ているダークエルフを洞窟から運び出したんじゃないかと思ったが、非力な彼だとそれは考え難いかった。

しかも、時計を見て気絶してから1時間も経ってない事を知り、その考えを完全に捨てる。

マッピングで事前に情報を得ていたアルマスは、あの洞窟の構造を把握しており、攻略には最低でも3時間は掛かると推測していた。

しかも、あそこに出現する魔物のレベルが非常に高いので、ひ弱な孝志ひとりだと攻略なんて不可能だ。


念の為、アルマスは自分のスキルを確認してみる。

解放されたスキルは第1スキルだけで、他のスキルは発動していない。だったら尚更の事だ。


確かに戦術に特化した第二スキルが発動していたなら、上手くいけば攻略も可能だとアルマスは思っていたが、使用された形跡はない。


ならば孝志はどうやってあの場所から脱出できたのだろうか?

考えても仕方ないと思ったアルマスは直接孝志に確認を取る事にした。


「マスターは、いったいどうやってあの洞窟を攻略したのですか?」


「ん?聞いちゃうそれ?良いよ、教えてやるよ、俺の活躍を」


孝志はこれ以上ない程のドヤ顔で前振りを決めた。

そんな孝志の表情を見て、アルマスは心底可愛いと思う。


……が、したり顔で語る【活躍】の内容を聞いて、アルマスは眉を釣り上げた。



「……マスター、そこに正座なさい……」


「え?なんで?いやだけど?」


「いいから!早く!」


「あ、はい」


アルマスが声を荒げると孝志は大人しく従う。

こうして怒られると素直に言う事を聞くチキンハートなのも、アルマスにとってはどうしようもなく可愛い所なのだが、今は孝志の為にも説教が大事だと気を引き締めた。



「──マスター……なんで私が怒ってるか解りますね?」


アルマスの問い掛けに数秒悩んだ後、孝志は何かに思い至ったらしく凄い悲しそうな顔で答えた。


「……あれだろ?暗黒魔弾砲を覚えられなかった事を怒ってるんだろ?」


「……そんな訳で無いでしょう……マスター、貴方は自分が何をしたか本当に解っているのですか?」


「え?俺なんかヤバかった?」


自分に人差し指を指しながら、訳がわからないと言ったような顔をする。



普段頭がキレる癖に、変な所で鈍感なのは相変わらずよね…


そう思うが、孝志にはどうしても自分の行いの非常識さに気付いて欲しいと、アルマスは真剣に話しを続ける。



「では誰か別の人物で例えましょう。そうですね……では、ある所に橘雄星が居たとしましょう」


「ッ!?……チッ…!橘の野郎っ!ある所に居やがって…!」


「そんな場面でキレないで?」


あの世界の時から思っていたけど、ほんと孝志って橘のクソ野郎のこと嫌いよね。

この世界に来るまで、特にあの男に何かされた記憶無いんけど……まぁいいわ。


アルマスは話を続ける事にした。



「橘雄星の前に両親が無く、友達が一人もいない少女が現れました……そんな彼女の事を可哀想だと思った橘雄星は、彼女の現状も確認せずにその場から連れ出しました……マスターから見て彼の事をどう思いますか?」


「…あの野郎…!誘拐じゃねーか!……あ」


「……つまり?」


「うわっ!?おれヤベェなっ!」


ここに来て、自分の非常識さを認識したようだ。

孝志は頭を抑えて「この歳で前科ついちまった…」と呟いている。


そして孝志の話を振り返ると確かに、そのテレサという子は信じられないほど可哀想な境遇に置かれた少女だろう。

だけど、素性も知らない子を連れ出すなんてとんでもない事だ。


「友達も居なく、両親も他界していると聞いて、マスターは勝手に彼女を行き場の無い孤独な少女だと思い込んだのでしょうが、そこを確認しないといけない」


「はい…」


孝志は大人しく説教を聞き入る。


「良いですか?一緒に行動するなとは言いません。ですが今日の夜会う時に、素性をしっかりと確認しなさい。それから呪いについても、人に迷惑の掛からない為にどう行動するのか、それも互いに確認なさい……それでどうしても思い付かなかったら私に相談しなさい……良いですね?」


「はい。今回は誠に申し訳ありませんでした」


「ふふっ、素直で可愛い♡」


「ああん?」



──おっと……つい本音が。

私は笑って誤魔化す事にした。


「オホホホ」


「笑って誤魔化そうとすな!」


み、見破られてしまった……


しかし、解って貰えて良かった。


だけどなぜ孝志にあのスキルの影響が無かったんだろう?

第4スキルが発動していた訳でもないのに……もしかしたらステータスカードにも記載されない隠された能力でもあるのだろうか?


けど、ずっと一緒に居る私が気付かないものかしら?



──アルマスの中には小さな疑問が残るのだった。


そして孝志の説教が終わったアルマスは現在地を確認する為、自身に備えつけた能力【ワールドマップ】を発動する。


弘子との旅でも、この能力を何度も使って来たんだっけ……と、アルマスは感傷に浸りながらワールドマップを眺め今いる地点を確認するのだった。



──そして、現在地を知ったアルマスは驚きのあまり目を見開きその場に立ち尽くすのだった。



───────────



急に凄い顔で黙り込んだアルマスを見て俺は思った……もしかして脳に異常が発生したんじゃないかと。


……いや、もともとおかしかったわコイツ。

最近は少しまともになってきたが、偶にこちらの何気ない一言で興奮したりするからやっぱりまだ何処かおかしい筈。


普通に考えてみたら、洞窟内で使用していた解析やマッピングみたいな能力を使っている最中なんだろうけど、表情が険しかったので話かける事にした。



「ボーッと突っ立ってどうしたの?」


するとアルマスはゆっくり俺に視線を向ける。

その顔は喜びとも困惑ともとれる、複雑な表情を作っていた。


「マスター……一刻も早く獣人国へ向かうべきなのは心得ています。ですが、一箇所だけ、寄りたい場所があるのですが……宜しいでしょうか?」


…?急にどうしたんだろうか?

俺の疑問とは裏腹に、アルマスは説明もそっち退けで話し続けていた。


「この森林を奥へ進んだ場所に古城があります。周囲には幻影の魔法を展開しているのでここからでは見えませんが、ここからすぐ近くにあります──それに、もしかしたら移動手段が手に入る可能性がありますよ?」


「いや、待ってくれ!どういう場所なんだ?」


「あ、すいません。はい………以前、私を従えていたマスターと一緒に暮らしていた城です」


「以前のマスター?」


アルマスに俺のスキルとなる以前に、別のマスターがいる事は聞いていた。

前のマスターの事なんてあまり興味が無かったから、詳しく聞かなかったけど…


「もう100年以上前ですので、家主は亡くなっていると思いますが、あの方に仕えていたエルフが存命かつ、あの城で暮らしている可能性が高いです。エルフは人間に比べて遥かに長寿ですし、彼自身とても義理堅い男でしたから…」


家主が亡くなったと口にした時、アルマスはとても悲しそうに目を少しだけ潤ませていた。

かつて仕えていたマスターとは、恐らく、その亡くなった家主のことだろう。


俺も急がなくてはならないので少し悩んだが、移動手段が見つかる可能性があるというので、アルマスの提案に頷くのだった。


というよりも、ここから歩きで獣人国へ向かうとなると到着までに3日は掛かるとテレサが言っていた。

それだと、ぶっちゃけテレサの転移スキルのインターバルを待った方が速い。


……そう考えると、アルマスが以前仕えていたマスターの住処へ立ち寄っても寄り道にはならないだろう。


……俺は起こしてもまったく起きようとしない、未だ気を失っているミーシャをアルマスに担がせると、そのまま古城へと向かうのだった。




──孝志はアルマスがかつて支えていたマスターなんて、自分にとって無関係なものだと思っている。


その人物が自分の産まれるずっと前に、行方不明となった祖母だなんて思いもしない。




誤字報告いつもありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 地の文で一人称と三人称がごちゃ混ぜになってますね。 主観か客観か、誰が話しているか分からなくなるので、視点の移行もそうですが統一して章で区切って切り替えるべきだと思います。
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