15話 彼女のこれから… 後編
誤字報告ありがとうございます!
「いろいろ聞きたい事が有るんだけど……良いだろうか?」
「え?あ、うん、もちろんだよ」
ここで別れると思っているテレサの表情は暗い。
だが、とりあえずは呪いの特性について詳しく聞いてみよう。もしかしたら、一緒に行動できるヒントが見つかるかも知れない。
俺は何でも好きな事を聞いてどうぞ!とでも言いたげな程に気合を入れてるテレサに、気になった事を聞いた。
「非常に言いづらいかも知れないけど、テレサの恐怖のスキルについて詳しく教えてくれない?」
自分を苦しめてる呪いのスキルについてなんて、答えたくないと思うけど…
しかし、俺の申し訳ない表情とは逆に、彼女は何てこと無い様な顔をしている。
「言いづらい事なんて無いよ。孝志の質問になら何だって答える……あの危険な暗黒魔弾砲の撃ち方だって教えるよ!」
ああ、良かった……気にしてないみたい……ふぁっ!?暗黒魔弾砲!?
「なにその凄そうな魔法?!絶対教えて欲しい!」
俺の中の興味が完全に暗黒魔弾砲に持っていかれてしまった。
もちろん、テレサのスキルについても重要だ。
どうでも良いなんて思ってないし、彼女と行動を共にしたいと言う気持ちも変わらない。
──けど、暗黒魔弾砲なんて凄そうな魔法のことは知っておきたい!
「えっ!?あれっ…?まさかそんな食い付いて来るなんて……いや……うん。本当は危ないからダメだけど、孝志になら良いよ?」
「おおっ!マジでか?!──って、魔法習った事なかったわ」
思わず興奮したけど、魔法なんて使ったことも習った事も無い。
何だかんだ色々あったけど、この世界に来てまだ数日程しか経過してないんだ……魔法まで習う時間なんて無かったわ…
「アハハ、心配要らないよ。僕のスキルには呪い以外にもいろいろあってね。スキルの中の一つに『ネオカスタマイズ』ってスキルが有るんだよ……このスキル効果は、対象に覚えさせたい魔法をイメージとして植え付ける事が出来るんだ。つまり、ネオカスタマイズの効果を受ければ、誰でも簡単に魔法が覚えられる…!」
「すげぇ!」
俺が諦めた所で、とんでもないチートスキルをサラッと解説してくれるテレサちゃん……本当に何者なのだろう?
そして、俺でも暗黒魔弾砲とかいう恐らくはチート?な魔法を習得できると知り、思わず拳を握り締めて喜びをあらわにした。
「嬉しそうだね~」
「おう!だって楽に強力な魔法が扱えるようになるって、これほど嬉しい事は無いよ。努力とかして魔法覚えるの面倒くさいじゃん?」
「ふ、普通……思っててもそう言うこと口にする?」
「うん、俺そういうの気にしないタイプ」
「……堂々と凄いこと言うね」
まぁこんな感じで今まで上手くやって来れたしね。
そしてアホっぽい会話のお陰で、テレサからはさっきまでの悲壮感がいつの間にか消え失せていた。
そしてテレサは説明を続けて行く。
「……それでも、付与するにはその魔法に見合うだけの魔力が無いとダメなんだけど……けどね、僕のスキルを使えば、必要魔力の10%くらい有れば大丈夫だよ……ところで、孝志の魔力ってどのくらい?」
「Eランクだ……まぁまぁ悪くないだろ?」
Fじゃないぜ?凄いだろ?
他の戦闘に直結する筋力や速度はFだけどね。
──しかし、孝志は知らぬ事だが、Eランクの魔力なんてテレサから見れば──
「──えっ!?そんな低いの!?」
全く大した事が無いので、こういう反応になってしまう──
「………」
テレサの言葉を聞いた俺は、無言になってテレサを見つめる。
そ・ん・な・に・低・い・の!って……あんまりじゃない?
「──ご、ごめん…!こんなダンジョンの最下層に転移して来るくらいだから、最低でもCランクはあると思ってた……ごめんね、ランクEだと低過ぎて覚えられないよ10%で覚えられると言っても、Eランクは予想より遥かに低すぎだよ!」
「…………言い過ぎだよ?」
「あ!ごめん!悪気は無いよ?!こういう事は、はっきり言わないと孝志も納得できないと思ったから」
悪気が無いからこそ、尚、グサッと刺さる。
話を脱線させた天罰の様に、鋭い言葉の矢が俺の胸に突き刺さった。
実は魔力がEランクである事に、ちょっと誇りを持っていたんだけど……それを低すぎると言われてしまったのはショックだ。
俺を勇者と知らないテレサがこの反応なのだから、本当は一般人と比べても低いんじゃないだろうか?
若しくは、テレサがEランク魔力を低過ぎると感じてしまう程に強いとか……いや、クソ雑魚の俺より強いのは間違い無いけど、流石に特別強いという事は無いはずだ。
……てかそうだよっ!俺って仮にも勇者なんだぜ?魔力低すぎなんて言われたら、もう恥ずかしくて勇者なんて名乗れない。
いつ彼女に自分が勇者だと打ち明けようか迷っていたが、もう言わない事にした。
一緒に行動するなら、その内絶対にバレるだろうけど、もう俺の口からは言わない事に決めた。
「テレサの恐怖のスキルについて聞きたい事があるんだけど、いいか?」
俺は先ほどまでの会話を無かった事にし、初めに聞こうと思っていた事を改めて聞いていた。
「……ごめんね、暗黒魔弾砲を教えてあげれなくて……」
「ん?何のことだい?」
そんな話してたっけ?……いやぁ~覚えないわ。
「──え?いや、だって……え?」
テレサは困惑の表情だが、その件には触れないで欲しいんだ……察してくれ…!
「テレサ、もうほんと真剣に話しよう?いい加減にしないと怒るよ?」
「……理不尽だな~」
本当に理不尽だよな……それはごめん。
でも暗黒魔弾砲の事は闇に葬りたいんだよ……そう!暗黒だけにな!
「……あれ?急に寒気が……なんでだろう?」
「ウソだろ?」
今のギャグそんなに酷かった?
心で思っただけなのに……
───────────
──静まり返っている洞窟内では、孝志とテレサ……この二人以外の生物に動きが見られない。
洞窟最下層と言うからには魔物がうようよしてそうなものだが、テレサの恐怖の呪いは魔物にも効果があるらしく近寄る気配がない。
なので、アルマスとミーシャが起きて来ない以上、二人の間を妨げるモノは何も無い。
「容姿の方は仮面で防げるけど、呪いは視界に入るだけで効果を与えてしまうから、耐性のない者だと視界に入り続けると死んじゃう事があるんだ。後は、死ぬ程では無いけど僕の声を聞いても気分が悪くなるし、僕の周辺200メートル以内に入っても声を聞くのと同様の気持ち悪さを与えてしまうんだ」
淡々と語るテレサだが、言ってる事は実にエゲツない。耐性が無ければ見られ続けると死ぬ事があるって、思った以上にずっとヤバイな。
「耐性でどこまで防げるの?」
テレサは軽く俯いて「う~ん」と少し唸った後、思い出しながら答えてくれた。
「そうだな~……僕の母さんは誤って視界に入るのを何回も繰り返している内に、どんどん耐性が削られていって……お父さんは僕の容姿と魔眼、両方の影響をうけ──」
「も、もういいから!ようは耐性が有っても徐々に削られて行くって事だね!?」
「うん……賢いね、孝志は」
賢いね、じゃないし……聞いてて泣きそうになったわ……テレサちゃんは絶望耐性でも備わってるのかな?
そして、やっぱり堂々と一緒になって行動するのには無理がありそうだ。
「やっぱりあの二人が居ると、一緒に行動するのは難しそうだな……ミーシャは兎も角、アルマスは離れられないし……」
俺が何気なく呟いた事であったが、テレサはこの呟きを聞いて飛び跳ねる様に驚くのだった。
「え?!一緒に連れて行くつもりだったの?」
「だったのじゃなくて、連れて行くつもり……あれ?言ってなかったっけ?」
それを聞いてテレサは驚愕に目を見開く。
「聞いてない聞いてない!──それにダメだよ!孝志は大丈夫でも、他の人が危ないから!……孝志の仲間を傷付けたくなんて無いよ?」
まずはこうやって俺の仲間心配だもんな……そんな優しさを見せ付けられたら、何としても連れて行きたくなると言うものだ。
そして今しがた聞いた呪いの特徴を思い返しながら、頭の中で考えをまとめて行く。
視界に入れたら命に関わるけど、声は聞こえなければ何とも無いみたいだし、存在感攻撃も200メートル以内に近付かないければ大丈夫と言っていた。
だったら、いま思い付く限りで一番有効そうな作戦はこれかな。
「テレサ……俺はこれからも君とずっと一緒に居たいと思ってる……テレサはどう?」
それを聞いたテレサは当然の様に首を縦に振った。
「そ、それは絶対にそうだよ!死ぬまで……ううん。死んだ後もずっと一緒に居たいと思ってるよ!」
俺はテレサの可愛さに早速呑まれそうになるが、何とか踏みとどまり思い付いた提案を持ち掛ける。
「その方法なんだけど、テレサは200メートル以上離れた場所から、此方を見ないようにして着いて来れない?……ようは付け回して欲しいんだよ、俺の事を」
「つ、付け回す…?」
彼女はますます困惑したようだ。
付け回すという言葉は、マイナスなイメージが強いから悪く聞こえたのかも知れない。
ここはマシな言葉に言い換えるか……
「すまん、言い方が悪かった……俺の事をストーカーして欲しいんだ」
「より酷くなってるよ!?」
ぼっちだった割に、中々キレの良い突っ込みを叩き込んでくれる……やるじゃないか。
だが、ストーカー被害者予定の俺が容認しているから大丈夫。
そしてテレサは、この作戦でまだ気になった事があるらしく、それについて聞いてきた。
「でもストーカーしてどうするの?孝志の方を見ることが出来ずに、近付く事も出来ないから意味無いと思うよ?……まぁ孝志を側に感じて居られるだけで僕は満足だけど」
それくらいで満足しないで頂きたい。あといちいち可愛い。
俺がストーキングさせてまで行いたい事は、もちろん、テレサに俺を感じさせる事では無い。
俺が思ったのは──
「着いて来て貰って、みんなが寝静まった夜になったら、二人で会って話をしない?」
こういう事だった。
まぁこれをするにはアルマスの説得が必須だけど、アルマスなら解ってくれそうな気がする。
夜に会って話をしない?……と聞いたテレサは、本当に嬉しそうに目をキラキラ輝かせて居るが、一つ気になる事が有るらしい。
「でも、離れたところから付け回すなんて……ちょっと難易度高そうだな~……まぁ僕には生命感知のスキルがあるから大丈夫だと思うけど」
でたっ!生命感知なんていう新しい有用そうなスキル!
この子、もしかしてとんでもないチートじゃない?
そして生命感知なんてスキルがあるのなら尚更、距離を開けて付いてくる作戦は問題無さそうだな。
それに──
「テレサって、ストーカーのセンス高そうだから、たぶん問題なく俺たちの事を付け回せると思うぞ!」
先ほどからのやり取りでも、結構ヤバイ発言がチラホラ有ったからな。
「そうか……ん?……その言い方、なんか引っ掛かるんだけど?」
気のせいです。
ストーカー予備軍とか思ってません。
「俺はどうしても来て欲しい……難しいかも知れないけど、何かあったら協力するし……それでも厳しいか?」
俺は真剣な面持ちで言う。
「………」
割と強引に迫ってる気がするが、この作戦に乗ってくれないと、一旦ここでお別れすることになってしまう。
彼女もしつこい俺に文句など何も言わずに、手を額に当てて真剣に悩んでる様子みせ始めた。
そして少しの時間考え込むと、決断が決まったらしく伏せていた顔をゆっくりと上げて此方を向いた。
──見上げたその表情を見て、俺はテレサの言葉聞かずして彼女が付いて来てくれるものだと確信する。
……だって凄く嬉しそうにしているから。
「──ふふ……孝志はそんなに僕と一緒に居たいんだぁ?」
「……そうだぞ?……だから一緒に来てくれるか?」
俺は目線の下で微笑みを浮かべながら此方を見上げる彼女に、手を差し出す。
もう何度触れ合ったか分からないが、互いの手を合わせるは初めてだ。
けど、さっきまで抱き着かれたり頭を撫でてあげたいりしたせいか、躊躇なく目の前の美少女へ手を差し出す事は出来た。
普段の俺には、こんなこと絶対出来ない。
「……うん……これから宜しくね?孝志」
そしてテレサも、差し出された手を握り返してくれる。
──喜びに満ちたその表情を見て、俺は着いて来て貰うことを選択して良かったと改めて思う。
もうテレサの顔には、別れの言葉を口にした時の様な悲しさや寂しさは一切見受けられない。
だって、これからは毎晩会えるんだから、何一つ不安に思う事なんてないのだろう。
もちろん、俺も彼女に毎日会えるのは嬉しいし、これから夜が来るのを楽しみにすると思う。
好きかどうかはまだ分からない……
けど、彼女をこれから大切にしたいと思う。
俺と一緒に居る以上は、傷つくような思いをさせるつもりなんてない。
ただ、城に帰ったらどこで会おうか……恐怖フェロモンを撒き散らすテレサを城内に招き入れる訳にはいかないし……
ユリウスさんとか話の解りそうな人間に正直に彼女の事を打ち明けて、なんとか良い方法を探して貰うのも良いかもな。
──孝志はテレサが魔王だと、テレサは孝志が勇者だと気付いていない。
しかし、大変歪な形ではあるが、孝志とテレサは共に行動する事になった。
皆さんの感想、いつも楽しく読ませて頂いてます!
次話、三章のエピローグです。




