11話 出会い
誤字報告ありがとうございます。
最近、忙しくて申し訳ないです。
俺は気が付けばその扉の前に向かって歩き出していた。まるで吸い込まれるかの様だ。
かなり得体の知れない扉なので、普段の俺だったら近付かないだろう。例え中に宝があると解っていたとしても、俺は安全を優先にしてスルーした筈だ。
なのに、何故か俺はこの扉へと近づく。
扉の直ぐ近くまで来てようやく、俺は向こう側から人の気配を感じることが出来た。もちろん、嫌な感じなど一切無い。
扉を開けるかどうか躊躇していると、扉の向こう側から声が聞こえて来た──
「──開けないほうがいいよ。中には僕が居るからね」
──聞こえてきたのは少女の声だった。甘く蕩ける様な声に、俺は思わず息を呑んでしまう。
俺が息を呑むと、扉の向こうの少女は少し悲しそうな雰囲気を漂わせて来た。
そして彼女の声が聴こえた途端、後ろに居たアルマスとミーシャは耳を塞ぎ、先程まで以上に怯え身を竦め出した。
アルマスは扉の近くに居る俺を引き戻す為に行動しようと抵抗している様だが竦んで動けない様だ。
ミーシャは俯きながらも、恐怖や苦しみだけでは無い、どこか複雑な表情をしていた。
──どうしたんだアイツら?
そして、俺は声を掛けてきた相手をそのまま無視するのはマズイと思い返事を返した。
「──何かあったんですか?」
声色から年下の女の子である可能性が非常に高いのだが、顔すら合わせた事の無い相手なので取り敢えず敬語で話し掛けることにした。マリア王女の時と同じ轍は踏まないのである。
……だが俺の問い掛けに対して、相手は予想外に慌てた対応をみせる。
「……あ、え…え?……い、いま僕に話し掛けたの?」
本当に、扉越しでも分かるような動揺っぷりだ。もしかしてコミュニケーションを取るのが苦手な子なのかも知れない。
それに『僕』って自分の事を言ってたけど、男だったりするのだろうか?声的にあり得ないとは思うが、一応は確認してみる事にした。
「……女性ですよね?」
「……え?あ、うん。女だよ、一応」
一応って……
俺の質問に答えた後で、女性は俺に対して疑問に思っている事があるらしく、それを確認して来た。
「……え〜と……だいぶ近くに居るようだけど……へ、平気かい?」
「……?」
声の感じからして彼女にとっては重要な質問事かとは思うが、俺にとっては全く意味不明な質問だった。
「平気ってどういう事ですか?自分は至って普通ですが?」
「え?ふ、普通?普通で居られるの?……さ、最近では皆んな近付くだけで気分が悪くなるのに…」
なんかとんでもない事を言っている気がする。この子もしかして虐められてるの?
それに、こんな所に独りで居るって事は、虐められて閉じ込められたんだろうか?……だとしたらあまりに可哀想だ。
……少し慰めてやるか。
「大丈夫ですよ。僕はどれだけ近付いても、貴女を嫌がったりしませんから」
「……………………………………………………………………………………え?」
──本当に長い沈黙だった。
俺の『貴女を嫌がったりしない』……この台詞を聞いた彼女は、呼吸をしているのかも疑問な程の静かで長い間を空けた後、ようやく反応を見せた。
「──あ、ご、ごめん!す、すごくビックリしちゃって……!」
「あ、いいよいいよ。でも嫌わないのは事実だから、そこは安心してね?」
彼女の可愛らしい反応にいつのまにか敬語からタメ口に変わってしまっていた。でも、それくらい彼女には親しみを感じると言うかなんと言うか、こちらも心を開いて話したくなる。
「──あ、ぼ、僕の声を聞いても、へ、平気なんだね……うわぁ……すごいなぁ……僕の声を聞いたら皆んな気持ち悪くて吐いてしまうのに…」
「……吐く?」
俺は流石にイラついた。もちろん虐めてる奴らに対してだ。
彼女には悪いが、さっきまでは可哀想に思いながらも他人事として聞いていた節がある。
……けど、流石にここまで酷い虐めが有って良いのだろうか?声を聞いただけで吐き出す?こんなに優しくて可愛い子に対して?
「どこが気持ち悪いの?可愛らしくて優しい声だと思うよ?これはマジ」
「え、あ、ど、どどどどういうことだろう…?!ほ、本当に気持ち悪く無いの?」
「うん。本当にちっとも気持ち悪くないし、可愛い」
「ッッ!!??──かかかか可愛いッッ!?……いや、え、え〜と……わーわーわー……こ、これでも?」
「……より可愛くなりました。ありがとうございます」
尋常じゃないなこの子は……。
少し話しただけで俺は思ったが、はっきり言って彼女の声は麻薬そのものだ。話していると脳みそが溶かされてしまう錯覚にすら陥る。ずっと聞いていたい心地良さに溢れた声。
……いかんいかん、自己紹介くらいはしっかりしないと。
「良かったらなんだけどさ……君の名前を教えて貰えるかな?」
本当なら自分から名乗るところだと思うが、今の俺はそんなこと頭に無かった。
──そして彼女はゆっくりと口を開き、自らの名前を口にした。
「……テレサ」
「テレサちゃん?」
「う、うん」
あんらまぁ……名前まで可愛らしいじゃないこの子。
「テレサ=アウシューレン。りょ、両親以外で名前を呼んでくれたのは君で三人目だよ」
3人目か……それを聞いて少し嬉しく思った。
何故なら──
「──俺が初めてじゃなくて良かったよ。助けてくれる友達が居るんだね?」
「…………」
テレサは無言になった。俺はその反応を感じて直ぐにしまったと思ったが、今更言った言葉が戻って来る訳も無く…
彼女は少し間を空けた後、少し寂しそうな声色で答えた。
「十年以上前に居なくなってしまったよ」
……余計な詮索なんてするべきでは無い。この子の現状を知って俺は悲しさが込み上げてきてしまった。
何が有ったかは知らないけど、彼女を名前で呼ぶ程に親しかった者達はもう居ない。
俺はテレサに心底同情した。
──だから、ついこんな事を言ってしまったんだろう。
「あのさ、良かったらだけど、一緒に来ない?」
気が付けば、俺は正体も知らない、出会ったばかりの少女に対してとんでもない事を提案していた。
「……え?」
本当に鳩が豆鉄砲でも食らったかの様な声とはこう言う声の事を言うんだろう。俺は途端に恥ずかしくなって話を逸らす事にした。
「あ!そう言えば、こっちは名乗って無かったね、ごめん…」
「う、うん……えへへ……一緒に来い何て言われるとは思わなかったよ。──うん!ほんとに嬉しい、ありがとね」
「お、おう」
話を誤魔化したつもりだったんだけど。
今の俺は少し顔が赤くなってんだろうな……この子はある意味天敵かも知れない。俺大抵の事で照れたりしないんだよ。
ま、まぁとりあえず名乗っておくとするか……
「俺は松本孝志って言うんだ……宜しくね?」
「松本孝志松本孝志松本孝志松本孝志松本孝志松本孝志」
彼女は狂った様に俺の名前を連呼した。呪文かよ……これは流石に怖いわ。
「そんなに呼ばないでね?」
「で、でも、ちゃんと覚えないと…!」
かなり簡単な名前だと思うけど……いや、異世界基準で言えば難しいかもしれんな。俺は深く考えない事に決めた。
というか、さっきからお互い扉越しで顔すら合わせていないヘンテコ現状。流石にこのままの状態で話を続けるのは良く無いだろう。
「とりあえず、顔を合わせて話さないか?」
俺はそれだけ言うと、相手の確認もとらずに、ドアノブに手を掛けた……時だった──
反対側から物凄い力でドアノブを抑えつけられてしまった。──力強!
「ま、待って!お願いだから開けないで!」
テレサは必死で扉を開けようとする俺を止める。理由は判らないが、流石にこれ以上無理やりはマズイと思い、すぐに開けるのを諦めた。
「ご、ごめん!でも、孝志にだけは顔を見られたく無いんだ……」
お、俺にだけは…?
あれ?もしかして強引に開けようとして嫌われたか?
そう思ったのもつかの間、彼女から次に語られた言葉は、予想だにしていないモノだった。
「──そ、その……僕って可愛くないと言うか……あの………………酷く醜い顔をしてるんだ……」
まさかの容姿的な問題。でも、彼女の反応を見るからに軽く見ていい事では無い筈だ。
だが、彼女は思い掛けない事を付け加えた。
「と言っても呪いの影響なんだけどね。自分で見たら……まぁ悪く無い?……んだけど、自分以外の者にはとんでもない化け物に見えてしまうみたいなんだ」
「呪い…?化け物に見える…?」
「う、うん。それに、僕の視界に入ったり、僕の声を聞いたり……時間が経つ度に呪いが強力になって今では僕に近づくだけで皆んな倒れたり、吐き出したりするんだ…」
「……そうだったんだ」
そ、そうか…!呪いの影響だったのか。てっきり虐めだと思ったけど、勘違いしていたみたいだ。
──でも、それならまだ呪いよりは虐めの方が良かったかも知れない。呪いだったら環境を変えようとも防ぎようが無いだろうから。
彼女はこれまで、呪いのせいでずっと独りぼっちだったんだろうな。
「だから、多分、孝志と一緒に居た二人は堪らないだろうね…」
彼女のその言葉を聞いて、二人の居る場所を振り向いた……すると、そこには泡を吹いて倒れてるミーシャと、グロッキー状態のアルマスの姿があった。
俺は二人をテレサの影響を受けない場所まで引き離す為に、一旦この場を離れようとする、が。
向こうに居るテレサは離れて行く俺に気が付いたらしく、慌てふためき出した。
「ま、待って!行かないでっ!もう少し話ししよう?ねぇ?お願いまだ行かないで…!お願いお願い…!」
必死に懇願する声。俺が去る事が自分にとっての絶望とでも言わんばかりの反応を彼女から感じ取ってしまった。
「おっ?!お、おお…挨拶もなく立ち去ったりしないって。ちょっと後ろの2人の様子観てくるだけだから、少しの間だけ待っててね?」
今度は一転して安堵した反応だ。さっきから扉越しでも感情の移り変わりがハッキリと解ってしまうな、この子の場合。
「う、うん、解った。絶対直ぐに来てよ?お願いだよ…?まだ話したい事があるからね?」
「……了解」
俺は二人の元へ駆け寄った。本当は急ぐつもりは無かったのだが、テレサをあんまり待たせておくのは忍びない。
直ぐに二人をテレサの声が届かないところまで運び出すと、急いで扉の前に戻る。
時間にして5分も掛かっていないだろう。
「お待たせ」
「──あ……も、戻って来てくれたんだ。良かった……」
彼女の反応を聞いて、思わず苦笑いしてしまった。そんなに心配しなくても良いのに。
「もちろん、約束したからな」
「……うん!約束だもんね」
扉越しでも上機嫌になったのが解ってしまうな。なんて可愛らしい生物なんだ。
「そう言えば、俺はどうして何とも無いんだろう?」
「う〜〜ん……僕にも解らないんだよね……で、でも、お陰でたくさん話せたから嬉しいな…」
──俺も可愛らしい女の子と沢山話せて嬉しいけどね。
そして話をする彼女は、本当に嬉しそうにしている。
次の投稿までの時間が空きますが、申し訳ないです。
ですが、次の投稿以降はしばらく1〜2日に1話投稿していくので、宜しくお願いします。




