7話 マスターと
皆さん、明けましておめでとうございます。
年末は忙しくて更新出来ませんでしたが、今年も宜しくお願いします!
あと更新が空いてる間の誤字報告もありがとうございました!
~アリアン視点~
王国最高戦力である六神剣と、王国最強戦力で王直轄騎士である私と、ユリウス。
実力的には六神剣より私とユリウスが上なのだが、ほぼ拮抗した戦闘力だと言われている。
特に史上最年少で六神剣入りを果たしたエディに関しては、あと十年もすればユリウスに並ぶ程の実力が在ると言われているのだが、それは真っ赤な嘘だ。
嘘と言うのは語弊があるな……実際は私とユリウスの実力はその程度だと皆が勘違いしているのだ。
理由は、王の意向もあって私達2人は表立っての戦闘はかなり少ない。
勿論、私達が出向く程の敵がこれまで現れなかったと言うのもあるのだが。
それに偶に出向く事があっても、殆どが力を出し切ってしまう前に倒されてしまうような敵ばかりなので、実力の発揮のしようがない。
つまり六神剣は、手を抜いた状態の私達より弱いのだから競いようが無い。
「それにしても……」
私は今し方屠った相手を思い返して見る。
暗殺者を名乗って居た割に遅く、魔王軍最高戦力を名乗っていた割には話にならない弱さだった。
九位とか大したことない順位を語っていたので、あまり強くなくて当然なんだけど……
「あれで最高戦力のひとりなのだから、弱い者に囲まれて居るみたいであの子が可哀想だ」
もっとも、王国最高戦力が六神剣である我が国も言えた義理じゃ無い。
というか正直この魔族、六神剣のリーダーよりも強かったぞ。
彼とこの魔族に圧倒的な実力差は無いにしても、闇討ちを得意とするこの魔族相手では手も足も出ずに負けていたんじゃなかろうか?
「……戻るか」
既に1分近く孝志を待たせて居ることに気が付いた私は急いで戻る事にした。
待たされるのが嫌いな私は、待たせるのも嫌いなのである。
──────────
私が急いで孝志の元へ帰ると孝志は眠っており、そんな孝志を、先ほどまで一緒にいた水色の髪をした女が抱き抱えて待っていた。
通り掛かりだと言っていたので、既に居ないものだと確信してたのだけど……
そして孝志が眠って居るのは、おそらく使い慣れないスキルを長時間使用して強い気疲れを起こしてしまったのだろう。
出会った時の感じや表情からして、長時間使用していたスキルは危険察知だと思う。
あまり知名度のあるスキルでは無いが、私が調べた限り、危険察知のスキルを発動中は神経を使うので、普通の直感系スキルより負担が大きいらしい。
私は持っていないので実感は無いのだが、とにかくキツイと書物には書いてあった。
使いこなせば此処までの消耗は無いので、実戦や訓練をこなして行けば慣れるだろう。
それに勇者は成長のスピード速いと言うし。
うん!危険察知に慣れさせる為にも、明日からはもう少し厳しめに指導しないと!
昨日は優しくし過ぎたので、一生懸命強くなろうとしていた孝志に申し訳なく思っていた所だったんだ。
明日はカッコいいところを見せてやるわ!
此処で私は孝志に寄り添う女性を見据える。
……偶然知り合ったと言っていたが、そんな風にはとても見えない。
彼女が孝志に向ける眼差しは、私がユリウスに対して向けている熱や愛情と同じモノに思える。
そして、孝志本人も信頼して体を預けて居るので、一方的な関係でないのは確かだ。
他人のフリをするのには訳がありそうね。
嘘だったら許さないが隠し事なら私にもあるし、細かい詮索はしないでおこう。
何か悪い理由で隠していないという事は直感的に解ったし……今見たのは忘れる事にしよう。
もう彼に対する脅威は完全に取り除いた。
何より私は夜に行われるパーティー用のドレスを買いに行かなければならない!
もちろん、ユリウスに見せる為の!
実は何だかんだ忙しい身の上なのよね!
故に直ぐにでもこの場を去って目的を果たさなければならない……それに──
孝志には彼女がついていれば問題ないだろう。
「それじゃソイツは任せたぞ?」
「はい……任せて下さい」
簡潔なやり取りだが、彼女は了承してくれた。
会話とはこのくらいあっさりしているのがいいわね!うん!
私に孝志を託されると、彼女はすぐさま孝志を担ぎ王城へと向かった。
歩く速度からして一刻も早く孝志を休ませたいのだろう……やはり彼女なら信用しても良さそうね。
そういえば名前聞いて無かったっけ?
──まぁいいか!
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「う……ん?」
気が付くと、最近見慣れてしまった天井を見上げていた。ここは俺の為に用意して貰った部屋で間違い無いだろう。
天井だけで分かるほどの馬鹿でかいあの部屋だ。
……どうやら、いつのまにか寝てしまっていたらしい。
恐らく、アリアンさんが俺に投げられた短剣を素手で掴み取った後、脳内に鳴り響いていた音声が消えた。
それで安心して、俺はそのまま寝てしまったんだと思う。
うん、体調は万全……とは言えないけど、少なくとも脳内音声からのストレスからは解放されたようだ。
……な、なんか必死だったからあの時は何も思わなかったけど、とんでもない人に一生返せない様な借りを作ってしまった気がするんだが……まぁとりあえず、今度会ったら礼は言っておかないとな。
それよりも、だ……今の状況を整理しないとな……まずはコイツからだ。
「……何で膝枕してんの?」
俺は天井の次に映し出されたアルマスを見てそう言った。
後頭部にはそれはそれは柔らな感触がある。
どういった心境でこうして居るのかは判らないんだけど?そして俺の問いに対してアルマスはこう答えた。
「サービスです」
「おれそう言われて金取られた事あるぜ?」
「じゃあ5万で」
「たけぇ……」
「………」
「………」
やり取りが全く続かない。
なんでそんな深刻な顔してるんだこのおバカロボットは……
アルマスは膝枕をしながら一定のリズムで俺の頭を撫でている。
すごい恥ずかしいんだけど、体はまだキツイし、あまりに心地良くて何も言わずにされるがままだ。
そんな風にボーッとしながら無抵抗で居ると、アルマスが声を掛けてきた。
その表情は申し訳なさそうに沈んでいた。
「ごめんなさい……マスター……」
「お前寝てる間に何しやがった?」
「私だって素直に謝りたい時があるのですよ?」
「普段の自分を見てみな」
それでもアルマスはそれ以上は突っ込んで来ずに、申し訳なさそうに謝罪の訳を語り始めた。
「貴方は死んでいました……あの短剣による投擲は、私では対処のしようがありませんでした」
俺は黙ってアルマスの話を聞く。態度がどうみても真剣だったから、彼女に合わせるように俺も真剣になる。
悲しそうな表情で話す彼女に役立たずと、冗談を言いたかったが話は最後まで聞くとしよう。
「アリアンさんはあの後、直ぐに敵の元へと向かい、1分足らずで討伐し戻ってまいりました」
「助けてくれただけじゃなくて倒したのか……やっぱり強いわあの人」
……………てか1分って言ったか!?どんだけすごいんだよあの人……いや、敵が弱かったとか無いよね?もしそうだったら俺ってザコに追い詰められた事になっちゃうけど?
それは嫌なので、あの透明人間は強敵だと孝志は思い込んでおく事にした。
「──はい。ですのでマスターが生きているのはアリアンさんと……自らの幸運のおかげです」
話すアルマスは寂しそうで……あの場に自分が居なくても大丈夫でしたよと、そう言っている様に聴こえた。
実際にアリアンさんに出会うまでの道を選んだのは勘に任せた自分だし、敵を退けたのはアリアンさんだが、それは違うと思うぞ?
……仕方ない。コイツにはいろいろ助けて貰う予定だし、励ましの言葉でも掛けてやるか。
「私には結局、主を救うことなんて出来ないのですよ」
「別に大丈夫だったから良いじゃん?」
「………」
「それにぶっちゃけた話、アルマスは最後までずっと俺の為に警戒してくれてたし、励ましたりもしてくれただろう?──戦いなんて強い人達に任せておけばいいんだし、アルマスは出来る範囲で最高の手助けをしてくれたと思うよ?」
まぁ、これは紛れもないホンネだけど。
俺が真剣にそう言うと、アルマスも悲しげだった表情を真剣なものへと変え話の続きを聞いてくれる。
「ていうか、あれだけ凄いスキル見せられた後に、そんな悲観的な事言われても説得力無いぞ?これからマジでアルマス頼みで行くつもりだから、頼むぜ?」
これからアルマスは俺を養って行かなければならない……この事は是非忘れないで頂きたい。
「それに考えても見ろよ?なんだかんだ俺たちって今日出会ったばっかりなんだぜ?そこまで気にする様な間柄でも無いだろう?」
そうだ、戦いが始まってからアルマスの態度が尋常じゃない気がする。
いや、アルマスとしては俺が死んだら消滅してしまうとかか?……もしそうなら必死になるのもわかるけど……
「そうですね………貴方にとってはそうなのでしょうね」
「どういう事だ?」
「何でもありませんマスター……今は夜のパーティーに備えてゆっくりとお休みなさい」
そう言ってアルマスは、俺の体を自身の胸元まで引っ張り、抱き枕を抱く様な感じになった。
流石に抵抗したが、結構な力だったので早々に諦めた……なにこいつオカンっぽい感じになってんの?
まぁ良いけど……さっきはほんとに疲れたからね。
「……目が覚めたらいつもと同じ調子で頼むぜ?」
いつもと同じと言っても、今日出会ったばっかりなんだよなアルマスとは。
なのに何故か長いこと言い合いをしてきた様な感じがする……まぁそう思うくらいに浅くて濃い会話をして来たって事か。
「今のおま……アルマスと話をしていても、真面目過ぎてあんまり面白くないぜ?」
「……はい」
俺の言葉を聞いて、アルマスは嬉しそうな表情で返事を返してくれた。
他にも色々言いたい事はあったが睡魔に負けてしまった俺は、そのままアルマスの胸の中で深い眠りに就くのだった。
「ふふ……本当に変わらないですね」
完全に眠りに落ちてしまった孝志に、アルマスの呟きの言葉など当然聴こえて居なかった……
アリアンは人とのコミュニケーション以外では結構賢かったりします。
ザイスも実はすごく強かったんです。
ブックマークも3500を超え、ポイント評価もストーリーと文章ともに1000に近づいてます。
数日更新出来てなかったのですが、評価して頂きありがとうございます!




