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普通の勇者とハーレム勇者  作者: リョウタ
最終章 優しい物語を、君に
203/217

2話 忙しい孝志

あらすじ


孝志に会う為にやって来た二人の女性。

彼女達は孝志を殺したのが自分達だという。

祖母と父親が自分の所為で居ない今、孝志はどう対処するのか……?


「ハイズバインドッ!」


「………ハッ!!」


オーティスとフェイルノートは同時に動き、アーサーに攻撃を仕掛ける──その少女が孝志を殺したとアイギスが話したからだ。


オーティスは拘束魔法で動きを封じ、フェイルノートが爪で襲い掛かった。

肉弾戦ではアリアンを凌ぐフェイルノートが、オーティスと連携を取っているのだ……幼い見た目の少女に敵う術などあるまい。


しかし相手が普通の少女だったらの話だ。

大勢の眼を掻い潜り、孝志を暗殺したアーサーが並大抵な相手である筈がない。


オーティスの魔法は無効化され、フェイルノートの爪による攻撃は、光の速さで抜刀されたアーサーの剣で弾き返される。


アリアンをあれほど苦しめた爪が全く持って通用しなかった。アーサーという少女はその見た目に反し、恐ろしい力を持っていた。



「……なっ!?」


酷くあっさり跳ね返された。

魔王テレサ、ティタノマキア以外に、まさか自分の攻撃を簡単に遇らう相手が居るなんて……フェイルノートは信じられなった。


だから少し動きが止まってしまった……

驚きにより生まれた僅かな隙……


……しかし、それが命取りになる。



「──ッ」


アーサーは剣でフェイルノートを横から斬り払う。

大理石の地面を衝撃波で捲り上げ、超スピードで繰り出される一撃。



「……ぬぅ……ぐぁッッ!!」


攻撃以外に、耐久面でもフェイルノートは自身があった。不死身による再生機能……それにより長期戦でこそ吸血鬼は真価を発揮する。

アリアンとオーティスが二人係で仕留め切れなかったのはその所為だ。

序盤優勢でも、長く戦い続ければフェイルノートに分がある……相手がテレサほど圧倒的なら別だが。


今もフェイルノートは壁際まで吹き飛ばされている。

後ろに後退したが間に合わず、腹に大きな切り傷を負った……ただし、再生能力でものの数秒で起き上がれるだろう。


それは二度戦ったオーティスも知っている事だ。

敵だと厄介だが味方だと実に頼もしい。



「………白の姫君?」


しかしいつまで経っても起き上がる様子は無かった。



「く……ぐが……ッ」


フェイルノートには意識が有り、どうにか立ち上がろうと指を動かしている……しかし、動かせるのは指先程度で起き上がれない。

それどころか腹の大きな傷も一向に回復する気配がない……再生が機能していないのだ。



「……なぜ……じゃ……妾には……勇者以外……傷つける……ことが……ッ!?──ま、まさか!?」


ある事が脳裏を過ぎる。

だが、それを口にするよりも早く、アーサーがフェイルノートへと迫った。



「アイスソードッッ!!」


「………ッ」


止めようと魔法を放つオーティス。

しかし、なんの足止めにもならない……氷の剣はアーサーの身体に触れた瞬間、粉々に砕けたのだ。



「ま、まずいっ!」


神殿全体を巻き込む大魔法が放てず、加えて高い魔法耐性のあるアーサーを低級魔法では止められない。

まともにオーティスからの援護がない以上、もうフェイルノートに助かる術など無かった──



──だが……



「まぁ待てって」


「………?」


壁に埋め込まれて身動きが取れないフェイルノート。

そんな彼女にトドメを刺そうとするアーサーの前に、孝志が立ち塞がった。

そして振り下ろした剣が孝志に当たる直前……首元でピタリと止まる。



「………なっ!?」


アイギスは息を呑んだ。ほんの一瞬、アーサーが踏み込んでいれば孝志は死んでいたからだ。

少し前なら殺して良かったが、既に作戦は次のフェイズに移行している。

魔王テレサに何かあった時の為に、孝志は生かしておく必要があったのだ。



「……まぞく……なぜかばう……」


アーサーが初めて言葉を発する。

幼さの残るあどけない喋り方だ。



「……俺の為に戦ってくれたから」


言った後に孝志は振り返る。

背後では血だらけで倒れているフェイルノートが、眼を細めながら孝志を見つめていた。



「す……すまぬ……のう……」


「フェイルノート」


「な……なん……じゃ……?」


「いやいや、敵だと厄介なのに味方になった途端弱くなったよねっ!」


「あんま……言わないで欲しいのじゃ」



フェイルノートは気まずそうに目を逸らした。油断していたが、その油断して負傷した事こそ実力そのものなのだから言い訳のしようがない。



「……はむはむ」


アーサーは注意深く孝志を観察する。

一見すると無駄口を叩いてるように見える二人の会話だが、もしかしたら何か策略があるかも知れない。

フェイルノートという最強戦力が倒されたのに焦る気配がないのはどう見ても怪しかった。

それはアイギスも同じ……二人は警戒を強める。


まさか孝志が阿保なだけとは思いもしない。



「………なぜ余裕なのだ?」


しかし、それなりに付き合いの長いオーティスには分かっていた……孝志がアホであるという事を。

故に策が無いのを分かっており、すぐさま孝志の側に駆け寄った。



「多分、殺されないと思ったから」


「……何故に……?一度殺されたのだぞ……?」


「向こうは俺が生き返った理由を知りたい筈だ。だからそれが分からない以上、むやみに殺したりはしない──そうだろ?アイギスさん?」


「え……全然違うけど?」


「マジか!?あっぶね〜!おれ死ぬところだったんだけど!?オーティスさん俺ヤバかったって!」


「……う、うむ(相変わらずアホであるな……やる時はヤル男ではあるのだが……)」



アイギスは分からなかった。

この孝志をどうすれば良いのかを……しかし、悩んでいても仕方ない。

彼女は当初の目的を果たすことにする。



「松本孝志。私達と共に聖王国へ来てください」


「………どうしようかな?」


「来なければ殺しますよ?」


「やれるもんならやってみろ」


「どうしてそんなに強気なのですか?」


何故か脅しが全く通じない。

アイギスは別の方法を試してみる事にした。



「……では、そこの吸血鬼を治療して差し上げましょう」


「………本当か?」


「……意外に食い付きますね?もうちょっと非道な男だと思ってました」


「非道?どの辺がよ?」


「……顔立ち」


「顔の何処よ?」


「……目元」


「目がどんな感じで非道なのよ?」


「ああもう!しつこい!」


面倒くさいタイプ。

というか話してて頭が痛くなる……それが松本孝志。

今まで聖王国の神殿で、それはそれは大切に育てられたアイギスが、孝志とレスバトルで勝てる筈もなかった。孝志はこの手の言い争いにおいて無類の強さを発揮するのだ。



「まぁまぁ孝志よ……その辺で良かろう……」


オーティスはあまり挑発してもダメだと二人の間に割って入る。孝志とは違いオーティスには余裕なんてない。フェイルノートが倒された以上、戦いになれば勝ち目など無いのだから。



「じゃあフェイルノートの傷を治してくれるなら聖王国へ行きますよ」


孝志は提案を受け入れた。



「……た、たかし……?」


まさか自分のため敵に囚われる道を選ぶとは……孝志からの好感度がそれほど高くないと自覚していただけに、フェイルノートは驚きを隠せなかった。



「のじゃフェイルノート」


「たかし……すまぬ……足を……引っ張って……」


「お前、さっき俺を馬鹿にしたよな?」


「……まぁ……そうじゃが……?」


「それなのに助ける俺の器、デカいと思わない?」


「ん?……いや……そうじゃな」


「だろ?……俺くらいだぞ?馬鹿にした相手を助けるほど優しい男は」


「……あ、うん」


「いや〜聖王国行きたくないわ〜……なのになんで行くかって?──行かないとのじゃフェイルノートの怪我が治せないからね。君を助ける為に僕は聖王国へ行きます!」


「…………………………アリガト」

(こんな恩着せがましいヤツ……初めて見たのじゃ。というかのじゃフェイルノートってなんじゃ?)



フェイルノートは治療の為に同行する事になった。

此処では治せないらしい。


そして今度は孝志が条件を提示する。



「オーティスさんも連れてって良いですか?」


「……ダメです。そこの吸血鬼だけでも特別なんですよ?これ以上はダメです」


「なんでダメなんですか?」


「ダメなものはダメです」


「ダメダメうるせーな……み◯えかよ」


「第一、そんな男がなんの役に立つと言うのです?アーサーに魔法を弾かれたんですよ?大した役に立つと思えませんが?」


「………耳に痛い話だ」


もちろんハッタリだった。

聖王国でオーティスとまともに張り合える者など、アイギスの知る限り、アーサーとランスロット……そして邪竜フローラくらい。


故に、厄介な存在を連れて行きたくは無かった。


幸いにも聖王国は秘匿された国……どれだけの戦力があるのか他国にはあまり知られてない。

なので敢えてオーティスを卑下し、連れて行っても無駄だと思わせようとする。



「ふ……貴方以上の魔法使い、我が国に沢山居ます。来たところで袋のネズミ──」


「えぇぇ!?本当にぃ!?我以上の魔法使いがたくさん居るのぉ!?是非連れて行って欲しいっ!!」


「あるえぇ??」


これ以上ないほど逆効果。

アイギスはオーティスの探究心を甘く見ていた。

自分の叡智に限界を感じているオーティスは新しい知識を求めていた──こんな話をすれば黙っている訳がない。



「楽しみであるなぁ〜くう〜!!」


「30過ぎたおっさんが何をはしゃいでるんすか?」


もうノリノリだ。孝志の提案とは関係なく聖王国へ興味を抱いている……周囲がドン引きする程に。



(……あまり話が長引くと神官タカユキと元勇者ヒロコが来てしまう……連れて行くしかないですかね?)


少し悩んだ……でもやっぱりオーティスは連れて行きたく無かった──故にアイギスは粘る事にする。



「それになんですか?その小汚い黒ローブは?そんな品のない魔法使いを受け入れる訳にはいきません」


──パチンッ


オーティスが指を鳴らすと、黒く年季のあるローブから、真っ白で高級そうなローブに服装が変化した。



「…………これなら良いかね?」


「……まぁ、はい」


みすぼらしさが欠片もなく、アイギスは何も言い返せなくなった。

もうこっちは無理だと諦め標的を孝志に変える。



「しかし、オーティス?こんな少年に支えてて宜しいの?大した男に見えないけ──」


「なんだとぉ!?」


「ひぃっ!!アーサー!!こっち来てっ!!」


「はむはむ……おーけー」


予想以上に孝志がブチギレたので、アイギスは思わずたじろいだ。

念のためにアーサーを近くに引き寄せて、安全な状況下に身を置いてから言い返す。



「な、何を?本当の事でしょ?──それにオーティスがバカにされている時は何も言わなかったのに、自分が言われるとそうやって怒りを露わにするのですか?みっともないわね」


「いいかアイギスさん。オーティスさんが馬鹿にされようが、つばを吐きかけられようが大抵の事は笑って見過ごしてやる.........だがな!!俺を傷つける奴は許さない!!」


「普通逆でしょ?友達の為に怒りなさい!」


「孝志……我は少しショックだぞ……」


「──ああもう本当に疲れた……アーサー、もう嫌なんだけど?」


「……あいぎす」


「どうしましたアーサー?」


「わざわざ……ていあん、きかなくても、むりやりつれていけばいい……とおもうよ?……はむはむ」


「………………ああっ!!」


「………なるほどな」


孝志は一連のやり取りで気付いた。

この二人も所詮アホだと。この世界で何度も見て来たヤバい奴の二人に過ぎない。そしてヤバい奴の対処なんて孝志にとってはお手の物。



「じゃもう無理やり連れて行くわ!オーティスも吸血鬼も置いて行くわね!」


「はぁ?散々交渉しといて、そりゃ無いだろ」


「な、なんとでも言いなさい!」


「はぁ〜……さっき俺の器の大きさ見せたよな?それに比べてなんて器の小さい人なんだ。そんな人に着いてくなんて……やだなぁほんと」


「…………え、あ、いや」


「まぁ無理やりなら行くけどさ……しょーもない。じゃあオーティスさん行って来ますわ。フェイルノートもごめんな?なんか急に置いてくってさ。ビックリだよな?言ったこと反故にするんだぜ?フェイルノートを助けるって堂々と自分から勝手に言っといて、なんかもう──」


「三人で来なさいよぉッッ!!!」


「え?良いんですか?」


「良いわよ……だからそれ以上言わないで……」


「わかった、それじゃオーティスさん、のじゃ女、行きましょう!レッツゴーッ!」


「…………」

「…………」


孝志の煽りテクニックはエグい……オーティスとフェイルノートは改めてそう実感した。



「うぇ〜ん……ア〜サ〜……」


「あいぎす……よしよし」


その傍らではアーサー(幼女)がアイギス(成人女性)を慰めていた。






次回は8月14日に投稿します。

アルマス視点の話になります。


※ティタノマキア

王国の第三皇女が呼び出した悪魔です。

この最終章で大暴れします。


※フェイルノートの再生能力

勇者以外から受けたダメージは瞬時に再生する。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 祝更新。 あいも変わらずの孝志節でニンマリ。敵味方関係なく孝志が孝志らしさで無双する(テレサとか関係なく)のって意外と久しぶり。フェイルノート戦以来かも。 あっちの方の執筆効果ですかね。 …
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