プロローグ 〜拡大する呪い〜
あらすじ
何者かに殺された孝志は、この世界に来ていた父親に命を助けて貰う。
そして祖母の弘子と再会する。
この時、オーティスとフェイルノートも同行していたが、残されたアルマス達は孝志が死んだと思っており悲観に暮れていた。
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〜テレサ視点〜
──孝志は僕の事を見捨ててなかった。
ずっと連絡がなくて不安だったけど、さっき連絡が取れるようになったから大丈夫。
良かった……これで孝志とまた連絡が取れるようになる。僕には彼しか居ないからね。
僕がホッとして一息吐いてると、背後から誰かがやって来た気配がする。
……誰だろう?僕に近付いて大丈夫な人なんてあまり居ないと思うんだけど?
僕は何も考えずに振り返った……するとそこには黒髪の女の子が居た。
「……誰?」
「…………」
返事がない。
でも僕の近くに居ても大丈夫なのかな?
もしかして体調が悪いから黙って居るのかも……だったら少し離れた方が良いよね?
──僕は急いでそこから離れた。
孝志と連絡が取れる様になったんだから、此処から離れても大丈夫。
魔法で背中に羽根を創り飛び上がろうとした。
「……マッテヨ」
「……え!?」
初めての経験だった。
僕が向かう先にさっきの女の子が立ってた。それも気配を一切感知させずに……どうして?
「……誰なの?」
油断……していたけど彼女から目は離して無かった。
なのに動きが何も見えなかった……あんなに早く動ける人なんて──
──僕以外知らない。
「ボクイガイ……シラナイ?」
「……心を読んだの?」
初めてだ……ちょっと危ないと思った相手は……
でもなんだろう?何処かで会ったことがある様な気がする……凄く見覚えがある。
僕と同じ位の背丈で、僕みたいにツノが生えてて、僕みたいなスピードで動けて──あれ?
「……呪いに掛からなかった……僕の姿なの?」
「……………」
『うん』とも『いいえ』とも言わずに、ただじっと僕を観ている。
本当に僕なの……だったらどうしよう!
怖い……得体が知れない……どう相手して良いのかわからない。
「………!!」
でも……それ以上に、いけない感情が込み上げる。
僕は胸を押さえて否定する……そんな風に思っちゃダメなのに……!!
僕は………
……あの子が憎いと思った。
僕と同じなのに呪いに掛かってないなんてズルい。
僕がこんなに苦しんでるのに……なのにあの子は呪いを受けず、本来の僕の姿で立っている。
「………ううん!違う!」
そうだ違う大丈夫っ!!僕には孝志が居るから!!
孝志と出会う前なら許せなかったかも知れないけど、孝志と出会ったから大丈夫っ!!
僕は前に進む事が出来ている!!
だから大丈夫なんだ……!!
「──ホントウニ?」
「……え?」
いつの間にか目の前に『僕』が立っていた。
速すぎる……でも目で追えない訳じゃない……だって僕だから……今のも油断してただけ。
「さっきから何が言いたいんだよ……!」
「……イッショ」
「……へっ?」
『僕』が手を伸ばして来た。
「僕』は心の隙間に入り込むかの様に。
『僕』の胸に手を挿れて来た。
「ちょ、ちょっと……離れてってばっ!」
「………タカシ……殺しチャウヨ……?」
「……ッ!!ふざけるなっ!!」
──ドゴォォンンッ!!
「……あ、ぁ……」
初めて思いっきり誰かを殴っちゃった。
嫌な感触……だから暴力は嫌なんだ。
でもこれもきっと大丈夫……アレは幻だったんだよ。だって殴ったら消えてしまったんだもん。寂しいから錯覚を見てしまったんだね。心を強く保たなきゃ。
「………はぁ……はぁ……あれ?」
手の震えが止まらない……そういえば、憎しみを込めて誰かを殴ったのも……殺すつもりで殴ったのも初めてだ。
だって『僕』の顔で孝志を殺すって言うんだもん!
許せなかった……呪いを持っていない僕の癖にっ!
ダメだ……これ以上考えると自分が嫌になる。
もう十分いやだけどこれ以上は絶対にダメ。
「……いまの出来事は忘れてしまおう」
僕はそう思って切り株に腰を下ろした。
だけど座ろうとした瞬間…………僕の脳内に音声が流れた。
【呪いの拡大を通達します】
このタイミングで?
……でもこれは偶に聞こえるスキル音声。
だいたい数ヶ月に一度くらいの周期で訪れる……呪いを拡大させるモノだ。
いつも数百メートル単位で拡大させて行く……今では半径二キロの生物に効果を及ぼすようになってしまったけど……急激に広がることはない。
僕はいつもの様に機械音声に耳を傾けた。
【呪いの範囲を2キロ160メートルから──
──200キロに拡大します】
…………
…………
………え……200キロ……嘘……?
何の事だか分からなかった。
ただ手足が震える……心よりも身体が先に理解してしまったのだ……このまま此処に居るとマズイと。
数十キロ先には町がある。
テレサの呪いに耐性なんて持ち合わせてない、か弱い町人達が大勢暮らしている。
【拡大まで残り一分】
「ま、まま、待って!──孝志っ!ねえ、聞こえる孝志!?」
ダメだ、繋がらない!
さっきは出来たのに……アダムって奴から助けてくれたのに……!!でも待てない!!早く逃げないと沢山人が死んじゃう…!!
──だけど周囲200キロに生物が存在せず、寄ってくる事もない場所なんて……世界の果てにある大地しかない。
恐ろしく遠い場所……でも僕のテレポートと本気のスピードをフルに使えば一分以内には辿り着く。
でもそこだと魔力濃度が低いから、精神リンクが使えない……もう孝志と連絡が取れなくなっちゃうよ!
僕は悩んだ。
大勢の人を犠牲にして留まるか……それとも孝志を諦め、誰も居ない最果ての地を目指すか。
「………………………孝志……ごめん……どうか僕を見つけて……お願い……!」
散々悩んで僕は逃げ出す道を選んだ。
決断してからは一瞬──僕はテレポートの後の超スピードで最果ての大地に辿り着いた。
なんにもない……本当に寂しい場所へ。
「ほ、本当に一人ぼっちになっちゃった……ど、どうしよう……孝志……助けて……」
身体を丸めテレサは少年が来るのを待ち続ける。
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〜???視点〜
──聖王国の教皇・アイギス。
白いローブを着込んだ女性。
身長は高く、スラッとしたモデル体型。
彼女は騎士を連れて森の中に立っていた。
その森とはさっきまでテレサが居た場所である。
アイギスは一緒に来ていた騎士に声を掛けた。
「どうやら上手くいきましたね、アーサー!!魔王テレサは【自分の心】を殴り殺したわよ!!」
大人びた口調で物騒なことを言い放つ。
相手は水色の髪で幼い少女……白い甲冑を身に纏う少女は聖王国でアイギスの親衛隊として存在している。
「…………」
アーサーは声を発することなく黙って頷いた。
彼女が何を思っているのか……その無表情な顔からそれを読み取るのは難しそうだ。
だいぶ手詰まりで投稿が遅くなりました。
結末は決まってますので、そこに至るまでの経緯をなんとか書き上げたいです……
次話は7月31日に投稿予定です。
無理ないように書いていこうと思います。
宜しくお願いします。




