44話 孝志の新しい家族
諸事情により早めに投稿しました。
「──我は席を外そう……信じ難い話だが、いやしかし……二人が本当の家族であると言うのならば……親子水入らずな話があるだろう……しからば失礼する」
孝志の無事を確認できたのもあり、オーティスは部屋を離れようとする。
久しぶりに披露された厨二病口調のオーティス。
その鮮やかな引き際に黙って見送りそうになるが、オーティスが部屋を出る直前に『ハッ』と気が付き孝志は中二病を呼び止める。
「あ、オーティスさん!」
「む?」
「いろいろとありがとうございます」
「……ふ、気にするな」
義理堅い孝志にオーティスは笑みを浮かべ答える。
孝志を生き返らせるのに無理な魔法を使ったり、老賢者と交渉したり実は案外苦労した。
しかし、こうしてちゃんと礼を言われると苦労して助けた甲斐が有ったと……そんな風に考えオーティスは内心喜んだ。
孝志はそういった所はしっかりしている。アダムのように人格を乗っ取る不審人物でもない限り、こうやって助けて貰った時に感謝の礼を忘れないのだ。
「──それからアルマス嬢や橘穂花も心配していたぞ?……話が終わったら帰って顔を見せると良い」
『帰って顔を見せると良い』──そんな言い方をするんだから近くに居ないって訳か。
この俺が目を覚ましたと言うのに、あのアルマスが真っ先に駆け付けて来ないのはおかしいと実はずっと思っていた。
立ち直れないほど凹んでるに違いない……あんな顔で泣いてたからなぁ。
穂花ちゃんも同じく心配だ……アルマスみたいに俺を激愛してないとは思うけど、弘子の兄として慕ってくれていたからな……穂花ちゃんも凄く泣いていたし。
だから俺からも早く二人に会いに行きたい。
いや、傷口を塞ごうとしてくれたマリア王女、他の皆んなにもちゃんと礼を言わなければ……そう考えるとマジで迷惑掛けちゃってるわ。
「すぐに帰れるんですか?」
「………………あっ」
──それを聞いてオーティスは思い出した。
孝志を生き返らせるのに必死で帰り道を確保していなかったという事を。
無理な魔法行使により魔力も殆ど残って居らず、ロード・オブ・パラディンの力も使えない。
つまり、1日のインターバルを空けなければ、遠く離れたアルマス達の元へは帰れないのである。
「まぁその話は追い追いするとしよう……今は親子水入らずな話があるだろう……しからば失礼する」
そしてオーティスはクールに去って行った。
色々悟った孝志はそれを冷めた目で見届ける。
「……うむ、王国三大戦力にして史上最強の魔法使いか……良いところあるじゃねーかよ、家族の再会に気を遣ってくれるなんて」
「いや単に直ぐに帰れないから、それを誤魔化してるだけだと思うぞ?だって親子水入らずの言い回し2回も使いましたやん」
「いやいや王国三大戦力だしそりゃ無いぜ?」
「いやいや、もう逆にいやいや。王国三大戦力とか頭のネジのイカれた連中の集まりだからなっ!特にアリアンさんとかっ!」
「………」
「………どうした?」
「アリアンと交流があるんだな?」
「まぁそうだけど。あの人のヤバさってそんな広まってるの?」
「ヤバさと言うか……なんというか」
「…………?」
「まぁまぁ、それは置いといて──再会してする話しかどうか迷ったがやっぱり今すぐ言うことにした。少し俺の話を聞いてくれないかね?」
「なんか怖いんだけど?」
「んーや?ちっとも怖い話ではないぞ?……ただ、孝志は嫌な気持ちになるかも知れない」
嫌な話か……でも慣れてるんだよな。
どうせそこまで嫌な話でもないだろう。
「どんな話?」
「そうだな……まずは、俺がこの世界でどうな風に生きて来たか。そこから話さないとな」
「………分かった」
孝之は自分の過去について話し始める。
─────────
それは、孝志が如何に恵まれた環境に居るのか、改めて思い知らされる話であった。
まず最初に、孝之を呼び出したのはラクスール王国ではなく【ゲスリダ】と呼ばれる小国だ。
この国は独自で編み出した転移術で異世界人を呼び出し、奴隷として労働させる屑の集まりだった。
そんな中、孝之は偶然にも【蘇生魔法】を覚えており、ゲスリダ小国で亡くなった重役や騎士の蘇生を行わされていた。
情報を秘匿していただけに、その蘇生魔法の存在が世に知られる事こそ無かったが、オーティスのような熟練の魔法使いなら特別な情報網で知れたりも出来る。
魔法使いには、王族や一般人とは少し変わった情報共有のバイパスが存在しているのだ。
散々蘇生魔法を使わされて疲弊しきっていた孝之だったが、ある出来事をキッカケに逃走を測っており、こうして獣人国へ逃げ延びることに成功したのだ。
「………苦労してたんだな、父さん」
もし、アルマスやユリウスさん達と出逢えていなければ自分も同じような道を歩んでいたかも知れない。
それにブローノ王子、王女マリアが悪人だったら?それだけで環境は随分と変わって居ただろう。なんだかんだアリアンさんにも助けられてるし。
「まぁな?最初は苦労した分、この世界を恨みもしたが今はそんな事ない。獣人国で色んな出逢いに恵まれたからな──それに」
話を途中で止め、孝之は息子の頭に手を伸ばし乱暴に撫で回した。
「こうして息子のお前に出逢えたからな!俺は幸せ者だぜ!!」
「………………」
「ん?どうした怒らないのか?頭を撫でてるんだぜ?ほら殺したいだろ?んん?」
「いやそんな事より、歳食ってる癖に喋り方は昔と変わんねーのな」
「お、おう………今の状況を『そんな事より』で片づけられる父さんの身になってくれるかね?」
「………はんっ!」
言うまでもなく、孝志の照れ隠しである。
向こうの世界で死別し、二度と逢えない筈の父とこうして出逢えた。それどころか写真でしか見た事のない祖母にも会うことが出来た。
失った筈の家族と立て続けに出逢えてるのだから、そんなの嬉しいに決まっている。
それでも孝志は表情を変えない……他人に弱みを見せるのが苦手だからだ。
「はははっ!」
「………っち」
ただ、それを父親の孝之が知らない筈もなく……今も変わらない息子の姿に胸を打たれる。孝之は涙を堪えて、さっきよりも乱雑に孝志の頭を撫で続けていた。
──────
数分後、ようやく気持ちの落ち着いた孝之は話を再開する。弟子と話をする時に見せていた大物感溢れる威厳はそこにない。
今の孝之はただ息子を可愛がるお茶目な父親だ。
「んで、此処からが孝志にとって嫌な話になる」
「え?さっきも充分嫌だったぞ?」
「アレは俺が受けた嫌な出来事だ………これからするのが、孝志が聞いて嫌な気分になる話だ」
「……まぁ聞こうか」
言い回しでだいたい何の話か察したが、本人の口から聴くのが一番良い。話の腰を折らずに黙って居よう。
「父さんな……この世界で嫁さんを貰っちまった」
「………此処に来て何年後くらい?」
予測していたからスムーズに返せた。
俺が聞いて嫌に思う話と言ったら、この世界で新しい家族が出来たこと位しかないだろうからな。
それよか凄く気不味そうだけど、そんな難しく考えなくても良いのに。
「32歳でこの世界に来て、出逢いが有ったのが42歳──ちょうど10年って所かな?」
「なら良いんじゃないか?」
「………え?」
「流石に一年足らずで結婚とかになると『ん?』と思うけど、10年も独り身だった訳だし、母さんも許してくれるよ」
「そうかな?」
「ていうか、父さん向こうだと死んで火葬までされてんだぞ?別の世界で生き返って、違う人と結婚してても文句なんか言えねーよ」
「言われてみれば確かにそうかも………」
「だからっておいっ!」
「冗談冗談………ははっ」
「………」
「サンキューな、孝志」
「別に良いよ。あと、別に父さんが浮気しようが、母さんが浮気しようがあんま気にしないけどね」
「おいおいストイック過ぎない?」
「だって気にすると面倒臭いじゃん?」
「お前……相変わらず歪んでんなぁ」
孝之は思い出した……そう言えば子供の頃から無駄にストイックだったと。
だから恐らく、この世界で嫁を娶ったという話を本当に気にして居ないだろう。
だからネガティブに考えるのは止める。
此処からは息子が喜びそうな明るい話題に華を咲かせる事にした。
「それでだ……此処からは少し良い話をさせてくれ」
「絶対に良い話だな?」
「おうっ!確実にお前なら喜ぶぞ!」
「よしっ!お聞きしましょう!」
自身を良く知る父親が確実に喜ぶとまで言うのだから孝志は期待に大きく胸を躍らせる。
「孝志、実はお前に美人の妹………いや姉ちゃんが居るんだよ!」
妹から姉に言い直したのは、この世界だと年齢が上だからか………って時間軸がややこしいわ!
時の流れるスピードが向こうの世界の10倍って今更だが何でやねんっ!
…………
しかし、姉ちゃんか………お互い父さんの血が流れてる訳だし、この場合は実姉という事になるんだろか?
それとも義理の姉?
まぁどちらにせよ、一度は会ってみたいかも。
「今、この家に居るの?」
「家じゃなくて神殿な」
「どうでもいいわそんなの」
「どうでも良いって酷いな」
孝之は弟子がさり気なく持って来たコーヒーを飲み、一旦間を空けた。
そして言い淀みながら孝志の質問に答える。
「娘はここに居ねーよ──つーか何年も会っちゃ居ないよ」
「奥さんと別れたのか?」
「嫁は少し前に亡くなった」
「……そうか」
死別か……俺も目の前の親父で経験したけど、家族との別れは辛いんだよな。
じゃあ娘も……?
いや、わざわざ娘の話をする位だから生きてる筈だ。じゃあどうして居ないんだろうか。
解らないことだらけだが今は父さんの話を聞こう。
「十数年前、この獣人国を離れていた期間があったんだけどよ?そのタイミングで運悪く戦争に巻き込まれてな……戦火の中逃げ回ってたら娘と逸れちまったんだよ。そのあと何年も必死に探し回ったが、結局見つけられなかった……嫁さんと二人で途方に暮れちまったよ」
「って事は行方不明なのか?」
この質問に孝之は首を振りながら即答する。
「いやそれがよ!数年前に見つかったんだ!しかもラクスール王国でなっ!」
「……良かったじゃん」
そうか、無事だったんなら良かった。
父さんにはあんまり苦しんで欲しくなかったから。
「それで俺の妻の話に戻るが──実は彼女、人間じゃない……修羅族という魔族なんだよ」
「ああ、修羅族にはアッシュっていう知り合いも居るし、どういった感じか知ってるぞ?要するのに戦闘民族なんだろ?」
「おお!そうか知っていたか!修羅族ってのは戦いに特化した種族で見た目は人間と全く変わんねーからな!ってか知識が豊富ですげぇじゃねーか!流石は孝志だっ!」
「だろ?」
「おう!──それにお前の様子を見る限り、人間じゃない妻との娘にも抵抗は無いようで良かったぜ!」
「流石に見た目ガイコツとかだったら嫌だったけど」
「いや骨に興奮しねーわ、流石によ!」
「ふーん」
でも修羅族か……アッシュみたいに脳筋だったら嫌だなぁ。でも父さんの血が流れてるし大丈夫……か?
「それから妻の名前は【アリア】って言うんだ」
「ふ~………………ん?」
「そして産まれた娘はアリアにそっくりでよ……髪の毛なんかも同じで綺麗な赤い色をしているんだぜ」
「んんんんんんん?」
え?妻の名前がアリアって………なんか良く知る人物にそっくりな気が……それに赤い髪の色なんかも──いやいやアリアなんて名前は異世界だと良く居る良く居る!髪が赤い人も沢山居るし大丈夫大丈夫っ!
「お前より後に産まれたが、この世界だと孝志よりも歳上だ……年齢は今年で25歳になるんだ」
「んんんんんんんんんんんんん?」
「くくっ……実はよ、さっきお前が話題に出してた女性なんだぜ?俺に会う前にもう出逢っちまうんだもんなぁ……これは巡り会う運命って奴だっ!ビックリしちまったよ!」
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん??」
「察しの良いお前ならもう気付いただろ?──ラクスール王国の三大戦力にして剣帝ユリウスに次ぐ実力者と言われる誉高き女性──
『アリアン・ルクレツィア』
──それが孝志の姉ちゃんの名前だっ!もう顔は知ってるだろうがスゲェ綺麗な女性だぞ!どうだ嬉しいだろっ!ははは!このスケベめっ!」
「んんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん?????????????????」
実はだいぶ前から考えていた展開です……ようやく此処まで持ってこれました。
そして次がこの章のエピローグです。
次章はアリアンとテレサ回です。
これからも応援宜しくお願いします。




