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普通の勇者とハーレム勇者  作者: リョウタ
6章 普通の勇者とハーレム勇者
182/217

32話 いざ、決戦の地へ 〜マリア視点〜

ちょっと長いですが……


♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~マリア視点~


──馬車へ乗り込む前にマリアは一度立ち止まった。



……此処までずっと付き添ってくれて居たライラとケイトへお礼を言わないとね。彼女達には随分と助けられたし、何より彼女達の助けがなければ孝志様が来る前に殺されてたかも知れないわ。



「ライラ、ケイト。貴女達には本当に助けて貰ったわ、ありがとう。私が留守の間ラクスール王国をお願いね?」


第二王女から送られる感謝の言葉を聞き、言われた二人は微笑みながら会釈をした。王族に仕える戦闘メイドとしてこれ以上に嬉しい賛辞の言葉はないだろう。



「ではマリア様……お気を付けて」


「気を付けてっすよ!」


「こらっ!ケイトッ!マリア様に対してなんて口の聞き方を──」


「大丈夫よ、ライラ。ケイトの性格はだいたい掴めて来たから」


「マリア様がそう仰るのでしたら……」


「うぅ……ごめんよ~……マリア様、ライラァ~……気を許した相手にはこんな喋り方だからぁ……」


「……ふふ、では行ってきます」


二人とも私が乗り込むまで見送ってくれた。

でもその後直ぐに、ライラはケイトの頭を優しく撫でているのが窓越しに見える。


お姉さん……みたいなモノかしらね?



──マリアが二人を眺めながらそんな事を考えていると、全員が乗り込んだことで閉められた筈の扉が勢い良く開かれる。そしてマリアの良く知った人物が乗り込んで来た。




「──マリアッ!!マリアッ!?」


その人物の正体はネリー第一王女である。

マリアの近くに座っていたアリアンとオーティスは立ち上がり歓迎の意を表す。

ただ、アルマス2は物凄く嫌そうな顔で睨み付けているが、ネリーはその視線に気づく事はなく、真っ直ぐマリアの側へと歩み寄った。



「……ッ!?この声は!?」


お姉さんについて考えたてたら、本当にお姉様が駆け付けてくれたみたい──!!

馬車の中に入って来たかと思ったら、真っ先に私の方に近寄って来るわ……か、勝手な事をしているから怒られるのかしら?



「……これ」


「……え?」


お姉様に怒られる……そう思っていたけど、お姉様は何も言わずに一つの小刀を渡して来ました。

これは少し前に、お姉様が20歳の誕生日記念で贈られた魔武器よね?

これを媒体に中級までの風属性魔法が簡単に放てるという……ラクスール王国でも本当に珍しく貴重なシロモノ──そんな大事な物を、私に?



「す、少しでも備えがあった方が安全だと思うし……それに私は要らないからマリアが持って行きなさい」


嘘よ……あんなに喜んでたじゃない。

それなのに……こんな大事な物を受け取ることなんて出来ないわ。



──その時の事をマリアは思い出していた。

当時、ネリーの優しさに気付いてなかった頃のマリアでも、魔武器を貰い喜ぶ姉を見て『こんな一面もあったのね』と思わず呟いていた。

ネリーと仲違いをしていたマリアですら印象深く記憶に残っているのだから、その時に見せたネリーの喜びは並大抵では無かった筈である。


マリアがいつまでも受け取らないので、痺れを切らしたネリーはマリアの腕を掴み強引に小刀を握らせた。

ここまでされてしまうと最早受け取るしかない。



「……本当に、お預かりしても宜しくて?」


「貸すんじゃなくって、あ、あげるわよ。私が持っててもどうせ使い熟せないし。魔力に優れた貴女が使いなさい」


「そんな事ありませんっ!!」


「ひゃいっ!?」


そう叫ぶとマリアはネリーに勢い良く抱き着いた。それによりネリーから短い悲鳴が漏れる。


ネリーは慌てふためくも、うっすら涙を流すマリアを見て、彼女の泣き顔が周囲から見えなくなる位置に体を動かした。マリアの顔が壁際で隠れる形となる。



「マ、マ、マリア、恥ずかしいから辞めなさいっ」


「お姉様が悲観的な事を言うからですっ!」


「…………でも今更……この小刀でも上手く魔法を制御出来ないのよ。もうどうしようもないでしょ?」


「大丈夫ですっ!!私が誠心誠意協力しますっ!──もちろんオーティスだって必ず手助けをしますっ!」




唐突に名前を挙げられ驚きを隠せないオーティス。


「……え?我のこと言ってる?どうして急に?我そんな暇ではないぞ?」


「オーティス黙ってろ」


涙を流しながら二人のやり取りを見ていたアリアンが、オーティスのツッコミを止めた。


「……………」


「うぅぅぅ~~……ネリー王女ぉ……ほんとに昔の優しい王女に戻られた……グズッ!」


「………ネリー王女にあるのは……魔法ではなく……剣術の才なのだがな……」


「……そこを何とかするのがお前の役目だろ?それに王女という立場で剣術を習うのは色々と面倒なんだ」


「うむ……」


恐らく、今からでも鍛えれば数年後には六神剣をも遥かに凌ぐ力を身に付けるだろうとオーティスは睨んでいる。

しかし王子はともかく、王女は魔法を習っても肉体が傷付く恐れのある剣術を磨く事は殆どない。例外としてネリーが偶に人目を盗んで遊ぶ程度なのである。

それを三大戦力は残念に思っていた。折角の才が王女という立場で生かし切れてないのだから……


因みに、可哀想な話だがオーティスの見立てだとネリーに魔法の素質はない。魔武器に魔力を通す事ですら満足に出来ないのだ。

ネリー本人も、それを自覚してしまったのであろう。だから自分には扱えない魔武器をマリアに譲渡しようと考えたのだ。



「お姉様。この刀は有り難くお借り致します。ですが帰って来たら必ず返しますので、それはお忘れなく」


それを知らずに話すマリア。

いや、例え知っていたとしても、彼女の答えは変わらなかっただろう。才があろうと無かろうと、プレゼントとして姉が貰った物を横取りするつもりなんてマリアにない。



「……解ったわ──全く……融通が効かない妹ね」


「ふふ……お姉様に似たのかしら?」


「言うじゃない──いつまで抱き付いてるの?」


「え?出発するまでですけど?」


マリアはそう答えた後、ネリーの背中へ回していた腕に力を込める。

この光景を離れた位置からフローラが羨ましそうに見詰めていた。仲睦まじき姉妹の姿に憧れたらしい。

けどアルマス2と似た様な関係を築こうとは微塵も思わなかった……なんせあの女の頭はイカれてるから。



そして抱き着かれたネリーは身悶え悶絶する。


「………いっ!うぅん……オ、オーティス、後どれ位で出発するの?」


「はい、ネリー王女……1時間を6つに分けた……その一つです……」


「………?」


「……10分です」


「ええい分かり難いわッ!!!」


──最近真人間っぽく振る舞っているがオーティスも相当アホである。その事は絶対忘れないで欲しい。



─────────



オーティスが言った通り、それから10分ほどして出発の準備が整った。その間ずっとマリアに抱き着かれていたネリーは顔を耳まで真っ赤にしており、今は馬車の外で乱れた息を整えている。


聖王国の面々や雄星達は、ただの仲が良い姉妹としか思わなかった。


しかし、アリアンやオーティスを含む王国の者達は違った。互いに敵対していた二人の関係を知っていたので、絆を取り戻した王女姉妹を感情深い気持ちで見ていた。




「──では、準備は宜しいですか?」


アリアンの問いに乗客達は頷く。

室内はブローノ達の馬車と同じでかなり広い。

ただ皆がバラバラに座っている。


勇者陣営は奥本とミライ、雄星と中岸とミレーヌが互いに離れて座っていた。

また、聖王国は更に酷く、3名とも間を開けて個々に座っている。


まさに孝志達の馬車の中とは天と地の差が有り、目的が一緒なだけで車内にはどんよりとした空気が流れていた。

もちろんマリア、アリアン、オーティス、アンジェリカを除いての話になるが……




「お姉様~!行ってきますね~!」


「も、もう解ったからっ!早く行ってきなさいっ!」


「は~い」



「ところでアンジェリカよ……何故膝の上に座る?」


「はぁ!?他に空いてるところが無いから仕方なくだしっ!」

(師匠の膝の上あったかぁ~い……私の温もりで大きくならないかしら?)


「いや山ほど空いてるが……?」


「……ふんっ!」

(ふふ~ん♪)


「……ふぅー」


言うだけ無駄だとオーティスは諦めた。

反抗期で普段邪険にしてる割に、偶にこうして甘えて来るのが謎だと、宮廷魔法使いオーティスは常日頃から不思議に思っていた。



(──もしかしたら、それほど嫌われてないのか?)


「アンジェリカ。我をどう思う?……す、好きか?」


「はぁぁぁぁ!?大嫌いっ!!」

(はあぁぁ~~大好きっ♡)


最早この少女、病気である。



「………そうか」


オーティスは深く傷付いた──しかし、しょげている場合では無い。オーティスには行うべき大事な仕上げが残されているのだから……!!



「マリア王女、足をパタつかせてはダメです」


「アリアン?……ふふ~ん、だって冒険よ冒険?これまで外交へ出向くのはいつもお兄様だったし、私は行けたとしても隣国くらいまでだったのっ!でも今回は行くのに数日掛かる獣人国っ!!本当に楽しみだわっ!あのねアリアン、野営やテントで楽しめるようにアニメの沢山収録された魔水晶を持って来たのっ!!ふふふっ!」


「それは良いですね」


「アリアンも一緒に観る?」


「丁重にお断り致します」


「う、うん……」



──こうもアッサリしてると、なんだかなぁ……ん?どうしたのかしらオーティス?急に立ち上がってるんだけど?



「──これより、我の習得した新魔法……転移・オブ・ザ・テレポートで獣人国へと転移します……」


「え?転移?転移なの?ぼ、冒険は?」


「マリア王女……長旅の心配は……有りませんので……馬車は細かい移動の為に用意したに過ぎません……王女にそんな御足労はさせませんよ……?」


「この人でなしっ!!」


「………あ、あれ?」



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~ネリー視点~


「あの子ったらもうっ!」


あまりの恥辱に地団駄を踏む第一王女。

しかし、それを見守るライラとケイトの視線は優しい。例え怒っては居ても、今のネリーはこれまでとは明らかに違うのだ。



「……ネリー様、また以前のようにマリア様と話される様なられたのですね」


「良かったっす!」


「はぁ?そんなんじゃないわよ……第一、メイドの分際で話しかけないでくれる?引っ叩くわよ?」


「……申し訳ありません」


(こういうところは以前のままっすね~)


ネリーは最近のマリアに面食らっているが、それとは別で頭を抱えている事があった。


ネリーはその原因となってる人物達へ視線を向けた。



「はっ!仲良いじゃねーか!」


「うむ、姉妹愛か……人間はやはり魔族とは違う感性を持っているな」


「アッシュと、アルベルトだったかしら?」


そう……付き纏われているのだアッシュ達に。

今は警備傭兵として一時的に王宮に雇われている二人。孝志が投獄された直後はスパイ疑惑が上がり、一緒に投獄せよとの意見も有ったのだが、それはマリアが自らの権力で押し黙らせていた。

二人の実力は折り紙付きなので、マリアとしてはどうしても欲しかった戦力だったのだ。例え孝志が城に居る間だけでも、アッシュとアルベルト程の実力者なら居てくれるだけで大いに役立つ存在。


──そんな二人だが、現在は孝志の側を離れてネリーとマリアに付き纏っていた。

孝志は自分達が居なくなった後の王国を心配し、最も頼れる者達として信頼しているアッシュとアルベルトに残って貰っていたのだ。


本来ならマリアにはアルベルトが着いてる筈だが、対象者が主たる孝志の元へ出向くという事なので、城に残りネリーの警護に切り替えている。



「……アッシュ……は強そうだけど、アルベルトはヒョロいわね~?」


無論、アルベルトは骸骨から姿を人間に変化させており、ネリーもまたアッシュ達が魔族だとは知らない。



「ぐぬぬ……!」


「旦那、落ち着けって、なぁ?」


おちょけてる様なやり取りだが、二人はこれからの事を警戒していた。孝志が居なくなったタイミングで国王が帰還し、それと同時に王国最大戦力は三人とも国を離れた。


こんな絶妙なタイミングで、敵が動かない訳がない。



「……前回は不意打ちで遅れをとったが、今回は絶対に負けないぜ?」



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~フェイルノート視点~


「──む?」


「ど、どうしたの?フェイルノート?」


「……ククッ!ウインターよ、強大な力を持つ何者かが向かう先へ転移したようじゃっ!」


「え!?た、大変じゃないですか!?」


「ククッ、このまま行けばものの数時間で鉢合わせとなる……よいよい、かなりの実力者揃い……これから一波乱ありそうじゃっ!実に楽しみじゃのう~!」


「……そんなに強い相手なんですか?」


「おうさ。一人はウインターも知っておるぞ?洞窟で見たじゃろう?そしてもう一人が──」


フェイルノートは目を閉じ、その時の事を思い出していた。屈辱だった出来事……魔神となり始めて喫した敗戦。




「──賢者オーティス……あの時は負けてしもうたが、その借りを返させて貰うぞ?」








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― 新着の感想 ―
[一言] ごめんなさい、勘違いしていました。。。 オーティス、やっぱりアホでしたね(笑) たまに不良がいいことすると、めっちゃいい人に見える原理と同じで、 たまにいい事言ったとしても、 三十過ぎて厨二…
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