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普通の勇者とハーレム勇者  作者: リョウタ
6章 普通の勇者とハーレム勇者
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26話 孝志の決意、テレサの想い


いったい、いつからそうして居たんだろう?

テレサは薄暗い森の中たった一人、膝を抱えながら大きな切り株の上に座っていた。

それを見た俺は大急ぎで彼女の元へと走り出す。



「テレサっ!」


感知能力の低いテレサは誰かに近付かれても気付かない。孝志に声を掛けられてようやく顔を上げる。



「……!!…………あぁ……孝志……良かったぁ……良かったよぉ~……」



──立ち上がる事さえ難しいのか。

テレサは大粒の涙を流しながら孝志の到着を待った。彼女が抱いてた絶望感は計り知れないだろう。両親が亡くなってから孤独に生きて居た少女が初めて見つけた光が松本孝志なのだ。それを失うのがどれだけ恐ろしいのか、どれだけ不幸なのか、どれだけの悲しみを抱くのか……それはテレサにしか分からない。


孝志にとって会えなかった期間がたった1日だとしても、テレサにとっては1日会えないだけで気が狂いそうなほど苦しいのだ。



「ほんとにごめんテレサっ……」


「うわぁぁんッッ……!!どこ行ってたんだよ……もう会えないかと……思ったっ……!!」


だからこそ、目の前まで来た孝志にしがみ着きながら泣きじゃくった。アダムに阻害され孝志の気配を感じられなくなったが、どれだけ心配でも自分から会いに行けない。何故ならテレサが城に行くと、どれだけの人間が死ぬのか想像も付かない。そのもどかしさも彼女には辛いものだった。


孝志はずっと泣き続けるテレサを強く抱き締める。この子にならどれだけ甘えられても良いと思った。



「ごめんテレサ。昨日会いに来るって約束したのに」


「ほんとだよぉ……ぼ、僕がどれだけ心配したか……もう孝志のバカぁ……」


「……つかぬ事を聞くけど、顔とか舐めないよね?」


「そんな事する訳ないよ……こんな時になにを言ってるの孝志?」


「………ごめん」


孝志はアルマスの異常性は再確認する。

その後も、服がテレサの涙でぐっしょり濡れるのも意に介さず、孝志は少女を強く抱き締め続けた。



─────────



「アダムのやろう……マジでクソだなアイツ」


テレサから通信の途絶えた真相を聞かされた。もしやと思ったが、案の定アダムの仕業だったらしい。俺の肉体を使っての嫌がらせが難しいから、こうして精神的な繋がりのあるテレサに矛先を向けた様だ。

奴ならテレサの境遇だって分かるだろうに……俺と同じ顔して、良くもこんな酷い事が出来るもんだな。



「ねぇ……孝志はこれからどうする?」


「………そうだな」


多分、これからもアダムの干渉とやらの所為でテレサとの連絡も出来ないだろう。それに加えて俺は王国から逃げ周る予定だし、残念ながらこうやって毎日会うのが厳しくなってしまう。


これも全部アダムの所為だ……まさかテレサが絶大な被害を受けるなんて……クソッ!

テレサは強く無いんだよ……力は誰より強くても、心は一際弱い。それが分かって居るからアダムはこうした手段を取ったんだ。


そんなアダムの思惑は、俺だけじゃないくテレサも分かってるようだ。縋る様な目で俺を見上げて来る。



「……ずっと一緒に居ようよ?僕はお金だけは沢山あるし、誰にも負けないよ?必ず幸せにするから……お願い……ここに居て……?僕にはこの世で孝志しか居ないから……!」


「…………」


思わず頷きそうになったがそれをグッと堪える。

嫌だから堪えた訳じゃない……正直、それも悪くないと思った。テレサとなら二人っきりでも楽しく過ごせるだろう。



……でも、沢山の人達の姿が脳裏を過ぎる。

アルマス、穂花ちゃん、おばあちゃん、ネリー王女、マリア王女、アリアンさん、ユリウスさん、オーティスさん、アレクセイさん、アッシュ、アルベルト、ダイアナさん、ブローノ王子、女神様、中岸さん………ついでに橘──名前を挙げたらキリがない。


本当に色んな人達が俺を助けてくれた。そんな全てを切り捨てて、テレサと生涯を共にする決断を早計には下せない。


後は……どうしてもやるべき事も見つかった。



「テレサ……ほんとに、ほんっっっとうに、悪くない話とは思う……でも、離れたくない人達も居るし、今は王国が危ない状況なんだ」


「………」


テレサは俺の胸に顔を埋めながら、それでも話は聞いてくれてる様だった。だから俺は反応が無くても話を続けることにした。



「シャルちゃん王女とティタノマキアという怪物は今回をキッカケにきっと動き出す筈だ。それを止められるのは事情を知ってる俺たちしか居ない……だから、全てが終わるまで返事は待っててくれる?……いや、というか──」


「……孝志?」


「俺はテレサの呪いを解く方法を見つけるつもりだからな?」


「………ないよそんなの」


「いや絶対にあるよ。俺という存在が何よりの証拠だ。俺が大丈夫なんだから絶対に何処かにあるはず……信じて待っててくれる?」


「……そんな言葉に騙されないよ」


「…………テレサ」


「嫌だっ!好きっ!大好きっ!孝志と一緒に居られるなら呪いなんて解けなくても良いもんっ!」


……もうテレサの提案呑んじゃおうかな?

超可愛いし、わざわざ王国を助けるなんて危ない橋を渡る必要もないんじゃないか?

だってテレサの助けが借りれなくなる訳だし、カルマの時みたいに上手く行くとは到底思えない……


思えないけど──


ラクスール王国では散々世話になったのに、その恩を忘れるなんて恩知らずな事をしたくはない。


シャルちゃんと例の化け物は、恐ろしく強大な力を持っている。間違いなく王国の脅威になるだろう。

テレサが戦えれば間違いないと思うけど、彼女は呪いの所為で王国の中には入れない。



………



だったら、やっぱり俺がやるしか無いかな?

幸いにも頼れそうな人は沢山居る。その人達と一緒にどうするかを考えれば良い。

アルマスとアレクセイさんは逃げる気満々だけど、今回に限って逃げるつもりはない。やらなきゃダメな時くらい心得ている。


そしてテレサの呪いを解く方法も必ず見付け出す。



「テレサ、やっぱりダメだよ。少しだけ待っててくれない?」


「……孝志の気配を探れないから前みたいに着いて行けない。孝志は本当にどうしようも無いほど弱いから危ないよ?」


いやもう言い方が……ま、まぁ良い。

全部ほんとの事だしな。



「その辺は頼れる人が居るから、まぁ何とかやるさ」


テレサと一緒の方が安全だとは思うけど。



「……僕はずっと此処で待ってる」


「……ごめん」


「……大丈夫。さっきまでは見捨てられたと思ってたから不安だったけど、今は事情を知ってるから大丈夫だよ?──でもね?毎日は難しくても、偶には絶対に会いに来てね?」

(だって気が狂いそうになるから……王国の件が片付いたら……ずっと一緒に居て欲しいよ)



「それは約束する。アレクセイさんに頼んでみるよ」


「それでも、ほんとに怖くなったら僕のところへ逃げて来てね?」


そう言うとテレサは一つのアイテムを取り出し、俺に手渡してくれた。煙玉みたいな白い球体で、これを破裂させればテレサの元へと転移するらしい。



「……危なくなったら躊躇なく使うよ」


「明日は?」


「バイトのシフトかな?そんな急には使わないよ」


「ふふ……そうだね。ただほんとに気を付けてね?」


「……分かった」


「………ん」


テレサが体重を掛けてきたので俺は彼女をしっかりと支えた。長期間のお別れでは無くとも、これからは会う頻度が極端に下がる。

テレサから念話も聞こえないので声も届く事はない。かなり寂しい思いをさせてしまう。



アダム、この借りは必ず返してやるから覚えとけよ?






──テレサと別れた後、俺はアルマスとアレクセイさんが待つ森の奥へと向かう。そこでは既に準備の整った二人が待ち構えていた。

普段煩い二人だが、俺の表情で何かを察したのか……特に何も言って来なかった。



「じゃあアレクセイさん……お願いします」


「良いのね?ラクスール王国には戻れないわよ?」


「………はい」


「孝志……」


アルマスが俺の隣に来て手を握ってくれる。暖かいアルマスの温もりが伝わって来た。なので俺はその手を振り払う。



「つぇいっ!!」


「どうして!?」


「じゃあ……転移装置っ!!起動するわよ!?」


「はい!お願いしますっ!アレクセイさんっ!」


「ねぇどうして振り払ったのっ!?」


俺たち三人は転移装置に呑まれる……そして目標地点へと向かった。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


~ユリウス視点~


一方その頃、ユリウス達一向は馬車を停車させて就寝の準備に取り掛かっていた。

時刻はまだ21時を周ってないが、長旅に慣れてない穂花とウインターを気遣って時間を早めている。


穂花は女性用、ウインターは男性用に建てたテントの中でそれぞれ熟睡中だった──



──が……そんな中、事件が発生する。



「──孝志さんッッッ!!!!??」


「うおっ!びっくりしたっ!!」


「にゃにゃっ!?」


突然、穂花が大声を上げテントから飛び出して来た。

それに驚き、近くで見張りをしていたユリウスとネネコが声を上げる。

離れた所でゆっくりしていたブローノ、ルナリア、フェイルノートにも騒ぎが聞こえたらしく、直ぐに穂花のところに集まって来た。



「怖い夢でも観てたのかのう?」


「……フェイルノートさん……孝志さんの気配が近づくのを感じます……!!」


「いや、そんな訳──」


フェイルノートと穂花が話してる最中、ユリウスの目の前の空間が歪み始める。

ユリウスは咄嗟にレーヴァテインを抜き、それに続くようにフェイルノートとルナリア、ネネコの三人も戦闘態勢を取った。



「にゃ………う、うそにゃ……?」


最初にその空間から姿を現したのはアレクセイ。

そして次に現れたのは──



「孝志さーーんッッッ!!!」


「おっとっ!……穂花ちゃんっ!!久しぶりっ!!」


抱きついてきた穂花を孝志はしっかりと受け止めた。



「孝志……それと、あの時の女か」


ユリウスは孝志の後から来たアルマスを観て表情を歪める。散々罵られた記憶が蘇ったのだろう。



「ユリウスさん、ちょっと俺も王国を裏切って来ましたよ。裏切り者同士、仲良くしましょうや」


「んんんんんんんんんんん????????」





















次回は孝志の消えた後の王国視点と、テレサ視点です。



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[一言] 穂花のストーカー能力凄いな
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