漆黒の仮面騎士
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~マリア視点~
私達はドラゴンナイツの群れに囲まれている。
もう何体倒したのか解らない程の数を、彼──アルベルトという名の魔法使いがたった一人で倒し続けて居るのに、倒しても倒して後から新しいドラゴンナイツが出現して来る。
たった一体現れただけでも大騒ぎとなり、備えや戦力の整ってない村だと手に負えない強敵……そんなドラゴンナイツが湯水の様に湧き出て来る状況。
本来なら絶望的なんだけど、アルベルト氏は予想を遥かに超える強さだったみたいね。
「イラプションッッ!!」
《グギャァァァッッ》
《ガワァウッッ!!》
《グルグァッッ!!》
たった一発の魔法で三体の敵を同時に始末したわ……
上級魔法とはいえ詠唱破棄で未完成なのに凄過ぎる。
どの様な経緯でアルベルト氏が孝志の味方となり、私達を助けてくれているのかは解らない。それも魔族だと言うのにだ。
見た目はダンディな男性紳士だから魔族っぽい雰囲気では無いけれど、魔族なのよね……?
もしこのお方がラクスール王国の魔法使いに雇われればどれ程の戦力強化になるでしょうかね?
恐らくはオーティス……いや、彼はコミュニティ障害で引き篭もりだから、彼より活躍してくれると思うわ。
……そして強い筈のライラとケイトが何も出来ないで居る。
かなり歯痒そうだけど、近接戦闘特化の自分達が前に出てしまえば邪魔になると二人とも自重してるんでしょう。
それに彼女達ではアルベルト氏が瞬殺し続けているドラゴンナイツを、二人掛かりでようやく一体仕留めるのが精一杯の筈だ。いやそれでも十分凄いんですけどね?
「あ、また……」
祖母ダイアナに手を握られながら怯えてたエミリアが、空間の歪みを指差した……するとそこから倒されたドラゴンナイツと入れ替わる様に新たな敵が生み出される。
「……くっ!!完全にこの場所で足止めするつもりだな!これではいつ迄経っても主人の元へ向かえないでは無いか!!」
新たな魔法を放ち、数匹のドラゴンナイツをまとめて始末するアルベルト──するとまた新しいドラゴンナイツが倒した数と同じだけ産み出される。
マリア達はこの現象の所為で、常に十体以上の敵に囲まれており、その場から身動きを取れずに居た。
(私一人なら、いつでも包囲網を簡単に突破出来る……しかし──)
アルベルトは孝志に任されていた。ここでマリアやダイアナさん達を絶対死守せよと。
雄星の件は『まぁ出来たら守ってあげて』程度の言い方だった為、トイレに行ったときマリア達を優先して着いていかなかったが、孝志から信頼を得る為にも、アルベルトに彼女達を見捨てる選択肢は存在しなかった。
──幸い、種族の特性上、禁呪でも使用しない限りアルベルトの魔力が尽きる事はない。だから魔力切れの心配こそ無いのだが、味方を転移させる魔法や守護する魔法を覚えて来なかったのが運の尽きだった。
このまま孝志の戦いが終わるまで此処で釘付けにされるものかと……アルベルトが諦めかけたその時──
長い廊下の向こう側から、何者かがこの場所に突っ込んで来る姿を発見した。
「新手…?いや違う」
最初は敵の増援を危惧したアルベルトだが、近づいて来る者は進行方向に居たドラゴンナイツを斬って伏せている。
そしてアルベルト達の目の前まで辿り着くと立ち止まり、増え続けるドラゴンナイツを斬りながら話を始めた。
【お困りの様だな、皆の者!!】
「……貴様は何者だ?この国の者が?」
恐らくは人間だろう……しかし、中々強い。
ドラゴンナイツの鋭い一撃を難なく躱し、一撃で絶命させている……黒衣を身に纏った剣士……か。
黒髪の長髪で、黒い甲冑を装備した……アルベルトの見立てでは恐らくは人間の男性。
また最大の特徴として、正体を隠す為か、得体の知れない仮面を被っている。
マリア達は遠くに居た時は気付かなかった様だが、仮面の騎士が側までやって来た事でようやくその存在に気が付いた様だ。マリアを含む女性陣一同が仮面を被った騎士へ視線を向けた。
「………仮面?」
マリアは驚きながら思わず呟いた。
【ふふははは~……ここは私に任せて、君達は勇者を助けに行くといい!!】
彼の殲滅速度は凄まじかった。
魔法使いのアルベルトはどうしても魔法行使に時間を割くが、仮面の騎士は違った。ドラゴンナイツが産み出された瞬間ばったばったと斬り倒している。お陰で包囲網の一部に穴ができ、そこから逃げ出す事が可能となる。
──主人が心配な為、得体の知れなさこそ残るものの、アルベルトは彼の言う通りに先を急ぐ事にした。
「見事だ!仮面の騎士よ!この場は任せたぞ!」
【ふふはは!さぁゆくがいいのだっ!】
良く分からない奴だと不審に思ったが、孝志が心配のアルベルトは男に此処を任せる事にした。
アルベルトを先頭に後ろから五人が着いて行く。
──しかし何を思ったのか、アルベルトの後に続く五人中……マリアだけが振り返り仮面の騎士を凝視していた。しんがりを務めていたライラとケイトも同じだ。
マリアに至っては呆れた目で男を見詰めている……しかも仮面の男が冷や汗をかくほど怪訝な眼で……
【──い、いかがされましたか?お嬢さん?】
「……取り敢えず、なんで仮面なんか着けて、なおかつ、どうしてオーティスみたいな喋り方をしているのかは聴かないでおくわ」
【いや、え?オーティスって……誰でしょう~……知らない名前です……はい……】
「はぁぁぁぁ~~~~………」
あまりにもドヘタクソな誤魔化し方にマリアは馬鹿でかい溜息を吐く。彼がどういうつもりか分からないが、これ以上の問答は時間の無駄だと追求を諦め、最後に一言だけ残して先を急ぐ事にした。
「……それじゃあ、行くわね?ただ、なんでそんな格好なのか、後で説明しなさいよ?───ユ・リ・ウ・ス」
【え、どうして……!?】
男は焦った反応をみせたが、マリアは振り返る事なくライラとケイトに守られながらアルベルトの後を追った。
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~???視点~
──なんでバレたんだろう?
声も変えたし、目立つからレーヴァテインも置いて来たのに……まさかマリア王女に見抜かれてしまうとは……
仮面の男は驚きを隠せない様子だった。
そしてマリア達が居なくなったタイミングで一人の女性が姿を現す。
彼女は十魔衆第三位ルナリア──見た目若く、ピンクの長い髪に同じ色の着物を着崩している、とにかく派手な見た目の女性だ。彼女は驚愕するユリウスに近づきクツクツと笑い出す。
「ははは、ユリウスはん、めっちゃおもろいやないか~、あんな馬鹿っぽい演技までしはってたのに、バレてしもうて……ぎょ、仰山笑わせて貰いましたわ、あはは」
【う、うるせぇよ】
男は仮面を外した。
正体はマリアが言い当てた通り、ユリウス・ギアード。
ユリウスは複雑の心境だった。
声も変えたし、口調もオーティス風に変えた……それでもマリアに一目でユリウスだと看破されてしまったのだ。
彼女が成長している事が嬉しい反面、隠蔽が無駄に終わった悔しさもあった。
仮面を外したユリウスの何とも言えない表情を観た途端、ルナリアは更に笑う。
「あはははっ!凄い顔やんかっ!くくふ。そないな表情が観れたんやから、カルマの裏切りをあんさんにリークした甲斐があったてもんやわ」
「……それに関してはありがとう。でも笑わないで」
「あーーーはははッ!!」
「く、悔しい…!」
ユリウスはドラゴンナイツを斬りながら悔しがった。でも強くは言い返せない。
彼女からカルマの企みを教えて貰ったお陰で、こうして王国の危機に駆け付ける事が出来たのだから。
「しかし、あの野郎……俺を魔王にしといて良くもまぁ」
「何言うてんの?それほど信用しとらんくせに」
「……いや完璧に騙されるほどアホじゃないぞ?だとしても、流石に俺を魔王に仕立て上げたのがお前らを殺すのに利用する為とは思わなかったよ。しかもラクスール王国を滅ぼすとか……」
「いやあんさん十二分にアホやでホンマに」
「なんだと?どうしてそう思う?」
これに対し、ルナリアは鼻で笑いながら答える。
「ふふ、王子はんと可愛らしい勇者を捕らえておきながら、国が危のうなりはったら助けに行く?──中途半端やねんお前さんは。取り敢えず国王の言う通りに動いとったらええ思うとるんちゃうの?」
「…………」
敵を倒しながらユリウスはルナリアの嫌味を黙って聞いた。
「分かりますかい?人間が軽いんよユリウスはんってば。ダメ人間の典型どすな?立場的に国で偉いんか知らんけど、あんたなんか剣帝の肩書取ったらただのダメ親父やで?よう今までやって来れたでほんま」
「…………」
ユリウスは何も言い返す事が出来なかった。
「王様に言われはったから仕方なく裏切ったと思うとるかも知れんけど、あんたの裏切りで誰が傷付くか考えて動かないとあかんのちゃうの?しょーもないやっちゃで。もう三十過ぎとんのやろ?シャキッとしなさいや!」
流石にイラッと来たみたい。
「なんでそこまで言われないといけないの……?酷過ぎるだろ……ぜ、全部ほんとの事だけどさ……いっきに酷いこと全部言うなよ……ぐすん」
ユリウスは泣いた。いい大人が説教されて泣いている。
そんな泣き面を観て満足気な表情を浮かべるルナリア。
散々悪口を言ったが、ルナリアはユリウスの事をかなり気に入っている。実力の割に芯がブレブレなところが彼女の何かを射抜いたようだ。だから一緒に行動しているのである……ルナリアはダメンズが好きらしい。
「それにしてもカルマはんはもっとアホなやっちゃで。な~んか、完璧にウチとネネコはんを出し抜いたと思っとたようやけども、カルマはんの考えてる事は全部お見通しやったわ」
彼女の言葉通りカルマの計画は最初から全て見抜かれていたのだ。
カルマを観察していた自身の部下から、カルマが王国へ攻め入る情報をルナリアは事前に入手していたので、これを直ぐにユリウスへ報告した。
ただ、アイヌスの裏切りまでは見抜けなかった様で、少し出遅れてしまったが、その分はアリアン達が何とかしている。
「お陰でラクスール王国内の死亡者は0名。負傷した者は結構居たが、生きていれば治療出来るからな……感謝している」
「あら~?素直やないか」
「口さえ達者じゃなければ良いんだけど……それにしても………孝志に何があったんだ?」
「あんさん弱い言うてたのに、えろぉ強いやんか」
幾ら何でも強くなり過ぎている。
流石に何か種があるとユリウスは確信したが、深く考えない事にした。
ユリウスの中の孝志とはそういう男だ。
剣帝として様々な経験を積み重ねて来た自身でも予想不可能な事をしてもおかしくはない。
ユリウスは彼を大いに評価している。
「けどなぁ……ひとつだけ不安な事があるんよなぁ……」
「ん?何だ?」
「いやなぁ?他の十魔衆にも言える事やけど、ミーシャとアッシュ以外は禁呪をオープンにしとらんさかいに、それをカルマはんが使ったら……もしかしたらやけど、ユリウスはんでも勝てんくらい強うなるかも知れへんで?」
「ん?でも孝志が倒したんだろ?」
「あれくらいで死ぬ訳ないやん……で?戻ってきたらどないしますの?」
「……その時は腹括るさ──それに、俺にも奥の手が幾つかある……魔神具以外にも……な」
「そうかえ、まぁ上手くやりんしゃいな」
その後はルナリアに手伝って貰いながら、ユリウスは湧き出るドラゴンナイツを殲滅し続けた。
マリアはユリウスの裏切りを知りません。
次話は明後日に投稿します。宜しくお願いします。
 




