23話 心残り 〜由梨視点〜
休載中に心配のメッセージを頂きました。
本当にありがとうございました!
と同時に、心配掛けてすいませんでした……
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~中岸由梨視点~
──広間に訪れる少し前の話──
由梨は敵が待ち受ける広間へ向かう──が、絶望的な状況に不安を隠せずにいた。重い足取りで廊下を歩く。
──お腹が痛い……吐き気もする……どうしようどうしよう……!
今すぐ逃げ出したい。
だって解るもん、助けに行ったら殺される。
でも行かなければ大事な友達を殺されてしまう……そんな事になるのはもっと嫌だ……だから行かなきゃ。
自分では見れないけど、今の私は驚くほど真っ青な顔色だと思う。
しかし、リーシャさんの機転で雄星を連れて来なくてほんとに良かった。
彼の事は好きだけど、多分、この場に雄星が居たらもっと大変な事になって居たと思う。
日本でもそうだったけど、この世界に来てからの雄星はこれまで以上に高慢な性格になってしまった……幼馴染の私がなんとかしなくちゃと思うけど、現実はなんにも出来ていない。
──考え事をしながら歩いてる内に、いつの間にか由梨は友人が捕らえられている部屋の入り口まで到着していた。
幸か不幸か……狙撃を行なっていた場所から此処までの道のりが入り組んで無かったので、あっさり着いてしまったのである。
……到着しちゃったよぉ。
どうしようほんとに怖いんだけど……うぅ。
私は扉に手を掛けた状態のまま動けなくなった……しかも本当に怖いから、その恐怖で涙がポロポロと止まらない。
だってこのドアを開けたら……私はきっと…………やだやだ死ぬには心残りが余りに多過ぎるもんっ!
私は扉に頭を預けて脳内で思い出を巡らせた。
家族や雄星、美咲ちゃんや他の友達の事もそうだけど、やっぱり一番の未練は穂花ちゃんになるかな。
穂花ちゃんの事は家族とおんなじ位に大好き。
雄星は異性としてどうしても意識してしまうけど、あの子は本当に妹みたいに可愛がって来た。
最近は反抗期なのか、私に愛想笑いをしたり冷たい反応だから寂しいけど、やっぱり何があっても穂花ちゃんは世界で一番可愛い。
朝ご飯を毎日作りに行ってるのも半分は雄星で、残りの半分は穂花ちゃんが居るからだったりする。というより流石に穂花ちゃんが居なければ、例え好きな人でも作りに行ってないかな?
「……ふふ、でも穂花ちゃんの事は彼に任せておけば大丈夫かな……?」
私は松本くんに嬉しそうに話し掛けていた穂花ちゃんを思い出して微笑んでしまった。
昔は沢山見せてくれた満面の笑顔で幸せそうに話すその姿は、きっと彼に心から懐いている証拠だ。
……だというのに……わぁ~……私は彼の事を恨めしそうに睨みつけてしまったなぁ~……
だ、だって、雄星も最近は何かと松本くんの話ばかりだったのに、その上、穂花ちゃんまで取られたのかと思ったらちょっとムカついたんだもん!!
少しくらい嫉妬しても許される筈だ!!うん!きっとそうだよ!
……でもあの日の夜は自己嫌悪で眠れなかった……ごめんなさい松本くん。
穂花ちゃんは冒険に出掛けた松本くんに着いて行ったみたい。
どうしてこんなにも早く、彼が冒険に出掛けたのかは誰も教えてくれないけど、きっと何かとんでもない理由があるのかな?
美咲ちゃんは何故か松本くんの事を嫌っているみたいだけど彼は誠実な人だと私は思う。
私が不良にナンパされてたのを下心や見返りもなく助けてくれた事だってあるし……そんな彼ならきっと穂花ちゃんの事を大切にしてくれるに決まってる。
普段のおチャラけた態度からは想像も出来ないけどね。
──でも一度くらいちゃんと話してみたかったな~
助けて貰った礼も言えてないし、それに睨んでしまった事も素直に謝らないとね!
そうなると、松本君と話せなかったのも心残りの一つかなやっぱり。
………
………
………よしっ!もういいだろう!
これ以上待たせると痺れを切らしたお爺ちゃんが美咲ちゃんに危害を加えるかも知れないから!
「──ふぅ~………よしっ!」
穂花ちゃん、雄星、どうか元気で。
お父さんもお母さんもごめんなさい。
遺言みたいになっちゃったけど、私も美咲も何とか助かるといいな。
──心の中で親しい者たちに別れを告げ、中岸由梨が勢いよく扉を開け放とうとした──まさにそんな時だった。
「中岸さん……ちょっと良いですか?」
「ひぎぇッッ!!??」
誰かに後ろから声を掛けられてしまった!
この以上ないほど油断していた私は、思わず変な声を出してしまった──ひぎぇッッなんて恥ずかしい。
そして恐る恐る振り返ると、そこに居たのはたった今私の心残りとなった松本孝志くんの幻影……………いや、え!?本人!?
「ま、松本くんっ!!?どうして此処にっ!?──あ」
ある事に気が付いて私は咄嗟に口を覆う。
つい大きな声を出しちゃった……今のは間違いなく中に聴こえたはず……
「あ、大丈夫ですよ中岸さん。扉に防音アイテムを使ったんで。ドアを開けない限りは音は漏れる事は絶対無いですから」
「ぼ、防音?」
防音アイテム?
そんなのがあるなんて……というよりも、何でそんなに手際が良いんだろう。
私が唖然としてる中、彼は話を続ける。
「とりあえず、余り時間が無いので手短に話しますけど、良いですか?」
「あ、う、うん」
私は黙って頷いた。
一体今から何を聴かされるんだろう?
とういうより、心臓のバクバクがまだ治らない……ほ、ほんとにビックリした~!
それに話してみて思ったけど、やっぱり松本君との間に壁を感じる。穂花ちゃんと話していた時とは全然違って、なんかガチガチの敬語だし。
でも大して仲良く無いのに、いきなり馴れ馴れしく来られるよりはずっと良い。
──そんな由梨の心の内なんて知らない孝志は、聴く姿勢の彼女にある作戦を持ち掛けるのであった。
──────
──時間にして一分も経ってない。
しかし、手短に話された作戦内容に由梨は驚愕する。
なんせ内容があまりに具体的過ぎたからだ。
「……私が手を挙げながら部屋に入ると、相手は武器を手放すように言うからそれに従う──そして私が武器を手放すと敵は美咲ちゃんでは無く、真っ先に私を【懐に忍ばせてある小刀を投げて】殺そうとするって……ほ、ほんとうなの?」
驚愕すべき内容に私は真偽を尋ねてしまった。
まるで未来予知でも聴いてるみたい……私を殺しに来るまでは分からなくもないけど、懐の小刀って……
お爺ちゃんが使ってる武器は、斧と槍が合体したみたいな変な武器だ。小さな身体で大きな武器を素早く振り回していた。なのに何故わたしを殺すときに限って得意の武器を使わないんだろうか?
「──正直、あの場面は中岸さんさえ……失礼な事を言いますけど、中岸さんさえ倒してしまったら敵の勝利なんです。奥本と女の騎士さんでは話にならないと思います」
「……私、そんなに強いんだ」
「羨ましいです」
「え?」
「いや、なんでも有りません──まぁここから観ていた感じだと偶にあのジジイ……じゃなくてお爺さん、懐を気にする仕草をしていたので、そこに何かあると思ってたんです……そしたら僕自慢のスキルも同じ思想だったんで間違いないと思います」
「スキルとか良く解んないけど、そ、そうかな?」
「確証は持てませんが可能性は高いです……それに客観的に観ても、僕なら危険な中岸さんにわざわざ近付くなんて事はしません……離れた位置でヤルに限るでしょう──少なくとも僕ならそうしますよ」
「………えぇ」
犯罪っぽい言い方にドン引きしてしまった。
私の反応を見て松本くんは急いで文言を付け加え始める。
「…………と、アッシュが言ってました」
なんと!?一緒に居た怖そうなお兄さんに罪をなすり付けた!?
「はぁぁ?!俺かぁ?!ドン引かれたからってよぉ罪を俺に擦りつけんなっ!!」
「そう怒るなって相棒!」
「あ、相棒?……そういう事なら許してやろう──とはならねぇよ!アホかテメェ!」
「……ぷふ」
やだおかしい。
こんな時なのに松本くんは……凄いや。
変わらないなぁ~……世界が変わっても彼は変わらない。
信憑性は正直言ってない。
彼のスキルがどんなものかもわからない。
それでも私は、大きな勇気を与えてくれた……彼の話を信じることに決めた。
「松本くん、いろいろと聴きたい事や言いたい事が有るんだけど、今は急がないといけないから……取り敢えず、松本くんの話を信じることにするね」
私の意見を聞いて彼は驚いた表情をみせた。
彼自身、私が今の話を真っ向から信じると思ってなかったんだろう。
「……いいんですか?普通に僕が間違えてたら死ぬかも知れないですよ?」
「大丈夫だよ。というより、さっきまで死ぬ覚悟だったし。松本くんのお陰で生き残れるかもだけどさ……だから松本くんは信じちゃおうかなぁ~、て思う」
「………ど、どうもです」
あっ、少し照れてる……意外に表情に出る人なんだ。
……それに、やりとりをしている内に私も気分がだいぶ落ち着いて来た。
流石にこれ以上待たせるとマズイので、私は敵が待ち受ける部屋の中へ入る為に、さっきと同じく大きな扉のドアノブを掴んだ。
……ってあれ??この扉ってこんなに小さかったっけ??
印象が随分違うような……?
まぁいいか、気にせず早く美咲ちゃんを助けに行こう。
「──あっ!ちょ、ちょっと待って中岸さん!本当にちょっと待った!」
「な、なぁに?どうしたの?」
急に大きい声を掛けられて驚いちゃった……松本くんが防音アイテムを使って無かったら間違いなく中に聴こえていたと思うよ?
「その……表情見られない様に俯き加減に入った方が良いかも」
「?……どうして?」
「いや、顔に出てるんで……その……いまの中岸さん安心しきった顔してますよ?」
「あ、あらやだ……ご、ごめんなさいね」
私は作戦やら羞恥やら、ともかく色んな意味で俯きながら広間の中へと入った。
……でも嘘みたい。
さっきまでの絶望感がまるで無い。
松本くんはマジシャンかな?
それに、助けに来てくれてありがとう松本くん!
この恩は絶対に忘れないからねっ!
──由梨は孝志から貰った【とある道具】をポケットの中へ仕舞うと、言われた通り行動を開始するのであった。
印象の薄い子でしたが、ようやく由梨の心象を書くことが出来ました。
次話は明日の20時以降に投稿します。
宜しくお願いします。




