12話 傷だらけの少女
本日二話です。
──テレサと人には到底聞かせられない会話をしながら森を歩いて行く。
城の周辺には強力な魔物が出るらしいが、テレサという優秀なセコムのお陰で魔物と出会す事は無かった。
どうやら魔物達もテレサの呪いの影響を受け、近付いては来れないようだ。
……あと、この世界に来てから何気に魔物と戦った事がない。
馬車の中から裏切り親父と中二病親父がゴブリンやオークと戦っている時に何度か観た事は有るが、観戦だけで魔物との戦いには参加しなかった。
かと言って安全だったかと言えばそんな事は全くこれっぽっちもない。
雑魚敵をすっ飛ばしていきなりアッシュとかフェイルノートといった化け物達と戦わされて来たのだ。
ついでにアリアンさんとの訓練も、あれは俺にとって戦いである……故に命懸け。
そう考えればなんて理不尽なんだろう。
化け物としか戦えない運命とかじゃないよな?大物キラーの称号とか別に良いから偶には雑魚と戦わせて。
今頃、同じ勇者として召喚された橘達が王宮で伸び伸びと、なんの苦労もなく暮らしているのかと思うと殺意が湧いてくる。
元を辿ればこんな目に遭ってるのはアイツらの所為なのに、なんで俺と穂花ちゃんばかり苦労しないといけないんだよ。
穂花ちゃんと城に戻る機会があったら、絶対に頭下げさせてやるからな……!
俺は穂花ちゃんを心配しながらも、橘への殺意を募らせていた。
──その後も歩き続け、城からだいぶ離れた所まで来た。
そこで、先ほどから俺の胸に顔を埋めたり離したりして楽しんでいたテレサに声を掛けられる。
「孝志、この先に誰か居るみたいだよ」
「え?そうなの?」
「うん。しかもだいぶ弱って身動きがとれないみたいだね。多分、孝志が言ってたことって、その人の事じゃ無いかな?」
「多分な……だいぶ弱ってるって事は、このまま放っておくと魔物に襲われるって事だよな?──先を急ごう……それから、悪いけどテレサ」
「うん!その人に僕が近づくと呪いの影響を与えちゃうから、少し離れた位置で孝志を見てるね!……んしょっ、と」
そう言うとテレサは名残惜しそうに孝志の腕の中から降り、一瞬で孝志から見えないほど離れた場所まで移動した。
──はやっ!?
全く見えなかった……そう言えばテレサってアリアンさんより強いってオカマが言ってたっけ……?
あの狂人より強いなんて話は半信半疑だったけど、もしかしたら本当かも知れない。
俺はテレサの評価を改めるのだった。
──テレサと離れて少し進むと、森の中で俯き倒れる少女の姿が見えて来た。
しかも少女は俯き状態でもわかるほど傷だらけで、それに気付いた俺は大急ぎで少女の元へ駆け寄る。
そして彼女の上半身を抱き上げると、すぐさまアイテム収納の魔法袋からポーションを取り出し彼女に飲ませた。
傷の具合から一つでは足りないことを懸念し、念のためもう一つ同じポーションを飲ませる。
──すると、彼女はある程度は傷が良くなったらしく、ゆっくり目を開き始めた。
そして、その顔に俺は見覚えがあった。
「……えっと、確か君はヴァルキュリエ隊に居たシーラだったね?なんでこんなところに倒れて居たんだ?」
「あなたは……松本孝…志……うぅ……私は、弘子の城……へ転移した……はず……なの……に」
「ひ、弘子!?どうしておばあちゃんの名前を!?」
「弘子……」
「だ、大丈夫!よくわからないけど、ここはおばあちゃんの城の近くだから!」
「……そう……よか……た」
孝志の言葉で安心したのか、シーラはガクッと項垂れるかの様に意識を手放した。
「お、おい!!大丈夫か!!?」
孝志は目の前の少女が気を失った事に驚く。
そんな彼を落ち着かせる様にテレサは話しかけた。
『大丈夫だよ。気を失っているだけみたい』
「そ、そうか……なら良かった」
『その子、どうするの?』
「……う~ん……なんかおばあちゃんの知り合いみたいだし、城に連れて行く事にするよ」
そう言うと、孝志はシーラを抱き上げて城まで連れて行く事にした。
重さもテレサと同じ位で鎧を着てる分彼女よりは少し重かったが、これくらいなら大丈夫だろうと孝志は抱き抱えたままシーラを城まで連れて行く事にした。
しかし、シーラを抱き上げていざ歩き出そうとした瞬間、唐突にシーラが宙に浮き始めたのだ。
孝志は突然の超常現象に目を丸くするも、直ぐに我に返り喜びを露わにした。
──おおっ!!なんかいきなり超能力に目覚めたんだけど!!超嬉しい!!
これなら万が一、元の世界に戻れてもマジシャンとして充分生計を建てられる筈だ──!!
『ごめん孝志、僕が魔法で宙に浮かしているよ』
「んだよ!先に言ってよ!折角マジシャンとしての将来プラン建てていたのにっ!」
『え?僕が彼女を宙に浮かしてから数秒の内に、そんなプラン建ててたの?』
「ああ、たった今台無しになったけどな」
『……………ぅ……ん』
「どうしたのテレサ?」
『将来のこと気にしなくても、孝志の事は僕が一生養ってあげるよ?僕はお金だけは沢山あるからね!僕と一緒に居れば、一生働かずに楽な生活させてあげられるよ?』
「……お、おおっ……そんなストレートに言われると……しかも、おばあちゃんも同じこと言ってたんだけど」
『そうなの?だったら倍養って貰えるね!』
「いや、倍とか言われても……ちょっと考えさせて」
『うん!』
──あかんわ。流石にあかん。
おばあちゃん達もテレサも俺をダメにする。
働かないで済むのは良いいことだけど、テレサも、アルマスやおばあちゃん達もあまりに度が過ぎている。
これは真剣に今度話し合わないといけないな。
俺は先の事で悩みを抱えるが、それよりも今はなんでテレサが浮遊魔法を使ってシーラを浮かせているのか気になった。
なのでその事について尋ねてみる。
「テレサ、どうして浮遊魔法で彼女を浮かしたの?」
『?そんなの聞くまでもない事だよ?男の人が女の子にお姫様抱っこするのはいけないんだよ?』
「言われてみれば確かにそうかも……」
『でしょ?だから僕が城まで浮かせてあげるね!』
「おう、ありがとう!」
『いいよ!孝志の為だもん!』
「まぁ、それはそうと…………さっきまでテレサもずっと俺に無理矢理抱っこさせてたよね?」
『………………』
「その理屈だと、あれもいけないんじゃないの?その辺はどうなの?」
『………………よしっ!城までレッツゴー!』
誤魔化しやがった。
まぁ別にいいけど、浮かせて貰った方が俺も楽だし……でもなんか腹立つぜ。
俺は腹の中に怒りを残しながらも、それ以上追求するのを諦めた。
『ふぅ~……お姫様抱っこは僕だけのもの……それはそうと、その子は孝志の知り合いなの?』
……何か最初に変な呟きが聴こえた気もするけど、今はいいか、質問にだけ答えてしまおう。
「ん?まぁな……なんて言うか、俺の作成したヤバい奴リストの中に入ってるよ」
『ヤバい奴リスト?』
「おう。この世界に来てから結構いろんなヤバい奴らに出会って来たんだぜ?」
『へぇ…………ぼ、僕は勿論入ってないよね?』
「逆に勿論入ってるよ?」
『ええぇぇッッ!!!?』
「テレサ以外だと──アリアンさん、アルマス、オーティスさん、ユリウスさん、国王、マリア王女、ネリー王女、おばあちゃん、オカマ、ヤンキー、ミーシャとかいうクソエルフ、のじゃ女とこのシーラ……そして俺の居た世界から一緒に転移して来た、橘雄星と奥本美咲がヤバい奴リストの面子だな……そう考えるとこの世界やべぇ奴しか居ないじゃねーか!!」
『……アリアンと……ユリウス……名前が同じだけだよね──でも、僕がヤバい奴って……えぇ……』
「ん?どうした?」
『い、いや、どうしたも無いよ!ヤバい奴って酷いよ!』
「いや、可愛過ぎてヤバいって意味だけど」
『え、えぇ!?あ、え、あ……あぅ……あ、う……可愛い過ぎるって、ふ、不意打ち過ぎる……でへへへ」
やっぱりヤバい奴だなテレサは、もちろん可愛いだけじゃなく色んな意味で。
「──因みに、まともだと思った顔見知りは穂花ちゃん、ブローノ王子、ダイアナさん…………以上!!」
『え?まともな人少なくない?!』
「うん……この世界ホントヤバいよ。テレサも反省してね?」
『な、なんかごめん』
──────────
──何だかんだありながら城へと帰って来た。
城に到着したのでテレサは浮遊魔法を解きシーラを孝志の腕へ降ろしたが、死ぬほど不満そうにして居たのは言うまでもないだろう。
だがそんなほのぼのした雰囲気は一瞬にして吹き飛んだ。
城の入り口付近では、アルマス、アッシュ、アレクセイ、オーティス、アリアン、弘子と対峙する三つの人陰があったからだ。
和やかな雰囲気では無いが、一触即発と言った危ない雰囲気でもない。
この城の住人達と向かい合っている三人の内、長身でガイコツの一際目立つ生物は孝志を見付けると、アリアン、弘子、アルマスと一緒に彼の側へと近付いて行った。
そして、それに続くようにギャルっぽい色白の女と、侍のような格好をした角の生えた男も孝志へと近付く。
「おおっ!!貴方が勇者孝志様ですね!!私はアルベルトと申します!!」
「拙者はサイラムと申す者」
「うち……じゃなくて、私はミイルフって言います」
三人ともそれぞれ名乗りを済ませると同時に膝を折る。
それから誠心誠意込めてある言葉を続けた。
「「「───我ら三人、勇者孝志様に、絶対の忠誠を誓います!!」」」
三人は顔を上げたかと思うと、キラキラした尊敬の眼差しで孝志を見詰めていた。
「………………ア、アルマス」
「わ、私にも何がなんだか……」
二人は顔を見合わせるも、お互いに状況が理解出来なかった。
孝志がテレサと一緒に居るとき以外、常に行動を共にしていたアルマスにも何故こうなったのか理解出来なかった。
それもその筈、この三人と孝志は初対面だ。
アルベルト達は孝志への忠誠心を勝手に高め、勝手に忠誠を誓っているに過ぎないのだから状況が理解出来る筈もない。
だが一つだけ解ってしまった事がある。
──それはヤバい奴リストがまた増えそうだと言う事だ。




