第6話 フィン・レギノールの幸運
――ついにこの日がきた。
フィン・レギノールは今から2カ月前のことを思い出していた。
それはフインの家にフォルテナ王立学園の合格通知が届いた日のことである。フィンは合格通知をたわませながら、おぼつかない足取りで、窓を開けると思いっきり歓喜の雄叫びをあげた。町中の窓を破壊するレベルである。すぐに母親が飛んできてお叱りを受けることになったが、母親もまた合格通知を見て悲鳴をあげた。
両親の勧めで受けることにしたが、まさかペンにつけたサイコロだけで合格するとは思っていなかった。この時ばかりはサイコロの神様に感謝した。
「ふっふっふ、ついにドリームジャンボな青春が始まる」
入学式が終わり、いよいよクラスメイトとの出会いである。
「所属学科は魔装特科で……AAクラスだっけか」
フィンは新設されたクラスで魔装武器を取り扱う以外、何をするのかよく知らなかった。人数も8人とやたら少ない。とにかく可愛い女の子がいればいいなぁ、とフィンは考えていた。
AAクラスは普通の学科棟とは離れた棟に存在する。少し時間をかけながらも指定された教室の前の廊下にたどり着いたとき、フィンの視界に二人の女の子が入った。一人の女の子が緊張しているのか何やら入りずらそうにしていた。
(おっ、これは話しかけるチャンスだぜ!)
フィンは意気揚々と話しかける。
「やあっ、君たちも選ばれし8人かな?」
初対面が大事なので、ちょっと爽やかめに言葉をかける。
「え、ええ。そうなんだけど……あなたも?」
ピンク色の髪をした女の子が少しだけ困ったように言う。別にフィンに対して迷惑だと思っているのではなく、隣の女の子が原因のようだ。
「オレ、フィン・レギノールっていうんだ。これから同級生だし、フィンって呼んでくれ。よろしく!」
「あたしはセリカ・アウルシェル。あたしもセリカって呼んでね」
セリカは軽く笑顔をつくりながら返答する。しかし、意識はもう一人の女の子を気にしているようだった。
その子は何故か顔を赤くし、もじもじとして固まっている。どうやら教室に入るのを戸惑っているようだ。しかしその姿は、どこか小動物見を感じて愛らしく思えた。
「はは、緊張してるのかな? その気持ち分かるよ、オレも昨晩は眠れなかったからな」
「えっと……そういうわけではなくて」
「だが、心配する必要はないぜ。友達第一号ならオレがなってやる。二人で薔薇色の青春を送ろう!」
春の清爽を擬人化したような笑顔(自称)で語る。
「友達第一号ならあたしがなってるんですけど……っていうか、あなた、初対面でナンパしてるの?」
フィンは決め台詞をかっこよく言ったつもりだったのだが、セリカはジト目で彼を見つめる。
「正直、タイプだからな!」
フィンは惜しげもなく言った。あまり嘘をつけない性格である。
それに対して言われた女の子はかなり困惑している。当然といえば当然である。
「フィン、だっけ。あまりルルを困らせないで」
セリカはフィンとルルを遮るように立った。その目は軽くフィンを睨んでいる。
ヤバい、初対面大事にするとか思いながら、いきなりナンパは飛ばしすぎか……とフィンは考えたが、唐突に女の子、ルルが口を開く。
「その、ごめんなさい!」
一体何の謝罪なのだろうか。ひょっとしてフィンの事を振ったのだろうか。フィンとセリカは同時に思った。しかし、内容は彼らの想像を超えていた。
「僕、男なんだ!」
『はい?』
セリカとフィンは二人そろって聞き返す。
「だから、その、男なんです……」
フィンとセリカの絶叫が廊下に響き渡った。