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第5話 魔装特科AAクラス

 入学式は淡々と進んでいた。

 講堂には約1500人もの生徒が集まり、様々な思いを胸に座っている。

 サルワトール宰相はじっと生徒たちを見つめながら、フォルテナ王国の今後を考えていた。

 クレメンス学園長は少し重みのある声で、祝辞を読み上げ、一礼すると壇上から去っていく。

 伝統と文化を重んじ、その上で生徒たちの強い意思、自立心を育てる。

 簡単に言えばそれが学園の校風だった。


――学園(ここ)は自分が学生だった時と変わらないな。


 サルワトール宰相は20年近く前の記憶にふけった。変わらぬ校風、見慣れた古き講堂。そして未来のフォルテナ王国を担う若者たち。

 変わってしまったのは、あの中で壇上の声を聞いていた自分が今は語る側にいるということ。そして、心もまたあの時とは違う。正義と秩序を愛した少年はもういない。

 全てはフォルテナ王国のために。

 命を弄ぶギャンブルにベットした。

 神か悪魔の思し召しか、ルーレットを回すための特別な“チップ”はそろってしまった。

 鍵となるのはルル・ラナンクルス。そして、あともう一人だ。

 特別な箱庭(クラス)を用意したのはいいが、彼らの出方次第で状況は大きく変わっていく。

 全てがうまくはいかないだろう。しかし、願わくば全員生きて卒業を迎えてほしい。


 もっとも、仕組んだ本人にそんなこと、言う資格はないだろうが……。


 

 サルワトール宰相は壇上に登り、生徒達に祝辞の言葉を贈る。

 スピーチの最中、自然と生徒達の中にいるであろうルル・ラナンクルスを探していた。

「――この素晴らしき門出を祝うに当たって、私はフォルテナ王国の宰相としてどうしても君たちに言わなければならない事がある。ここ十数年、フォルテナ王国は平和の女神に愛されたと言ってよい程、安定し豊かで素晴らしい時代だった。私は毎朝、この平和な時代がいつまでも続くよう、神様に祈っている。だが、現実を見れば……残念ながらこの安寧は、今後も保障されているものではない。現在のフォルテナ王国の平和は非常に危ないバランスの上で成り立っていたものなのだ」

 恐らくだが、あと数年で均衡は崩れるだろう。確信はしていたが、今の宰相にできることは少なかった。

「ふと外の世界を見れば、戦争やテロの火種が燻っている。他人事ではない。近いうちに君達もその戦禍に巻き込まれるかもしれない状況にあるのだ。君達にはこの三年間、自分に何をすべきなのかを見つけてもらいたいと考えている。たとえ、困難な出来事にぶつかったとしても、自らの強い意志で立ち向かってほしい」

 サルワトール宰相は最後にもう一度ルル・ラナンクルスの姿を探した。

「……」

 ルルは後方の席に座っていた。何の因果か『彼女』も隣に座っている。

 ――彼らに果たして、この言葉の意味が伝わったのだろうか。

 サルトワール宰相は一礼し、壇上を後にすると、舞台裏の近くまで席まで移動した。すぐ近くにはミューゼスが待機している。サルトワール宰相はミューゼスに対して誰にも聞こえないよう、一言だけ呟いた。


「――すぐに学園の男子制服を用意したまえ」

「……はい?」


◆ ◆ ◆


 入学式が終わると、先生たちから今後の予定について説明があった。ルルは入るとき気付かなかったが、どうやら講堂の入り口付近にクラス分けの紙が張り出してあったらしい。生徒たちが賑わう中、ルルとセリカは講堂から出ていく人だかりの波に従って外へと出る。ルルは移動しながら、先ほどのサルトワール宰相の言葉を反芻していた。


――宰相、最後に僕の方を見ていたな。


 意識しすぎているのかもしれない、とルルは思った。宰相の言っていることは分かるが、ルルにとってこの三年間は平穏無事に過ごす事が何よりも重要だった。戦争のことなど忘れ、一人の学生として普通の生活を送る。三年後、戦争の日々に進むことになっても今だけは――。

「あっ、あった!」

 急にセリカが声を上げた。どうやらクラス分けの看板から自分のクラスを発見できたらしい。

「全然見つからないから、実は受かってなかったんじゃないかと思っちゃった」

 基本的にクラス分けは学科ごとに別れている。この学園では9つの学科に別れ、9つのクラスが存在する。ルルは、セリカとはここで別れる事になるだろう、と確信していた。確率としては9分の1だが、ルルが入るクラスは入学方法が特殊なだけに新しく設立された特別なクラスになる。いったんセリカと別れることで、女子更衣室に戻り、元の服に着替えることが可能だ。これで一先ずの女装問題が解決できる。セリカにとっては残念だが、ルル(♀)と二度と会うことはないだろう。

「えーっとそれじゃあ、僕のクラスはどこかな」

「ルルも一緒のクラスだよ」

「……へ?」

 セリカが指さすクラスには確かに、セリカとルルの名前が。

 おかしい。特別なクラスではなかったのか――ルルは宰相を問い詰めたい気持ちになったが、それを他所にセリカは笑顔を見せる。

「よかったぁ。この学科できたばかりで人数が少ないらしいから、クラスで友達ができるか不安だったんだよねっ」

「……」

 どうやら手違いではないらしい。偶然にもセリカも同じクラスに入ったのだ。

 ルルはクラス分けの表を見る。

 ルル達が入ったのはたった8人の新設クラス。

 学園の方式として通常、クラス名にはアルファベットの文字が一つ付いているだけだが、奇妙なことにこのクラスではAの文字が2つ並んでいた。 


――それこそがサルワトール宰相が用意した箱庭(クラス)、『魔装特科AAクラス』だった。


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