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第12話 魔術装置(マギアデバイス)


 フォルテナ王立学園での生活が始まって二日目の朝。


「はーい、みんな、席に座って。出席を数えますよ」


 AAクラスの教室に元気よくマイア先生が入ってきた。

 クラスの7()()は席に座っている。


「何せ授業初日だからね、全員そろって……ないじゃん。ロス・サリヴァン君は遅刻?欠席?どこでロスってるの?」


「レオン、ロスはどうしてるんだ?」


 フィンがロスのルームメイトのレオンに訊く。


「朝起きたらもぬけの殻だった。引っ張っていくつもりだったのだが、察知されたか」


 レオンは少し申し訳なさそうに首を振った。レオンが悩むようなことではない。


「仕方ないわね、あの子は。まー、来たいと思ったら勝手に来るでしょう。あとは全員出席と」


「点呼はとらないんですか?」


「見れば分かるからね」


 マイア先生は割と適当な性格らしく、サバサバとホームルームを進めていく。


「さて、早速ですがみんなにはこの魔装特科AAクラスの特別授業を受けてもらいます」


「特別授業……?」


 ルル達は首を傾げる。


「魔装特科は魔術装置特別学科の略称。つまり、魔術装置(マギアデバイス)を専門に扱う学科の事よ。全学科共通のカリキュラムとは別にあなたたちには魔術装置を使用した実習を受けてもらいます」


 魔術装置は50年前、隣国グランディス帝国で起こった魔力革命で誕生した技術である。魔術装置が開発されて以来、それまで一握りの人間しか扱えなかった魔術が誰にでも使えるものへと画期的に変化した。現状のフォルテナ王国も魔術装置を積極に取り入れ、魔力車や魔動機関車、魔動兵器の開発に注力している。


「色々質問はあると思うけど、百聞は一見に如かず。まずは実際に演習場に行ってもらいます」


「演習場ということは外での実習になるわけだな!」


 ジャンヌが嬉しそうに食いつく。座学より体を動かす方が好きなのだろう。


「もちろん、そうよ。ふふ、喜びなさい。このクラスのために新しく造った魔術装置専用の演習場よ!」



◆ ◆ ◆


 教室を出て10分ほど、学園の東側にある誰も寄り付かなさそうな空き地に到着した。


「さあ、ここがあなたたちAAクラス専用の演習場よっ!」

 

 地面の草は自由だと言わんばかりに生い茂り、羽虫たちは元気よく空中で踊っている。演習場と呼ぶにはあまりにも人工物がない。あるのは人間ほどの大きさの謎の丸太だけである。これは演習場ではなく、ただの空間(スペース)であるとルルたちは判断した。


「先生、ここのどこが演習場なんだよ。これじゃ、ただの空き地だよ」


「ふっふっふ、先生が必死に頭を下げて確保したこの土地を空き地とは言ってくれるじゃない、フィン・レギノール君。だけど、それはアレを見てから言って欲しいわ」


 そういって、マイア先生が指をさすと丸太の影に台車があり、その上にトランクが複数置いてあることに気づく。


「なんか爆弾でも入ってそうなトランクケースだな」

「爆弾よりも凄い物が入っているわよ。さあ、開きましょう」


 マイア先生がノリノリでトランクを開ける。


「うおっ!」


 中から出てきたものにフィンが声を上げた。

 なんと拳銃である。

 しかもそれだけではない。剣に槍に手甲、何やら変な装飾のついた杖まである。


「戦争でも始める気かよ」

「これは……」


 ルルは一目で気付いた。全てが魔術装置で出来た武器……魔動兵器(マギアアームズ)だ。

 一切見たことのない型式のため、恐らくフォルテナ王国軍の試作兵器だろう。


「マイア先生……これを本当に僕達が?」


 試作兵器なんて爆弾くらい危険極まりない。そんなものを学生に扱わせるのか、と突っ込まざる負えない。


「モチロンよ。そのためのAAクラスなんだから」


 マイア先生はルルの不安を他所にあっけらかんと言い放った。


「大丈夫よ、ちゃんと動作確認はしてあるから。みんなにはこの魔術装置のモニターになってもらいたいの。あなた達みたいな初心者でも扱えるかどうかの、ね」

「……」


 マイア先生は笑顔でそういったが、ルルはその意味を理解した。誰でも……特に学生でも簡単に扱える兵器を王国軍はテストしたいのだ。恐らく将来起こる戦いに向けて。そういう意味ではフィンが言っていた『戦争』という言葉は真理を突いているのだろう。


「さて、ここからお好きな魔術装置を選んで――と言いたいところですが、みんなの魔術装置はすでに割り当ててあります」


「先生、質問いいですか?」

「はい、どうぞセリカ・アウルシェルさん」


 セリカが律儀に手を上げて質問する。


「これ武器みたいですけど……私達ひょっとして戦ったりするんですか?」

「心配しなくても大丈夫よ、セリカさん。戦うのは基本男子になるわ。女の子は基本護身用の魔術装置だから」


「え、オレたち戦うの!?」


 フィンが驚愕の声を上げる。それもそのはず剣や槍は模擬刀などではなく、本物である。当たれば怪我どころか死ぬ可能性は十分ある。


「フィン君も護身用だから安心して」

「なんだ安心……って、それもそれで女の子扱いされているみたいで嫌だな」

「はい、フィン君専用の護身銃」

「護身用って銃!?」


 フィンの突っ込みが追い付かない中、マイア先生はテキパキと魔術装置を配っていく。

 ジャンヌには大剣、レオンには槍、セリカには杖と順々に渡していく。


「はい、これがルル・ラナンクルス君の魔術装置ね。君のは特別に高スペック品だから丁重に扱うように」


 順番的に最後のルルが手にしたのは二つの剣。双剣の魔動兵器である。普通、鋼色をしている刀身は魔力を通すためか、蒼く輝いていた。

 

 チクリ、と脳の片隅で嫌な痛みが入った。


 『仕事』のとき常に使っていたのも双剣だった……。

 柄を握り、手に馴染ませる。

 ――瞬間、手が真っ赤に染まる感覚が訪れる。 

 殺さなくては。

 誰かが脳内で囁いた。

 速く。速く。速く。

 殺さなくては。殺さなくては。殺さなくては。

 脳内の声が大きく、はっきりとしたものに変わっていく。


 ――獲物ハ何処ダ?


「ルルっ」

 

 途端に女の子の声が思考を遮った。

 ステラ――いや、違うセリカだ。

 気づけば、セリカがルルの顔を覗き込んでいた。


「大丈夫?顔色が良くないけど」

「あ、いや、大丈夫。なんでもないよ。……いきなり剣なんて渡されてビックリしちゃっただけ。あはは……」


 ルルは何とか笑顔を作って見せた。


(セリカが呼びかけなければ……どうなっていただろう。いや、きっとどうもなっていない。大丈夫だ。僕はもう普通の学生なんだ)


 ルルはそう自分に言い聞かせた。

 まるで自身の内側から零れ出た泥水を無視するように……。


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