いなりが入っていることに激怒する先輩.hmv is god
「いなりが……入ってるやん!」
「ええ、お客様の大好物と聞いて、丹精こめて握りました」
「はぁ~大好物なんだよね」
「では、お会計ありがとうございます」
趣味のホモビ鑑賞をする野獣であったが、ついに彼は激怒した。
「ホモ要素無いやん!!!」
彼は準備して近くに置いてあった箱ティッシュをテレビに思い切り投げつけた。
今や彼の怒りは頂点に来ている。血走りさえしている。
「あのまま『いなりが入ってないやん!』とかこじつけて、何とかホモ要素へ持ち込むのが脚本の役割だろ!!ただ寿司屋と客の一般光景なんてこちとら興味ねえんだよ!!」
「ノンケがアダルトビデオとか見るとき、あくまで男女がイチャイチャすることを目的として視聴してるのであって、決して慣れ行きなんか興味ねえだろ!!」
全くホモ要素を含まない、寧ろ一般的な光景を映したビデオに彼は激昂する。
こんな酷い出来の作品はホモビマイスターである彼とて初めてである。視聴者全てが疑問符を頭に浮かべそうな内容のものを、果たしてホモビと言えるのだろうか。
思えば、レ帝が運営する通販サイトで購入したものであった。あの残虐非道なレならば、自分をけしかけるために何か仕込むなぞ想像するに容易い。
野獣は先輩である三浦に電話した。流石に内容がアレなので、この一件について相談しようと思ったのだ。
「もしもし、三浦さん。ちょっと聞いてくださいよ」
「なんだ、野獣?」
「余りにも酷いホモビ見つけたんですよ~」
野獣は電話口で赤裸々にホモビの内容を語る。
「酷いゾ、ぼったくりだな!!」
「ですよねぇ?うーん」
「取り合えずメーカーを教えてほしいゾ」
三浦に言われたとおり、野獣はメーカーを確認した。……『GOカンパニー』
「えーっと、ですね…『GOカンパニー』ですね。聞いたこともないです」
「よっしゃ、明日お前の家に行くから、そのビデオ見せてくれ。余りに酷ければ殴りこみに行こうぜ」
翌日、三浦は来た。
そのビデオを見せてみると、やはりホモビデオの御意見番ともあって、野獣以上の殺意と憤怒を見せ付けた。
「よし、殴りこみに行こう」
「やりましょうよ」
二人は黒塗りの高級車に乗り込み、颯爽と目的の場所へ向かった。
野獣愛蔵のロケットランチャーを構える三浦に対し、運転する野獣は問う。
「やつら、どんな顔をしますかね?」
「さあな。でも、股間にある二つのいなりはもぎとってやるゾ」
当の会社が二人の前に姿を現した。
大都会の一角に座す高層ビルは二人を圧倒せしめたが、ここで臆する度胸のなさではない。
そのままエントランスに車ごと入り込み、意気揚々と声を上げて野獣が言った。
「このビデオを作ったのは誰だッ!?」
「あー、それね、俺」
ラフな格好をした、まるで神のような神聖さを伴わせた存在が姿を見せる。
その人物こそ、GOカンパニーの社長であるGOであった。二人は彼の名札を確認しては、その肩書きに対してこれでもかとばかり脅迫する。
「おいおい、このクソビデオを作った責任はどうするのかゾゾゾ???」
「これじゃ人間便器マスクの刑だってそれ一番言われてるから」
「あははは、冗談だろ?」
GOは気軽に受け答えした。
「そもそも文句あるなら、君たちが出演すればいいじゃん」
「は???」
「いや、だからさ」
彼は二人の顔の前に求人ビラを押し付けた。
今では彼の会社は深刻なモデル不足が続き、しかもモデルにしても出来ない演技が多すぎて内容が狭まってきていたのだ。社長はそのことが経営破綻に結びつかないかと心配していた。矢先の殴りこみに、彼はモデルとしての天性を二人に見出したのだ。
「君たち、モデルにならない?」
■ ■ ■
あれから二人はモデルになった。ホモビマイスター、ホモビの御意見番が出演したとする作品に、多くの人々に購入意欲を齎したとされている。
そして、更に新人である木村を含めた三人が出演した伝説のホモビデオが発売された――『迫真空手部・性の裏技』
人は、その作品を”ホモビ界のナポレオン”と呼び、奉ったのである。