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終章 七話  神器不能の想創者

「咲夜さん・・動いて大丈夫なんですか?」


「もちろん。心配ないよ」


気絶したのも疲労が主な原因だし、想創のおかげでケガもない。


「ツバキの方こそ、左腕が・・」


腫れが酷く、まともに動かせそうにない。


「私は問題ないです。少しマヒしているだけですから・・っ!」


大丈夫だとツバキは主張する。普通しているだけでも痛いだろうに・・。


「無理はしない。後は任せてくれ・・あの化け物は?」


「・・犯人と獣の融合体です」


「あれが・・木葉?」


姿も気配も木葉とは似ても似つかない。


それと・・なんでだろう。あの化け物を見ているととても悲しくなってくる。


「戦闘力も異常なほど上がっていて、私たちでは傷をつけることすら出来ませんでした」


ツバキの能力ですら傷つけられないほど固いのか・・随分と厄介だな。


「・・咲夜!」


「灰!随分とボロボロだな」


「なに、まだまだやれるさ」


灰は気楽そうに笑う。ツバキほどではないが灰も限界に近いだろうに。


「それでだ咲夜・・何しに来た?邪魔か?足手まといか?」


真剣な目でこちらを見る灰・・何をしに来た、か。決まっている。


「あいつを倒すためだ」


「・・使うつもりなんだな」


俺の言葉。いや、俺が来た時から分かっていたんだろう。少し辛そうな顔をする灰。


「・・・・時間が欲しい」


「どれくらいだ?」


「・・正直、二分は欲しい」


あの化け物相手には生半可な想創では敵わない。それに、ツバキの時のように暴走しないよう調整することも考えるとそれぐらいは必要だ。


「・・二分だな。任せろ」


「あれ?そんな簡単に済ましちゃうの?」


てっきり何か言われるかと思ったけど。


「・・確実に倒せるんだろ?ならやるさ」


俺の胸を小突き、化け物へと近づいていく灰。


・・サンキュー親友。全てを託してくれてよ!


「・・時間を稼ぐんですよね?私も行きます」


「ダメだよ。そのケガじゃ戦わせられない」


立っているのも辛そうで左腕も動かせない。そんな状態のツバキでは危険だ。


「遠距離型の橘さんだけでは不利です。それに・・私も信じてますから」


化け物のもとへと向かうツバキ・・動くのも辛いはずなのに、それでもツバキも俺を信じて戦ってくれる。


「・・・・ありがとう」


必ず倒す!


「さて、やるか。ツバキ」


「はい。あと少しです」


「「ウルァァァァァァ!」」


叫びながら襲いかかってくる化け物。だが、その一撃はあらぬ方向に逸れ、地面を抉る。


「アアアアア!」


また攻撃するも逸れた・・どういうことだ?


「よく分からないがこのまま回避に専念だ!」


これを好機とすぐさま理解し行動を始める灰。



・・俺はイメージする。

全てを凌駕する拳を。

万物を穿つ拳を。



「ル、ル・・・・アアアアアア!」


攻撃が上手くいかないことに苛立っているのか見境なく暴れ始める化け物。その拳は地面を叩き、空を切り、稀に二人を殴り飛ばす。


「ぐ⁉・・があ⁉」


「橘さん⁉」「問題ない!来るな!」


・・俺はイメージする。

友を、仲間を守るための拳を・・約束を果たすための力を。


「くっ!」


遂に膝をつくツバキ。流石に体力も限界が近いのだろう。


「・・早く逃げろツバキ」


後ろには満身創痍の灰。腕の出血具合から見て、もう弓を使うどころか逃げることすら困難だろう。


「そんなこと出来ません!」


片膝をつきながらも灰を守るように化け物と対峙するツバキ。


「グルルル・・」


化け物がツバキを捉える。振り上げた腕を振り下ろそうとする・・



「想い描くは・・」

俺が描く理想。花さんの約束を守り、灰を守り、ツバキを守る。その存在こそ

「常勝の存在!」



・・・・・おい、こっち見ろよ。



「・・グァ⁉」


・・全身に絶大な力が溢れていく。


「・・待たせたな化け物。俺が相手だ」


「・・・・グルアアアァァ!」


俺を一番の障害と認識した化け物は標的を俺へと変え、拳を振るう。


「・・こんなものか」


俺はその攻撃を避けることなく、正面から受け止める。


少し攻撃が重く感じる程度。これなら・・いける!


「・・ルララァァァ!」


簡単に攻撃を受け止められたことに苛立ったのか、今度は命中率を度外視した攻撃。


・・これだけ近い距離だ。拳は外れることなく俺目がけて飛んでくる。


「「咲夜さん!」」


その拳から逃げることなく正面から堂々と・・


「・・・・ぶっ飛べや!」

殴り返す!


発生する衝撃波。周囲に被害が及んでいくなか、少しづつ俺が押し返していき・・


「おらぁ!」


拳ごと化け物を吹き飛ばす!地面に叩きつけられる化け物。けど、すぐに体勢を立て直す。ダメージを受けた様子もない。


「・・っ!」


全身に激痛が走る・・全力の想創を少し使っただけでこれか。


「おらぁ‼」「「ルアァァ‼」」


・・・・それからも殴り合いが続く。お互いが放つ拳を避け、防ぎ。たびたび相手の拳とぶつかり合う。


「ぐぅ!・・おらぁ!」


俺の方が攻撃を当ててるのに、想創の反動のせいでこちらがどんどん不利になっていく!


「「ルオォォ!」」「・・ぐぅ⁉」


遂に力負けをして盛大に吹き飛ぶ。もうガタが来てるってのかよ・・⁉


負けられない・・絶対!


もっと力を・・力を力を力を力を力を力を!


「う・・・・おオオオオ‼」


・・心が黒に染まっていく。それでも・・こ、いつに勝ツん・・だ。ゼッ対、絶タい!


「馬鹿野郎!なに諦めてんだ!」


「負けないで・・負けないで。咲夜さん!」


・・声。俺の心の闇を照らす温かい声。


「・・灰。ツバキ」


ソウ・・だ。


「想い描くは・・」


俺は、勝つんじゃない・・約束を、守るんだ!


「約束の存在!」


再び溢れ出す限界を超えた力・・持ってあと数分だろう。


「・・これで終わりにしよう」


だから、これで決める。全ての力を・・右腕に!


「グググ・・ガアァァァ!」


メキメキと音を立て、右腕を巨大化させる化け物。どうやらあいつも同じ考えらしい。


「・・グラァァ!」「・・ぶっ飛べやぁ‼」


最後の・・真っ向からの力勝負!


全力の一撃がぶつかり合う。衝撃も今までとは比べものにならない。


やられそうだ・・けど!


「俺の・・勝ち、だぁ!」


化け物を地面に殴りつける!


「・・・・博士、僕はただあなたに・・」


地面に叩き落とされ霧散していく化け物。その中から出てきた木葉を抱きとめる。寝息を立てているから命の心配はないだろう。


・・勝った。これで終わったんだ。


「「咲夜さん!」」


二人が近づいてきてくれるのが見える。けど、意識が朦朧としてもう・・まぁ、終わったしいいか・・。



・・俺は達成感を噛みしめながら意識を手放すのだった。


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