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三章 七話  役者は揃った

・・私のせいだ。


腕の中には血を流しながら気絶している咲夜さんがいる。


私を庇ったせいで・・私のせいで咲夜さんを傷つけてしまった。


状況も最悪。敵も残っているし犯人も健在。そして、こちらはもう戦えない。


「・・咲夜さん」


抱き抱えながら名前を呼ぶ。


・・私は兄さんを探すために咲夜さんだけではなく何人もの人に私の目的を話した。

そして全員、頑張ってね。協力するよと答えてくれた


・・瞳の奥を同情で満たしながら。


皆、私が可哀そうだと同情心からの返答なのだろう。実際、話をした人たちからの連絡は一度も送られてきていない。


・・分かっていたことだった。皆、その場だけでの言葉だったと。


だから、咲夜さんも同じだろうと思っていた。けれど・・


「・・ツバキ。俺はツバキに同情なんてしていない。ツバキの願いが叶って欲しいから協力するんだ」


その瞳には確かに同情も映っていた。でも・・それ以上の何かで輝いていた。


・・初めてだった。


この話をしてもなお、そんな瞳をした人は。


「・・信じてみようと・・思えたのに」


接近する獣。逃げなければいけないのに逃げられない。


「お前たちはよくやった・・だが、これで終わりだ」


・・ごめんなさい。咲夜さん・・覚悟を決めたその時だった。


「・・え?」


獣の腕に棒状の何かが突き刺さる。これは・・弓矢?


「ガ⁉」


突然の攻撃に驚く獣。なおも降り注ぐ弓矢は獣を正確に突き刺していく。


ピロピロ♪軽快な音楽が咲夜さんのポケットから鳴る。


取り出してみると正体は「橘 灰」と表示された携帯電話だった。


「・・もしもし」


「・・遅れてすまん。状況は分かっている。これから援護するから離脱してくれ」


淡々と連絡をし、こちらの返事を受け付けずに電話を切る橘さん。そして、これが返事だとばかりにまたも矢が降り、獣を傷つけていく。


「・・援護に来たか。あいつにも獣を送っていたのだが・・お前たちはことごとく私の予想を超えていく」


橘さんの援軍にも動じず次の手を思考する犯人。


「・・まあ、いい。目的である「イレギュラーの排除」は完了した」


そう言い撤退を始める犯人・・まさか、彼の目的は最初から咲夜さんの排除?


「木葉ぁ!」


激昂しながら犯人へと近づいていく橘さん。


「どうしたんですか?先輩♪」


「・・お前がやったんだな?」


「・・そんなこと、見れば分かるだろう?」


睨む橘さんと嘲笑う犯人。二人の間には決定的な亀裂が生じた。


「・・いいことを教えてやろう。私は今日の夜目的を完遂させる。せいぜい邪魔しに来るといい。では、また今夜。いつもの場所で」


襲撃予告をしつつ影に消える犯人・・私は、動くことが出来なかった。


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