三章 六話 牙が守りたかったもの
「・・何か知っているんですか⁉」
激昂するツバキ・・当然か。アルムはツバキが持つ唯一の情報なんだから。
「知っているなら答えてください・・サクラ兄さんのことを!」
「!・・くくく・・はははははは!」
何かを喜ぶように大声で笑い始める木葉。
「そうか。お前も・・ははは!」
「何ですか・・何がそんなに可笑しいんですか!」
「いやすまない・・ついな」
ひとしきり笑い終わり・・如何にもな悪人顔を作る。
「質問の答えだが、俺はサクラを知っている。どこにいるのかもな」
「・・‼今すぐ教えてください!」
「断る。聞きたければ俺を倒すことだな」
馬鹿にしたようにツバキを挑発する木葉・・まずい!
「ツバ・・」「はああああ!」
俺が止める前に木葉へと向かっていくツバキ。
やっぱり・・頭に血が上っているせいで状況判断ができていない!
「ツバキ!戻れぇ‼」
必死にツバキを追いかける。
「おっと、お前の相手はこいつらだ」
それを阻むように現れる獣たち。
「どけぇ!」
負傷度外視で獣を薙ぎ倒しツバキの元へと向かう。
「ツバキ・・ツバキィ‼」
俺は必死に呼びかける。木葉のあの顔・・絶対に何か企んでいる!
「悪いが、今となってはお前はただのイレギュラーだ・・確実に排除する」
今までよりも一回り大きい影を呼び出す木葉・・見ているだけで悪寒が走る。
「こいつらは武力消費が激しいので使うつもりはなかったが・・念には念を押さねばな」
一匹、また一匹と影から出てくる獣たち。
「これが私の使役する最強の獣だ・・出来る限り簡単に死んでくれ」
「「グルルル・・」」
・・全部で四体。大きさは巨獣を優に超え、爪も牙も体毛もより鋭く、固くなっている。そして、悠然と立っていながらも・・隙が全く見当たらない!
「・・断罪!」
斬撃を放つツバキ。その斬撃は獣を捉え、斬り裂いていく・・かに思えた。
「ガグウゥウウ!」
斬撃は防御に使った爪を少し削った程度で消えてしまった。
・・武力も体力も万全じゃないせいで、威力が弱まっていることもあるんだろうが・・あ
の獣はツバキの神器能力に耐えるのかよ!
獣の反撃。が、ツバキもそれを見越し、回避する。
けど、敵は一体じゃない。他の三体も攻撃に加わる。
「っ!・・ぅ!」
全ての力を回避に回すツバキ。それでもギリギリだ・・。
・・これが木葉の切り札。あんなの、どうすれば・・
「ぐぅ⁉」
鈍い痛み・・この・・!いい加減、邪魔なんだよ!
獣の腕を強引に掴み、そのまま強引に地面に叩き付ける。
「うらぁぁあ‼」
そして、渾身の力で獣の頭蓋骨を殴り砕く。一連の速攻劇に対応できず霧散していく獣。
「・・次ぃ‼」
悩んでる暇なんてない!早くツバキと合流しないと!
「炎よ!」
高火力の火の壁を作り、獣と距離を離そうとするツバキ。
「ガグァァ!」
けれど、そんな壁をものともせず直ぐ様に距離を詰める獣たち。
「・・っく!」
お返しとばかりに四匹がツバキを囲い目にも留まらぬ速さで攻撃を仕掛けている。
一匹の攻撃を受け流せばまた次、また次、そして次・・攻撃の雨は止まない。
けど、ツバキは四対一であるにも関わらず、攻撃を躱す、躱す。そして・・
「・・断罪!」
蜘蛛の糸ほどの隙を突き、一閃を浴びせる。けれど、かなり深い切り傷を与えたがホオズキからの武力供給を受け、傷は完全に塞がってしまう。
・・火を出し、回避に専念し、好機を逃さず一撃入れる。
一連の動作を言葉にすれば善戦しているように見える。けど、見えるだけで実際は追い詰められていく一方だ。
元々、多対一はあまり得意じゃないツバキ。酷い言い方かもしれないがツバキがあの化け物相手にここまで長く耐えるどころか攻撃すらできるはずがない。
・・つまり、あいつらはツバキで遊んでいるということだ。
けど、使役している木葉の顔には若干の不満が見える・・強大すぎて完全には御しきれていないということか?
・・ともかくこちらとしてはありがたい。制限時間が伸びるのだから。
「おらぁ!」
こっちの残りもあと数匹!これなら・・!
俺は事態の好転を・・
「あああぁ!」
「・・え?」
ツバキの・・まるで断末魔のような悲鳴を聞き、振り返る。
「予想を大幅に超えたか・・まだまだ調整が必要だな」
そこには・・血を流したツバキが倒れていた。
「え・・・・?」
ツバキはピクリとも動かない。血溜まりも大きくなっていく。
・・俺は最悪を想像した。
なんで・・ナンデ・・俺はただ一つを目に映す。
「さて、残りは・・」
「う・・おおおおアアアアアァァ‼」
ドス黒い何かが体を巡る。思考が・・ニブル。
「・・・・」
俺の意志関係なく動く衝動に身を任せる。
前方の黒いゴミをいくつか潰し、ホオズキへと接近する。
「「ガァアア!」」
けど、一回り大きいゴミどもがまたも行く手を拒む。
一つは一部を引き千切り投げ飛ばし
一つは牙を見つけたので武器にしようと全て引き抜き
一つは牙で地面に固定して押し潰し
一つは興味を失ったので適当にあしらった
「・・なんだ。なんなのだ⁉これは⁉」
こno破ガ慌てテいru。
「そうか・・これが・・これが博士が言っていた」
・・ドウデモイイ
目の前の何かへと腕を振り上げる。
「・・咲夜・・さん?」
・・・・・・え?
「ツ、ツバ・・キ」
太ももから出血しているせいで顔が少し青いけど・・ツバキ・・・・生きている。
・・体を巡るドス黒い感情が晴れていく。
「ツバキ・・よかっ」
「ガアァァ!」
残っていた最後の獣がツバキへと突進する。
・・足をやられてツバキは動けない!俺は全力でツバキの元へと駆ける。
「間に・・合えぇ‼」
残る力を振り絞ってツバキの元に走る。
体のいたるところから悲鳴があがる。けど、それがなんだ!
・・頼む!間に合え!
獣の爪がツバキを捉える・・・・前に獣とツバキの間に割り込むことが出来た。
グシャ!
ガードに使った両腕が嫌な音と共に切り裂かれる。
・・あれ?あんまり痛くないや。
元々体が限界だったからか出血のせいなのかは分からないが痛みはあまり感じない。
・・ツバキは?
攻撃の反動でツバキにもたれかかってしまう。良かった・・無事だ。
「・・さん!咲ん・・!」
ツバキが俺に声をかけているのは分かるが良く聞こえない。
・・顔に水が落ちる。そういや午後は雨だったっけ。でもこの雨・・暖かいや。
ツバキを守れたことに安堵しつつ俺は闇へと意識を沈めていった。




