三章 五話 噛み合わぬ牙と刃
「さて、どちらから先に死にたい?早い者勝ちだぞ?」
「・・生憎とまだまだ生きたいお年頃でね。遠慮しておくよ」
「そうか。なら、こちらで決めさせてもらうとしよう」
俺の答えなど心底どうでもいいようで、表情一つ変えずに影から獣を召喚し始める木葉。
・・いつもと雰囲気も気迫もまるで違う。同一人物なのか疑いたくなるくらいに。
「一つだけ聞かせて」
だから俺はつい聞いてしまった
「こうなるって分かっていたのに・・なんで俺と接触したの?」
・・これがお前の本心なのかと。
「・・情報収集だ。先ぱ・・お前が特殊だったからな」
淡々と答える木葉・・でも、先輩と言い間違えたのは聞き逃さない。
「私からも一つ」
神器を展開しつつ、今度はツバキが質問する。
「・・貴方の目的は何ですか。事情によっては話し合いで解決できるかもしれません」
「私の役目は目的前の下処理だ。そのために障害である君達を始末する」
「・・なぜ、そのようなことを?」
「下らない門答は必要ないだろう?平行線なのは理解しているはずだ」
・・奪うものと守るもの。お互いが譲ることは決してない。
「そうですか・・あくまでこちらに降るつもりは」「くどい」
完全な拒絶。こうなった以上、決着をつけるには・・
「・・それでは貴方の身柄、拘束させてもらいます。」
どちらかが倒れるまで戦うしかない。
「切り裂け・・牙鉄」
俺も牙鉄を展開し、戦闘の準備を整える。
普通の服だから防御力が心もとないな・・いつもより武力を防御に回さないと。
「では、始めようか」
木葉の合図と共に獣の群れが動き出す。数は二十ほど。幸い巨獣はいないけど・・さて、この数どうするか。
じりじりと俺たちを囲み始める獣。そして・・
「やれ」
主人の合図と共に一斉に攻撃を仕掛けてくる。
「くっ!この!」
単純に考えて、一人で十体を相手取る必要がある。
けど、俺にそんなことが出来るはずがない。多少のかすり傷を見逃し、ちまちまと一匹づつ処理していく。
「・・はぁ!」
そんな俺を尻目に特に苦戦することなく流れるように獣を倒していくツバキ。
・・でも、いつもより攻撃を喰らっている。心なしか冷静さも欠いているような・・?
「どうした、早く倒さねば増えていくばかりだぞ?」
絶えず獣を召喚する木葉。明らかに倒す速度よりも増える速度のほうが速い・・このままだと不味いな。
「・・断罪!」
ツバキも俺と同じ考えに至ったんだろう。神器能力を使って一気に獣を屠っていく。
「断罪!断罪!・・断罪!」
でもこれは・・連続で使い過ぎじゃないか⁉
四方八方に放たれた一閃は獣たちを物の見事に両断していく。結果、あれほどまでにいた獣たちはほとんどが霧散していった。
「・・っはぁ。はぁ」
けれど、ツバキは息を上げ動けなくなってしまった・・獣はそれを見逃さない。
残っていた獣はすぐさま標的を変え、動けない獲物へと牙を突き立てる。
「ツバキ!」
あのままでは避けられないと判断し、ツバキに覆いかぶさるようにして盾になる。
「ぐぅ・・・・‼」
全身を襲う痛み。けど、全力で硬質化していたおかげで牙までは貫通していない。
「さ、咲夜さ・・」
「ボーっとするな!早く反撃!」
「‼」
俺の言葉を聞き、即座に残りの獣へと斬りかかるツバキ。
「うらぁ!」
俺も即座に切り替え、ツバキと共に残りの獣を始末する。
はぁ・・はぁ・・くそ、武力を使い過ぎた。
「随分と苦戦しているな。そら、次だ」
・・巨獣が五匹。ダメだ。今のままじゃ絶対に勝てない・・!
「ツバキ、一度体制を・・」
「大丈夫です!私一人でやれます!」
息も整わない間に再び敵と対峙するツバキ。
「な⁉下がれ、ツバキ!」
いくらなんでも無茶が過ぎる・・一体どうしたんだよ⁉
ともかく、少しでも早く助けないと!
・・俺はイメージする。
「はぁ!」
ツバキの気迫を乗せた攻撃。神器能力を使っていないにも関わらずその刃は固い獣の肉を斬り裂いていく。
回避も多対一にも関わらず完璧に回避を・・しているように見える。
でも、攻撃に力が入ってるせいで回避が一拍遅いし、なによりもこのままじゃ体力が持たない!
「・・くぅ⁉」
そして、俺の心配は現実となり、ツバキは避けきれず体勢を崩してしまう。
・・想い描くは
「常勝の存在!」
まだ二割だけど・・!
すぐさまツバキの援護へと向かう。
「おらぁ!」
全力で殴りつける。けど、視線をこちらに向けさせただけ・・威力が足りないか!
「ぐっ・・⁉」
突如全身を駆け巡る激痛。刺すような痛みは体の動きを麻痺させる。
・・二割使っただけでこれかよ!
「グガァァ!」「しまっ!」
巨獣の反撃を回避できないと悟り、すぐさま硬質化を全開にする。
「・・っう!」
全力で硬質化をしたにも関わらず皮膚が裂けている。
まずい・・もう一度喰らったら今度は肉まで裂かれちまう!
「・・断罪!」
間一髪といったところでツバキが巨獣を倒す。
「ごめん。助かった」
「はぁ・・気にしないで・・はぁ・・ください」
・・何やってんだ!ツバキを助けるつもりが余計に消耗させてるじゃないか!
「・・っ!」
俺も少しづつ痛みが増してきやがる・・このままじゃ本当にまずい!一旦逃げないと!
「・・・・お前」
突然攻撃の手を止め、ツバキを見る木葉。そして、何かを確かめるように・・
「・・アルムか?」
「「⁉」」
唐突にその言葉を投げかけた。




