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三章 四話後編  大切な存在よ、俺の言葉を聞いてくれ    

「神器使いを超える存在を作る・・」


・・つまり、それは


「そいつは・・神を敵に回すつもりなのか?」


神器使いとは違う戦士を作る・・それを考える時点で神への反逆に等しい行為だ。

けど、その博士はあろうことか実行にまで移している。協会が危険視するのは当然だ。


「・・彼の実験は並大抵の人間では耐えられるものではなく・・一人また一人と仲間たちはいなくなっていきました」


ツバキは過去の苦しみを思い出し、顔を歪ませる。


「私は・・数少ない生き残りの一人なんです」


「・・・・」


ツバキが話してくれた重く、辛い過去。俺は・・何を言えばいいんだ?


「その生き残りの中には、私が兄のように慕っていた人もいました」

・・ツバキの話は続く。


「彼・・サクラ兄さんは辛い実験の中でも挫けないよう私達を励ましてくれました。私もサクラ兄さんに何度助けられたか」


ツバキは微笑む・・まるで過去にしか存在できないものを見るように。


・・ツバキはいましたと言っていた。つまり、もうその人は・・


「いましたってことは・・お兄さんはもう?」


・・・下らない質問しか出来ないのかよ、俺は。


「いえ・・兄さんとは協会が施設を取り押さえた時に離れ離れになってしまい行方不明な

んです」


「行方不明・・?生死不明じゃなくて?」


・・どうして 生きている。 と断言できるんだ?


「協会に保護された数日後に兄さんからと思しき手紙が届いたんです・・「俺のことは心配するな」と」


「それじゃあお兄さんは・・」


「はい。きっと生きています。」


・・それが本当にお兄さんの手紙だという保証はない・・でもツバキはそれを信じている。


「それから、私は兄さんの行方を捜すために各地を転々としてきました・・今回の事件ももしかしたら兄さんの手掛かりがあるかもしれないと思い、志願したんです」


人を、兄を探すため・・それがここに来た理由。


「・・すごいな、ツバキは」


情報が全くなく、生死すら曖昧なのにここまで行動出来るのは相当な意志と覚悟と・・お兄さんへの想いがないと無理だ。


「・・私、兄さんと約束をしたんです」


ここまでするほどの約束・・ツバキにとって何よりも大切な約束。

「一緒に世界中の星を見ようって」



・・約束を語るツバキ。その笑顔は今までで一番の笑顔だった。



そして湧き上がる・・ツバキの力になりたい。努力が報われてほしいと思う気持ち。


「・・っ。ツバキ、お兄さんの情報を教えてくれる?」


「・・情報はほとんど無いんです。ですが、アルム・・ツバキ・アルムと言えば兄さんは分かるはずなんです」


「アルムって・・ツバキの苗字だよね?」


「・・アルムは私たちの居た施設の名前なんです。苦い記憶しかありませんが、唯一と言ってもいい兄さんの手掛かりなんです」


手掛かりはアルムという施設の名前のみか・・


「分かった。アルムだね?俺もお兄さん探し、手伝うよ」


「・・ありがとうございます」


けれど、急にツバキは表情を曇らせてしまう・・その瞳の奥には諦めや悲観が映っていた。


違う。違うんだ。ツバキの過去を聞いて同情したから協力をするんじゃない・・頑張っているツバキに協力したい・・そう思うから助けるんだ。


「・・ツバキ。俺はツバキに同情なんてしていない。ツバキの願いが叶って欲しいから協力するんだ」

「・・!」


俺の気持ちが全部伝わるとは思わない。でも、それでも・・これは言葉にしておかなきゃいけない。


「違いません。その気持ちは同情です。一時の気の迷いです。あなたは優しいからそう思うんです。可哀そうだから助けてあげたいと・・!」


強い拒絶・・きっとツバキは今まで何度もこの話をしたんだろう。そして、全部無駄に終わった。今回も同じなんだろうと、期待しても無駄なんだろうと心を閉ざし始めている。


「違う。同情なんかじゃない。本心でツバキを助けたいと思っている」


でも、ダメだ。ここで引いたら俺の気持ちは・・・・俺の言葉は嘘になってしまう。


・・俺の過去・・辛かったことと似ていることからの同情がないといえば嘘になる。


でも!助けたいという、願いが叶って欲しいという気持ちも嘘じゃない‼


「・・なぜです。同情じゃないならなぜ!」


どうして、か・・いや、もう分かっている。



「ツバキが大切だからだ」



ツバキとの一週間・・・・俺とツバキと灰の3人で過ごす時間はとても楽しかった。


「大切な人が困っているんだ。だから助けたい」


そして、気づけばとても大切な人に・・好きな人になっていたんだ。


「大切・・?たったの一週間ですよ?」


確かにたったの一週間だ。たったの七日だ。それでも・・


「頼む、ツバキ。俺を・・一週間共に過ごした俺との時間を・・信じて欲しい」


・・それでもツバキが大切だという気持ちに変わりはない。


「・・・・」

・・ツバキからは何も返ってこない。


「・・今は信じなくても構わないよ。でも、信じてもらえるように俺、頑張るから」


俺の気持ちは伝えた。あとは信じてもらえるように行動するだけだ。


・・今日はもうお開きかな。この後雨の予報だし、商店街も静まり返ってるし。


「今日はもう帰ろうか」


俺は席を立ち会計へと向かう。


・・・・・・静まり返っている?


強烈な違和感が全身を駆ける。


壁時計を見たけどまだ午後2時。こんな時間に人がいないはずがない。


「・・ツバキ。周りに人の気配・・する?」


「・・全く感じられません」


ツバキも気付いたようで即座に警戒を強める。


・・嫌な予感が膨れ上がる。まさか、まさか・・


「人払いと小規模の結界を張った。目立ちたくないのでな」


・・・・どこから、いや下から声が聞こえる。


「ああ、私の姿が見えていないか」


突如現れた黒い影から・・・・白髪の男が現れる。


「・・どうして」


俺は現れた男を見て固まってしまう。だって・・


「始めまして。組織に飼われている哀れな者よ。私の名はホオズキ。早速で悪いが・・君たちには死んでもらう」


・・だって、そいつは木葉だったのだから。



・・・・遂に現れた事件の首謀者。今、総力戦が始まろうとしていた。



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