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三章 四話前編  大切な存在よ、俺の言葉を聞いてくれ    

「・・ふう。疲れた」


大体の店を回り終えた俺たちは、休憩を取るためにカフェへと入る。


昼食の時間が終わったからか席はそれほど混んでいなかったけれど、涼みたかったのもあり外のテラスに座る。


「・・ふう」


あれだけはしゃいでいたのもあってツバキも少し疲れているようだ。


「ツバキもお疲れのようだね」


「・・ついはしゃぎ過ぎてしまって」


テラスの前を横切る人混みを見ながらツバキは答える。


「あはは。確かにいつもよりはしゃいでたね。あんなに無邪気なツバキは新鮮だったよ」


「は、恥ずかしいので忘れてください!」


「えー。可愛かったのに・・ほら、この写真」


携帯で撮影したはしゃいでいるツバキの写真を見せる。


「こ、こんなの・・早く消してください!」


「やだ。これは永久保存するんだから」


「咲夜さん!」


「ははは!」


表情豊かに俺を怒るツバキ。

・・初めて会った時に比べれば随分と柔らかくなった。これが本来のツバキの素の状態なんだろう。


「お待たせしました」


ツバキをのらりくらりと躱すしているうちに注文した料理が運ばれてくる。


「ほらほら、早く食べよう。俺、腹減っちゃった」


「・・・・食べたら消してくださいね」


渋々といった様子でスパゲッティを食べ始めるツバキ。どうかこのまま忘れますように。


・・今日はどこが一番面白かったかとか、学校でこんなことがあったとか、花さんや灰についてだったりとか・・ツバキとの雑談を楽しみながら昼食を食べる。


そして、今日一日一緒にいて、いろんな会話をして・・ツバキの性格。いや、ツバキがどんな人なのか断片的だけど理解できたと思う。


「聞いていいのか分からないけどさ・・」


けど・・俺はそれ以外にどうしても知りたいことがある。


「ツバキは・・なんでここに来たの?」


・・自分の欲を押さえられなくなった俺はそれを言葉にして吐き出す。


「・・・・」


俺の質問を聞いたツバキの顔からはみるみると笑顔が消えていく。


・・前にツバキは協会でトップレベルの実力の持ち主だと灰が教えてくれた。


そして、間違ってもこんな所に派遣で来るような人材ではないとも・・それならば何かしらの理由があってここに来たはずなんだ。俺はそれがどうしても気になる。


「・・・・」


長い沈黙。ツバキの顔は困惑に支配されていた。


「・・ごめん。無理には答えなくていいから」


・・バカか俺は。人には触れてほしくないことがあるって分かってるだろうが。自分のくだらない認知欲求を優先してんじゃねぇ。


自分がした軽率な発言の後悔が体を駆け巡る。


「「・・・・」」

長い・・いや実際は一分もないほどの沈黙の後に・・


「私は・・捨て子でした。なので、家族のことは顔すら覚えていません」


顔に困惑を残したままだけれどツバキはぽつぽつと話始める。


「身寄りもなく赤子だった私は孤児院に引き取られることになり、同じ孤児院の子たちと遊んだり勉強をしたり・・それなりの幸せを謳歌していたんだと思います」


過去を思い出し微笑むツバキ。孤児院での生活は本当に幸せだったんだろう。


「ですが、私を含めた数人は突然別の施設へと連れて行かれました」


・・俺や灰は先祖代々続く神器使いの名家の出だが、ほとんどの神器使いは神器関連の組織が経営している施設出身だ。ツバキも神器使いの適性を見出され協会に・・


「そこは・・神器使いの研究施設でした」


・・研究・・施設?


「ごめん、話の腰を折っちゃうんだけど・・研究施設ってどういうこと?」


神器は神が作り、人に与えし道具。その歴史は紀元前までに遡り、情報も全て出揃っている。今更調べることなんて何もないはずだ。


「私が連れて行かれた施設は、協会が危険視する人物の研究施設だったんです」


「・・そいつは何の研究を?」


人が出来る範囲は武力関連の研究が精々のはず。となると、人為的に武力を向上させる研究やデザインチャイルドなんかの人体改造関連だろうけど・・。


「・・彼は神器使いの才能を持つ子供を集め・・」


言うべきか躊躇っているようで下を向いてしまうツバキ。が、やがて意を決し


「人工的に神器使いを凌ぐ優秀な戦士を生み出す研究をしていたんです」


・・その恐るべき研究を告げた。


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