ミセナイナミダ
彼の思いと彼女の思い
僕の前でいつも君は笑顔で
コロコロ変わる表情を見ていることが僕にとって幸せで
この時間がずっと続いてくれると思っていた。
仕事の関係で離れることが決まったあの日
一瞬表情がこわばった後の君は
《大丈夫だよ!》
そう言って笑ってくれた。
電話もあるしメールもあるよ!応援してるから無茶だけはしちゃダメだよ?
いつものように明るい声で僕のことを心配してくれていたけれど
君の笑顔が僕の好きないつもの笑顔とは少し違うことに僕は気付いていた。
《今カメラ女子?ってのが流行ってんの!だから買っちゃった(笑)》
君は笑顔でカメラを見せてくれて
いろんなものをファインダーに収めていた。
君の右手にはカメラ
左手には僕の右手で
次はどこに行こうか
何をしようか
明るい声で振る舞う君が
君の笑顔が泣き顔に見えた。
帰りの電車まであと1時間
少し後ろの方からシャッター音が聞こえて振り向くと
君は僕の写真を撮っていた
背の低い君に合わせて少し猫背になったのは長い月日を一緒にいた証で
多分
離れて生活をすることになってもこの癖は治らないんだろうなと思っていた
いっそうのこと
涙を見せてくれたら
少し低い位置にあるその柔らかい髪を撫でてあげることができるのに
夜になって
僕が寝ている間に静かに泣くんじゃなくて
コロコロ変わる表情の中にその涙も混ぜてくれたら
君と一緒に大丈夫だっていうことが出来るのに…
今の僕には
気付いていないフリをして君を呼ぶことしか出来ない
君に振り返って手を伸ばして
腕にしがみつく君の髪をそっと撫でることしか
君のミセナイナミダに気付いていると
伝えることは出来ない
大丈夫
僕だって信じてるよ
電話もメールもあるから君を感じることが出来るって
だけど
電話もメールも
君の温もりは届けてくれないんだ。
寂しいなんて僕から言ったら
君の笑顔が守れないから
今だけ
僕の顔が君に見えない今だけ
寂しいって思っていてもいいかな。
男性歌手のラブソングを聞いていて思いつきました。前作の彼氏視点になっているので合わせて読んでもらえたら嬉しいです。