08
霞の中、手足は重い。耳だけは冴えていてやる気があるようで、耳障りな音を拾う。何だろうか、結局のところ助かったのか気になって、そこへようやく意識が追いついてくると、まず気になったことがいくつかあった。
身体が重いが、先ほど感じた不快さはない。むしろ優しく包まれているといっていい。目を開けて覚醒を促せば布団の中にいることがわかる。目の前には木目の幾何学模様が一面を覆っており、照明がやわらかい橙色を持って照らしている。
右耳からは誰かの笑い事が姦しい。それから耳をくすぐるように茶を啜る音、続いてボリボリという堅い物体を破断する音も相まって、誰かが寛いでいるのだと判った。
果たして、夢だったのか。むしろ、今が夢なのだろうか。とにかく今、実に奇妙奇天烈な出来事に遭遇した。人生にただの一度も訪れることはないな、と諦めながらもどこかで期待していた不思議体験ではあったが、まさか現実に起こりうるとは予想外も良いところだ。ともより、経験するのならば一度でよかったのである。立て続けに起きられてはありがたみも薄まるどころか、草臥れてしまって大概だ。
白昼夢、なんて生易しいものではない。
見知らぬ部屋。で、自室といえば酒とヤニの臭いばかり、畳の芳しさなど芳香剤でも使わない限りにありえない。
「おっ、気がついたようだね」
右耳が、男の嬉々たる声を吸い取った。
目を向ける。頭を動かして、その場をおさめる。
ちゃぶ台があった。そこには二人が座っている。
日本人形がワンピースを着ている姿があって、やはり助かったのだという事実として、さらにいえば多大な貸しを作ってしまったことに対する不安があった。そして、見知らぬ男の存在が拍車をかける。命を救ってもらったといって過言ではない。
男の容貌はまさに西洋人であった。
東洋人と西洋人。予想通りと予想外が共存している姿は中々奇妙であって、言動に緊張が走る。
「強引に招待してしまって悪いね。だが、安心してほしい。ボクがいうと本当に、それこそ王道展開的に胡散臭いものだろうけれど、それでも、言わせてほしい。我々は何も気概を加える腹積もりはないんだ」
西洋人がそう言った。金髪の白人だった。座していながらも、その体躯は優れていると良く判った。おそらくに長身であると推察をさせたが、だからといって威圧感を薄めるようにして、その顔は柔和と言えなくもない。つまりは、朗らかでフレンドリーな態度から、露骨に敵意がないアピールをされているのであって、その気使いが、彼の胃をジクジクと刺突させて痛みを抱かせた。
「どこか、都合の悪いところはあるかね?」
「……いえ、特には」
言い終えてから、それとなく刺激することも憚れた。もっとも人間風情が反抗したところで目の前の存在には脅威にならないだろうが、職業上、相手の警戒心やら不審を和らげようという所作が自然と上半身を起こさせた。
「それなら良かった。こちらでも調べてみたところ少々内臓器官の衰えが見られたのでね、勝手は失礼とは思ったが見逃すのも忍びない。で、やむにまれず治療を施したのだが、君の姿を見るに間違いはなかったようで安心したよ。では、藤堂秋彦君。早速で申し訳ないのだが、だからといって、このまま何もせず、というのは互いにとって実に不利益なことだから、この際、少しばかりなんだがね。お話しないかな」
目の前の男は実に、そう、不穏な言葉をつらつらと並べてている自覚がなかった。勝手に治療したということは医療機関にかかったのかと、普通ならば、それは人間であるならば、いや、地球上に存在する動植物であるならば、救急車などを呼び寄せて病院にて治療を施されたと考えるべきだが、ここにいたっては常識はない。
少女へちらりと目線を流す。彼女はちゃぶ台に置かれた湯飲みを凝視している。能面のように、感情が欠落していた。
男を見やり、頭を垂らす。
「助けていただき、ありがとうございました」
白人は笑う。しらじらしく、それこそアメリカのテレビドラマや通販番組の登場人物のように、笑う。
笑顔はしっかりと張り付いている。こちらもまた、顔を緊張させていることに変わりはない。
「やはり日本人は奥ゆかしい。とても好ましいよ。奥ゆかしい君のことだからきっと気になっているだろうことを言わせてもらうと、アリスに関しては特に小言をいうつもりはないから安心してほしい。しかし、君は中々に面白く、それでいて実に冷静な人物に見える。信用できそうもあるね」
「――はぁ」
気の抜けた言葉しか出てこなかった。西洋人はどうしてここまで評価するのか判らない。なにか、怪しい壷でも買わせる気なのか。そうであるのならば、楽なことこの上ないのでむしろ大歓迎であったは、西洋人はニヒルな笑みをたやすくことはなく、
「まず、自己紹介からいこう。ボクだけが知っているのも収まりが悪いだろうからね。お互いに面識を持とうじゃないか。こちらとしては君とはフェアな話し合いを望みたいのだから、さぁ、こちらにどうぞ」
と言い寄ってきた。
拒否して心象を悪くすることもないので、素直に従うことにした。布団から体を滑らせる。とてもすばらしい布団だった。旅館でも、ここまでふっくらとした羽毛に埋もれているような心地よさは出ないのではないか。ここが、どこで目の前の二人が何者であるか、という問題がなかったとするならば、そも目覚めもせずに清々しい朝を迎えることが出来たと確信できる辺り、実に残念なことだった。
目の前に座布団がある。そこにするりと腰を落として正座をした。
「話し合い、ということですが、私の職業柄、知りすぎては碌な事が起こりませんので。ですから、不誠実と思われて仕方がないかと思いますが、このたびのことは――」
「ちょっと待ってほしい。君も知りたいだろう。ボクたちのことを、何故、襲われたのかを」
機先を制したつもりだったが、横槍が鋭く入る。話し合いに手馴れている節が見受けられ、実に手ごわい相手であると認識せざるをえない。譲歩する態度を見せる必要があるのは百も承知であることは確かだが、今回に限り、特別な出来事であるということを加味するならば、ここは安易に安請け合いをするわけにはいかない。ここで折れてしまってはいいように扱われてしまうだけだろうと踏んで強硬な態度をとる。心象を悪くさせてしまうというのならば、この二人組みは何かをやらせようとたくらんでいることは明白であり、よからぬことも追記するべきか。そこから、自己保身への糸口もみつかるのではないか。しかしながら、いきなり殺しにかかることをしないという希望と楽観が多分に目算されての行動で、これは少しばかり性急であったと後悔を刹那的にすませたのちに、このままもう少し、あとほんのちょっぴり先に進んでしまおうと大胆かつ、適当な気持ちを口を開く。
「先ほども申しましたが、知りすぎて身を危険にさらすことはできませんので……」
「言うことは解るよ、むしろ至言と置き換えてもいい。だがね、君はどうしたって当事者なんだ。望みもしなかったまったくの偶然。それでも、藤堂秋彦君。君は巻き込まれてしまったんだ。悪いようにはしない。君の生命と安全は絶対に保障する。秘密の共有をしようというんだ。単に情報を提供するだけじゃない。君にとってメリットを与えることもできる。けれども、それにはデメリットだって付随する。しかし、この話を聞くだけで双方は発生しない。約束する。絶対にだ」
しらけた雰囲気が霧散した。目の前の男は彫りの深い顔を正し、まっすぐに見つめていた。演技であると断ずることはたやすいが、ここまで強情な拒絶を魅せたところで一歩も引かず、かといって従わせようと力に走ることもなく、気分を損ねている印象をもたれまいと居住まいを正す様から、少なくとも信用できるのではないかと考えた。つまりは、本来ならば接触したくもない事実にくびを突っ込む覚悟を、持つことが必要になったということである。
「巻き込まれた、ですか」
「すまない、藤堂君。ボクの不手際なんだ。罪滅ぼしをさせてほしい。だからこそ、その一環としてぜひとも、話をしたいんだ」
「――解りました。伺います」
「ありがとう!」
緊張を解きほぐすかのような笑顔を見せる。警戒するなと言われているのだから、もはや肩肘張る必要はない。
心を落ち着かせた。情報を知りたくないのは限りないウソであるからして、誘惑に負けまいと根をつめてしまっていた。その牙城を崩されたのだが、清々しさと妙な喜色すら浮かべてしまいそうになって慌てて顔を力ませる。何も判らないままというのは、気持ちが悪いものだ。
「ボクはね。君のような人と話せることがとても嬉しい。しかし、うん、どうすべきか」
男は腕を組んでうなる。話す内容を決めかねているようで、そこから察するに知らない話題が多すぎたため、受け手のことを慮って、ということが良くわかる。知らないことばかりであることに疑いようはない。
「まずは自己紹介をしておこう。ボクはジョージだ。これでもアメリカ人でね。日本を旅行中にこの国の文化にほれ込んでしまって、それ以来各地を転々と移動して生活している。もちろんビザもしっかりと発行してもらってあるから安心してほしい。光洋町では翻訳や通訳の仕事をフリーで行っている。そして、彼女はアリスだ。一応、日本人なんだが、光洋町にやってきて問題点が浮き彫りになってしまったよ。所詮は書物や電子情報による喧伝だったから、鵜呑みにするのはよろしくなかった。たとえそうであっても多面的な情報収集が必要だったよ。いやぁ、ボクの好奇心がどんどんと知らないものを求めてしまってね。結局は、アリスのままになってしまったんだよ。今は無口だけれど、気にしないでほしい。まだまだ発展途上の子でね。大人しいくらいが扱いやすい」
随分と口の回るアメリカ人である。日本人よりもよほど流暢に喋るうえに、アリスという名前は失敗だったと公言している。名付け親ということだろうが、だとするならば二人の関係は一体なんであるのかという疑問はすでに相手も予測しているだろうからあえて話題をふる必要もない。
「もちろん、君も察してもらえていると思うけれど、ボクらの名前は偽名さ。立場も、戸籍だってすべてが偽りで出来ている。しかしだね。地球においてこのジョージ、アリスという名前と存在こそが真実でもあるんだ。だからこそ、うん、まずはボクらの秘密を明かすことにするよ。これが一番にインパクトがあってこれを上手に飲み込んでくれるのならば、随分と話の流れが良くなるからね」
「それは、こちらとしても願ったり叶ったりですが……」
「うんうん、では言おう――ボクらは、宇宙人なんだ」
ウチュウジン。
宇宙人、という単語が脳内で該当するまで間抜けな顔をさらした。かといって、ここにきて一蹴できるほどの冗談には聞こえないのだから余計に始末が悪いといえる。
「はぁ、宇宙人ですか。私は地球出身の日本人で、名前を藤堂秋彦と言います。改めてよろしくお願いします」
「よろしくお願いするよ、藤堂君、いや、秋彦君と呼んでも?」
「身近な人物からはアキと呼ばれています。友好の証としてどうぞ呼んでください」
「では、アキ君。ボクらの親愛の証として言葉遣いを直してくれないか。ボクらは今を持って友達になったんだからね」
「よろしいので?」
「かまわないさ。言葉遣いだけで誰かの心象を悪くすることもないだろうからね」
「では、ジョージ。宇宙人というのは何かの冗談というわけではないということは判る。しかし、実感が湧かないのは事実なんだ」
「そのようだね。今の反応の鈍さを鑑みるならば、やはり地球人におけるサブカルチャー文化の発展は目を見張るものがあると言わざるを得ないな」
羨望の眼差しを向けられたところで、それに答える言葉を持っていないのでどうすることもできない。随分と的外れなことを言ってのけたと呆れてしまう。絶え間く到来した異常な出会いを経験していることによって、もはや常識的な物事の判断では正常な言動に支障を来たしかねないと悟るからこそ、二人の存在が超常現象に匹敵する宇宙人であるということも難なく許容できたに過ぎない。
「やはり、地球人は愉快で素敵だ。実に好ましい」
琴線に触れる何かがあったのだろうか、喜色を交えて大仰な仕草を見せて、
「粗茶ですまないが、是非飲んでほしい。最近はなんとか美味しい茶を出そうと努力している身でね。アリス、まぁ、ご覧の通りだから」
などとのたまった。
ちゃぶ台の上には茶菓子が置かれている。どれも煎餅だった。
「煎餅もどうだ。これは美味しいぞ。しかも安い」
おもむろにジョージがそのうちの一枚を手に取ると、バリバリ音をたてて食べた。アリスは二つに割ると、片方をそのまま口の中へ。音も立たず、口の中身がなくなったとばかりに、残りのせんべいを口に入れる。まるでCDプレイヤーにCDを挿入するようにスルっと煎餅が消えた。かくし芸のようだ。
「やはり、緑茶は落ち着くよ」
ジョージが、アリスの食べ方に説明を入れるなんてこともなく、しみじみとつぶやいていた。
「ところで、アリスはどうだい。ボクが造ったんだがね、日本人を研究して、ようやく形になったんだ。能力も優秀なものに仕上げることができた自信作なんだ」
造ったという発言は不穏な音色であるが、ジョージから悪気や脅しという意味合いがないニュアンスだと態度でわかることから、至極全うな、それこそものづくりに情熱をかけて創造した作品的な価値を問いかけているとも判断できる。
「姿はとてもすばらしい。だが、やはり西洋風の名前というのがアンバランスだな。加えていえば、姿が整いすぎている。否応にも目立ってしまうだろう」
芸能人ですら太刀打ちできるかわからない容姿をしている。マスコミなどが黙ってはいないというべきか、近隣住民はこれまでどういうわけか騒ぎを起こすこともなかったことも不可解である。これほどまでの美少女を野放しにしておけるほど、人間は健全な思考回路を持っていない。
「やはりそうかい。いや、ありがとう。君の言うことはもっともだね。だが、ここで手心を加えてしまうというのも、せっかく生まれたアリスという存在に申し訳なくてね。だからこそ、現在では認識阻害を扱って地球人にはもう少し普遍的な少女である、という錯覚状態に陥ってもらっているんだよ。もちろん、違法性はない。きちんと正式な手続きを打った上での行動であり、対処だから、君は警戒する必要もないよ。ボクだって、地球でアリスを創造する余裕があれば、もう少し原住民に合わせて造っていただろうね。先ほども言ったけれど、一方的な情報収集では限界があるという証左であり、ボクへの戒めもかねてしまっているかな。とはいえ、ボクの娘みたいな存在に変わりはないから愛情を持ってこの子の成長を見守りたいという気持ちにウソはないよ」
「ジョージは地球に着いて間もないと?」
「それもあるし、ボクにも、君と同じように仕事、というものがあってね。その関連の引継ぎやらなにやらで、予定が狂いっぱなしというわけさ」
仕事という単語の登場に、ひどくロマンが汚された気分になった。とたんにリアルな世界における世知辛い雰囲気が湧いてくる。ジョージという宇宙人がその見た目どおりの欧米人になって、サラリーマンも大変そうだという他人事を覚えてしまうほどに、チープなものに成り下がってしまうことを危惧したので、宇宙人の仕事とは一体なにか、という知的好奇心を奮い立たせていく。
「仕事、差し支えないならば」
「君たちに係わり合いのある案件だ。当然、知る権利はある。むしろ多大な影響を伴うことは確実だよ。そして、深刻な問題にもなっているんだ」
もったいぶる言葉遣いをする。訝しげに眉を潜めると、ジョージは肩をすくめた。
「最近、地球人の乱獲が深刻な問題になっていてね。増員もかねて保安官であるボクが派遣されてきているんだよ、アキ君」
乱獲――。
およそ人類に対して、有史以来適当されてきたこともおそらくはないであろう耳慣れない言葉。ジョージが確かに宇宙人であるのならば、地球人はアフリカのサバンナに生息する動物のような存在と見做していることも十分に考えられる。ここにきて、同じ机に膝を突き合わせている状況ということが、どうにも異質であって、人間代表的なポジションに収まってしまったことへ重圧が、肩にのしかかって来るかのように、身体が重くなる。
「その警戒心は正しいよ。人間に対して使うべき言葉ではないはずだ。同類相手に使っていいものじゃない。しかしだね。宇宙人と地球人とは隔絶した力の差がある。そこに付け入って乱獲などという表現もまかり通るし、その行為そのものが、異質であっても歯止めが利いていないのが事実なんだ」
地球人は何故、襲われるのかと考えてみると、中々どうして人間だって動物を乱獲しているのだからおのずと理由が透けてくるということは良くわかるのだが、どうしたって、認めたくない気分にさせられなくもない現実であると言わざるを得ない。
今まで絶滅してきた動物はどれほどいる、それを知る人類は何人居る。少なくとも、彼は判らない。知る必要のない言ってしまえば、無駄な知識という認識が強く、果たしてそうではないと反論できる知識人がいるのかという疑問すら湧いてしまう。
「襲われたのはそこにあって、ボクらという存在が密接に関係してしまっているんだ」
「それは、彼女――との出会いですか」
「君は本当に礼儀正しい日本人だ。とても好ましいよ。でも、変に気張る必要はないからね」
呼び捨てにするかどうかというくだらないことで会話を詰まらせる必要はないということで、彼女を用いたのだが、ジョージは苦笑を浮かべこちらの意図を汲み取ってしまったようである。
「君は、どうして軽々とアリスと出会うことが出来たのか、という疑問が、奴らをひきつけてしまった。ただの人間だ。奴らは少ない時間の中で、それなりの調査を実行しただろうね、特例保護対象の有無程度ならば調べがついたかもしれないけれど、いくら調べたところで出てくる情報は地球に存在するもののみだ。純粋な地球人。だって、君は今日、初めて宇宙人であるボクらと知り合ったのだからね。しかし、奴らはそれに気づかない。だからこそ、興味をもたせてしまった」
「何故、ただの人間が保安官と普通に接触しているのか……」
「ホントーに、すまないことをした。けれども予測は難しいのもまた事実なんだ、それはどうしたって事実なんだ。まさか、アリスの張った結界を、まるで意味をなさないまでに無効化してしまうなんて考えつくはずもなかった。しかも、君はそれこそただの地球人でしかない」
「しかし、でも、それは……」
「そう、君は地球人の中であってこちらに近しい存在なんだ。だからこそ、ボクはね、君を助けたい」
話が壮大になってきたことへの戸惑いもさることながら、いきなり特別な存在だといわれたところで実感もなければ、今この場合において優越感に浸ることもできず、ほとほと迷惑でしかなかった。
「もちろん、無償の施しというわけではない。むしろ一方的な善意は好ましくはないだろう」
無料ほど怖いものはない。損得が発生するからこそ、頭脳はやたらに働くことを宇宙人であるジョージはよく知っているようだった。
「信用できないのは仕方がない。誰だってっ世界を見て暮らしているわけじゃない。それは広すぎるからだね。とてもではないがカバーできない、大きすぎて創造もおいつかない。で、あるならば当然、自分たちの周りを治めようとするとだけだ。十分に手の届くということは安心を生む」
「その当たり前が、もう叶うことはなく、無理やりにも手を伸ばさざるを得ない、と?」
「残念なことにね」
「……どうして、と聞いてもいいか」
と口を滑らせる。
「それはとても広い、しかし、答えるべき話を問うにしてはそれしかないだろう。安心してほしい。ボクは君に知恵を絞って欲しいというお願いをするつもりはない。むしろ、ボクに協力してほしいんだ。その異能を手段として、利用させてほしい」
ジョージはあえて憎まれ口のような言葉を返した。
「ボクは、君たち地球人を護るのが役目でもあるからね」