009 ロッカの町
ロッカの町を囲む竹で作られた柵と門を越えて中に入ると、メインストリートにそって、昔の宿場町のような風景が広がっていた。
土産物屋こそなさそうだが、結構な数の店らしきものが並んでおり、その裏通りには普通の住居がある。メインストリート沿いには2階建ての建物もあるが、おそらくは宿か役所のようなものだろう。
200mほどの通りを進むと、歩いている人たちがみんな平伏してしまう。
これって俺たちじゃなく、ブーモに対しての行動なんだろうな。相撲で負けて、ちっちゃくなるくせにたいしたもんだ。
奥に見えるのが行政府だという話で、領主様の家はその手前にあるらしい。確かに結構広い敷地のお屋敷が見えてきた。ノアを止めるのも余裕の庭には池があり、そのうえには橋もかかっている。成金趣味などではないセンスのいい風景を見せていた。
とりあえずノアから降りて領主の館で待っていた使用人のような方に挨拶しようとするとみんな地面にひざをついてしまい、領主がさっさと案内をはじめたため、しょうがなく木製の両開きのドアをくぐって中へと入ることになってしまった。
まあ4,5人しかいなかったので、後で挨拶できるだろう。
ブーモは威厳をもたせておくためにここでは小さくせずに、普通に庭に遊ばせておくことにした。領主の館の外には見物人が鈴なりになっていた。
この町の人たちは残念ながら純日本人風の人たちで驚きはしなかったが、メインストリートには何人か人族以外の人種もいるようだった。
一番多いのは猫族の狩人みたいな人たちだったが、それ以外に親父の体型を潰したような毛むくじゃらのおっさんたちが見せの前で酒を飲んでいたのだ。どうみてもドワーフっぽい短足族の人たちだろう。親父GO!
とりあえず客間に通された俺たちは、お互いに自己紹介をするのだが、いきなり親父がふかしやがった。
「改めましてお世話になります。コウサカシュウイチともうします。息子のダイチ、妻のネナ、娘のミヅキです。私たちはこの先の海につい先日流れ着いた東の島の民です。猫族の部落でここの話を聞いてやってきました。
ここまでくる途中で土の精霊と通じ合い、一緒にこの町へとやってきましたが、この国のことはなにもまだ知りません。言葉も姿も一緒ですが、子供にものを教えるように接していただけると助かります。」
「なんと!そのようなことは初めてのことでなんともたまげております。こちらもコウサカ様ご家族のお助けになれるよう、できる限り協力させていただきます。また、土の上位精霊様に気に入られたということは、このロッカの町におられる間は住民一同で歓迎すべき理由になります。なにしろ土の上位精霊様はそこにおられるだけで土地に恵みをもたらします。精霊様を連れてきたコウサカ様はこの町に富をもたらしてくださる方かもしれませんからね。」
とてもいい笑顔でそう話したゲンネーさんは、日が沈むころには宴の準備を終えるでしょうと言い残し、俺たちのことはこの町の知恵者である薬師のじいさんにまかせると部屋をでていった。
「さてコウサカ様、私はこの町で診療所を開く薬師のノッシュと申します。一応長老と申しますか、無駄に年ばかり重ねてはいますがそれなりに質問にはお答えできるはずです。」
ということで、俺たちの相手はノッシュの爺さんがしてくれるようだ。俺としては、枯れたじいさんよりも・・・まあいいか。
親父は質問するに先立ち、4つのものを背負っていた袋から取り出した。
一つ目はコボルトみたいな奴が残した銅貨と石。
二つ目はライター。コンビニで働いているママがいっぱいもらってきていたものだ。
三つ目と四つ目はサイベアドンの角と盾。あきらかに顔色が変わったが、そりゃそうだよなあ。
サイベアドンの宝石は出さないようだ。まあ、もう少し様子を見てからのほうがいいだろうな。
「かなり恐ろしいものを持っておりますな。おそらくベヒモスの角とフリルでしょうか。このあたりには一個体が確認されているだけで、この地方の脅威となっておりますが、まさかそれではありますまいな?」
「おそらくそいつのものでしょう。おとといの夜に撃退いたしました。」
「なんと!都から軍隊を呼ぼうかと領主様と話していたばかりでございました。この町などひとたまりもない相手でしたから。これは討伐の礼金も用意せねばなりますまい。」
おお、なんか無一文っぽい俺たちには、よだれの出るような話だな。親父はまじめな顔をしているが、あの目は金の匂いをかいだときの目だ。たぶん。
コボルトの銅貨と石を持ち、ノッシュさんは説明をしてくれた。
コボルトを倒すとまれに現れる石は、光の魔力を内包している石だそうで、夜になるとこれに衝撃を加えると、ほんわりと光るそうだ。提灯くらいの明かりでも得られれば、この世界では有効なんだろうな。
この石はひとつ5タンで売れるそうだ。貨幣単位はタンというらしい。マンタンとかにやりとしてしまいそうだ。
銅貨はやはり1タンだった。大体一般的な宿屋で素泊まり300タン、一食100タンくらいだそうだから、1タン10円くらいの価値なんだろう。
おし、簡単で助かる。コボルト狩りで手に入れた銅貨はおそらく2kgくらいはある。一枚2gくらいとしたら、1000タンか。宿屋代にならなかったな。いや、まてよ。あの石は美月が一生懸命拾っていたから、後で見せてもらおう。美月のほうをみたら、舌を出された。くそ、独り占めする気だ。
ライターのことは親父が実演して見せた。火をつける道具だとわかったノッシュさんはかなり驚き、これは都にもっていけばとんでもないことになると話している。うん。金になるとわかって一安心だ。
最後にベヒモス、別名サイベアドン(俺命名)とかいうやつだが、これを討伐した親父はかなりの勇者らしい。ノッシュじいさんは、町の警備隊長を呼んでいいかと断ってから、使用人を呼んで隊長を呼びに行かせた。
ベヒモスという魔物は自分の気に入る場所を決めると、そこに巣を作り、首だけ残してもぐるそうだ。最初は小さな生き物をどんどん呼び込んで捕食し、そのうちに土と同化してダンジョンに変化していくらしい。誰にも見つからない場所でそのダンジョンは成長し、知らない間に地下に何層もの迷宮を作り上げる。口での捕食をやめると、後は獲物に餌を示してどんどん自分の中に取り込んでさらに大きく・・・と成長するのだそうだ。
この町の開拓中の畑のそばの森の中にもダンジョンが見つかり、中から魔物が出てきて悪さをしているのだそうだ。どうやらまだ大きなダンジョンではないようだが、誰も中に入れるほどの力はないらしい。
このダンジョンの奥には例外なく魔物の魔玉というものが埋め込まれており、この玉を取り除くと、ダンジョンは死んで普通の洞窟へと落ち着くそうだ。しかし、ベヒモスってダンジョンの子供なんだな。まさか、うちの庭でダンジョンになりたかったとかじゃないだろうけど、放っておけばうちの近くにダンジョンができていたわけだ。なんか休日の暇つぶしによさそうだった。
そして、問題の角とフリル?だけど、とんでもない高値になるらしい。
角は加工して破魔の槍として国宝並みの武器となるらしいし、フリルは盾として比類なき強度を持つそうだ。この国に持っているものがいるかどうかはわからないが、確実に現存はしているらしい。
ただし、加工には短足族の国に行くしかないらしく、この国ではまず扱えない代物らしい。ひとまず、親父と俺の左腕になんとかくくりつけて使おうかな。てか・・・ノコギリで少しは切ることができていたような気もするが、あとで試してみるか。
「ダンジョンの奥にある魔玉は、魔法を使う力の補助となり、魔法を使える人にはのどから手がでるほど価値のあるものです。また、手に入れてからしばらく持っていると、その影響かなんらかの能力を得ることができると言われています。」
あ。ママ、おめでとう・・・そういうことだったのね。
頑張って投稿します。よろしくお願いします。