007 怪獣大決戦
「ひゃっはああああああああああああ!」
運転席でハンドルを握る親父が、どっかの世紀末覇者に出てくるモヒカン野郎ばりの叫び声をあげている。確かに状況はそんな感じだけど、40オーバーのおっさんはやめたほうがいいと思う。さっきからボンネットやらフロントガラスの上を犬みたいな奴が景気よく吹っ飛んでいく。
ちょっと前に、ノアの前方に黒いうごめくなにかを視界におさめた途端、親父はためらわずにアクセルを踏み込んだ。
ぶちあたる直前まで、必死で親父を止めようとしていた俺たちは、前方にいる黒い集団を見た途端、止めるのをやめたのだ。
それは手足の長い野良犬だった。ただの犬と思っていたら、突然2足歩行しだして、手には棒や石を持ち、牙をむいてこちらにせまってくる。これで親父のセンサーが故障していないことを確認できたのだ。しかし、この親父はなんで確認もためらいもなしに、突っ込んでいったのだろう。こいつらが友好的ってわけじゃない様子はすぐわかるが、それでもいきなりノアで轢き殺しにかかるとはいつもの親父らしくない。それでも、車内ではあのレベルアップの光りが何度か発生しているので、わくわくしてはいる。
数えてはいなかったが、おそらく200匹くらいの群れだったのだろうか。100匹ほどひき殺した時点で、大きな個体を残し、ほぼ逃げていったようだ。
残った7匹ほどのコボルトっぽい奴は、ノアで轢くにはちょっと敏捷性があるようで難しい。しかもこいつらは、他の奴とは違い防具っぽい衣服までつけているようだ。それでもまったく脅威は感じなかったので親父と俺はうなづきあい、スコップと鉄パイプをもって外に出ることにした。なんか、後ろの二人はいってらっしゃいと手を振っている。いいのかそれで。
「ぐるるるるる!がおおおおお!」
よだれをたらし、歯をむいたコボルト(っぽい・・・いや。もうコボルトでいい。)は、7匹で一塊になり俺と親父に対面している。1mもなさそうな体高だが、あれで噛まれたら痛そうだな。先手必勝でいくか。
いろいろ考えていたら、親父がすでに飛び出して先頭の奴の頭をスコップでふっ飛ばしていた。スコーン!と飛んでいく頭を見ながら、俺とコボルト達はあっけにとられていた。
立ち直った俺がやっと一匹目のコボルトにパイプを叩き込んだときには、すでに立っているコボルトはいなかった。
あたりを見回し、この惨状をどうしようとか考えていると、親父が後ろを指差し、見てみろと声をかけてきた。ああ、これって便利だな。コボルトがどんどん消えて、地面に吸い込まれていく。よく見ると、10円玉のような汚い銅貨が残されている。
なんかべたべたしそうだが、とりあえず美月とママにビニール袋を持ってこさせて回収することにした。見た感じ、お金っぽいけど使えるのかな。
あまりにも大量だったのでバケツに集めることにしたが、そのバケツもすぐにいっぱいになるほど集まった。中には、100円玉のように光る硬貨もあったので、ちょっとうれしい。
しかし、10Lバケツいっぱいに硬貨がつまっているのに、それを美月が振り回しているのをみるとレベルアップってやばいんじゃないだろうかと感じてしまう。
「大知、これ使うか?」
親父が持っているのは、銅か青銅のような重みのある剣だった。ところどころ欠けているし、こんなん使えるのだろうか?ちょっとそこらの石を殴ったら折れてしまったので、遠くにぶん投げて・・・・飛んだなあ・・・あ、落ちたみたいだ。砲丸投げ世界1は確実みたいだ。
硬貨以外には、そこらへんにパチンコ玉のような丸い石がたくさん落ちているくらいで、他にはめぼしいものはなさそうだった。美月は喜んでそれを拾っていたが、どうすんだそれ。まあ拭いてみたら黒い光沢のあるパチンコ玉になったから、ネックレスにでもできそうだ。
ノアに乗り込み、ポテチとコーラを嗜みながらさらに北へと移動することにした。ここまで大体300kmは走ってきているそうだが、あいかわらずガソリンは満タンだ。なんてエコライフ。最初は見渡す限りの平原だったが、途中から荒野というか砂漠に似た場所を走っている。前方に森が見えたところで、さっきのコボルトに襲われたのだ。
森のなかもかなり狭いが馬車道は続いており、なんとかノアはがんばってくれている。しかし、道がどうなっているかわからない状況での、時速30km程度での走行なので、そろそろあたりが夕焼けにそまってきている。どうやらあの双子の太陽の関係はほぼかわらないようで、仲良く沈んでいくようだ。
森に広場のような場所を見つけたので、そこに車を止めて夕食の準備をする。うちはアウトドア一家なので、テーブルもイスもランタンも調理セットもすべて揃っている。寝る間は荷物をすべてノアの上にのせ、緊急事態に備えて一応縛っておく。
親父と一緒にノアの座席をフラットにしていると、はやくもカレーのいい匂いがしてきた。異世界でも普通にしている家族を見ると、うちの家族って普通じゃないかもと思えてくるのが不思議だ。
「親父、レーダーになんか反応ない?安全そう?」
俺が聞くと親父はレーダーのことを詳しく教えてくれた。カレーの味がまろやかになるまで放置するようで、ママと美月もイスに座り、聞く体勢になっている。
親父の話をまとめるとこんな感じだ。
・敵意をもった相手は赤く感じる。コボルトは真っ赤だったそうだ。
・警戒している間は黄色くなる。猫族は最初黄色く感じたそうだ。
・友好的かあるいは関心がない場合は緑になる。猫族と会話していると、緑になった。
・家族は白く見えるが、あまり感じない。
だからママに叩かれていたんだな。納得。
今の状況は、まわりに結構動物はいるけどほぼ黄色だそうで、赤い気配は感じられないそうだ。てことは、襲ってきそうなやつはいないんだ。
「でも、家族のほかに、一匹というか一頭白い奴がいるんだよなあ。」
ん?白は家族のはずなのに、なんだそれ?
親父のレーダーは故障しやすいのかな。てか、なんかそこの木結構でかいけど、いまゆれなかったか?
茂みの奥になにか大きな気配を感じ、家族で身構えていると、大きくがさがさという音をさせながらそいつは現れた。
「ぶも?ぶおおおお」
なんかすごい。なにがすごいって、体高は2mほどで、その角を入れれば3mくらいの高さはありそうな、存在感はんぱないヘラジカが現れたのだ。なんか神々しいほどの威風堂々とした歩きでこちらに寄ってくると、ふんふんと周囲の匂いを確認している。そしてぐいっと大きな首を回すと、カレーにむしゃぶりついた。そして一気に食い始める。
俺とママと美月はとりあえず崩れ落ちて尻餅をついておいた。あっけにとられていると、信じられない行動をする奴がいた。
「ママのカレーは俺のもんだあああああああああああああ」
親父、カレーぐらい食わせてやれよ・・・
親父はさっと鍋をヘラジカから取り返し、眼光するどくにらみつける。
「ご飯と一緒に食わなきゃ、カレーじゃねえんだよ。」
どうでもいいし。親父はカレー鍋を俺に渡し(寄越すな)、ヘラジカとにらみ合う。
ヘラジカも親父も体を低くし、やる気十分である・・・ってか、親父なにすんだやめろ勝てねえのわかるだろが!!!!
「はっけよーいのこった!」
ママ・・・もういいよ。好きにすればいい。美月拍手すんな。
ママを行司に2匹の獣は地響きを立てて衝突した。人型の獣・・・親父はヘラジカの角をがっしりと受け止めたばかりか、押し込もうとしている。あのさ、相手は馬よりでかいんだぞ。北海道の道産子馬で1トンくらいというから、そのヘラジカは1.5トンくらいはありそうなんだが、どうなってんだ?
首に青筋をたてたヘラジカと、腕の血管が膨れ上がった親父の相撲はがっぷり四つのまま動かない。ヘラジカは後ろ足を盛んに地面にけりつけ、前へと進もうとしているが、親父は地面に足を埋めたかのように動かない。2,3分たっただろうか。湯気を出し始めてるぞあの2匹。親父が大きく行きを吸う。
「どおおおっせえええい!」
親父が角をひねりこむようにヘラジカの首をよこにひねりながら突き落とすと、どどおおおんと地響きを上げヘラジカは倒れた。怪獣大決戦は親父が勝利した。思わず拍手してしまったが、そんなのんきな真似してていいのか俺。
頑張って投稿します。よろしくお願いします。