066 竜の至宝
マグママンとでも言えばいいのか、人型のマグマは近づいてくるだけで、こちらにダメージを放ってくる。
長いからマグマンにしよう。
だらだらと流れ落ちる汗を顔を振って飛び散らせないと、目に入った汗で目を開けていられなくなる。
耐熱のスケイルメイルを着たルミナが平気な顔で氷の剣を振ってくれていないと、前に進むだけで困難な状態だ。
ブーモの上にいる美月は、状態耐性マントをハイベールにも被せ、なんとか耐えている感じだが、俺と親父とママには結構きつい状態が続いていた。
マグマンは俺と親父の剣でも軽く倒せるので問題ないが、空を飛んでくるワイバーンが厄介だった。
俺達の剣が届かない場所から、ファイアーボールを吐き出してくるため、正直逃げ惑うしかなかったのだ。
そこで活躍してくれたのがピジョで、ワイバーンのファイアーボールをブレスで迎え撃つどころか、羽を焼いてくれるので、落ちたところを俺達がとどめを刺していく。
美月の光の矢も当然無数にワイバーンに襲い掛かり、対応に慣れた頃にはまったく問題なく進むことができるようになった。
「ルミナ、氷を作りたいから、剣貸してくれる?」
途中で何度も水分補給のためにルミナの剣で氷を作り出し、コップに入れるとすぐ水になるそれを塩と一緒に補給してから進む。
立ち止まるだけで消耗するその地獄のような階層を、できる限りの速さで進んで行くと、前方にミニチュア火山が聳えていた。
「出てくるよなあ。」
「だろうなあ。出てきた瞬間に倒したいよな。もうここいやだ。」
「とりあえず、相手が出た瞬間にぶったおそう。」
火山を前にみんなで戦闘態勢を取る。
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
火山は突如振動を起こし始め、地面が揺れる。
俺達は次に出てくる敵を待ち、すぐにでも駆け寄る体勢を取ったまま魔力を武器に通わせる。
ところが出てきたのは火竜ではなかった。
ドッカアアアアアアアアン!!!!
「うっわ噴火しやがった!みんな退避!」
ドゴドゴドゴバアアアン!
連続して落ちてくる噴石をかわしながら逃げ惑うと、ルミナに直撃しそうな大きな噴石に気づいた。
「ルミナ横へ飛べええ!」
そういうと、俺はダンドリルをバットを構えるように振りかぶり、噴石にむけて叩き付けた。
横目で横に転がったルミナが無事であることを確認しながら、地面に噴石がぶつかって飛び散るのを回避するために、ダンドリルでとんでもない質量の噴石を押さえつける。
その行為に予想以上の質量が両腕に掛かってくる。
「おっも!とんでけやあああ!」
ダンドリルで削りながら殴ってしまったので、噴石の熱い欠片がばちばちと飛んでくる。
それを我慢しながら、火山に向けて打ち返す。
ドッゴオオオオンンン!
うなりを上げて火山の噴火口へと衝突した噴石は、予想以上の威力で火山の上部を吹き飛ばした。
『ギャオオオオオオオオオン!!!』
なんか火口から大きな叫び声がしたかと思うと、よたよたと大きな、恐らく火竜が火口を乗り越え、火山を転げ落ちてきた。
「なんか気の毒だな。登場した段階で半殺しになってるぞ。」
「俺腕が痺れてるから、さっさと片付けてくれ。あっちいし。」
こちらをぎりぎりと睨んでくる火竜は、全身から炎を上げている。
しかし、左半身が骨折でもしているのか、右腕と右足でばたばたと体を支えようとしている。
暴れるたびに飛び散るマグマが俺達に向かってくるので、危険極まりない。
立ち上がったルミナが氷の剣を振り、火竜に向けてブリザードを振り掛けると、だんだん火勢が弱まってきた。
「よっしゃあ、後はパパに任せなさい!」
親父がバンバンドを上段に振りかぶって、火竜に迫ると、火竜は親父に向けて口を大きく開ける。
その口の中に空気を取り込むと、首を振りかぶり、大きな火の玉を至近距離から親父に吐き出した。
その瞬間、親父はバンバンドで火の玉をぶん殴って逸らし、竜の口に向かってバンバンドを突き刺す。
ザグリ!と音を出しながら突き刺さっていくバンバンドの先っぽは、竜の頭の後ろから突き出していた。
竜の頭を串刺しにしたまま、くるりと後ろを向いた親父は、バンバンドを前方に向けて振り上げるようにする。
火竜の首がぐーんと伸びて、限界点を超えた瞬間、上あごから頭部がバリン!という音とともに飛んでいってしまった。
残った体に、美月の光の矢とルミナの氷の斬撃が容赦なく突き刺さっていく。
最後にびくんと体をはねさせた火竜は、体が粒子になって消えていった。
その瞬間火山の活動が止まり、フィールドに軽い風が吹き始めた。
「ふう、これで一息つけるな。」
「空気がうまいよ。なんかいろいろ落ちているね。いいものあるかな。」
美月とルミナが喜んで拾いまわっているものは、ルビーやサファイアといった宝石のようだ。
ママが大喜びで拾ったのは、大玉の魔玉を中央に配置した真っ赤な首飾りだ。
恐らく耐熱のネックレスかなんかだろうな。
エザキエルとハイベールは遠慮しているのか、後ろで控えているけど、金貨くらいは存分に拾ってくれるといいんだけどなあ。
親父が拾い上げたのは、ガントレットだった。
肘までを覆うそのガントレットは、左手に装備できるもので、腕の部分になにかの射出口がついている。
「こ・・・これは!サイ○ガン!!!」
なにそれ?
親父が嬉々として腕に装着しようとして、鎧が邪魔になることに気づく。
顔に縦線が入った親父からガントレットを奪い取り、自分の腕につけてみる。
これは厨二病を再発しそうなデザインだなあ。
真っ赤なガントレットは表面を炎が彩ったようなデザインで、無骨というよりは洗練された流線型をしている。
「大知、そいつはなあ、宇宙海賊の最強装備だ。」
親父が落ち込んだ顔でぶつぶつなんか言ってるが、とりあえず無視することにした。
「かっこいいなこれ。どんな効果があるんだろう?しかも左腕だけとか。」
「あの火山の残骸に向けて、魔力を込めてみろ。いや、生命力か・・・」
生命力?なんかわかんないが、火山に向けたガントレットに集中してみる。
すると、頭の中でいろんなイメージが沸いてくる。
直線の光や、拡散した粒子、鞭のような軌道を描くビームなどのイメージだ。
とりあえず、頭の中で直線の光のイメージを増幅させ、火山にむけてそれを放つ。
ドシュン!!
ガントレットに相当量の魔力を持っていかれたと思った瞬間、前方の火山に穴が開いた。
「うおい!なにが起きた!?」
火山に近寄りできた穴を見ると、直系は10cmほどだが、貫通面が完全に溶解し結晶化しているのだ。
しかもミニチュア火山といっても裾野で50mはあるのに、その向こうが見えている。
「なんだこれ・・・」
「コブラ、それはサイコガ○だ。」
何だよコブラって。
「くっそ、鎧を取るかサ○コガンを取るか・・・」
「ごめん親父。これ俺のだから。」
そんな絶望した顔を俺に向けても、これはもう俺のだからな!
縋りつくな!
「はいはい、もうドロップもないから進むわよ。さっさと向こうに見えてる扉に行きましょ。」
ママに耳を引っ張られて、親父ものろのろと動き出す。
「ダイチ、すごい武器ですねそれ。初めてそういう武器をみました。」
「俺もこんなの見たことないよ。親父が知っているようだから、どうせ昔の漫画かアニメだろうな。」
「漫画ですか。アニメは車の中で見た動く絵のことですね?」
「そうそう。たぶん親父の記憶の中には、この武器の性能が全部入っているんじゃないか?」
「お父様はすごいですねえ。いろんなことをご存知なんですね。」
まあ、父親らしくない父親なんだろうけど、付き合いやすいからいいんだろな。
扉に手をかけたところで、親父が声をかけてきた。
「大知、その○イコガンで、あの岩の向こうに置いてきた缶を撃ってみろ。」
缶?
「見えないんだけど、どうするんだよ。」
「ちょっと横から確認してみろ。その後ここに戻って撃ってみてくれ。」
確かに岩の向こうに赤い缶が置かれていた。
あんなもん、そこらへんに放置していいのかね?
「なに?岩を貫通して狙えばいいの?」
「ちゃう、バナナシュートみたいに、まげて撃つんだよ。」
「曲げる??ああ、鞭みたいなイメージかな。」
「違うな。岩に傷をつけないように、回り込ませるんだ。しっかりイメージして狙えよ。」
親父の言葉に半信半疑ながら、頭の中で素早く缶だけを撃ちぬくイメージを作り、岩よりかなり右側に向けてガントレットに魔力を込める。
さっきよりかなり少なめに魔力を入れると、シュっという音とともに、魔力が弾丸のイメージになって飛んでいく。
グイン!っと魔力玉が軌道を変え、ガコン!っと音がした瞬間に、ばらばらになった缶が岩の陰から飛び出してきた。
「うお、できた!」
「頼むからそれくれよおおお・・・」
気持ち悪いから泣くな親父。
たまになら貸してやろう。
泣き崩れる親父を尻目に、みんなで扉をあけて先に進むことにした。
階段を進んでいると後ろから悲痛な声で「まってええええ」と親父の声がするが、勝手に追いついてくるだろう。
結構上に上がったところで、上層への扉が見えてきた。
「みんな用意はいいな。トイレは中に入ってからだぞ。忘れ物すんなよ!」
そう言ってみんなの顔を見回すと、親父は扉を開ける。
そのままの勢いで一歩を踏み出そうとする親父の鎧の継ぎ目にあわてて手をかけてなんとか落下しそうになった親父を引き戻した。
そう、扉の下には床がなかったのだ。
下を覗くと、どこまでも続くような空間が扉の下へと続く。
まるで地面は見えなかった。
吸い込まれそうなほどの高空にいる状態なのだが、ふとここは塔の中だと気づく。
「親父、見えないだけで床があるのかな?」
「なんか落としてみるか。」
「実はここ塔の外壁なんじゃない?」
「いや、扉は内部に向かっていたからなあ。」
前方には数個の浮島が浮かんでいる。
中には平らな場所もあるので、なんとかあそこに渡れば戦闘にも耐えられるだろう。
「ピジョ、この扉の裏側を見たいから、ゆっくりと回ってみてくれ。」
親父はピジョの背中に乗り、扉の裏側へと回る。
そしてすぐに戻ってきた。
「塔じゃないな。階段の場所だけぽっかり浮いてるわ。」
「下へは飛んでみた?」
「いや、行ってないけど、もっかい行ってくる。」
なんかピジョはうれしそうにくるくると回りながら落ちていく。
あ、親父が落ちた。
「ぉぉぉぉぉぃぃぃぃぃぃ・・・・」
ピジョが慌てて回収に行き、間に合ったようでなによりだ。
更に降下を続けるが、姿が点にみえるようになるまで待っても底にはつかないようだ。
上がってきた親父は近場の浮島に乗ってみて、安全確認をしてから戻ってきた。
「おし、みんなあそこの大きな浮島に移るぞ。ピジョに3人ずつ乗って、移動しよう。それから、ママ、ピジョにおとなしく飛ぶように言い聞かせておいてくれ。」
かなり顔を青くした親父がママに頼み込んでいる。
散々だな。
俺とルミナと荷物を積んで最初に飛び、次にハイベールとルミナと小ブーモ、最後に、親父とママとエザキエルがやってきた。
「ここが落ちたらどうなるんだろうね?」
ふと呟くと全員からブーイングが飛んできた。
「酷いよお兄ちゃん!殴るよ!?」
そういうな妹よ。
すでにママに殴られているんだから。
「で、どうすんの?」
「安心しろ。すでに迎えがやってきているから。」
え~・・・空中戦?
形状からして、ガーゴイルのようだね。
確か、口から溶解液を出すとか?
そこでママがうきうきと鞭と盾に魔力を込め始める。
「ガーゴイルって、何人乗せて飛べるのかな。」
「そんなに大きくなさそうだから、せいぜい一人じゃないかな。」
「エザキエルとハイベール、それに遠距離攻撃のできる美月とルミナはここでいいわね。私はピジョに乗るし、パパに抑えていてほしいから、ガーゴイルは一匹つかまえればいいのかあ。」
え?
なんで俺の名前が呼ばれなかったの?
そして、岩のような肌質まで見える距離に迫ったガーゴイルに、容赦なくママの鞭が襲い掛かった。
「ママ、鞭を振るうときにさ、こう叫んでくれない?女王様とお呼び!って。」
無事3匹のガーゴイルを下僕にしたところで、ママは叫びながら親父を叩いていた。
「女王様とお呼び!!!」
「ママ、ごめん!もう言わなくていいから!痛い!やめて!ごめん!」
いいから迎撃に加わってくれ馬鹿夫婦。
なんか向こうからばっさばっさと黒色の竜が飛行型モンスを引き連れて迫ってきているんだよ!
とりあえず、左手のガントレットに魔力を込めながら、俺はガーゴイルに跨った。
ところで、どうやって命令を伝えればいいんだこいつ?
ガーゴイル語なんて知らねえし、調教だってされてないんだろ?
親父がぼろぼろになる前に、ママを捕まえて調教させないとだめだろうな。
そんなことを考えていると、ガーゴイルが羽ばたいて浮かんでしまった。
浮かんでしまった。。。
げっげえ。
俺の女性観の原点は寺沢先生の描く女性ですね。
ママも昔は・・・




