063 突撃
「うおあああああああああああああああああ!!!」
両手で持ったダンドリルに魔力を最大限に流しながら、回転しているのを確認できないほどの速さにすると、その刀身を右後方に大きく流しながら、壁の一点を睨みつけて加速する。
ぶおん!っと風を切る音を耳にしながら、ダンドリルを抱えた両手が伸びきる一瞬前に縮地に入り、壁を目前にした位置で、ダンドリルに思い切り力を込めて突き刺す。
壁にはねのけられるような感覚に襲われるが、それを無理やりに抑えつけ、連続して縮地を繰返し、刀身を押しこむように全身の力を込めていく。
縮地の間隔が振動になるほどの連続発動をさせながら、自分の体がばらばらになりそうな感覚を無理やり無視して、壁を睨みつける。
「わおおおおおおん!!!」
後方からピジョが突っ込んできた。
そのでかい質量を背中に感じながら、ダンドリルの柄から先端までが壁に垂直になるよう調整し、衝撃に備える。
<ガッギイイイイイイイン!!!>
ジェット噴射しながら飛び込んできたピジョは、その角をダンドリルの柄に激突させた。
飛ばされそうな勢いをどうにか壁に垂直に伝えることに成功したような感触を感じたとき、ダンドリルの先から波紋が浮き上がり、一気に塔全体の表面へと広がって行った。
刃先を見ると2cm程、塔の内部へと入りこんでいた。
「ピジョ、俺の脚のしたから突き上げろ!」
ピジョは下方へと一気に飛び去り、そこから俺の足の裏めがけて飛びあがってきた。
その間も塔の内部へと刃先をじりじりと埋め込んでいく。
後方では、ママとルミナが大型のロケットのような氷の塊と、竜のような炎の塊を練り上げていた。
<ドン!>
ピジョの頭突きが俺の足裏に決まり、一気に体を持ち上げられると、ダンドリルが壁の表面にめり込みそのまま外壁を斬り裂き始めた。
黒かった表面は、コーティングが剥がれ落ちたような、くすんだコンクリートのような色に変色し今では容易にダンドリルを食いこませていくことができる。
20mほど斬りあげたところで、ダンドリルを引くと、ピジョに今度は横に斬りつけることを伝えていったん離れる。
すぐに縦に斬りあげた部分の中央付近を目指して、右側から左側へ抜けるように斬りつけると、ダンドリルは根元まで壁に埋まり、左側へと斬りぬけることができた。
「ルミナ!今だ!」
ルミナは俺の声が届いた瞬間に、両手を前へと突き出し、竜のように膨れ上がる炎を一気に十字傷の中央へと走らせる。
炎は表面に吸い込まれることなく、傷の中央へと留まり、着弾点を一気に赤熱させた。
斬撃でできた盛り上がりが溶け始めた頃、今度はママに声をかける。
「がっちがちに冷やしてくれ!」
ママはなにも言わずに大きく膨れ上がったロケット氷をひび割れに突っ込ませる。
<がっこおおおおん!>
ぶつかった衝撃よりも、一気に噴出した水蒸気のほうが凄いことになっている。
「もっと中まで入りなさい!」
ロケットの後ろにさらにロケットを突っ込ませる。ひび割れは完全にめくれ上がり、いまでは、広い場所で2m幅くらいのおおきな裂け目になっていた。
しかし、剥がれ落ちていたコーティングは再度終結し、塔の表面をどんどんと浸食していっている。
「光の矢!」
美月が500本ほどの矢を一気に作り上げ、十字に割れたひび割れに向かって、囲むように矢を射た。
どどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどどど!!!!!!!!!
まだ黒いコーティングが届いていない場所には矢がささるようで、コーティングされそうだった部分を守るような形で円形に矢の柵ができた。
黒いコーティングはその矢に近づけないらしく、5cmほど離れたところでじくじくと蠢いていた。
「ルミナ、ママ、氷と炎の攻撃をもう少し繰り返してみてくれ!」
俺の頭の中には、熱く加熱した物体を、急速に冷やした場合に起こる崩壊を期待していたのだが、効果はいまいちという状態になぜか対抗心を持ってしまったようで、絶対に壊してやると決意してしまった。
ルミナは結構きつそうだが、スタミナ効果のある紐下着を装着していたようで、もう一度大きな炎の竜を出現させていた。
「ルミナ!今度は破壊よりも加熱に重点を置いてぶつけてみて!」
こくりと頷いたルミナは、思いっきり息を吸い込み、至近距離で炎の竜を外壁へとぶつける。
竜はひびの中に身をよじらせながら入りこもうと暴れており、その温度は外壁を赤くどろりとした状態へと変えているほどだ。
ルミナは完全に魔力切れとなったようで、美月がしっかりと体を支えるようにしている。
ルミナの頬を一撫でし、ママのそばへと移動する。
「ママ出番だよ!固さより、一気に冷やすような氷の作り方をしてくれ!」
ぐいっと頷いたママが焦熱地獄に変わっている外壁に、さらに強化された1.5倍ロケット氷を発射させる。
温度をあまり下げなかったようで、氷は近付くそばから水状に溶けて外壁にぶつかり、ひびの中へ向かって突き進んだ。
ものすごい量の水蒸気が噴出してくる様子に、慌ててみんなに声をかける。
「爆発が起こるぞ!塔からはなれろ!」
おれの予想だともう少しでくるはずだ!噴出する水蒸気の量が隙間の広さでおさまらなくなった時がくる!
<どっかああああああああああああああああああああああああん!>
「きたああああああああ!!!水蒸気ばくはあああああつ!!!」
やっぱりきやがった!
十字のひびが一気に押し広げられ、その長さは当初の20mほどの傷のようなひびから、かんぜんにめくれ上がった洞窟のような大きさへと変貌している。
洞窟の内部からは焦熱の蒸気が噴き上がり、まだ内部がどうなっているかは判明していないが、どう考えても近くにいた魔物あるいは生命体は吹き飛んでいることだろう。
さらに広がったコーティングの無い部分に、美月が再度光の矢を大量に射かける。
再生しようとしていたコーティングは、やはり矢から離れて行き先を探していた。
「ママ、ルミナお疲れ様!壊れない塔をどうやら壊せたようだよ。」
だいぶ水蒸気が薄れてきた塔を見ると、おそらく湿地帯のようなエリアをぶち抜いたらしく、熱帯ジャングルのような景観をしていた。
上にも上層階の下部に穴が開いたようで、中を窺うことはできないが、なんとか通り抜けはできそうだ。
湿地帯エリアの断面にはどうやら魔物が集まって来ていたらしく、飛び散った体の一部がそこらへんにあるかと思えば、ぼろ布のようになったトカゲやカエルかなにかの顔をした死体などが折り重なるように倒れていた。
「あれはドラゴニュート…ドラゴンの下僕として通常は利用される竜人です。かなりの腕力と水中での無敵ぶりを誇る魔物なのですが…」
「よし!一石二鳥!問題なし!」
入り口のある部分からは2km程上の部分で、ちょうど塔の中間になる場所に出入り口を作ってしまったことになる。
内部へと降りたってみると、ドラゴニュートのドロップである武器や防具、それに鱗や牙などの素材や、銀貨、金貨が転がっているが、それには目もくれずまずは確認作業を行うことにした。
死に切れないドラゴニュートに、美月が光の矢をどんどん撃ちこんで、息の根を止めてやっている。
美月の光の矢は全く問題なさそうだけど、他はどうなんだろうな。
俺の予想では、この塔の中にはなんらかの理由で精霊達が入れないため、精霊魔法が使えないのではということを考えていた。
それに外壁に魔力あるいは精霊魔法吸収素材をコーティングしていたため、使えないと思ってしまったのではないかと。
まず確認すべきは、みんなの魔法だった。
今ブーモは俺のパーカーのフード部分に掴まっているが、身体強化二倍はいまだに効果が継続しているようにも感じる。
「じゃあ、みんな、それぞれ自分の魔法を試してみて、効果がでるかどうか確認してみて。」
まずはママの魔法だけど、規模がかなり小さくなっているが問題なく氷の槍は出てくる。
ルミナも今は魔力切れだけど、一番小さな炎は作ることができていた。
美月がこの層の天井に向かい、光の弓を振り絞ると、いつもと同じ規模の矢が発生し、一気に天井へと放たれた。
精霊魔法と違う光魔法は、問題なく使えるようだね。
ダンドリルも問題なく全力でぶんまわすことができそうで一安心だ。
ただし、縮地がいつもと同じとはいかず、ルミナによるといつもは”ぱ!”と瞬間移動するのが、今は”ぶおん-ぶおん”といった感じで消滅-出現をしているとのことだった。
タイムラグが出るのか。ちょいと気にしておかないとまずそうだな。
ここまで検証してみて、ふと思ったことは、この開いた穴から離れた時に、精霊魔法はどうなるかということだった。
穴が開いているからこそ、トンネルの中の電波のように途中までは聞こえるのかもという懸念は拭えない。
このまま奥に行って、精霊魔法が使えなくなる可能性があるとなると、やはりルミナは置いて行った方が良さそうな気がする。
「ルミナ、ヤタと美月と一緒に一度ノアに戻って夕食準備していてくれ。それから親父に現状の報告をお願い。」
素直に帰れと言っても帰らないだろうから、とりあえず仕事を与えて移動させる。
「大知、他の階層で精霊魔法を試しに行きたいんでしょう?とっとと行くわよ。」
さすがママだね。
ママをおんぶして、上に見えている隙間を目指す。
ピジョもついてきてくれるようで、先行して隙間に飛び込んで行った。
おそらくピジョだろうが、ドラゴンブレスと思われる光と音が響いてきた。
裂け目から上層へとするりと潜り込むと、こちらは極寒の世界だった。
ピジョの前には、数匹のイエティのような白い毛皮の大猿が倒れている。
そして小さな雪山の向こうから、さらに同じ魔物が4頭小走りでやってくる。違う方向からも3頭現れた。
「まずは私の力を確認させてね。」
ママはそう言うと、ピジョも後ろに下がらせて、盾に魔力を込めていく。
魔物が近付いたところで、薄い赤に輝き始めた盾の光は、充分に魔物にも届いていることだろう。
体の小さな3頭がまずはその場で跪いた。
残りの4頭は間合いに入ったところで鞭に一撃を食らう。
うわ…腹を上にしてごろごろしだしたよ…
「はい、問題ないわね。とりあえず、もっと奥に行って精霊魔法の確認をしましょう。」
最強の精霊使いにして最強のビーストマスター…
親父、大変な嫁さんもらったんだなあ。
再度よいしょっとママをおんぶして、さらに奥地を目指す。
そして、気付いたんだ。
俺の飛行も風精霊の魔法なんだってことに。
このエリアの一番奥にあった氷の雪山で、俺の飛行は急に終息してしまい、山の斜面へとママと一緒に突っ込むことになった。
ちょうど携帯電話の電波が切れたような状態になり、俺を押し上げてくれていた竜巻がふっと消えると、氷に向かって俺とママは落っこちていく。
とっさにママをかばったのだが、背中に受けた衝撃はとんでもないものだった。
そのまま俺は白い斜面を見たのを最後に、意識を手放してしまったのだった。
氷山 それはあいつの棲処




