053 大空洞の冒険
気持ち悪い描写があるかもしれませんのでご注意を。
すでに階段を降り初めてすでに2時間は経っていたが、いまだに大空洞らしき場所には着いていない。
ときどき光の矢を飛ばしたり、俺が先行してみたりするが結局は同じ階段が続くだけであった。
「親父、そろそろ休憩すっか?」
「いや、美月が寝ている間に、いけるとこまで行こう。起きているとうるさくてな。」
美月はヒポポの上でぐっすりだ。
ブーモもすでに回復したようで、足取りがしっかりしている。
親父は元気だし、俺にはスタミナ無尽蔵パンツがあるので、このまま進むのは全く問題ない。
「危ないかと思ってやらせないでいたが、さすがにここまでくると我慢できないな。大知、ちょっとダッシュしてきてくれないか?」
「了解。10分飛んでなにもなかったら戻ってくるわ。」
急勾配の階段だが、なんとか飛んで進むことはできそうだ。
壁、天井、階段に隙間をしっかり残すように精霊にお願いしながら、空間のど真ん中を制御できる上限くらいのスピードで飛んでいく。
それでも正直真っ暗なので、走るよりは早いくらいの速度しか出せない。
「ん~、コボルトの魔玉も残り少なくなってきたなあ。たまには雑魚狩りしないと日用品がなくなっちゃうか。」
俺は節約のため、ダンドリルの先端に魔玉をくくりつけて飛んでいるが、美月が暗い場所を嫌がりそこらへんに転がして明りにしているので、あっという間に数が減ってしまう。
そろそろ5分くらいか?といったときに唐突に眼の前が開けた。
明るくなったと思った瞬間、周囲がすべて白い世界になってしまった。
暗がりになれた目が明るい場所に出たために露光が多くなってしまったのかといぶかしんだが、よく見るとそこは水蒸気が立ち込めたような空間だった。
「水?いや…」
光が乱反射する水蒸気の塊りを出たら、一気に視界が広がった。
これって確か親父が見ていたアニメに似ているような…
「コロニー?」
とかなんとか言ってたな。
まあ、横は垂直な壁があり、上に向かって屋根のようになっている。
空間的にはでっかいテントといった感じだ。
俺が飛び込んだのは、白く発光する雲だった。
この空間は光る雲により全体が明るく照らされて、昼のようになっている。
崖の中腹に階段の最後はあり、そこから先は延大なスロープとなって、100m程眼下にある森へと続いていた。
スロープは400mほどある。
両側に腰のあたりまで手すりがあり、幅は階段と同じで2mくらいか。
視界の隅になにか動く物を感じたので、そちらに振り返ると、なにかが向こうで飛んでいるようだ。
とりあえず、危険はなさそうなのでそのままにして、親父達の場所まで戻ることにする。
明るい場所から暗い場所へと入ったので、まったく視界が利かなくなった。
1分ほど暗闇に慣れるのを待ってから、一気に階段を飛ぶと、割とすぐに親父達に合流できた。
「ス○ースコロニー?
すごいな、このスロープなんか誰がつくったんだか。結構いい眺めだけど、ママ達はいるかな?」
親父が眉のところに片手をかざし、周囲を睥睨する。
「ここのほかにも何ヶ所かスロープがあるな。近いところで2kmくらいか。」
美月も起き出して、目の前の光景に息を飲んでいる。
白い霧の塊のような雲が結構低く浮いていて、見通しはあまりよくないな。
「美月、反対側へむけて1000本ほど矢を放て。」
「わかった。思いっきり魔力を込めて遠くまで飛ばすね。」
「全力でやるなよ!?半分は残しとかないとまずいからね!?」
「手伝ってね、大知。」
そっか、合体魔法で向こうまでぶっ飛ばしてやろう。
美月は光の弓を振り絞り、向こうの壁を狙って固定する。
すると弓に装着された以外に、そこらの空間に壁のように矢が出現し、同じ方向にそろって張りつめた魔力のままに待機している。
「たあああ すううう けえええ にいいい きいいい たあああ ぞおおお!!!!」
でか!親父の声でか!
よっしゃ、美月行くぞ!
まずは俺が前方に竜巻を発生させ、それを横倒しにする。
可能な限りそれを細く伸ばし、入り口を大きめにして、美月に目で合図する。
美月は竜巻の中央に向けて矢を放った。
中央の矢に引きずり込まれるように、周辺の矢が続いて束になって竜巻へと吸い込まれていく。
竜巻の中で加速した矢は目にもとまらない早さで一直線に向かい側の壁へと飛んで行った。
この場所に誰かがいたら、全員が目撃するだろう、金色の竜のような矢の大群を。
矢の竜は残念ながら向こうの壁までは届かなかったが、充分な合図となったことだろう。
「さ、迎えに行こう。」
にかっと笑った親父が頼もしすぎる。
よし、行きますか!
◆
「お母様、今お父様の声が聞こえませんでしたか?」
「なんか聞こえたよね!でもどこから聞こえたのかわからないわ。」
今私達がいるのは、迷宮の出口を探すはずが、下へ下へと進んだところでした。
あれから色々な魔物が現れては目の前で変な行為をし続けて、お母様の氷の檻に次々と閉じ込められています。
ここの魔物は私とお母様の魔法では簡単に片付けることができず、苦肉の策としてどんどん氷の檻を作って閉じ込めたり、魔物が増えたら通路に氷の壁を作ったりと、討伐できずに進んでいました。
ここの魔物達は、襲ってくるというよりも攻撃してもらいたいようで、本当に気持ち悪い魔物ばかりです。
中にはこちらの姿を見た途端に、猫のようにおなかを見せてごろごろ転がりだすものまでいて、どうすればいいのかまったく判断がつかないのです。
中にはいきなりこちらにお尻を見せてぐいっと・・・
お母様が氷の槍を投げつけたら喜んで飛んでいってしまいました。
「お母様、とりあえず降りてみますか。おそらくもう上への通路は氷漬けの魔物で埋まってしまっています。」
「ルミちゃん、おなかすいた・・・」
「絶対に助かりますから、頑張りましょう!さ、立ってください。」
崩れそうになるお母様を抱えて、階段を降りていきます。
食べ物もなくなり、お母様の作り出す氷をなめながら進んでいますが、本当に助かるのでしょうか。
その時です。
階段の先に光が見えました。
そこからお父様の声が聞こえました。
「ネナあああああ!迎えに来たぞおおおお!!!」
そしてダイチの声も!
「ルミナあああああ!愛してるぞおおおお!!!」
ああ・・・私には帰る場所があるのですね!
ダイチ、私はここですよ!
◆
「ダイチ、全方位コードレッド!迎撃体勢!」
なんなんだこのダンジョンは!
さっきから出てくるモンスターすべてがSMファッションじゃないか!?
ほぼ裸にチェーンやら縄やら巻きつけて、使ってくる武器が蝋燭や鞭とか、挙句の果てにはつながったまま出てきやがる!
親父はすでに美月に目隠しさせ、ブーモにくくりつけている。
いま集団で現れたのは、体中に千枚通しみたいなものを刺している逆ハリネズミになった鬼のような奴らだった。
「だいてくれえええええ・・・」
こいつらが気味の悪い声を出しながら、集団で襲ってくるのは怖気しかしない。
親父は俺と逆方向に駆け出し、バンバンドで次々と鬼の頭を吹き飛ばしていく。
俺は敵の間を走りながらダイドリルで頭を粉々にしていく。
しかしこいつらは味方が屠られる様を嬉々として喜び、屍を超えてそのまま抱きついてくるのだ。
これは・・・スタミナ増強パンツじゃなかったら、そろそろ奴らの仲間にされていたかもしれない。
まあ、こんな奴らにやられる俺と親父じゃないから、そろそろ敵も減ってきている。
親父とブーモの能力で、スロープからここまでは道を作りながら歩いてきた。
しかも一直線のため、1kmほどは見通しが利く。
そのためここの道に出られたら、ママとルミナに会えるはずだ。
◆
「お母様!外です!外に出られましたよ!」
「ぇ・・・外ですか?なんで地下に向かうだけで外に?」
「わかりませんが、おおきな空洞かもしれません。でも明るいですよ!」
階段の終わりは崖の中腹にあるようでしたが、白い霧?に覆われているようで、見通しがなく、全体は見えませんでした。
崖からしばらくは下に向かって坂道のようなものが続いているようです。
「火の精霊、私に力を貸して。ダイチに私の居場所を届けて!ファイアーアロー!」
白い霧の中へなるべく遠くへ届くよう祈りを込めて火の矢を飛ばします。
「ぎゃああああああああああああああああ!!!!」
ぇ?
なぜかすぐそこで なにか に当たったようなんですが・・・
「誰よ!この私に歯向かう愚か者がいるなんて!この大空洞の主にして万物の女王、サドーミーと知っての狼藉かなの!?」
サドーミー?
大空洞の主、サドーミー?
(サドーミー女王!?お母様、逃げましょう!伝説にまでなっている大空洞の変態女王です!)
「どうしたの?声をそんな小さくしたら聞こえないわよ?変態女王?」
「そこにいるのね!動かないでよ!今そこに行ってあげるから!おしおきしちゃうんだからね!」
ああ・・・声は野太くどう聞いても大人の男の人の声だわ・・・
今まで出てきた魔物から想像すると・・・いやだ、想像なんかしたくない。
ずる・・・ずる・・・ずる・・・
なにか思いものを引き摺る音がする。
「・・・女王・・・さまぁ・・・もっと溶かしてくださいぃ・・・」
「あああ・・・女王様ぁああああ、もっと!もっと私を食べてくださいませえぇぇ・・・」
「あんた達誰に断って話ているのさ。黙ってな。あとで全身しゃぶりつくしてやるから。」
「「はいぃぃぃぃ」」
そして白い霧の中から現れたそれを見て、私とお母様は吐いてしまいそうになりました。
なにも食べていなかったので胃液だけだったのがまだ救いだったかもしれません。
「ふふん。女か。女なんぞ腹の足しにしかならないわ。さっさと食ってしまいましょう。」
正面から見ると、肉の山でした。
全身の肉が段々畑のように下へ広がり、禿頭にまで肉の襞ができています。
腐ったような肉の襞が覆った顔から、大きな魚のような目が飛び出て、その下には人を丸呑みにできそうな牙が並んだ真っ赤な口があります。
その口の薄い唇には黒い口紅が塗られていて、それと同じ色の爪は長さが20cmもありそうです。
口から下はそのまま黄緑やら紫やらの苔のようなものが生えた皮膚に包まれた肉の塊になっていて、両手はそのまま胴体の肉に覆われているようです。
下半身は・・・後方へ伸びているようですが、ところどころに足やら手やら顔やらが飛び出ているのです。
先ほど話していたのは女王の下半身に右手と顔以外を埋没させたオークのような魔物でしょう。
醜悪どころか、この世の屑を全部あわせたような容姿に、声も出ません。
おそらくこの洞窟にいた魔物は、全部この女王の餌なのでしょう。
自分から食べられるために女王に抱きついていく・・・
「なにが女王ですかこのおかま野郎!そのくさくて気持ち悪い体をこれ以上近づけるんじゃなわよ!」
あ、お母様すごい。
「な・・・なんですって・・・たかが人間の女がこの女王になんて口を!ただじゃ殺さないわよ!死ぬまで下種共に犯させた後に全身の穴に毒虫をねじりこんで、痛みで発狂する寸前に指先から順に食ってやるわ!」
やめてえええええええ!
ダイチ、助けて!早く来て!
「む、なにを言ってるか良くわからないけど、そんなのごめんだわ。とりあえず死になさい。」
そういってお母様は女王の周りに大きな氷の槍を無数に作り出したのでした。
あれ、いけるかも?
でも、ダイチはやくきてえええ!
もう変態でいいです。




