045 コウサカ戦隊VS魔族
洞窟は思ったよりも快適に保たれていた。
10年間奴隷生活と言っても、小人としてはパートナー契約を結んだようなものなので、いつまでも健康でいられるように気を使っていたらしい。
確かに、細かい指示は肩に乗って出さなければいけないため、くさかったり不潔だったりするのはいただけないからなあ。
親父を先頭に洞窟の奥へと入っていくと、6畳ほどの小部屋が何個か続いているようだ。
「ちょっと、そこの人。あんたは正気かい?どうなんだい?」
「小人さん、なんか気持ち悪いんだがどういうことだ?あんたら俺達になにかしたのか?」
「なんで俺たちはここで働いてたんだ?他のやつらはどうなった?」
「ちょっと!私の服を返してよ!家に帰りたいんだけど!ここから出しなさいよ!」
最初は俺達を見て戸惑っていた人間達だったが、一人が話しだすと一斉に話し出したため、聞きとるのも辛い状態になった。
小人たちは人間の剣幕に恐れをなしてしまい、俺達の後ろに隠れるほどとなっている。
「みなさんお静かに!私はコウサカといいます!いまどのような状況かわからずパニックになっている方もいるようですので、とりあえず牢の鍵はそのままでお話させてください!」
確かにこの状態で鍵をあけたら大変なことになりそうだ。
まずはプーリ女王を肩に乗せて、その姿をみんなに見せるようにする。
いったんは静まっていた人間たちだが、一斉に女王に罵声を浴びせた。
「どういうことだ女王!俺たちはあなた達に危害を加えてはいなかったのに、なぜずっと労働し続けなければいけなかったんだ!」
「俺達は仲間をこの手で追い出したんだぞ!集落はどうなっているんだ!俺の家はどうなった!」
「私に服を返しなさいよ!家に帰るまでに盗んだもの返して!」
どうやら魅了されていても不満は溜まっていたようだ。
この人たちの不満をどうすれば解消できるのだろうか。
「コウサカさん、今はこの方たちに私の言葉は届きません。どうか、どうしてこのような状態になっているのかを皆さんに伝えてもらえませんでしょうか?」
「あいよ。ま、どうにかなるだろ。」
親父お気楽だな。
親父は各部屋をぐるっと見回すと大声を出した。
「みなさんこんにちは!」
おい。
まあ、こういう人だよ。
「10年ぶりに魅了の魔法が解けて、みなさん戸惑っていることでしょう。」
あいかわらずばかでかい声だ。
反論しようったって、声を挟もうとしたって、この声には消されちまうね。
「まずは、どうしてみなさんがここにいるか、そして集落はどうなっているかについて説明します。」
親父は女王から聞いたことをほぼそのままみんなに伝えているが、とくに貴族二人が登場する部分は結構強めに言っている。
「ともあれ、どのような理由があったにせよ、罪のない皆さんをこのように奴隷として使役していたことについては、女王から謝罪があります。問いただしたいことはたくさんあるでしょうが、ひとまず聞いてみて下さい。」
ふう、長かった。
親父はママから水筒のお茶をもらい一息つく。
「コウサカさんの話の通り、私たちは長い間みなさんをいいように使ってきました。これはもう言い訳もなにもできない状態ですので、できる限りの賠償を行い、私達はこの鍾乳洞を出ていこうと考えています。」
あら、思い切ったことをするんだね。
「賠償については、トントとイビアから巻き上げた金貨がたくさんありますので、すべてをお渡しいたします。それ以上の賠償となるとなにも私たちにはありませんので、難しいのです。それから、人族から離れるために、長耳族の領地へと旅立とうと考えています。」
そして女王は親父を賠償管理員として任命し、23名の人間に対し、個人宛に賠償して行くことを確認した。
まずは名簿と家族構成を確認し、牢屋は家族毎にだいたい入っていることを確認した。
それから捕まる以前の生活状況を聞き取り、大体が集落へは落ち延びてきた人間であることを確認した。
また、今後、集落へ残るか、町へと帰りたいかを聞いたところ、もう集落で頑張りたいと考える人間はいなかった。
全員がドワーフの郷までなんとか進み、そこからは各自で生きていくことにするそうだ。
小人たちが持っていた人間の金貨は、全部で600枚ほどあった。
さすが没落しても貴族ということか。
23人でそれを割ると一人26枚となり、残りの2枚は老衰で動けなくなっているおばあさんの家族へと渡すことにした。
「失われた10年の穴埋めには足りないかもしれませんが、しばらくはそれで生きていけると思います。どうでしょう、これで手打ちとしませんか?」
全員に金貨を配り終え、まだぶつぶつ話している集落の人達に親父は語りかける。
「ドワーフの郷までは一本道ですし、来る途中大体の魔物は倒してきました。そうそう危険もないでしょう。
こちらで使っていた鋤や鎌などを持っていけば、この人数なら魔物もおそっては来ないでしょう。
歩いて10日ほどはかかるでしょうが、食料をもてるだけ持ってみんなで頑張ってください。」
少々きついではあろうが、この集落に来たときよりも懐は暖かいはずだ。
しぶしぶとだが、人間達が荷物をまとめ始めるのを見て、女王と大臣達を集め、話をすることにした。
「この鍾乳洞を出るってことだけど、またなんでだい?」
「私達がここにいることがまず人間達にばれてしまいました。遠い昔の話になりますが、小人の国には悲しい歴史があるのです。」
女王や大臣達は悲しみに沈む顔をして、昔話を聞かせてくれた。
まあありがちだったが、平和に暮らす小人達を愛玩動物として、人間が捕獲したのだ。
人間の中には魅了が効かない魔法使いや冒険者がいて、小人を捕まえては貴族などに高値で売りつけたという。
小人たちは人間がこない場所へと散り散りになったが、その場所場所で同じようなことが起きたそうだ。
エルフやドワーフ、獣人たちはそんな小人を受け入れてくれ、なんとか今まで種を存続してきたそうだが、現在では残っている小人はごくごく少数らしい。
「魔神戦争のときは、エルフやドワーフとともに勇敢に戦いました。また人間の中にも勇者様たちのように優しい方々もいらっしゃいましたが、いまだに迫害は終わっておりません。」
この鍾乳洞で暮らしているうちにだんだんとまた繁栄してきたそうだが、あの二人の貴族によって、またもや迫害の歴史が始まったと大騒ぎになったそうだ。
「パパ、残った食材でカレー作ろうよ!」
美月がたまには気の効いた提案をすると、親父も楽しそうな顔になって同意した。
「女王、ここにはきのこやらはたくさんあるみたいだけど、食料は他にどんなものがあるんだ?」
「そんなに種類はありませんが、地の中にたくさんまだあるはずですので、必要なら好きなだけ見繕ってください。」
「肉とかはないのかい?」
「残念ながら私達は動物を捕らえることができませんので・・・食べることは問題ありませんが。」
なんかちらっと期待のこもった目で見ているぞ?
「おし、大知、ちょいといって食えそうな奴を探してこい!」
「ちょ!親父、このあたりにそんなもんいるんかよ!」
「飛んでりゃ鳥でもいるだろうさ。上から探してみ?」
へいへい、いきますよ!
てか、ノアに戻ってこっそり肉の塊でももってきてやればいいんだろ?
「ちょっとノアから肉もってくるわ。鍵かして~。」
ルミナから鍵を受け取り、すぐに飛び上がると、小人と人間達がぽかーんと見上げてきた。
「と、ととと飛んでる~!?」
「ま、魔族か!?」
いや、普通の人間ですよ。違う世界だけど。
「ルミナ~、みんなに魔法使いだって説明しといてね~!」
数時間ぶりに鍾乳洞を出ると、外はもう双子の太陽が沈みそうな時間だった。
めんどくさいんで後は頼み、上空からノアへと向かう。
この鍾乳洞は入ってきた方向とは反対側に大きな入り口があって、本来はこっちが正式な出入り口なんだろう。
集落を見つけ、その先にノアも見つけた。
誰もいないけど、大丈夫だろうな。
心配していたが、何も盗まれている様子もなく、無事に樽に半分ほど残っていた塩漬け肉を全部持って鍾乳洞に戻る。
すると、入り口に親父が立って、腕をぶんぶん振っていた。
なんだ?なにか起きたか?
「大知!回避!!」
親父のどら声にびくっと首を引っ込めたついでに少し高度が下がった瞬間、頭のすぐ上をレーザーが掠めていった。
「ハゲルハゲル!だれだこら!」
レーザーの飛んできたほうを遠見を使って見ると、ストーリーキング・・・じゃなくてサディエルを助けたドービエルと、ピエロのような服を着たもう一人の魔族が飛んでいるのが見えた。
お返しだ!
「トルネード!結構本気バージョン!精霊よおらに力を!」
両手に出していたトルネードに一気に魔力を送り、二つを時間差で放り投げる。
しかも魔力でホーミング機能もつけてみましたバージョン!
今の俺の力だと、普通に竜巻だな。
ドービエルは結構あせって回避行動をしているが、もう一匹の魔族はちょっと格上のようだ。
なにかをぶつぶつと呟いたと思うと、俺の竜巻に劣らない竜巻を作り出してぶつけてきた。
ここからだと音も何も聞こえないが、激しく干渉した後、竜巻は消えてしまった。
一方ドービエルは着ていたタキシードをぼろぼろにしながらも、なんとか飛び続けている。
ああ、あれは直撃したんだろな。
「大知、いったん戻れ!一人じゃ不利だ!」
親父がバンバンドを構えて俺の援護に魔力を打ち出している。
ママとルミナは外に出ていた小人と人間を鍾乳洞の奥にあった洞窟へと誘導しているが、間に合うのか・・・
ヤタから光の弓を受け取った美月が、光の矢をドービエルに向けた。
「ダングエル!あれが光の巫女だ!あいつの矢はこちらの防御を破ってくるぞ!」
ダングエルと呼ばれた魔族は、両手を振り回し始めた。
なにを・・・ああ!カマイタチかよ!
美月に向かう空気の塊が見える。
美月も見えたようで、光の矢を分裂させ、カマイタチにぶつけ始めた。
「ダイチ!火の矢を放ちます!あわせてくださいね!」
おっけ!ばっちこい!
ルミナが打ち出した数本の矢に風を纏わせると、火炎放射器のような勢いになってドービエルに向かい始める。
両手を前に突き出し、ルミナと一緒に魔法を増幅させると、ロケットの噴射炎なみの大きさにまで成長した。
「「いっけえええ!」」
ルミナの後ろに着地し、一緒に両手を差し出しドービエルを狙うと、太陽が再度空に上がったような明るさになった。
お!直撃したんじゃないか!?
爆炎が収まるとそこにはドービエルはいなかった。
しかし・・・
「なるほど、聞いた以上の強さだ。こいつらでは相手にならないか。」
ドービエルを消滅させたと思った瞬間、ダングエルがドービエルを掴んで引き寄せたようだ。
てか50mは離れていたはずなんだが。しかも美月と戦っていなかったか?
ドービエルは完全にかわせたわけではなく、胸から下と右腕が消滅していた。
良く見ると気絶しているようだ。
俺の前に立っていたルミナの体から急に力が抜けたように崩れる。
あわてて抱きとめると、ぜんぜん体に力が入っていなかった。
「ダイチ、ごめんなさい、魔力切れです。」
ふらついたルミナをヒポポに乗せて、いつでも回避できるように言いつけておく。
うう・・・こんなときでもとろーんとした目のルミナが可愛すぎてつらいのだが。
おし、ルミナがいない今、魔法ではもう俺の出番はないな。
「ダングエルとかって言ったな。うちの最終兵器の相手をしてみてよ。」
てことで、ママに登場してもらおうか。
「うちの最終兵器はパパじゃなかったのかあああああああああああ!?」
「親父は鉄砲玉です。まあ、威力でいったらママだろ?」
あ、落ち込んだ。
「ママです。よろしくね、ダングエルさん。」
「ほお、余裕ですね。こちらこそ宜しくママさん。」
魔法大戦争勃発の予感。
あ、ダングエルがドービエルを捨てた。
今のうちにとどめでも刺しに行こうかなとか思ったら、レーザーが後方から何発か飛んで来たよ。
「ダングエル、小人は消滅させたの?え?まだ?なにしてんのよ?」
あ、ストーリーキングさんだ。
「こら小娘。なに夫と息子の前で乳放り出してんのよ。恥ずかしくないの?」
「げ・・・なんでまだここにいるのよ。すっごい邪魔な奴らね。ダングエルやっておしまい。」
「サディエル黙ってろ。また失禁したいのかお前は。下にドービエルが転がっているから回収しておけ。その後小人でも消しておけ。」
「い・・・言うなそのこと!え?ドービエル!?こいつらドービエルをいじめたのかああああ!」
あ、角が出てきた。ああ・・・魔族って興奮すると、赤い肌が真っ赤になって、角が伸びるのかね?
でもカルツエルはそんなことなかったが・・・
「サディエル、この世界で元の姿に戻っても魔力切れを起こすだけだ。おとなしく言われたことをしていろ。」
む?魔界では姿が違うのか?
一応情報として、覚えておこう。
親父の隣で、腕をこまねきサディエルの様子を観察していると、美月に弓で叩かれた。
「・・・すけべ親子・・・」
違う!断じて違うぞ!
あの紐のようなパンツがちょっとでもずれたらどうなるんだろうとか考えていないからな!
「大知、そこはうなづいておけ。」
親父がそう言った瞬間、ママが浮かべていた無数の氷の槍が一気に倍になった。
倍になった分は先端がこっち向いているんですけどおおおおおお!
「「すんません!なんか全部すんません!!」」
とりあえず、親父と別れてダングエルを中心に3人で陣を張るように位置取る。
「一気にいくわよ!」
そういって、ママの絨毯のように広がった氷の槍が四方八方からダングエルへと殺到した。
まあ、展開的には高笑いしながら出てくるんだろうけどよ!
・・・出てこないでね?
お!出てこねえ!
空中にはママの槍がそのまま圧縮したような氷のボールができている。
おそらく直径は10mくらいありそうだが。
展開的には、高笑いしながら・・・
ばがあああん!
「ひいいいい!さみいいいい!やばいよ!死ぬとこだったよ!なんつう攻撃するんだあんた!」
台無しだよ。体中から血を流し、泣きながらダングエルが現れた。
おっちゃんしぶといね。
「ダイチさん!おらを一緒に連れて戦ってくれでしゅ!」
白い勇者が現れた。
てか、俺達の移動速度についてきてんのかこいつ!?
たしかブーンとかっていう全身白いやつだ。
口元がωなのは生まれつきの疾患なのだろうか。
てか、こいつを連れて戦えってことは・・・
あ、身体能力2倍ってやつですね!
おれのパーカーの帽子部分にブーンを放り込んで、飛んでみる。
てかすげえ!体中に元気があふれてくるぞ!
ダンドリルを右手に、風の短剣を左手にダングエルへと跳躍しようとしたときだ。
ドガン!バアアアアアアアアアアアアアアン!!!!
圧縮された空気の巨大な塊がダングエルのいた空間を綺麗に消滅させた。
なにごと!?
親父のいたほうを見ると、得意げにVサインを寄越す親父とローホがいた。
終わっちゃったよ。
そういえばサディエルとドービエルはどうした?
「大知~パパ~ちょっと動かないでね~」
美月の肩には黄色いドレスの小人ちゃんがいる。
そして美月は天に向けて弓を鳴らす。
その瞬間光の矢が天へと向けて飛んだ。
すると天が光輝き、地上へと星が降ってきた!
星だと思ったのは空を埋め尽くす光の矢で、魔族二人のいた場所へと降り注いだのだ。
ああ、美月は神話を実現させちゃったようだね。
しかし、あの光の矢の量は・・・
小人も人間ももう拝んでいるよ。
あれだけの光の矢が降り注いだ後にしては、木も草も花も傷ついていなかった。
どうやら光の矢とは敵対するものにしか効果がないらしい。
呆然としていると、ルミナが横に来た。
「もう大丈夫かい?」
「ええ。この子のおかげで力が戻りました。」
ルミナの肩には緑の服を着た髪が虹色に変わってきている小人が乗っている。
身体強化か回復増加か。ありがたい効果だな。
「ブーン、君達の能力はすごいね。」
「そうですね、初めて実感しました。人間と一緒に戦ったことがなかったので。」
こいつ、目が細すぎ。笑ってる顔が可愛いからまあいいか。
ママのところには、青い服の小人が乗っている。
「遅かったじゃないの。次からは遅れないでね!」
「すいません奥様。以後気をつけます。」
「冗談よ。すごい体に力が沸いてくるわ。」
そう言って、にっこりと小人に笑いかけると、ママは魔力を発動する。
「氷のビル!」
どーん。
氷のビルが建っていた。
どんだけやねん。親父の出番が少なくなるねこりゃ。
あ、俺もだ。
ブーン、なつかしいよブーン




