044 小人の事情
洞窟の中からはかなり大きな音が響いてくるが、なにを言っているかは不明だった。
「トース、中にいる人間は何人ぐらいなの?」
人族対応大臣とか自称している青い服のトースに人間が何人いるのかを聞いてみると、23人との声が返ってきた。
「ダイチさま、早く開けてもらわないとプーリ女王が危ないんでしゅ!おいらたちはどうなってもいいから女王を助けて!」
女王がいるのか?
親父が言うには中は牢屋みたいなつくりになっていて、人間は正気に戻っても容易くは出られないだろうとの話だった。
でも、小さな小人に石でも投げたらそれは攻城兵器なみの威力になるだろう。
「親父、小人が出てきたらどうする?」
「凍らせるか?」
「だめでしゅ!おいらたちが説得するんで攻撃しないでくだしゃい!」
赤い服を着たウーノという住処の責任者だというおっさんが慌てて言う。
おっさんが赤ちゃん言葉を使っても気持ち悪いだけだからやめてくれ。
とりあえず、岩を取り去ることにした。
親父が左側に立ち、ふんっと力を込めると、岩は右側に転がり始めた。
こんな大岩を転がせるんだから、親父の身体能力はどれだけ上がってんだか。
1分程で完全に洞窟入口を露出させると、親父は一息つく。
「プーリ!無事か!?ウーノだ!みんな大丈夫か!?」
赤い服でルミナの山脈を制覇しようとしたおっさんだったが、なんと小人族の女王、プーリの夫だったらしい。
あんなおっさんなのにおかしいじゃないか!
女王におっぱい星人だということを知らせてやろう。
ちなみにおっさん小人達は、赤小人はウーノで、女王の夫として住処をまとめる存在らしい。
黄色い服のドースは防衛大臣、さっき話していた青い服のトースは人族対応大臣、ピンクの服のクートは食糧大臣、紫の服のシーコは調達大臣とかいうことだ。
まあ、調達とかって、盗んでくるってことだろうけどね。
ウーノの声で、中から小人たちが走り出てくる。
俺達家族を見てぎょっとしているが、おっさん戦隊を見てすぐにそちらへと駆け寄っていく。
なるほど、大臣というくらいだから、少しは人望があるらしい。
100人ほどの小人が走りだしてきた後に、若者5人に連れられた女王っぽい小人が出てきた。
女王は虹色に輝く長い髪を頭上にソフトクリームのように結いあげ、髪の色と同じ虹色に輝く絹の一枚布を巻いている。
周りにはこれまた戦隊色の若者たちがいるが、その色はおっさん五人組にそっくりだ。
「我々は女王親衛隊だ!人間どもめ、こんな酷いことを女王様にしてただですむと思うな!」
赤い服を着た親衛隊のリーダーらしき若者が声をあげるが、おっさんじゃないぶん迫力がさらに下がる。
「ローホ!だまりなさい!この人間たちには勝てない!」
ウーノがローホとかいう若者をたしなめている。
女王の前には5人の若者が女王を守るように立っているが、はっきりいっておもちゃの兵隊を見ているようだ。
というか、戦隊もののヒーローショーだな。
「ローホありがとう。私はこの人達と話し合いをしようと思います。」
「女王様!こんな人間達と話すなんて危険です!」
いや、危険もなにもほほえましく見ているんですが。
「まずは魅了することをやめてもらおう。一度魅了の魔法を解いたらかかりにくいらしいからね。」
「この力は勝手に発動してしまうのです。私達の意志はあまり関係ありません。」
おおっと、そういうことかい。
「あなたたちは抵抗力が強いのですね。無駄な抵抗はしないよう一族のものを説得しますので、お話を聞いてもらえますか?」
女王が一族に向かって、話し合いの場を設けるのでおとなしくするように言い渡すと、小人達はおれらの周りに遠巻きに座り込んだ。
それでも5人のおっさんとヒーロー戦隊は女王の周囲に立って、盾になろうとしているのがいじらしい。
まずは親父が女王に問いただす。
「女王、洞窟の中の人間はまだ助けないでくれとトースに言われたが、なにか理由があるのかい?」
「はい。包み隠さず真実をお話します。この場所に先に住んでいたのは我々小人族でした。」
先祖代々この鍾乳洞には小人族が住んでいたという。
小人族は人族やエルフ族と交流を持ち長い間幸せな日々を過ごしていた。
プーリ女王の先代の時代に、近くに人族の集落ができたという。
最初は魅了の力もあり、すぐに打ち解けて問題なく過ごしていたそうだが、人族の集落に都を追われて貴族が落ち延びてきたときから関係があやしくなったそうだ。
その貴族はトント=ダーヨとイビア=ダーヨと名乗る夫妻であり、集落の真ん中に大きな家を建てた。
その二人に挨拶に向かった小人族の代表が住処に帰ってこなくなったのだ。
トントの家に行ってもそれからは門前払いされてしまい、しょうがないので何人かがその家に忍び込んだのだが、そこで恐ろしい行いを目撃してしまった。
挨拶に行った小人は、当時の人族担当大臣と、若い女小人の秘書であったのだが、二人はトントとイビアの夫婦によって、酷い目に合わされていたのだ。
大臣は壁に虫ピンで貼り付けにされ、秘書は裸で天井から逆さづりにされていた。
両足首を紐で結ばれ両手を後ろ手に結ばれた格好で、体には毛虫やらミミズやらを這わされていたそうだ。
断末魔のような悲鳴を上げ続けている秘書を見た小人達は、すぐに二人の貴族相手に戦いを開始した。
しかし、この二人は小人に対する愛でる心は欠片も持ち合わせておらず、魅了の魔法も、針のような剣も役に立たずに、蹴られ踏まれ殴られて、命からがら逃げ出した一人を除き、捕まったらしい。
翌朝、住処へと通ずる道へ、8人の小人の死骸が転がっていた。
最初に捕まった二人は、体を割かれてしまっていたそうだ。
この話の頃には、そこらからすすり泣きの声が聞こえ、ママも酷い!なんて悪い人達と憤っていた。
女王の話は続く。
その二人のせいで、集落の人間もだんだんと小人達を交流をやめ、逆に捕まえてペットにするものまで現れたらしい。
小人たちの魅了の魔法は、小人を可愛いと思ってくれる相手にしか効かないのだそうだ。
そうなると、小人たちの未来は暗いものとなってしまうと、先代女王は決断したのだそうだ。
二人の貴族を魅了した人間で倒してしまおうと。
そのときには、まだ半分以上の人間を魅了することができ、まずは捕まっている仲間を助け出した。
そして武器を持たせ、貴族の家を襲ったのだ。
トントとイビアの夫婦は、人間に攻撃されると猛烈に反撃してきたが、その隙に小人達が足もとに群がって、針のような剣を刺すと、だんだんと動けなくなってついに倒すことができたらしい。
貴族の小人に対する扱いに同意した人間はまだまだいたが、その人間達は集落を逃げ出して二度と戻ってくることはなかったそうだ。
そして残った魅了にかかったままの人間は、すべての記憶があるために魅了をやめると報復されるかもしれないと、そのまま奴隷として住処に連れて帰ったのだそうだ。
罪のない人たちを奴隷として使い続けたのは10年にもおよび、今ではなんの罪の意識ももたずに、一緒に働く仲間として暮らしているという。
「それが人間を使役していた私達の暮らしの理由なのです。もちろん罪のない人間を魅了したまま奴隷として使っているのが悪いことだとは理解しています。」
女王は話しを終わりにし、どう謝罪すればいいかと親父に尋ねてきた。
「俺に謝罪してもどうしようもないよ。あんた達と一緒にいた人間は記憶をすべて持っているのだろう?」
「ええ。一緒に洞窟に閉じ込められ、魅了の魔法をあなたに止められてから、人間達は私達に石を投げてきました。」
確かに何人かの小人は体に石が当たったのか、血を流したり、骨が折れたりしているようだ。
今もみんなの後ろで治療してもらっているようだが、おそらく助からない小人もいるだろう。
「大知、急いでルミナと美月を連れてこい。こいつらを治療するんだ。」
ノアに戻ると心配そうにしていた二人に小人の治療を依頼する。
すぐに鍾乳洞に戻った俺達は、早速けが人を集めた。
「イタイノイタイノトンデケー」
美月の適当呪文をけが人にまとめて照射すると、じわじわと傷が塞がり、骨折も治っていく。
あいかわらずすごい威力だな。
「光の巫女様!!」
プーリ女王が驚いて叫ぶ。
「小人族にも伝承があります。魔神戦争時代に小人も戦士達と戦ったといいます。小人族の能力は魅了だけではありません。強い戦士とともに行動することで、その力を倍にも引き上げることができるのです。
そして、光の巫女や勇者様たちと一緒に、魔界にあったという力の泉を封印したのです。」
なんですと!
身体強化の魔法を持っていたのか!
「光の巫女様がいらっしゃるということは、あなたたちは勇者様なのですか?」
「勇者かどうかはわかりませんが、今のところ魔族と戦ってはいます。」
「そうなのですか・・・」
それっきり女王は絶句してしまった。
酷い人間のせいとは言え、人間を奴隷として扱っていたことがいまさらながらに恐ろしくなったのかもしれないし、もしかしたら勇者の一行にとんでもない醜態をさらしてしまったことを後悔しているのかもしれない。
「よし、背景は理解した。なにはともあれ捕まっている人達と話をしてみよう。」
親父はそういって、洞窟へと足を向ける。
「お待ちください。私も一緒に参ります。」
女王がそう宣言すると、小人たちから悲痛な声が上がる。
「女王自らが行くのは危険すぎます。我々が行くのでこちらでお待ちを!」
ヒーロー戦隊が前へと出てくる。
しかし、この5人、思ったよりも良く見るとかわいいのだ。
赤いリーダーは結構体ができているようで、同じ縮尺ならどこかの近衛隊にいそうな感じだ。
白い服の細い目の小人は、口がωになっていて、どっかでみたような丸い愛嬌のある顔をしている。
緑の服を着たお嬢様っぽい縦ロールの女の子は、髪が半分ほど虹色に変わっている。もしかしたら女王の娘なのかな。
青い服を着た妙に色っぽい女の子はもじもじと赤いリーダーの後ろで隠れている。
黄色の服の女の子は髪も金ではなく黄色なので、目だってしょうがない。
女の子の方が多かったことに一瞬びっくりしたが、それぞれが女王を思う気持ちはひしひしと伝わってくる。
「では、あなたたちも行きましょう。でも決して私を守るために盾になろうとか考えないでください。」
ルミナと美月は治療を終えたようで、複数の小人からしきりに感謝の言葉をもらっていた。
「親父どうする?このままみんなで行くかい?」
「そうだな。こうなったら、最後まで面倒見ようか。」
「それがいいわ。ここの小人達が人間を奴隷にしたのにも理由があったみたいだし、奴隷にされていた人間達の話も聞いてみましょう。」
さあ決まった。
10年も奴隷生活を送ってしまった人間を助けにいきましょうかね。
魔神戦争と勇者達。
いつか書いてみたいですね。




