042 集落
「見事な廃村だな。」
「日本にもこんな感じのところがあったよね?」
「さすがに道路くらいは残っているかと思うが、ここは獣道さえなくなっているからなあ。」
「人の気配かなんかはないの?」
「まったく。まあ、範囲がおそらく100mくらいしかないから、全体は見えないけどな。」
親父と俺で、さっき上空から見えた集落へとやってきたが、数軒のほぼ朽ちている家がまばらにあるこの場所には、すでに誰も住んでいないようだ。
「ちょいと家の中を覗いて、帰ろうか。」
「了解。」
街道から400mほど森の中にあったこの集落には、かなり前から誰も住んでいそうにはない。
一軒一軒がかなり遠く建てられており、中央には広場の残骸のような野原が広がっている。
一番近い家に向かい歩いていくと、ドアも倒れて中が覗けるような状態になっていた。
土間やかまどはそのままだが、板の間などは腐ってしまっている。
家財道具なんかも見当たらないので、引っ越したか、盗まれたかしたのだろう。
壁なんかもところどころ大きく崩れて、外の光がそのまま入ってきていた。
見るべきところもないので、集落の真ん中あたりにある大きめの家に向かう。
「うわあ・・・」
屋根も板張りなのだが、この大きな家の場合は、中央に向かって大きくたわみ、下に落ちてしまっていた。
奥の部屋に行くと、寝具や箪笥が残っている。
まあ、完全に使えるものではなくなっていたが。
「お?なんか範囲ぎりぎりのところで黄色い反応があったぞ?」
親父が家の外に出て、遠くの家屋へと向かう。
その家までは目測で100m以上はあるので、レーダーの範囲もやはりそれくらいなのだろう。
「家の裏だな。人よりは小さそうだ。」
そちらへ向かうと、いきなり藪へと向かって小さな影が逃げ込んだ。
「今のはサルか?2足歩行していたような気がしたけど。」
親父の視力はそんなによくないので気づけなかっただろうが、俺には見えた。
「いや、小人だよ。服も着ていた。」
「小人?なんだそれ?」
おそらく30cmほどのものだったろう。
完全に人のミニチュア版といった人影が、走って逃げたのだ。
「どうする?追いかけてみるか?赤くはなかったから、危害を加えてくるような相手ではなさそうだけど。」
「なに言ってるんだ親父!地球でみたことのない小人だぞ?追いかけるのが当然だろう!」
そう、俺は見たことのないものはじっくり観察したい性質なのだ。
とりあえず消えた方向へと親父を先頭に向かう。
「追いかけても言葉が通じないんじゃないか?」
「そうだね。じゃあ、俺は美月を連れてくるよ。親父は探索を続けてみてくれ。」
「おう、早く帰ってこないと寂しくて泣くからな!」
「泣いてればいいよ!」
結構寂しがりやの親父だから、さっさと帰ってきてやろう。
後ろ姿がすでにしょぼんとしている親父を残し、空からすぐにノアへと向かう。
ノアは集落へ向かう場所でちょっとだけ空き地があったので、道の端のほうへと止めてある。
「美月!小人がいたぞ!今親父が追いかけて探しているから、話せるか試してみてくれ!」
「小人!?いるの?見たい!すぐ行くから待ってて!」
ヤタを呼び、一応変態マントをはおり準備する。
「ダイチ!気をつけてね!小人は知らない間に持ち物を持っていってしまうから!」
あら、そんなことをしちゃうのか。そういえば親父、ノアの鍵はどうしてるんだろ。
「ママ、ノアに鍵かけておいたほうがよくない?」
「わかったわ。ルミナ、大事なものはノアに乗せ換えて、鍵かけておきましょ。」
ママとルミナが小人対策をしている間に、親父のもとへと美月と向かう。
集落の上へと到達し、親父の姿を探す。
「ねえ、大知、パパはどこ?」
「たしか森の方向へと向かっていたから、木の陰で見えないのかもね。」
美月と一緒に低空飛行をしながら親父を探す。
「パパああ!どこお?返事して~!」
「親父~!どこだあ!」
あれ、ぜんぜん返事がないぞ?
「おーい親父いい!どこだああ!?」
「パパああああ!返事してえええ!」
あの親父のことだから殺しても死なないだろうけど、だからこそ返事がないのが気持ち悪い。
下に降りて、俺だけ森の中を歩いてみる。
美月は万が一を考えて、ヤタに乗ったまま上空でホバリングして待っていてもらう。
「親父いい!返事しろおお!」
それから10分ほど周辺を探して歩いたのだが、まったく返事がない。
ナイフで刺されていたとしてもすぐに回復するだろうし、一体どうしたというのだ。
一旦捜索を打ち切り、ノアへと戻る。
「ママ!親父がいねえ!探したんだけど、返事もなかった!」
昼食の準備をしていたママが持っていた皿を落としてしまった。
そのまま走り出そうとしたママを押さえつけるが、俺を引っ張ってそのまま行こうとする。
「待ってママ!どこを探す気だよ!親父なら絶対大丈夫だから落ち着いて!」
「なんで大丈夫だってわかるのよ!私のことを待ってるの!はやく行かなきゃ!」
なんつう力だ。今はルミナもきて一緒にとめてくれているが、それでも前進していく。
「わかった!わかったから落ち着いてくれ。みんなで動かないとまずいかもしれないんだから!」
泣き始めてしまったママをなんとかなだめて、戦闘を見越した格好になる。
「よし、鍵もおっけい。ブーモ、ヒポポ、ママとルミナをよろしくな。」
ママがブーモ、ルミナがヒポポ、ミヅキがヤタに乗って、4人で進む。
ゼウスとルナの2匹の猫に留守番を頼み(寝ているだけだが)、空と地上から集落へと向かう。
ヒポポの戦闘力は未知数だが、親父を吹っ飛ばしたのだから、ブーモには引けをとらないだろう。
ってか、ママにちっちゃくされるまで、30分以上は押し合っていたから普通じゃあないな。
集落に出ると、俺と美月が先行して、親父の向かったほうへと進む。
俺と美月は上から、ママとルミナはそのまま周辺探索だ。
ブーモとヒポポのでかさはちょっとこの森には合わないようで通れる場所を探しながら進んでいる。
なんか森を構成する物体自体が小さいのだ。
かなり大きく広がった森のなのだが、実際に歩いてみると木の高さは低いし、枝の場所なども普通よりはかなり低い場所に広がっている。
それ故にヒポポとブーモに乗った二人はすでに降りて歩いている。
かなり広範囲を探したのだが、まったく手掛かりがないため捜索を打ち切りノアへと帰った。
ママは焚き火の前で両膝を抱え、一切話しをしなくなってしまった。
親父はいったいどうしたのだろうか。
なにかに襲われたのなら、親父のことだ。その戦闘場所はおおきくクレーターでもできていることだろう。
戦っていなかったとすると、罠にでもかかってどこかへ連れ去られたのか。
でも親父は何者かが近づいてもそのレーダーでどうにかされる前に気づくだろう。
あとは・・・この世界へ来た時と同様に、突然違う世界へ・・・
いや、それは考えないでおこう。
もしそうだとしたら、来るときは全員できた意味がわからない。
規模が違う召還にでも巻き込まれたというのだろうか。
そうだとしたら、俺達はこれからどうすればいいのだ。
ママと同じように沈み込む俺と美月だったが、そこを救ってくれたのがルミナだった。
「ダイチ、あなたまで沈んじゃだめよ。いまこの場でみんなを助けなければいけないのはあなたよ。」
この世界では、15歳から成人だ。こちらの同年代の人たちは確かに俺達よりはしっかりしている気がする。
「今のあなたは当主代理なの。コウサカ家を守るのはあなたの役目。私達はあなたの考えに従うし、あなたの行動に期待しているのよ。お父様が不在の今、この家を守るのはあなたなの。」
うちの親父は家族を守るという気持ちはいつも持っていたはずだ。
このような時に親父は絶対にあきらめたりはしないし、家族から離れていても自分のことよりも家族を心配しているはずだ。
「ルミナ、ありがとう。そうだよな、俺が今はしっかりしないとこんな場所でコウサカ家が負けるわけにはいかない。ちょいと元気を出してみようか。」
俺に向かって花のように微笑んだルミナは美月の肩を持って頭をなでている。
とりあえず、ママをどうにかしないとね。
「ママ、夜の間は親父を探せない。だから早めに休んで、あたりが見えるようになったら、すぐに探しに行こう。」
「大知~、パパがいないの、どうしたらいいの?怖いの。パパ~・・・。」
ん~、ママは沈み込んだ思考から上がってこれないな。とりあえず美月とルミナにママを着替えさせてもらって、ベッドに寝かせよう。
美月はルミナのおかげで少しは落ち着いたのか、のろのろとではあるが動けるようになっている。
3人がトレーラーのベッドに横になったことを確認し、俺はノアをフラットにして寝袋に入る。
猫達がにゃあにゃあとうるさいが、親父がいないから不安なのだろうか。
「どうした?寂しいのか?」
と猫達を見ると、なんか窓から外を見ている。
ブーモとヒポポも何かに気づいたのか、低くうなり始めた。
うなり始めた?
やべ、なんか来たのか!?
すぐにダンドリルを手に、ノアの外に飛び出すと、ブーモとヒポポも一緒に飛び出した。
でもちょっとまて、お前らママの命令がないとでかくなれないだろう!
「ルミナ、なにか来ている!ママと美月を起こしてくれ!」
トレーラーの中から慌てる様子が聞こえるが、まだ出てくることはできないだろう。
「ママ!ブーモとヒポポを元に戻して!」
俺の隣にいたブーモとヒポポがどんどん大きくなる。
なんとかこれで戦闘態勢が整ったことにしておこう。
ヤタがあせった様子で、俺達のいる場所に飛んでくる。
こいつは大きなままで木の上で休んでいたのだが、なにかに気づいて逃げてきたのであろう。
でも、こいつは一羽でワイバーンとも戦っていたのに、なにもしないで逃げてくるなんて・・・。
そのままヤタは上に向かって大きく鳴いた。
そしてブーモとヒポポも上に向かって吼える!
上からかよ!
持っていた懐中電灯を上空へと向けると、なにかが大きな翼を広げ、音もなく10mほど先へと降り立った。
「ダイチ!見ちゃだめ!!」
ルミナが後ろから俺を押し倒す。
やばかった。一瞬意識が飛びそうになってたよ。
「あらあ・・・あとちょっとでダイチ君が私のものになったのに。邪魔しないでよ。」
脳を揺さぶるような甘い声だが、同時に前進に悪寒が走る。
こいつ、魔族だ。
一瞬だけ見た格好は恐ろしいほどに裸に近い格好で、てか裸より危険な格好で・・・
男なら誰でも数秒で魅了されてしまうであろう素晴らしいスタイルだった。
「ダイチ、あなたは絶対に目を開けないで。目を開けたら、潰します。」
へ?
「かわいそう。私の体を一瞬でも見た男はもう私から逃げることなんてできないのよ。それなのに、目を潰すなんて、酷い女ね。」
「うっさいこの色魔!ダイチをあなたになんか魅了させるもんですか!」
「ちょっとなにこのおばさん。恥ずかしい格好してなにしてんのよ。」
「ちょっとあなた、今おばさんって言った?私の聞き間違えよね?」
「おばさんはおばさん!裸になって恥ずかしくないの!?」
「あなたは死にたいみたいね・・・小人達を始末しにきたのに、あなたたちがここにいるなんて。カルツエルの仇討ちなんてする気もなかったけど、やっちゃおうかな。」
いや、美月、挑発しちゃだめだろ。この状態だと、二人で魔族を・・・
「・・・ねえ、そこのあなた。ミアモールはどこ?」
後ろから恐ろしい気配が近づいてくる。
「早く教えなさい。あなたと一緒にミアモールはいたの?」
「なんだミアモールって?そんな名前のやつなんかしらないぞ?」
ママの怒りのオーラがすごいことになっている。
俺達にまで冷気が刺さってくるようだ。
なんかパキッ!パキッ!っと歩くたびに音がするんだけど、地面を凍らせているのか?
「お母様落ち着いて、世界が凍っちゃうわ!」
「ルミナ、大知を後ろに!離れないとまじでやばいかも!」
うわ、服が凍ってきたぞ。
さみい!さみいよこれ!
「なによあんた!私を誰だと思っているの!?四天王が一人、サディエルよ!?」
「カンソーナ!イハデプータ!エストゥッピーダ!」
「なに言ってんのよ!ミアモールなんて知らないって言ってんでしょ!」
その瞬間ママのまわりの世界が凍った。
冷気の重さを感じて目を開けると、ママの周りに恐ろしい数の氷の槍が浮かんでいる。
「ちょ!ちょっと待ちなさいって!話せば・・・」
サディエルとか言った魔族の姿はまったく見えない。
というか、ママのオーラが見えるほどだ。
槍が螺旋を描くように動いているが、あの槍は硬度がやばいことになっていそうだ。
長さ太さもいつもの倍ほどもありそうだ。
それがどんどん増殖している。
もう城壁なみの凄絶さだ。
3人目の魔族はもう脅威ではない。
真の脅威は俺の目の前のママだ。
このままでは、ノアやトレーラーまで凍ってしまう。
増殖した槍が当たった茨や草や木は、その瞬間に粉のように消滅してしまう。
どれだけの冷気を浴びるとこうなってしまうのだろうか。
「・・・くっ・・・覚えてなさい、この私に恐怖心を抱かせるなんて生意気なやつ。小人を殲滅した後にあなた達も消去してやるんだから!」
そうサディエルが逃げ口上をした途端、ママの周りの槍が一瞬にして相手に殺到した。
「きゃあああああああ!」
どごおおおおん!
槍が一瞬にして殺到したのだが、消えるのが早くないか?
槍が消えた向こうには人が・・・こいつも魔族だな。
だれかが立っていた。
「大丈夫ですかサディエル。さすがにこれ以上魔神復活への仕事が増えるのはまずいので、助けてあげますよ。」
ママの槍衾を止めたのは、もう一人の魔族だった。
片手を突き出す格好で、バリアーのようなものを作り、ママの槍を防いだようだ。
てか、サディエルの格好なんだあれ!
紐じゃないか!
ルミナに目を叩かれた。
「いってえ!ルミナいってえよ!だめそれ危険!」
「魅了されないでください。見せません。」
魅了とかなんとか言うが、サディエルは完全にビビリモードじゃないか。
てかいてえよ!
「いいから私の後ろで、私の手を握っていてください。力は入れないで。」
ん?
抱きついていいのね。
「私の魔法にダイチの魔法を合わせていつでも撃てるようにしましょう。」
お、二人羽織だね!おっけ、喜んで密着しますよ!
「私はドービエルと申します。今宵は挨拶だけにしたいと思いますが、またお会いすることもありましょう。それでは御機嫌よう。」
そう言って、ドービエルは怯えるサディエルをお姫様抱っこして、羽を大きく振ると飛び上がった。
「待ちなさい!ミアモールを返して!」
ママが声を張り上げるが、片膝を地面についている。
魔力切れを起こしているのか、体が痙攣しているようだ。
「ミアモールというのがどなたかは存じ上げませんが、私共ではお預かりしておりません。」
そう言うと、ドービエルは上空からこちらに向かい手を上げた。
やばい!なんかあいつの手に魔力が集中している気がする!
そのときだ。
「ネナあああああああああああああ!」
親父だ!
どん!
踏み込んだ足元が大きくへこむ!
そのままバンバンドを大きく振りぬきドービエルに向けて空気を打ち出した!
あ、音速超えた。
空気の塊、あれは斬撃なのか?塊のようなものがドービエルの手前で音速を超えたらしく、白い壁が現れてそれを固まりが突破した。
ドービエルが慌てて片手を前に突き出し手のひらに集めていた魔力でそれを迎撃する。
バアアアン!
ぶつかる一瞬前に音速を超えた塊が出す音が届く。
そのあとだ。
バッガアアアアアアアン!!!!
ドービエルの手前で固まりと魔力がぶつかり、衝撃波が飛び散る。
「てめえ、俺のネナになにしてやがる。人が留守にしているときに家族を困らせるんじゃねえぞ。」
こわ!親父こわい!
とんでもない威圧が空間を支配している。
「あなたがミアモールですか。私はカルツエルの同僚のドービエルと申します。また後日相手してあげますから、おとなしくそこのママさんを休ませなさい。」
右腕が消滅しているのに、余裕の表情だ。
しかもすでに再生が始まっている。
「光の矢」
美月が光の弓を引いて、光の矢を顕現させる。
「ほお、なつかしい武器を使っていますね。ここは帰還したほうがよさそうです。それではまた会う日までさようなら。」
そういうとドービエルは恐ろしい速さで飛び去った。
美月はそれに向かって矢を放ったが、その矢は届くことはなかった。
それより・・・
「ミアモール!大丈夫!?怪我はない?」
「親父!どこにいたんだ!」
「パパ遅い。」
「ご無事の帰還お疲れ様でした。」
「ただいま。ちょっとこいつらの家に拉致されていたんだよ。」
親父が出てきた場所には5人の・・・小人がいた。
「「「かわいいいいいいいい!」」」
いままでの緊迫した空間はどこにももう存在しなかった。
なんて復活の早い・・・
てか、親父、お帰り。
頼むから今後いなくなるときは一声かけてくれ。
小説といえど、一日たりとも離れられない夫婦です。
それから文中のカタカナスペイン語は絶対に訳さないように。
スペイン語わかる人だと、そんな小説読むな!と怒られます。




