040 山の頂上
ドワーフの郷を出てから半日。
なぜかドワーフの郷の門に俺たちは戻っていた。
「コウサカさん、おかえりなさい。どうかしたんですか!?」
守備隊長のヴェノムさんという体格のいいドワーフが駆けてくる。
「…実は、冒険者ギルドへの報告を忘れてましたー!」
「あれ?ここでは城がギルドの業務を担当していまして、ギルドマスターはマヅダー王ですが…ご存知なかったでしょうか?」
「おっと…では、城に顔を出してきますわ。家族と馬車は置いていきます。」
俺と親父でブーモに乗って城へと裏道を通って行く。
恥ずかしいもん!
「おー、コウサカさんおかえり~、てか、はええよ。忘れもんか?」
「ただいま~、てか、ギルドへの報告なんてもんがあったの忘れてたよ。」
これが王様との会話とかないわ…。
デンジーレのギルドで預かった親書を手渡してから、途中の村の状況を報告し、用事を終えた。
「まあ、魔神の復活ってもんがありゃあ引き籠ってはいられないな。商人の行き来を多くして、情報の流通を多くしよう。デンジーレの領主は気に食わんが、あの息子を窓口にするなら装備の流通も多くしてもいいだろう。」
魔神の復活の兆しがあるために、今後はドワーフの郷の鍛冶士は、忙しくなるだろう。
ギルドの報酬は思ったよりも多かった。
まあ、エルフの里で使えるかわからないし、2、3の開拓村はあるようだが、そんな大金使えないだろう。
「朝、盛大に送り出してもらったんで、今回はここでお別れでお願いします。」
二人で照れながら、王と顔を出していたゴンブル爺に再度さよならを告げる。
ノアの近くに戻ると周辺の人が集まって、ママ達と世間話をしているようだ。
「レゴラス様ってかっこいいね!」
「私もエルフの里にいってみたいわ~」
ママ、ドワーフの奥さま連中を洗脳したな…?
ちょうど昼になったので、門の近くに出ていた屋台ででっかい鳥肉の串焼きと獣焼き、川魚の串焼き、それから小麦粉を練って焼いただけのパンを買って昼食にする。
焼いた肉や魚をパンにはさむと、滴ってくる汁を吸い込んで、非常においしくなる。
メロン味のジュースも健在で、樽ごと買い込みノアに積み込んだ。
ばいばあああい!と手を振り、今度こそエルフの里へと向かうことができるだろう。
ドワーフの郷は山脈の中腹にある町だったが、残念ながら火山ではなかったようで、温泉はなかった。
そのため、王のいる城でも湯船というものはなく、せいぜいが屋上の樽から水を引き、シャワーを浴びるくらいのものであった。
「温泉いきたあああい!」
「あ、行きたい!パパ、お願い温泉行こうよ!」
ママと美月が切ない声で訴えると、親父もかなり行きたそうだ。
しかし問題は、そんな場所を誰も知らないことである。
「温泉ですか?お風呂とは違うのですか?」
ルミナが聞いてくるということは、この世界には温泉というものがないのかもしれない。
とりあえず火山活動などの熱により、地下水が温められて地上に噴出してくるのが温泉だよと、怪しい知識で教えておいた。
ルミナの家には湯船があったが、かなり狭くて、背中までつかることができなかった。
正直おやじはけつも入らなかったのではないだろうか。
「そんな場所があったら、是非私も入りたいですね!」
…混浴?
「い…一緒に入る?」
「え?ダイチとですか?わ…恥ずかしいです…」
二人で赤くなっていると、挟まれていた美月が、馬鹿じゃないの?とか呟いている。
違うよ。ラブラブしているだけだよ?
火山があったら周辺の水場でも探そうかという話になったが、まあそんなうまい話なんかないし、火山なんかどうやって見つけるんだ。
しばらくは川や泉を探して体を洗うしかないだろうな。
初日の夜は道の真ん中に車をとめてそのままキャンプすることにした。
なにしろドワーフの郷周辺で農民を見かけた後は、本当に誰にも会っていなかったのだ。
デンジーレからドワーフの郷に行く途中には結構人がいたのだが、こちらの道は本当に誰も通ることがないのだろう。
道というよりも、雑草が他より少しだけ少ないただの平原だ。
気兼ねなく道の真ん中に止めて、みんなでトレーラーの方に移動する。
今夜は10kgくらいは持ってきた生肉をいつも通り塩コショウで味付けし炭火焼にしたもの、ニンニクを油で揚げて添えたものと、生野菜サラダだ。
もちろんどんぶり飯にニンニクをのっけてわさび醤油をたらして食べることをルミナにも教えておく。
肉も一緒に食べると、とんでもなく食が進んでしまうのだ。
それにみんなで食べればニンニクのにおいだって気にならないしね!
おいしくいただいた後は、就寝の準備をする。
ルミナの高級なシルクのパジャマは是非堪能したいところだが、一緒に寝られないんだよね…
せっかくノアに寝袋を持ちこんで、さあ寝ようって時になり、親父がなんか来たと呟いた。
周辺に肉とニンニクのにおいをまき散らしてしまったので、さすがに肉食獣っぽいやつらが近寄ってきたのかな。
親父のレーダーでは100m程の距離まで探知できるようだが、迫って来ているのは進行方向に赤い5つの光点だった。
他は黄色い小さい点なので小動物だろうが、5つの赤い点は確実に魔物の群れであろう。
「あと50mってとこだな。道の正面から右の方向だ。林の中からくるぞ。」
急いで武器だけでも装備し、馬車へ向かって大声で注意を呼び掛ける。
すぐに美月はヤタとともに上空へと飛んだ。
俺もすぐに木の上へと飛び、相手を探す。
相手が近づいたところで、親父がノアのライトを点灯させた。
そこで見た魔物は、5人の人間だった。
そこには俺がいる、親父にママ、美月にルミナもいた。
「あれはドッペルゲンガーです!こちらのマネをしようとするので、気をつけて下さい。」
「あれはドッペルゲンガーです!こちらのマネをしようとするので、気をつけて下さい。」
「落ち着いて対応しろよ!美月と大知は飛んでいるから、位置関係を把握して確実に相手を倒せ!」
「落ち着いて対応しろよ!美月と大知は飛んでいるから、位置関係を把握して確実に相手を倒せ!」
うわ、うっざいなあれ!
でもルミナが二人ってのはちょっと嬉しい。
美月にきっ、と睨まれたので、ちょっと反省しておこう。
マネをしてくるといっても、こちらと性能が同じということはないだろう。
現に俺と美月は上空にいるが、あいつらは飛んでこない。
親父達は判断のつく俺と美月以外から倒すことにしたようで、それぞれが自分の前に立っている。
親父を先頭にして、ママとルミナで三角形を作っている。
まあ、ママなんかはピカチューの着ぐるみで寝ているので、緊張感がまったくないが。
親父が正面の親父2に向かって踏み込むと、上段からそのままの勢いで袈裟斬りにする。
その瞬間、ぶしゃあああああああああ!っと親父2の中から緑色の液体が飛び散った。
盛大に親父とママとルミナが緑色の液体をかぶってしまった!
毒とかじゃないよな?
「やだこれぬるぬるする!」
「やだこれぬるぬるする!」
「くっさああい!きもちわるーい!きゃあ、こないでよ!」
「くっさああい!きもちわるーい!きゃあ、こないでよ!」
下にいる全員が緑色の液体を被った上、残ったドッペルゲンガーが一気に親父とママとルミナの間へと走り込んできてしまったのだ!
上空から美月が、俺2と美月2をあっさり光の矢で倒してしまったが、そいつらからも噴水のように溢れだした追加の液体にまみれ、下はもう地獄のような有様だ。
地獄のような…
地獄?
ママはあっさり自分のドッペルゲンガーを倒したようだが、問題はルミナだった。
近接しすぎて魔法を使えないのか、ぬめぬめぬるぬるの地面の上で、取っ組み合いの泥仕合をやっている!
いや、これやばい。
なにがやばいって、シルクの薄いパジャマで取っ組みあっているんだぞ?
ああ、おなかが!お腹が見える!後ろから背中が!パジャマが落ちて!ああああ!
あれはパンティーか!?パンティーなのかあああ?
ぞくり…
美月、なぜ俺に向けて矢を構える?
ほら、下を見てごらん?
そこには幸せな…
幸せなあほ面をした、親父がノックアウトされた。
ママに。
当然だよね!
「美月、俺はルミナの婚約者だ!問題ないから助けにいくぞ!」
ママと一緒に水と風の竜巻を作り、ルミナからぬめぬめぬるぬるを取り除く!
「きゃああああああ!」
「きゃああああああ!」
おおお!パジャマが大きく膨らんで!背中まるみ~え!
ああ、シルクが濡れてなんともおおおお!
そのとき衝撃が俺の脳天を突き抜けた。
俺は幸せだ。
もしかしたらという期待はあった。
そして確信したんだ。
あの2つの予想以上に大きい山は絶対にいつか征服してやる!
同時に判明したことがある。
俺は一気に地上に降下し、ルミナ2の心臓に風の短剣を突き刺した。
ぶっしゃあああああ!
俺はルミナを抱えて縮地し、その飛沫から逃れた。
「ダイチ…ありがとう。どうやってわかったの?」
「ルミナのことはわかるよ。だって愛してるから…」
「ダイチ!」
ぎゅ!
ああ、やはりいい…。
これでいいのだ。
絶対に言ってはいけない。
ドッペルゲンガーの山は揺れない上に、その頂上には、サクランボもなかったなんて!
本物さいこおおおおお!
若き日の思い出。いや、今でも愛してますよ、ママさん!




