004 なんか違うしなんか変
にんじん畑を越えていくと、遠くに柵のようなものが見えてきた。さらに丸太小屋のような簡単なつくりの小屋も数棟見えている。
あきらかに誰かが住んでいる集落を発見したことで、俺たちは緊張と期待に胸をどきどきさせながら、集落から離れたところに車を止め、歩いていくことにした。
念のためママと美月に車をまかせ、短距離には自信のある俺と、ラグビー部出身の親父で行くことにした。まあ、なにかあったら抵抗なんかできないような気がするけどね。
「あのさ大知、なんか気配がするんだが。」
「そりゃあ生き物がいれば多少は感じるんじゃね?もう見られているのかもな。」
「いや、そんなんじゃないんだよ。なんか、前方と後方の家の中に2人と3人、3人のほうは子供がいるな。それから、裏のほうに4人ばらばらにいる感じがする。」
「気のせいだよ親父、とりあえず近づこう。・・・って、わかるの、ほんとに?」
気のせいだといった瞬間、首をふってまじめな顔をしている親父を見て、なんとなくあれ?わかっているの?といった気持ちになってしまった。
「たぶん家の裏のやつが一人こっちのほうに歩いてきている。俺たちに気づいたわけじゃなさそうだが、一番でかい奴だな。それでも俺たちよりは小さい。てか気持ち悪いほどはっきりわかるようになってきたわ・・・」
親父は3軒目の家あたりをじっと見ている。するとすぐに人が姿を現した。たぶん人間っぽいけど、まだ姿を確認したわけではない。てか、親父、なにげにすごいな!と感心していたら、いきなり大声あげやがったこの馬鹿親父!
「おーい!俺たちの言葉はわかるかあああ?」
と声をかけた瞬間、相手はびくっとこっちを振り向き、こちらの姿を確認した途端、家の裏手に向かってなにか声をかけている。すぐに残りの3人が最初の人のそばへと駆け寄ってきた。
親父は声をかけてからも止まることなく集落の入り口まで歩いて行ったので、とりあえず俺も親父を追いかけてすぐに集落の入り口へと走りよった。
そこまでいくと4人の姿がはっきりと見えた。背格好は一番大きく人でほぼ美月と同じか、それより小さいくらいの大きさで、他の人は頭半分くらい小さい。てか・・・人?
みんな最初に見た感じは目が二つ、鼻が一つ、口がひとつといった顔なのであったが、近くに行くとずいぶん毛が濃いような・・・しかもみんな模様が・・・って、耳?頭に耳があるんじゃね?てか猫耳きたあああああああああ!って興奮したけど、俺は興味なんてないんだよ?。
「あなたの言葉わかる。なんで人族ここいる?どこからきた?」
あっちからくる一番大きい人間?が話しかけてきた。おお、会話できるようだ。顔の見た目は完全に猫なのだ。目は大きめの縦瞳孔、鼻の下には割れた部分もそのままあるし、ぴんと張ったひげもあるようだ。見ると大きく膨らんだ尻尾が見えるが・・・
うちの猫たちは、大体怖がっているときに尻尾を膨らますんだよなあ。
「私たちは旅をしているんだよ。旅ってわかるかな?ああ、わかるみたいだね。ところでここには、君たちしかいないのかな?私たちのことを人族といったけどどこかに人族はいるのかな?」
猫たちは固まって会議をしていたようだが、やっとこちらを振り向いて答え始めた。それによると、人族はここから十日ほど北にいかないと会えないこと、ここへはあまり来ることがないといったことを話だした。それでも少しは交流があったようで、話が通じてほっとした。交易まではしていないようだけど、敵対してなきゃいいや。
親父は危険がないと判断したようで、俺に向かってママと美月をこちらにつれてくるように言う。本当に大丈夫かよ。親父の話だと、この4人のほかには残り5人いるはずだが。
「ここにいる人たちは猫族の人たちで、ここはウゲ村というそうだ。今は男たちは狩りに行っていて、女しかいないから家の中とかは無理らしいが、物々交換くらいならしてくれるってさ。まあ、野菜くらいしかなさそうだけど。」
そういえばなんとなくうちのルナに似ている気がする。全体的にほっそりとしなやかそうだし、みんな。。。まあ個性はあるだろうが可愛い。可愛いって言ってもペット的なものなんだからね!決して猫耳最高って人じゃないからね!!
服も硬そうだが麻縄で編んだ縄文時代のような上下に皮のベストを着ているし、皮の靴も履いている。かわいい飾りのついた首輪もつけている。
「はじめまして、ネナといいます。ここはなんという国ですか?」
「クニ?クニなに?」
ああ、ママの質問は難しくてわからないのか。じゃあこういう質問はどうだろう?
「俺は大知といいます。人族の他にも町は近くにありますか?」
「町は人族のところ近い。長耳族とか短足族はもっともっと南。このあたり猫族が多い。でも町ない。」
おお、一生懸命話してくれるのが可愛いぞ。美月なんか目がきらきらしてるし、手をわきわきさせている。縛っておいたほうがいいかな。いつもルナとゼウスを追いかけて、抱きしめてはそのままぶら下げて歩いているのだ。ここではそんなことさせないようにしないと。
「にゃんにゃ~」
そのとき猫族の子供だろう。こちらにいる猫族の女性に駆け寄ってきた。
「美月、とりあえずあれはお前のじゃないから落ち着け。」
「おにーちゃんそこどいて!あの子抱っこするんだから!私のことお母さんって呼んでるの!」
暴れる美月に猫族のみんなはぎょっとした顔をしているが、親父は平然としている。いいから親父も手伝えよ。でも、美月ってこんな強かったかな?俺を引きずっているんだが。
子猫?子供はお母さんの影に隠れてこちらを伺っているが、よかったね、美月につかまらなくて。しっぽはぶわっとしているから、もう近づいてこないだろう。
親父は猫族と話し合い、すぐに北にある人族の町へ向かうことを伝えてから、持っていたライターと野菜ふた抱えを交換することを決めていた。ライターを見た猫族の人は、長耳の魔法、長耳の道具って騒いでいたが、おぼろげながらこの世界がわかってきた。うん、長耳はエルフ、短足族はドワーフかなんか、人族は普通の人間なんだろうな。
野菜をもらって車の近くまで戻ると、車の横に誰かいる、気配が猫族と同じものなので、狩りに行っていた男のようだと親父がつぶやく。なんとなく達人の域に達しているんじゃないかそのレーダー。いちおう集落から見えないように隠していた車の近くに、さっきの猫族よりはかなりたくましい人影が見える。
「にゃんにゃにゃにゃ~」
うお、美月どうした。いきなり猫語を話し始めたぞ?
その声が聞こえたのか、猫族の男は警戒しながらこちらを振り向き答えてきた。でも、
「ぅな”ぁ~~~~。にゃにゃにゃ!にゃにゃにゃにゃな!」
うん、わからん。とりあえず顔を見ると怒っているというか警戒しまくってるような気もするけどね。横耳族の言葉は話せなさそうだな。
「にゃんにゃにゃあ~、にゃんにゃあ。にゃんにゃウゲにゃにゃにゃあにゃん。」
おわ、まじで話してんのかこいつ。なにしてくれてるんだ?
美月と話しているうちに、尻尾の膨らみが普通になり、ゆらゆらとゆっくり柔らかく動くようになってきた。ひげもだらんとしてきたので、緊張がほぐれたのだろう。
なんか最後は笑顔で手をふって、集落に戻って行ったぞ。
「ウゲ村でのことを話してあげたよ!それから猫族語を話してくれる人族は始めてですっごくうれしいってさ。いつでも遊びに来いだって。それと車のことは新しい人力馬車って言っておいたよ。」
なんだこいつ。覚醒でもしたんか?
頑張って投稿します。よろしくお願いします。