039 魔族対高坂家
みぞおちから飛び出たダンドリルがカルツエルの腹を切り裂いていく。
奴の傷からは血ではなく黒いガソリンのような液体がこぼれ落ちて下に溜まっていく。
怒りの波動が俺の体を圧迫し始めたので、そのまま後ろに縮地してしまった。
へたれだ…でも、以前のような圧倒的な力量差を感じることはなかった。
そうしている間にもカルツエルの傷はどんどん塞がり、すでに液体も出ていないようだ。
ヤタに乗った美月が、上空から光の矢を浴びせる。
迫る矢に右手を向けて弾き飛ばそうとしたカルツエルの眼前で、矢は100本程に分裂し、前後左右上から殺到する。
そのままカルツエルに突き刺さり、カルツエルは一瞬黄金のハリネズミになってしまった。
「なんだとおおおおおおお!ぐあああ!」
カルツエルに矢はどんどん飛びこんでいく。
すぐに光の矢は消滅してしまったのだが、見たくないものが…
体中に穴が開いて、蓮コラのような状態のカルツエルが現れたのだ。
うげぇ…
やった美月がひえぇぇ・・・とか言いながら上空に逃げようとした時だ。
カルツエルが穴だらけの翼を開き、美月へ向けて飛び上がったのだ!
「光の巫女めえええええええええ!」
やっべ!
「大知頼んだ!」
親父の大声で我に返り、思い切り地を蹴るとそのまま精霊にお願いする。
カルツエルを追い越し、ヤタが張った風の障壁に竜巻をぶつけて転身し、カルツエルに突っ込む。
カルツエルは再生し始めた右こぶしで、美月を殴りにかかっていたが、そこにダンドリルを起動し突っ込んだ!
カルツエルの右腕を粉砕し、そのまま右の翼まで刈り取ると、やっとカルツエルの突進が終わって、下に落ちて行った。
「ぐううう!魔力が足りん!足りんぞおおおお!」
再生に使いすぎて、奴は魔力切れを起こし始めたようだ。
これはチャンスだと思った瞬間、奴はルミナとママに向かって大きく口を開けて突っ込んでいった。
魔力の補充ってどうやるかは分からないが、やばいことには違いない。
「ルミナ、行くわよ!」「はい、お母様!」
二人は左手に装備した盾を前に突き出し、カルツエルが突っ込んだ瞬間、左右に飛んだ。
カルツエルが左右どちらに行くか一瞬悩んだ瞬間に、二人はぐるっと振り返り、裏拳を繰り出す要領で、カルツエルの顔の前後を盾でぶったたいた!
うわ…なんつう威力ですか…
ママの盾には氷の刀身が無数に、ルミナの盾には炎の槍が10本ほど飛び出ていたように見える。
再生が間に合わず穴だらけになっていた顔は、今ので半分ほどに潰れて、原型が無くなってしまったようだ。
二人は一気にカルツエルから距離を取り、そこへ親父がバンバンドを引っ提げて走り込む。
走り込んだ勢いで、まずは左から右上に一閃!
最上段から下へ一気に両断!
そこから8の字に上から削るように体を斬り刻んでいく。
ひと山できたころには、カルツエルの面影はもうなかった。
それでも構えを崩さず様子を見ていると、案の定山がぶよぶよと動き出し、ぐにぐにと集まっていく挙動をし始める。
お約束を守らなくていいのに!
「こっからでも再生しやがるのか!」
こうなったらダンドリルで全部ミンチに!
と思ったら、美月から声がかかる。
「お兄ちゃんそこどいて!光魔法で攻撃してみる!」
おっと、急停止して距離を置くと、美月が弓を構えて叫ぶ。
「シャイニングフラアアアアアアアアアッシュ!」
なにそれ?
弓から放たれた矢は一気に大きくなり、光の柱となって、カルツエルを包み込んだ。
光の中に、カルツエルの肉片が蒸発するように消えていく。
おお、浄化しとる…
しばらく天と地を繋ぐほどの巨大さになっていた柱は、完全に肉片がなくなると同時に消えていった。
なんて神々しい…
これが美月でなかったら、拝むところだった。
一瞬後、ドワーフ達の鬨の声があたりを包み込んだ。
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サディエル「…カルツエルの魔力が消えたか…」
ドービエル「…ククク。奴はわれら四天王の中でも最弱…」
ダングエル「人間なんぞにやられるとは、魔族の面汚しよ。」
エザキエル「遊んでないで仕事しろ。あいつらは置いといていいから、さっさと魔力の高い仲間を集めるのよ。父上の復活に生贄を集めないと、私たちが犠牲になるんだから!」
「えー…めんどくさーい」「いひひひ」「えー戦ってみたいな~」
「返事ははい!」
「「「はーい」」」
「それとサディエル、もう少し隠しなさいよあなた。」
「だって服って重くて邪魔でめんどいし~。紐つけてるからいいでしょ。」
「その紐にすこしだけ布をつけて。ね、お願いだから。」
ぽいっ。
「やっといて。」
「さでぃえるうううううううう!」
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エザキエルの残骸の後には、奴の履いていたTバックビキニ(注:男物)と、親父のスキットル、変態ちっくなマントが落ちていた。
「シャイニングフラッシュ?ぶご!」
美月ににやにや近付きながら話しかけたら正拳を人中に食らった…
痛いよお…
「ダイチはときどき子供です。美月ちゃんにあとでごめんなさいしなさいね。」
ルミナが説教しつつ介抱してくれる。
初めての膝枕に陶酔していると、どこからか「リア充爆発しろ…」って聞こえたんですが、まさか親父?
ゴンブル爺が鑑定を持っていたので、マントと小汚いパンツを見てもらった。
「おお、このマントは衝撃拡散・魔力吸収の力があるぞ!なかなかいいものだ。」
あの変態には似合わないが、俺には似合いそうだな。
「よし、そいつは俺が!」
美月にぽいっとマントを渡す親父。
息子より娘なんだな。もういいよ。いじけてやる。
「ヤタと一緒に行動する美月は単独行が多くなるかもしれん。防御を重視するのは当然だ。」
スキットルは穴だらけで、もう使えそうにないな。
「さあ、問題のこいつだが、鑑定前に大知に渡しとこう。」
ぽいっ。
さっ。
ぽと。
みんなの視線が地に落ちたパンツに注がれる。
ひょい。
なぜルミナが拾う!
こっち見て、なんで小首かしげるんだ!
いや、かわいくうるうるしても…
だって、Tバックだぞ?
他の野郎が着けていたんだぞ?
あ…
抱きついたからって…履いてなんか…
「そのパンツの効果は、無尽蔵のスタミナですな。恐ろしいほどの魔力を感じます。」
見つめ合う俺とルミナに死角はなかった。
このパンツは家宝にしよう。
ごたごたはあったが、なんとか魔族を撃退し、午後からはドワーフの郷で旅のお買い物となった。
まあ、すでに装備はそろっているし、酒とつまみとコメの補充だけどね。
両親と一緒に商売をやっていくことになった3姉妹とは、この郷で別れることになるので寂しいが、たくさんのお土産をいただいた。
特に3姉妹のお母さんはルミナとママと美月に溢れるほどの宝石を使った数々の宝飾品をいただいてしまった。
そして、3姉妹のお父さんとゴンブル爺の工房の人達は、なんとノアに衝角を取りつけてくれたのだ。
ミスリルを先端に仕込んだ、鉄鋼製の衝角は完全に4WD仕様となっており、岩くらいなら砕けそうな頑丈さを持っている。
これってストーンゴーレムあたりなら、引き殺せそうな感じだな。
それに、ノアの後部に直接馬車?を取りつけてくれた。
フレームから改造しノアの下部にアタッチメントを取りつけ、トラベルトレーラーのように引っ張れるようにしてくれたのだ。
馬車はもとは木製で、幌がついているだけのものだったが、重量を気にしないでよいので職人が頑丈さを極限まで追求したようだ。
サイズはそのままノアとおなじくらいある。
まず車輪が左右一対なのだが、このタイヤには鱗がついてやがる。
この郷に伝わる火竜のレザーだそうだが…なに使ってくれてんだ。
スポーク部分はもともと細い木を何本も使っていたはずだが、そこには鋼鉄の板で作ったと思われるホイールが設置されていた。
一応停車時用に、小さな木製のタイヤもあったがそれも結構頑丈そうだ。
馬車の底には縦横に鋼鉄の棒が張り巡らされ、それぞれががっちり溶接されているため、魔物に体当たりされても吹っ飛ぶことはないだろう。
外側から見ると、板張りの壁と天井には鋼鉄板が貼り付けられ、火矢くらいなら相手にしないようだ。
後部の両開きの扉をあけると、奥側に2段ベッドが二つ並んで、4人が寝られるようになっている。
ベッドは驚きの収納式で、そこにはダイニングが現れた。
手前は、右手がキッチン、左手がユニットシャワーが設置されている。
屋根の上に平べったい水の樽を設置しているので、昼の間に少しは温くなったシャワーを浴びることができそうだ。
床下は収納スペース満載で、代えの衣類や、俺と親父の寝袋…が入るようだ。
天井には食品をたっぷりと積むことができるので、長期の旅にも安心設計だ!
なんか、見ているだけでうずうずする遊び心満載の製品です!って感じだよ。
「満足する出来栄えだ。うまく使ってくれよ!」
3姉妹の親父さんがにこにこして肩を叩いてくる。
「材料はあんたらがやっつけてくれたアイアンゴーレムから、良質の鉄鋼石が山ほどとれた。まだまだあるから、遠慮しないで持って行ってくれ!」
てか、この馬車で一番高かったのは、あのタイヤだろう。
いったいいくらするのやら。
その日は、王様主催の晩さんか…飲み会が開かれて、いつも通りの状態となった。
「次に行かれるという長耳…エルフの郷は、ここからずうっと南のほうだ。最近は行ったとか来たとかいう交流がないから、滅んでいるのかもしれんが、気をつけろよ。」
町の門のところで、ゴンブル爺から、だいたいの方角と様子は聞いたが、現在の状況はよくわからないらしい。
「もともと奴らは森の外には出てこないからな。ただ森を守るためだけに生きておる。」
しかし、魔法には詳しいらしく、魔神の出現や、異界の話などはエルフに聞くのが一番らしい。
王や戦士に鍛冶士にお礼とお別れを言った後は、ここで別れることになる3姉妹だ。
まずは親父が金貨の入った袋を渡す。
重すぎて、3人で抱えることになったけど、333枚の金貨が入っているそうだ。
「ヤーナ、キーナ、ブーナ、この金は君達の取り分だ。遠慮しないで持って行って、親父さんを助けてあげなさい。」
アイアンゴーレムとかのドロップは、取った人のものって親父が宣言していたので、これはここまでの旅で得たお金の8分の3なんだろう。
「!シュウイチ、オオイ、オオイヨ!ダメヨ!」
確かに金貨300枚は多いかもしれないが、正直装備が整った今金貨に執着する必要なんかない。
「じゃあ、火竜の鱗の代金に使ってくれ。たぶん親父さんが肩代わりしているだろうからね。」
おっと、そういうことか。3姉妹もはっとしたようで、親父にすがりついて泣いている。
ママとルミナと美月も一緒にお別れの涙を流していた。
さて、旅立つ時間となり、ノアに乗り込む。
3姉妹がいなくなったノアは、3列目のシートを上げ、動物達の専用スペースにしている。
俺とルミナの間には、美月が座り込み、いちゃいちゃの邪魔をしてくださっている。
まあ、ルミナはいいだろうが、俺には辛い状況だなあ…。
「ばあああいばああああああああああい!」
「ばああああいばあああああああああああい!!!!」
おお、ドワーフ語で、ばいばいは、ばいばいだった!
やっとドワーフ語をひとつ理解できて、すっきりしたわ。
よし、はりきってエルフの里を目指してやろうじゃないか!
ママ、郷が見えなくなった途端に、指輪物語を再生し始めるなんて、ドワーフと別れるのがそんなに・・・
「レゴラス様が出てくるまで飛ばすね。」
さいでっか。
ついに出したかったトレーラーが!!!




