036 ドワーフ郷の攻防2
ルミナの目論見通り、ゴーレムの顔の部分にある魔玉を壊すことで、再生することはなくなった。
まずはママの魔法でどんどん氷漬けにしたゴーレムを、俺はベヒモスの角で、親父は大剣で、ルミナは火の矢で、美月は光魔法で強化された矢で、どんどん倒していく。
そうしていると、アイアンゴーレムがこちらに向かってきた。
「だめ!あいつは固まらないよ!」
ママの声が聞こえる。
「アイアンゴーレムは俺と大知で対応するから、ストーンゴーレムを片付けておいてくれ!」
アイアンゴーレムはストーンと違って、非常に硬く、動きもなかなか素早い。
親父が正面に立って、振り下ろした腕をかいくぐり、なんとか顔面に一撃を入れようとするのだが、なかなか魔玉を破壊する一撃は繰り出せなかった。
ヤタからの美月の矢もぎりぎりでかわす能力が備え付けられているようで、うまく魔玉を破壊することができない。
親父の頭上をぶん!っと通り過ぎる腕は、勢い余って味方のストーンゴーレムを巻き込んで、周辺は残骸だらけになっている。
ママとルミナを乗せたブーモは、アイアンゴーレムからずっと離れた場所でストーンゴーレムを破壊しているが、何体かのアイアンゴーレムがそのブーモに狙いをつけている。
ここは俺がやるしかないでしょう!
風の精霊にお願いし、アイアンゴーレムの顔面目指して跳ぶ。
瞬間的に眼前に現れた俺目掛け、腕が差し出されるが体を水平にしてやり過ごし、上からベヒモスの角を顔面にぶち当てる。
バキン!
魔玉にヒビが入った瞬間に親父が後ろからアイアンゴーレムの頭を大剣で叩いた。
ギガ!
ベヒモスの角がめり込んで魔玉が砕け散った!
「よっしゃ!いけるぞ!つぎつぎ!」
結構ぎりぎりなんだぞ親父!
まあ、そのあとなんとか3体のアイアンゴーレムをぶっ潰した。
親父との連携も形になったときに、親父がみんなを集めた。
「くるぞ!しっかり相手を見ておけ!」
来て欲しくない相手がこちらに向かってきた。
赤い肌に黄色い目で、黒い翼をばっさばっささせてやってきたマッチョメンである。
「愚かものどもが。黙って踏まれて死んでいればいいものを!」
近くに来るだけでとんでもない威圧だ。
「このカルツエル様の邪魔をするとはいい度胸だ。すぐには殺さぬぞ。手足をもいで、ドワーフの郷に放り込んでやろう。」
さて、こんな奴相手にどうすればいいのかね。
この世界にきてからはどんどん自分が強くなっているという自覚もあったのだが、こいつの前では大人と子供だよなあ。
親父はじっとあいつの目を見ているが、魅了されんじゃねえぞ。
脅威を二つにはしたくないし、親父と戦いたくもねえ。
ママは親父の横に並び、氷の矢をどんどん量産し、いつでも発射できるよう準備している。
俺もベヒモスの角を構え、いつでも飛べるようにしておく。
「ベヒモスの角を持つ勇者はお前の息子か。まずはそちらから手足をいただこう。」
魔族は俺に向かって指を伸ばす。
あ、ビーム来そう、って思ったので、すぐ横に移動したら、思ったとおりビームが飛んでった。
俺の顔の横50cmほどのところを。
そのあと後ろの森でどーん!と土煙があがった。
おい!手足をもぐんじゃなかったのか!あせったじゃねーかよ!
「なんだ今の動きは。ただの人間じゃないな貴様ら。」
いや、そっちのビームのほうがおかしいです。
「・・・縮地だけど、おかしいか?」
「答える気はないが、魔族の動体視力を超える縮地など聞いたこともない。」
解説ありがとう。親切ですね。
「カルツエルさんよ。あんたはエザキエルの仲間か?俺達はエザキエルと酒を酌み交わした中だ。あんたも一休みしたらいいじゃないか。」
「エザキエル様だと!?エザキエル様と会って、人間なんぞなぜ生きているのだ!」
「さあな。これがエザキエルが口をつけて飲んだ酒だが、飲んでみるか?」
あからさまにのどがごくっと鳴っている。
これはあれか?間接キスの予感ってやつなのか?
もしかして、こいつただの筋肉馬鹿なのか?
親父はウイスキーの入ったスキットルをカルツエルに放り投げた。
あわてて受け取ったカルツエルだが、うまく掴めずにあわてて落ちそうになるスキットルをお手玉していた。
その後の行動はさっきまでの威圧も吹き飛ぶくらいだった。
いきなり正座したカルツエルは両手でスキットルを掲げたのだ。
なんかエザキエル様とか呟いているが大丈夫かこいつ?
「…そこの人間よ。この功労にお前達を生かしてやることにした。しばしの時間をくれてやろう。」
そういうと、ばっさばっさ羽を動かして飛んでいってしまった。
残されたゴーレムたちは棒立ちになって動かない。
「おし、こいつらを片付けて、ドワーフの郷へ入ろうか。美月、ドワーフにゴーレムの倒し方を教えてこい。」
やっぱりそんな感じでいいのね。いつものことだからもういいや。
ドワーフたちと協力し、残っていたゴーレムの魔玉を一つ残らず潰していく。
どうやら、ひとまずの危機は過ぎ去ったようだ。
馬車まで戻り、ゴーレムの残骸を脇に寄せた道をドワーフの郷まで走っていく。
「ブーナ!ヤーナ!キーナ!」
「「「バパー!」」」
門に近づいたところで、3姉妹は無事に親との再会を果たしたようだ。
ドワーフの郷では英雄のように迎えられた。
打つ手のない敵に攻められ、すでにドワーフ族の滅亡までも想像していたのだろうか。
その歓迎振りは、こちらが逃げ出したくなるほどのものだったのだ。
広場の中央へと押しやられ、一段高くなっているステージのようなところに上げられてしまった。
目くらいしか見えない髪の毛と髭に覆われた体格のいいドワーフと、真っ白な毛玉になっているようなドワーフの真ん中に立たせられて、みんなの歓声にこたえるしかなくなってしまった。
目の前には、ドワーフの郷のみんなが勢ぞろいしたのか、2000人ほどのドワーフが集まっている。
歓声に手を振って答えるとさらに歓声が上がる、というのを5分ほど続けた後、やっとここの領主だというドワーフ王との会談の場が設けられた。
ドワーフの郷は山の中腹にある岩窟を利用した、天然の要塞のような場所だった。
魔族に攻め込まれていてもなんとかその攻撃を凌いでいたのは、ドワーフの郷の堅牢な作りと、城壁上に並べられた投石器とバリスタの性能によるのだろう。
俺達が知っているドワーフは鍛冶と戦士といったものであったが、ここのドワーフ達はその一歩前を行く、近代兵器の開発者だった。
山の上では硫黄が取れるようで、近場では硝酸なんとかも採取できるそうだ。それに炭は鍛冶場からいくらでも融通が利くので、初期の火薬を持っていた。
そいつを固め、導火線に火をつけて放り投げていたようだ。
「まずはコウサカ様、このドワーフの郷をお救いいただき、本当に感謝しております。
私はドワーフ達の頭領であるマヅダー・ボーボデバンです。」
ドワーフの王は、さっきステージの上で出会っていた体格のいいドワーフであった。
流暢なハポネス語を話し、会話に不自由しないのは大変助かる。
ボーボデバン。ボボボーデ・・・なんでもない。
彼はこの郷を統治しているわけではなく、一番力が強いドワーフであり、トーナメントを勝ってその地位にいるそうだ。
戦闘民族らしいね。
「さきほどのゴーレムを率いた魔族は、ゴーレムの侵攻後に現れ、われわれの根絶やしを宣言してきました。」
カルツエルは、エザキエルと同じく、最初にトンネルをくぐって出てきた5人の魔族の一人であろう。
エザキエルは確か魔力の高い人間を殺すために動いていたはずだから、カルツエルは魔力の高いドワーフ族を担当していたのだろう。
ドワーフ族は、その鍛冶に魔法の力を使っている。
おそらくは火の精霊だろうが、全員がその魔力を保持しているとなれば、魔族にとっては脅威になるはずだ。
だからこその根絶やし宣言だったのだろう。
「あのカルツエルという魔族は、再びここへと姿を現すでしょう。どうにか対策を立てなければいけませんね。」
親父はマヅダー王に宴よりも戦闘準備を指示しているが、どうもドワーフという種族は懸念よりも宴最優先らしい。
すでにこの謁見の間といえる座敷には、樽で酒が運び込まれていた。
「ここには火薬も鉄の精錬技術もある。それなのに大砲がないってのはおかしくねえかい王様よう!」
「大砲はもちろん挑戦したぞ!だがな、割れるんだよ!そのたびにけが人が出るんだ。でもまだあきらめてはいないぞ!」
割れるのは素材が硬いからだ。もしかして、鉄だけで作ろうとか思ってんのかな。
「割れるなら柔らかい銅をまぜてみろ。衝撃に耐える柔らかさを加えるんだ。それに弾は小さくていいから、魔球を狙えるような精度を追求してみるんだよ!」
ジョッキ片手に肉を食いながら、王様と親父は額をぐいぐい押し合いながら討論している。
親父の知識なんか役に立ちそうもないが、酔っ払いだから覚えていないだろう。
ドワ3姉妹のヤーナがやってきて、親父さんを紹介してくれた。
「アナタタチガムスメマモッテクレタ。ホントニアリガト。オレタチニデキルコトナンデモヤルカラナンデモタノメ!」
片言だがお礼の言葉とともに、ありがたい申し出をしてくれた。
ブーナは母親と一緒にママのほうに行き、旅の礼を言っているようだ。
ブーナの母親は腕のいい細工職人のようで、ブーナとキーナに聞いたのか、魔玉のネックレスを作ってくれると約束していた。
もう、魔力は残っていないのかもしれないが、宝石の価値も十分あるからね。
マヅダー王と一緒にステージに乗っていた白い玉のようなじいさんドワーフは、この郷一番の鍛冶師だったそうだ。
王とともに鍛冶の頭領としてこの郷の代表をしているそうで、政治関係は王よりも権力を持っているらしい。
「コウサカどの、このドワーフの郷の火を守ってくれてほんにありがとう。あなたらのおかげでこの郷のみんなは生きていくことができる。
この郷ではあなたらは未来まで英雄じゃ。さきほど鍛冶連合を召集かけて、最高の武器と防具を贈らせていただくことを決定した。
ヤーナに聞くところ、ベヒモスの角と襟骨を持っているそうじゃな。その素晴らしい素材を是非わしらに預けてみてくれんか?」
「ああ、頼みますよ~。がんがんやっちゃってくださいな~。」
飲みすぎ親父は、相手を見て物を言うことを忘れたようだ。
「おいゴンブル爺、シューイチの武器は国宝渡すから、ダイチーの武器を角で作ってやれ。あと、襟骨はネナさんとルミナさんが持てるようにしてほしいってさ~。」
飲みすぎマヅダー王もさっきから弄くっていた角と襟骨?をゴンブルさんに渡す。
「よしわかった。ダイチさんがもっているのはレイピアだな。でもそのレイピアはあんたにはあわなそうだ。よし、刺突剣の真髄を発揮できる武器を作ってやろう。できるだけ早くするが、数日は待ってくれよ!」
そういうとゴンブル爺はそのまま素材を持って引き上げていった。
まさかもう作っちゃうのかな。
俺とルミナが今夜の宿泊をどうしようかと思っていたら、心配はいらなかったようだ。
「おう、ここで寝るなよシューイチ!まったくよええなぁ。」
もう5時間は飲んでるぞこいつら。
「ああ、ダイチ、ルミナ、ミヅキさん、この広間の横に小部屋を用意しといたぞ。疲れたら勝手に行って寝とけ。この城のもんは自由に使い楽にしていてくれ。」
まあ、城っていうより昔の農家みたいな作り方ででかい屋敷を作ったようなもんだから、豪華ではないが、安心感がある。
マンガで憧れた骨付肉や、チーズや乳製品、パンやソーセージやベーコンをたっぷり食ったら眠くなった。
さあ、明日はドワーフの郷を思う存分堪能しよう。
「ルミナ、やっと君と一緒の部屋で眠ることができるね。」
「えっと、ダイチ、よろしくおねがいします。」
「イテテテテテテテテ!ママやめてよ!」
耳を引っ張られて、隣の部屋に放り込まれた。
親父は広場でいびきをかいていたから、今夜は静かに眠れるかもね。
あのカルツエルとかって野郎が出てきたら、夢の中で倒してやる。
でも本当はルミナに出てきて欲しいんだ。
ママのいじわる・・・
でも久々の一人部屋万歳。
その頃のマッチョ
エザキエル様!エザキエル様!ふんふんふん!ぐびぐび!
エザキエル様あああああああああ!
あ、ゴーレム忘れてきた。
そんなことより!
ふんふんふんふん!




