035 ドワーフ郷の攻防1
おそくなってすみませぬ。
翌朝、カルロスとバルトンさん、俺と親父で、デンジーレでの出来事を話し合った。
ボリーバル公爵がアルソーさんの屋敷を親衛隊で取り囲んだことについては、カルロスが正式に謝罪してくれた。
公爵はこの頃兵力の拡大に意欲を示しており、カルロスも懸念していたところだったという。
今回のドワーフの郷への行程も、武器の融通に行ったという一面もあったそうだ。
しかし、ドワーフの郷という所はそういうしがらみから逃れたい職人が多い街だそうで、なかなかいい交渉が得られなかったという。
一番はこちらがなんとか丸め込もうとすると、言葉をわからない振りをされるのが一番堪えたという。
まあ、美月がいるし、3姉妹もいるし、珍しい素材もあるので、俺達の方は問題なさそうだ。
公爵へくれぐれも宜しくとお願いし、カルロスたちとは別れた。
ここからドワーフの郷へは小さな村を4つほど過ぎるそうだが、カルロスたちが寄った時にはなにも異常はなかったそうだ。
この分なら余裕で郷まで行けそうだな。
一つ目の村には朝のうちについて、村長を尋ねたところ特に問題はないので、もう少し商隊が寄るように伝えて欲しいとの言伝だけを請け負った。
二つ目の村では昼食を村長にご馳走になり、昨夜、何かが山の上で争ったおかげで山崩れが起き、村を出る道が塞がれたことと、怪物が多くなっていることを聞かされた。
親父が主力となって村人と一緒に道を塞ぐ大岩を取り去り、半日ほどかかって道を開通させたそうだ。
これはあの2匹のせいだろうな。
その作業の間に、俺とヤタ&ルミナが空から、美月とママとブーモが地上から、怪物狩りに出かけた。
そらから見る限りでは、そんな脅威となりそうな相手はいなかったが、あの川べりであった白狼を見ることができた。見つけたらすぐに駆除し、粗方おわった頃には道も開通していたのだ。
今回、空からの駆除チームはドロップもなにも回収せずに、時間の有効利用だけを考えて狩りをしたため、村の周辺はかなり安全になったのではないだろうか。
しかし、白狼だけが増えていたのが気になるが、ここらへんでも魔族の動きがあるのかもしれない。
4つ目の村は、ドワーフの郷に隣接した人間の村であり、ここからは一日掛かりだということで、この村に宿泊することにした。
村の集会所を借りたので、屋根の下でねむることができる。
ワイバーンの串焼きを腐る前に全部食おうということで、村の人も招いてのバーベキューパーティーとなった。
農耕とわずかな狩猟で生きている人たちなので、大量の肉に夢中になってむしゃぶりついていた。
そのうち、みんなが酒を持って集まってくれたため、親父とママは一緒に大騒ぎしていたよ。
「ダイチはお酒飲まないの?」
「あ~…初めて飲んだときは裸でなにかやってたらしい。それ以来飲んでないよ。」
「飲んで。」
誰だ飲ませた奴。ほんのり赤い顔のルミナは目が据わっていた。
逃げるな美月!
なんか潤んだ瞳だけでもやばいのに、首に手をまわしてきて非常の危険である。
「あのねルミナ、裸になっちゃっていいの?」
「ん。ちゅー。」
ごくごく。
げ。
朝になって、周りはひどい有様になっていた。
知らない人間がそこらへんに転がっており、片付けもされていない。
だから酔っ払いっていやなんだよな!
「大知、結婚する前に一緒には寝るなとあれほど…」
まあ、一番酷いのは、上半身裸の俺と、がっちり俺をホールドしたまま寝ていたルミナなんだけどね!
「この頃成長してからの大知の写真がたまってすっごい嬉しいわ。」
ママ、お願いだから証拠を残すのはやめてくれ。
ルミナがきゃあきゃあ言いながらママの携帯を追い掛け回したのはそれから10分後だった。
みんな二日酔い状態で村を出発した。
「親父、二日酔いで運転したらだめだろ?」
「ん?道はまっすぐだ!大丈夫!たぶん!」
どこがまっすぐなんだ。さっきからがったんがったん跳ねてるぞ。
美月だけはヤタに乗って気持ちよさそうに飛んでいる。
今日は天気がいいので、紅葉した山々が綺麗だろうな。
ちなみにヤタはウインドカッターみたいな空気を圧縮した円盤を飛ばせる。
他は飛ぶくらいしか能がないようだが、それで十分だろうね。
二人乗せて飛ぶのはつらいようだし、親父みたいにでかい体をした人を乗せるのも得意じゃなさそうだ。必然的に美月かルミナのどちらかになる。
なんかママが睨んでいるけど無視しとこう。
「パパー!村とドワーフの郷だと思うんだけど見えてきたよ!」
美月からは見えたようだ。
どれ、俺も飛んでみよう。
この頃というか、ワイバーンとの戦いで、やっとコツを掴めた竜巻乗りだが、今はさらに手にも竜巻をつけることで、驚きべき性能を見せている。
正直アイアン○ンの映画を見ていてよかったよ。まるっきり同じ飛行形態だ。
ちなみに飛行時はレッサードラゴンの鎧を絶対に着るようにしている。
強度的にも、防寒的にも最高なのだ。
下には山脈の間の森を走るノアが見えるが、馬車を曳いているのでゆっくりだ。
「大知、なんか変じゃない?鍛冶の煙だけじゃないよね、あれ。」
美月のいる高度まで上がり遠見の魔法を使うと、なにか人型ロボットのようなものが、ドワーフの郷の周辺をぐるっと囲んでいるのが見えた。
遠見の能力を使って見ると、ドワーフの郷からは、ひっきりなしに岩や火の玉のようなものが飛んで、ロボットをなぎ倒しているが、ロボットの歩きは止まらない。
「親父!ドワーフの郷が襲われているぞ!なんかロボットみたいな集団だった。」
「あとどれくらいで着けそうだ?それから相手の規模は?」
まだ3,4時間はかかりそうだし、相手はかなりの大群だ。
そうすると間に合わない可能性もあるな。
「自力で守備してほしいところだが、それも無理そうだな。行くしかないか。」
もう一回偵察を頼まれたので上空へ戻る。
ドワーフの郷は結構頑丈そうな城壁も持ち、今のところは問題なく進撃を止めているようだが、それも時間の問題のようだ。
ここまでも聞こえてくる大扉を叩く音。
大槌を振り回すマッチョメンが、扉を力任せにぶったたく音だろう。
あのマッチョメンの姿がだれかと重なる。
ああ、エザキエルだ!
黒のラバーズボンから伸びるサスペンダー、そして羽。
「魔族だ…」
あの人だ、ペプ○のコマーシャルで使ってた曲を歌ってた人?
親父にペプシのコマーシャルを歌ってた裸になるロック歌手って誰だっけと聞いてみたところ、
クイ○ンだろという答えが返ってきた。
「魔族か…しかも赤い肌のマッチョかよ…行きたくないな。」
親父はなんか戦意喪失しているな。まあ、あと3時間進めば会えるよ!
美月と俺にもう飛ぶなと声をかけて、親父は迎撃体制のまま進むことをみんなに話す。
馬車は3姉妹にまかせて、ノアで先行することにする。
ノアだけで走ると60kmくらいで飛ばせるので、1時間ほどで谷の森林を超え、山裾に出た。
山腹までなだらかに続く山裾は、ロボット…いや、ゴーレムだな、ゴーレムの群れに埋め尽くされていた。
「ノアで強行突破は無理そうだな。土のゴーレムの他に鉄製っぽい奴まで見えるぞ。」
まだ正確な大きさはわからないが、土のゴーレムが2mくらいはありそうだ。
鉄のほうは土よりも上半身一つ分でかい。3mってとこか。
ここからは、まだ大扉までは見えないが、攻防が激化しているのはよくわかる。
「さて、相手は魔族だが、こっちはドワーフの味方をしたいところなんだよな。ノアはここに止めていっちょやったるか。」
親父とママとルミナが戦闘態勢で車から出てくる。
ヤタには弓を使える美月が乗り、俺は親父と駆け足、ルミナとママはブーモに乗っている。
近づくとその重量に大地が震えていて、地震のように感じてしまう。
「どうすんだよ親父!俺の剣はあいつらを傷つけられなそうだぞ?」
親父は俺にベヒモスの角を放り投げると、自らは大剣をかつぐ。
「まあやってみよう。ママ、氷の矢をゴーレムにぶちあてて固めてしまえ!大知とルミナは協力魔法で、氷漬けになった奴から一気に倒してくれ。」
親父は指示を出すとそのまま最後尾のゴーレムを大剣でなぎ払った。
見事に真っ二つに上半身と下半身を両断し、次の獲物に飛び掛っていく。
ママは次々にゴーレムを氷漬けにし、俺とルミナで火の竜巻をゴーレムたちにぶち当ててやった。
素晴らしい戦果に嬉しくなるが、どうも様子がおかしい。
崩れたゴーレムはしばらく目を放した隙に、そこらへんの土を巻き込んで、起き上がってきているのだ。
「ゴーレムのコアを狙ってください。おそらく顔の鼻の辺りにある黒い宝石は魅了の宝石です。それを壊せば、本体の再生はなくなるでしょう!」
ルミナも物知りだね!
おし、いっちょやってみますか。
忙しすぎて○りぴーなり。




